エンジンの振動

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エンジンの振動とは、レシプロエンジンにおいて主にピストンが上下することによって発生する振動のことである。

クランクシャフトの回転数と同じ周波数の振動を一次振動、二倍の振動を二次振動といい、さらに高次の振動もあるが、実際に問題となるのは一次振動、二次振動が主である。

単気筒エンジンの振動

レシプロエンジンはクランクシャフトを用いるために、質量を持つクランクピンが回転することによる振動が発生する。この振動はバランスウェイトをクランクピンと反対方向に付けることによって解消される。しかしながら、これだけではピストンとコネクティングロッドが往復運動することによって発生する振動を消すことは出来ない。そこでさらにバランスウェイトを追加する。ピストンが上死点に達した時に釣り合う分のバランスウェイトを追加された状態をオーバーバランス率100%と言う。この状態では上下方向の振動は打ち消される。その代わりこれではクランクシャフトが上死点から90°回転した時にオーバーバランスとなり、上下方向の振動が左右方向への振動へと変換された状態となる。実際にはオーバーバランス率を50%程度に設定される。

このような対策の施されていないレース用エンジンの場合、時に振動の激しさが操縦者に健康上の悪影響を及ぼす場合もある。代表的な例がかつて日本のオートレースライダーの間で職業病として問題となった白蝋病である。

主な直列エンジンの振動

直列3気筒エンジンでは等間隔爆発にすると偶力振動が問題となり、大きな排気量ではバランスシャフトの使用も検討される。 180°クランクで不等間隔爆発にした場合は、同排気量の2気筒、単気筒エンジンの1/3程度の一次振動になる。

直列4気筒エンジンでは二次振動が問題となり、2000ccを超える大排気量の直4エンジンではクランクシャフトの2倍の回転数で互いに逆に回転する2本のバランスシャフトにより振動を相殺させることが主流となっている。

直列6気筒エンジンでは1-6、2-5、3-4の3つのペアに120°ずつのクランク位相角を付けることで一次振動、二次振動ともバランスするので、等間隔爆発となる構成で、元より振動バランスの良いエンジンである。

V型エンジンの振動

V型2気筒エンジンではバンク角を90°とすることで一次振動が低減される。90°以外のバンク角も用いられるが、本田技研工業のように振動を低減させるためにクランクにウェブをもうけクランクピンに位相を付ける位相クランクを用いている例がある。

V型6気筒エンジンの場合、1次と2次の振動はバランスするがエンジン全体では偶力のアンバランスが発生するためにエンジン全体をゆするみそすり運動が発生する。バンク角が60°ではその回転が真円となるが、他のバンク角では楕円となる。この偶力は60°バンクの場合、エンジンの両端にバランスウェイトを付けることで解消される。

V型8気筒では振動を低減させるためにクランクシャフトに工夫が見られる。多くの乗用車用V8エンジンで用いられるのはクロスプレーンと呼ばれるクランクシャフトである。これはクランクシャフト末端から見ると十字に見えることからこう呼ばれる。クロスプレーンでは1次、2次の振動も釣り合うが、V6エンジンと同様に偶力が発生するためにこれを打ち消すバランスウェイトがクランクシャフト両端もしくは両端とその内側にもバランスウェイトが追加される。一方、レース用エンジンや一部の市販スポーツカー用エンジンではフラットプレーンと呼ばれる直4エンジンと同じクランクシャフトが用いられる。これはクロスプレーンで必要な重いバランスウェイトが必要ないために、レスポンス等に優れるが、直4エンジンと同じ二次振動の問題がある。

その他の形式の振動

直列5気筒エンジンやそれを元にしたV型10気筒エンジンでは一次の偶力振動が発生するため、バランスシャフトが用いられたこともあったが、今日では用いられない傾向にある。

フォルクスワーゲンが開発した狭角V型6気筒エンジン、VR6型エンジンは点火順序が直列6気筒エンジンと同一のため、直列6気筒エンジンに近い振動バランスを望める。

フォルクスワーゲン・W型8気筒エンジンはV型8気筒エンジンの一種で、クランクシャフトにフラットプレーンを用いているためにバランスシャフトが使用されている。