アルコール検査
アルコール検査(アルコールけんさ)とは、その人が自動車、鉄道、船舶などの輸送機関の運転にとり有害な酒気を帯びていないか検査することである。警察や海上保安庁により、呼気による検査が行われる。「酒気帯び」または「飲酒」と判断されれば、刑事罰を含む処分が科せられる。
検査の種類
この節は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
飲酒検問
警察による飲酒検問の場合、管轄区域の警察官または、高速道路交通警察隊員若しくは、交通機動隊員らによって行われる。一般に異なる市区町村を結ぶ、交通量がそう多くない幹線道路(その多くは国道以外)で行われている場合が多い。全国一斉検問、特別警戒検問などでは交通量の多い国道やバイパス路線などでも行うことがある。飲酒検問の時間帯は、その多くが夜間から明朝にかけて行われる。
方法は、警察官の嗅覚にて判断する呼気の確認で、3台程度を一組として捌いてゆく。進行方向右側に警察官が立ち、運転手に「お急ぎのところ申し訳ありません。お仕事帰りですか?飲酒検問を行っておりますので、息をフーッとお願いします」などのように声をかけてゆく(吐息のアルコール臭をチェックする為)。運転者は警察官の要請により息を強く吐き出すことを求められる場合もある。何事もなければ「ご協力ありがとうございました、安全運転でお帰りください」というように送り出される。
憲法の関係からこのアルコール検査は刑事上の手続ではなく、あくまで「酒気帯び運転の予防」が目的なので、法律上は任意とされており、検問を無視したからと言って直ちに逮捕・処罰されることはない。しかし、警察にてアルコール含有の疑いがあり車両等を運転するおそれがあると判断され機材を使用したアルコール呼気検査を求められた運転者は、道路交通法第67条第2項「車両等に乗車し、又は乗車しようとしている者が第六十五条第一項の規定に違反して車両等を運転するおそれがあると認められるときは、警察官は、次項の規定による措置に関し、その者が身体に保有しているアルコールの程度について調査するため、政令で定めるところにより、その者の呼気の検査をすることができる。」に基づき、それを行う義務が生じ(強制検査)、検査結果に応じて行政処分が行われる。もし、呼気検査を拒否した場合は道路交通法第67条第2項により現行犯逮捕や罰則(三十万円以下の罰金)が適用される可能性が高まる。
ただし、下記の場合でも有形力を行使して強制検査をすることはできず、その場合は裁判所による身体検査令状が必要である。
- アルコール呼気検査を拒否して逮捕された後も、徹底的に呼気検査を拒む者
- 警察が当該者に対し、アルコール血液検査を行う必要があると判断したが、本人の同意が得られない場合
アルコール呼気検査を拒否したことによって逮捕されても運転免許の行政上の処分には影響しないが、その後の身体検査令状に基づく血液検査等によって酒気帯び運転等であったと認定された場合は罪は重くなり、運転免許の行政上の処分をも受けることになる。
職業運転者対象の検査
バス、トラック、タクシー、ハイヤーの運転手が対象。その事業者(バス会社、運送会社など)により行われる。毎朝出勤後に行うが、飲酒していないことを明らかにするため上司の前で行うことが多い。国土交通省令である旅客自動車運送事業運輸規則や貨物自動車運送事業輸送安全規則が改正され、2011年5月1日より事業者はアルコール検知器による検査が義務化された[1]。 このため、前述した警察官による検問は「飲酒していない」と見なされて免除(検問場所をそのまま通過)されることが多い。
鉄道・軌道乗務員対象の検査
鉄道・軌道の運転士、車掌を対象に行う。法律で義務化されていないため全ての会社で行われているわけではなく、一部の社が自発的に行っている。
船舶職員対象の検査
安全管理規程では大型船舶の船員(船長、航海士、機関士等)は呼気中アルコール濃度が0.15mg/L以上での当直を禁止し、小型船舶の操縦者も一部の水域では通常の0.5mg/Lから0.15mg/Lに厳格化される[2]。
航空従事者対象の検査
旅客機の操縦士や客室乗務員などが対象であるが、検査方法や基準などは運航会社に任されていたため、乗務の前後に厳密に検査する制度が整備される予定[3][4]。
使用機器
