カキドオシ
カキドオシ | ||||||||||||||||||||||||
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カキドオシ
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分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Glechoma hederacea subsp. grandis | ||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||
G. grandis | ||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||
カキドオシ(垣通し) | ||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||
Alehoof |
カキドオシ(垣通し)とは、シソ科の植物の1種。学名は Glechoma hederacea subsp. grandis(シノニムはG. grandis、G. hederacea var. grandis)。別名、レンセンソウ(連銭草)、カントリソウ(癇取草)とも呼ばれる。
名称
和名カキドオシは漢字で「垣通し」と書き[1]、生け垣の下などで、隣接地から垣根を突き抜けるほど、勢いよく伸びてくる様子に由来する[2][3]。丸い葉が並んで見えることから、連銭草(れんせんそう)という別名もある[4]。
小児の癇の薬にする薬草にするところからカントリソウ(癇取り草)[5][6][7]、カンキリソウ(癇切り草)[8]という別称もある。地方により、ゼニクサ[8]、ミソバナ[8]のほか、ヤマスミレ(青森県)、モーセン(秋田県)、カジバナ(新潟県)、アサッペイ(島根県)、カキドクサ(熊本県)などの方言でも呼ばれている[9]。
学名の Glechoma hederacea は、属名からハッカの一種につけられたギリシャ名 glechon に由来し、種小名は「キヅタ(木蔦)に似た」という意味からきている[9]。
外国名は、英語で gill over the ground、フランス語で glechome; lierre terrestre である[9]。中国植物名は日本活血丹(にほんかっけつたん)[8]。漢名では馬蹄草と書かれ、連銭草、積雪草は誤用だとする説がある[9]。
特徴
日本の北海道・本州・四国・九州に分布し、海外では朝鮮半島、中国、台湾、シベリア、アジアの温帯域に分布する[10][7]。原野の草地、野原、土手、道端や畑のわきなどに、ふつうに自生する[4][10][7][11]。浅根性で乾燥は好まない性質で、生育地は日当たりの良い適度に湿った土地を選ぶ[5]。半日陰でも生育し、茎をよく伸ばす[5]。
つる性の多年草[1]。茎や葉の全体に細毛があり、よい香気がある[5]。茎の断面は四角く[4]、はじめ花がつく頃は5 - 20センチメートル (cm) ほどの高さに直立するが、花後の茎が伸張するに従ってつる状になって、地面を長く横に這い[5][7]、節の所々から根を下ろして、長さ1メートル (m) 以上になる[10]。所々からでる横枝は時に多少立ち上がって高さ30 cm前後になる[11]。葉は対生し、長さ1.5 - 10 cmの長い葉柄がつき、葉身は睡蓮の葉のような円形から狭い扇形を切り取った形で[5]、大きさは長さ1.5 - 2.5 cm、幅2 - 4 cmで、葉縁は波型に浅い鋸歯がある[4][10]。一般に春の葉は小さいが、夏の葉になると大きくなる[10]。柔らかく、しわがあって毛が生えている。葉は揉むと強い香りがある。
開花期は春(4 - 5月)ごろで、対生する葉腋から1本ずつ花が出て1 - 2、3個並ぶ[10][7]。花色は薄い紫から淡紅紫色でよく目立ち、唇形で長さは約20ミリメートル (mm) [4][10]。花の下唇は4裂して、内面には濃紅紫色の斑点とちぢれた毛がある[5][10][7]。萼は筒状で、長さは8 mm、5深裂して先が鋭く尖る[10]。
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茎葉
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花(群馬県みなかみ町、2007年5月)
利用
茎や葉を乾燥させたものは、お茶代わりに飲めば健康維持やダイエットに良いとし、各地で特産品売り場などで販売もされている[11]。
食用
若葉は食用となり、あくを抜いて、和え物やお浸しに調理される[9]。
薬用
全草を乾燥したものは和種・連銭草(れんせんそう)、中国種・金銭草という名で生薬にされ、子供の癇の虫に効くとされる[5]。このことから俗にカントリソウの別名がある地上部の茎葉には、精油としてリモネン、このほかウルソール酸、硝酸カリ、コリン、タンニンなどを含んでいる[4]。一般に、精油には高揚した気分や高ぶりを鎮静する作用があるといわれている[4]。過去の研究によれば、カキドオシの温水エキスを糖尿病の動物に与えた実験で、血糖降下作用があることが認められるとした報告もされていて[4]、糖尿病治療にも応用できることが日本生薬学会で発表されている[11]。しかし、動物実験により糖尿病に良いとされる発表については、これを疑問視する人もいる[8]。
生薬の連銭草は、4 - 5月ころの開花期に、地上部の茎葉を採取して陰干しにしたものである[4]。上方の花が残っているころに、茎を切って水洗いして、20本ほど束ねて風通しの良い日陰に吊るして陰干しにする[5]。
