ゴム引布製起伏堰
ゴム引布製起伏堰(ゴムひきぬのせいきふくぜき)は、ゴム引布製のチューブに空気や水を注入・排出することで起伏させる堰。ゴム堰、ラバーダム、バルーンダム、ファブリダム®(住友電気工業の登録商標)ともいう。
概要
水をせき止める目的で川に建設される堰のうち、水門(ゲート)などの可動部分を持つものを可動堰といい、持たないものを固定堰という。可動堰のうち、上下動するゲートを持つものに対し、起伏するゲートを持つものを起伏堰という。通常はゲートを起こした(起立という)状態で水をせき止めておき、洪水などで増水した際に倒して(倒伏という)放流する。起伏堰には従来、鋼製のゲートが用いられてきたが、これをゴムと布とを貼り合わせて作るゴム引布製のチューブで置き換えたものがゴム引布製起伏堰である。アメリカ合衆国のインバードソンが1956年に考案したもので、日本では1965年の導入開始以降急速に普及し、1993年には2,400もの施工例を数えるほどとなった。設置の目的としては灌漑や水力発電用水の取水、高潮に対する防潮堤、レジャー、レクリエーションなどが挙げられる。
ゴム引布製起伏堰の実体とも言えるゴム引布製のチューブは、専門的には袋体といい、その断面は円形をしている。これに空気や水を送り込むと風船のように膨らんで起立し、排出すればたちまちしぼんで倒伏する。操作に必要な機械はブロワーやポンプといった簡単なものだけで済み、倒伏動作に限っては動力をまったく必要としない。鋼製のゲートに比べ、設置やメンテナンスに必要なコストを安く済ませることができる。鋼製起伏堰では起伏動作に用いる油圧シリンダーから油が川に流出するおそれがあったが、ゴム引布製起伏堰ではそうした心配もない。
チューブの寿命は素材の耐久性や実際の運用実績からみて、少なくとも30年間以上といわれる。川を流れる砂程度なら摩耗は少ないが、大きめの石などに対してはゴムを厚くしたり、素材を特殊な配合のゴムとしたり、クッションを配置するなどの工夫で対処する必要がある。
懸念される点は倒伏させる過程でVノッチ現象が発生することである。倒伏させる過程でチューブの高さが均一でなくなり、ある1点だけが極端につぶれた状態となってしまう。すると放流水が一局集中し、放流量が過大なのもとなるほか、チューブの摩耗の進行が早まる。これは空気で起伏するもの特有の問題である。
ゴム引布製起伏堰と鋼製起伏堰とを折衷したものがゴム袋体支持式鋼製起伏堰であり、SR合成起伏堰、略してSR堰、あるいはハイブリッド起伏堰ともいう。鋼製起伏堰の起伏動作に必要な油圧シリンダーをゴム引布によって置き換えたもので、油圧シリンダーからの漏油とVノッチ現象という、鋼製・ゴム引布製それぞれ特有の問題を一挙に解決させた。
採用例
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最上川さみだれ大堰(山形県)
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洪川(大韓民国)
関連項目
参考文献
- 農業土木学会編『農業土木ハンドブック 改訂六版 本編』農業土木学会、2000年。
- 繊維学会編『繊維便覧』丸善、2000年。
- 本宮達也・鞠谷雄士・高寺政行・高橋洋・成瀬信子・濱田州博・原一正・峯村勲弘編『繊維の百科事典』丸善、2002年。
- 国土技術研究センター「鋼製起伏堰(ゴム袋体支持式)設計指針(一次案 増補版)と断面二次元設計プログラム」2008年11月30日閲覧。