アルコールチェッカー、アルコール検査器、アルコール検知器[5]などと呼ばれる。
据え置きタイプやハンディタイプなどがある。
据え置き型は主に営業所に設置され、出勤時や業務運転前に使用される。
ハンディタイプは主に各自が携帯し、長距離運転や出張時の電話点呼や、通勤前の自宅でのチェックに使用される
スマートフォンと接続して検査するタイプもあり、アプリで検査データを送信して管理できるため、対面点呼代わりに使用される。
アルコール検査方法の歴史
自動車が普及し始めた1920年代以来、欧米ではアルコール飲料が原因となる重大死亡事故が多発し、飲酒と運転を切り離すことが急務となった。初期の対応としては、事故が発生したのちに医師が現場に赴き、ドライバーを観察・検査した。しかし、医師の主観に頼るため判定にぶれが大きく、原因がアルコール摂取によるものかも即断できなかった[6]。
1930年に、スウェーデンで採血によって血中アルコールを確認する方法が確立し、アルコール摂取量を科学的に実証し、交通事故との因果関係を客観的に判定することが可能となった[6]。
アメリカでは、1930年代半ばに人間の焦点機能を利用したアルコール・テスト装置が導入された。この装置は顕微鏡のようなレンズ越しに2枚一組の画像を覗いたとき、正常なら1つの絵が完成して見えるが、酒気を帯びているとピントが合わず上手く完成して見えないという仕組みだった。その後の1937年にインディアナ大学で、呼気に含まれる臭気からアルコールを検知するアルコール量測定器が開発された[6]。初期のものは検査機関に送らないと判定できなかったが、1940年代には呼気に含まれる血中アルコール量が直接計測できるようになり、検問の現場で検査結果が分かるようになった。
問題点
アルコール検知器を用いた検査では、飲酒以外にも発酵食品やマウスウォッシュに含まれる微量のアルコールに反応することがある。このため、アルコールが検知された場合はうがいをして15分以上経過したタイミングで再検査を行い、アルコールが検知されるか否かで飲酒の有無を判断する方法がとられる。しかし、この方法であっても飲酒の有無の判断は完璧ではなく、アルコール検知の原因が被験者の口内以外にある場合には15分後の再検査でもアルコールが検知されうる。新型コロナウイルス感染症の影響でエタノールによる手指消毒が奨励されるようになった2020年以降では手指消毒薬による誤検知が問題となっており、2021年に山陽新幹線の新岩国駅で発生した事例では、アルコール検知器の近くに置かれていた手指消毒薬が漏洩・気化したことにより検知器が誤作動し、列車が一部運休する騒ぎとなった[7]。対策として、アルコール検査の前には手指消毒ではなく流水と石鹸による手洗いを行う、検査場所の換気の徹底、手指消毒薬とアルコール検知器を離れた場所に置くことなどが提唱されている[8]。
脚注
- ^ 旅客自動車運送事業運輸規則及び貨物自動車運送事業輸送安全規則の一部を改正する省令並びに関係通達の改正について 国土交通省報道発表資料2010年4月28日
- ^ 海上交通における飲酒対策について
- ^ パイロットの飲酒検査、乗務後も義務化へ 国交省 - 朝日新聞
- ^ JALの客室乗務員、機内で飲酒 ゴミ箱からシャンパン - 朝日新聞
- ^ “アルコール検知器の品質向上と普及を 通じて、飲酒運転根絶と健康管理を提唱”. アルコール検知器協議会. 2020年1月31日閲覧。
- ^ a b c 原克『暮らしのテクノロジー:20世紀ポピュラー・サイエンスの神話』 大修館書店 2007年 ISBN 9784469213102 pp.194-197,201-206.
- ^ https://www.westjr.co.jp/press/article/items/210927_10_press.pdf
- ^ https://realtime-logi.com/search-logistics-news/view/1244
関連項目
- 交通違反
- 検問
- 反則金
- 飲酒運転
- アルコール飲料
- 運転手
- 道路交通法
- 船舶職員及び小型船舶操縦者法
- 運転免許
- 動力車操縦者
- 海技士
- アルコールチェッカー
- 自動醸造症候群 - 消化器官内でアルコール発酵させてしまう構造になってしまい、飲酒してなくても継続的にアルコール中毒のような状態になる。