民間療法では、尿道結石、胆石、利尿、消炎薬として、連銭草1日量5 - 15グラムを、約500 - 600 ㏄の水で半量になるまで煮詰めた煎じ汁を、1日3回に分けて分けて服用する用法が知られる[8][5][11]。尿道結石にはウラジロガシと一緒に、胆石にはカワラヨモギと一緒に煎じるとよいとも言われている[8]。幼児の癇の虫には、前記の3分の1量以下の連銭草の煎じ汁を用いるとされ、苦いので甘味を加えて複数回に分けて服用するものとされている[5]。このほか、湿疹の幹部に煎じ汁を直接塗ったり、糖尿病予防に服用するといった民間療法がある[4]。冷え症や妊婦への服用は禁忌とされている[8]。
園芸
栽培変種に葉に白斑があるものがあり[9]、ヨーロッパ原産の斑入り種は見た目の美しさから、属名の「グレコマ」という名称で、園芸やグランドカバー目的に栽培、販売がされている[1]。主に、花壇の縁取りやロックガーデンなどに植えられる[9]。
健康食品
抽出物には血糖値降下作用、体内の脂肪や結石を溶解させる作用があるなどとして漢方薬、ダイエット茶とされることもある。しかし、国立健康・栄養研究所によれば、ヒトでの安全性を証明する十分なデータは不足している[12]。また「過剰摂取をすると胃腸粘膜や腎臓の炎症を引き起こす可能性」「ワルファリンを成分とする医薬品との相互作用」「発作性疾患のある人は使用禁忌」「腎疾患、肝疾患に罹患している人は使用禁忌」などの注意が促されている[12]。
動物実験
一方、研究によるマウスやラットによる動物実験で、発毛効果[13]、血糖上昇抑制[4][14]、血圧上昇抑制[15]などの効果があることが報告されている。
脚注
- ^ a b c 大嶋敏昭監修 2002, p. 109.
- ^ 岩槻秀明『街でよく見かける雑草や野草がよーくわかる本』秀和システム、2006年11月5日。ISBN 4-7980-1485-0。 p. 63
- ^ 亀田龍吉 2012, p. 42.
- ^ a b c d e f g h i j k 田中孝治 1995, p. 77.
- ^ a b c d e f g h i j k 馬場篤 1996, p. 36.
- ^ 雑草図鑑
- ^ a b c d e f 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著 2010, p. 75.
- ^ a b c d e f g h 貝津好孝 1995, p. 124.
- ^ a b c d e f g 木村陽二朗 2005, p. 106.
- ^ a b c d e f g h i 本田正次監修 1990, p. 216.
- ^ a b c d e 川原勝征 2015, p. 115.
- ^ a b カキドオシ、レンセンソウ、カントリソウ - 素材情報データベース<有効性情報>(国立健康・栄養研究所)
- ^ 夏井美幸, 川越政美, 永井繁春, 喬志偉, 佐藤喜暁, フローレスマリア ジョリナルー, 小泉幸央, 小代田宗一, 杉山俊博「天然由来カキドオシ・エキスの発毛促進効果」『秋田医学』第40巻第1号、秋田医学会、2013年、1-12頁、ISSN 0386-6106、NAID 110009598136。
- ^ 石原伸治, 川田あゆみ, 井上美保, 渡辺敏郎, 辻啓介「ラットにおけるカキドオシ抽出物の血糖値上昇抑制作用」『日本食品科学工学会誌』第54巻第9号、日本食品科学工学会、2007年9月、412-414頁、doi:10.3136/nskkk.54.412、ISSN 1341027X、NAID 10019858794。
- ^ 渡辺敏郎, 川田あゆみ, 井上美保, 石原伸治, 辻啓介「本態性高血圧自然発症ラットにおけるカキドオシ抽出物の血圧上昇抑制作用」『日本食品科学工学会誌』第54巻第9号、日本食品科学工学会、2007年9月、415-418頁、doi:10.3136/nskkk.54.415、ISSN 1341027X、NAID 10019858803。
参考文献
- 大嶋敏昭監修『花色でひける山野草・高山植物』成美堂出版〈ポケット図鑑〉、2002年5月20日、109頁。ISBN 4-415-01906-4。
- 貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、124頁。ISBN 4-09-208016-6。
- 亀田龍吉『雑草の呼び名辞典』世界文化社、2012年2月20日、42頁。ISBN 978-4-418-12400-8。
- 川原勝征『食べる野草と雑草』南方新社、2015年11月10日、115頁。ISBN 978-4-86124-327-1。
- 木村陽二朗『図説 花と樹の辞典』柏書房、2005年5月10日、105 - 106頁。ISBN 4-7601-2658-9。
- 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著『花と葉で見わける野草』小学館、2010年4月10日、75頁。ISBN 978-4-09-208303-5。
- 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、77頁。ISBN 4-06-195372-9。
- 馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光社、1996年9月27日、36頁。ISBN 4-416-49618-4。
- 本田正次監修 著、本間三郎編 編『野草I〔双子葉類〕』(改訂版)学習研究社〈学研生物図鑑〉、1990年3月15日、216頁。ISBN 4-05-103857-2。
関連項目
外部リンク
- カキドオシ 岡山理科大学 総合情報学部 植物生態研究室