政治的自決

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政治的自決(せいじてきじけつ、英:political self-determination)とは、内的自決の政治的側面、すなわち自らの政府を自由に決めることができる権利を指す。

民族自決には「外的自決」と「内的自決」の2つの意味があり、内的自決にはさらに政治的側面の「政治的自決」と経済的側面の「経済的自決」がある[1]

国際文書における「政治的自決」[編集]

大西洋憲章(1941)[編集]

政治的自決は国際連合憲章以前にもみられる現象であった。アメリカ大統領フランクリン=ローズヴェルトイギリス首相チャーチルの間で合意された大西洋憲章では、関係国民の希望と一致しない領域変更が認められておらず、すべての国民が生活する政体を選択する権利が尊重された[2][3][4]

「アメリカ」合衆国大統領及ビ連合王国ニ於ケル皇帝陛下ノ政府ヲ代表スル「チァーチル」総理大臣ハ、会合ヲ為シタル後両国ガ世界ノ為一層良キ将来ヲ求メントスル其ノ希望ノ基礎ヲ成ス両国国策ノ共通原則ヲ公ニスルヲ以テ正シト思考スルモノナリ

1.両国ハ、領土的其ノ他ノ増大ヲ求メズ

2.両国ハ、関係国民ノ自由ニ表明セル希望ト一致セザル領土的変更ノ行ハルルコトヲ欲セズ

3.両国ハ、一切ノ国民ガ其ノ下ニ生活セントスル政体ヲ選択スルノ権利ヲ尊重ス。両国ハ、主権及自治ヲ強奪セラレタル者ニ主権及自治ガ返還セラルルコトヲ希望ス

(以下略) — フランクリン.D.ルーズヴェルト、ウィンストン.S.チャーチル

国際連合憲章(1945)[編集]

第二次世界大戦後、国際連合憲章第1条2項、第55条で自決権が友好関係を発展させるための原則の1つとして規定された[5][6]

第1条【目的】

2.人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の友好関係を発展させること並びに世界平和を強化するために他の適当な措置をとること。


第55条【経済的および社会的国際協力の目的】

人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の平和的且つ友好的関係に必要な安定及び福祉の条件を創造するために、国際連合は、次のことを促進しなければならない。

a. 一層高い生活水準、完全雇用並びに経済的及び社会的の進歩及び発展の条件

b. 経済的、社会的及び保健的国際問題と関係国際問題の解決並びに文化的及び教育的国際協力

c. 人種、性、言語又は宗教による差別のないすべての者のための人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守

植民地独立付与宣言(1960採択)[編集]

1960年に採択された「植民地独立付与宣言」第2項は、政治的自決の手がかりを与える規定であると解されている[1][7]

総会は、(一部略)

いかなる形式及び表現を問わず、植民地主義を急速かつ無条件に終結せしめる必要があ ることを厳粛に表明し、 この目的のために、 次のことを宣言する。

(省略)

2.すべての人民は、自決の権利を有する。この権利に基づき、すべての人民は、その政治的地位を自由に決定し、並びにその経済的、社会的地位及び文化的発展を自由に追及する。

(以下略)

国際人権規約(1966採択)[編集]

1966年の国際人権規約共通第一条では、政治的自決の享有主体は「すべての人民」となったが、国連の実行は必ずしもそれと一致していない[8]

第1条【人民の自決の権利】

1.すべての人民は、自決の権利を有する。この権利に基づき、すべての人民は、その政治的地位を自由に決定し並びにその経済的、社会的及び文化的発展を自由に追求する。

(以下略)

友好関係原則宣言(1970採択)[編集]

1970年の「友好関係原則宣言」には「人種、信条又は皮膚の色による差別なく領域に属するすべての人民を代表する政府を有する主権独立国家」のみが「領土保全又は政治的統一」を主張することができると規定する留保条項がある[1][9]

総会は、・・・・・(省略)

一 以下の原則を厳粛に宣言する。

・・・・・(省略)・・・・・

人民の同権及び自決の原則

(省略)

前記パラグラフのいかなる部分も、上に規定された人民の同権及び自決の原則に従って行動し、それゆえ人種、信条又は皮膚の色による差別なくその領域に属する人民全体を代表する政府を有する主権独立国家の領土保全又は政治的統一を、全部又は一部、分割又は毀損しうるいかなる行動をも承認し又は奨励するものと解釈してはならない。

国際連合における実践[編集]

国際人権規約共通第一条には「すべての人民は、その政治的地位を自由に決定し」と書かれているが、国際連合における実践は、植民地支配下の人民か、外国の支配下の人民か、あるいは人種差別政権の下の人民に限定された[3]

パレスチナ地域[編集]

南アフリカ地域[編集]

南ローデシア地域[編集]

チベット地域[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 山形英郎 (2012). [javascript:OnLinkClick('/record/14998/files/nujlp_245_15.pdf', 14998, 'open_date') “二十一世紀国際法における民族自決権の意義”]. 名古屋大學法政論集 245: 517-560. javascript:OnLinkClick('/record/14998/files/nujlp_245_15.pdf', 14998, 'open_date'). 
  2. ^ 大西洋上会談/大西洋憲章”. 2023年2月10日閲覧。
  3. ^ a b Michael K. Addo (1988). “Political Self Determination within the Context of the African Charter on Human and Peoples' Rights”. Journal of African Law 32 (2): 182-183. https://www.jstor.org/stable/pdf/745652.pdf?refreqid=excelsior%3A93d613fc907ac2728ab27e46132849d3&ab_segments=&origin=&initiator=. 
  4. ^ 大西洋憲章 (英米共同宣言 1941)”. 2023年2月10日閲覧。
  5. ^ 山手治之 (1960). “植民地体制の崩壊と国際法:民族自決権を中心として”. 立命館法學 (34): 175-213. 
  6. ^ 『国際条約集 2022年度版』有斐閣、2022年3月18日、16, 27頁。 
  7. ^ 植民地諸国、諸国民に対する独立付与に関する宣言 採択 一九六〇年一二月一四日 国際連合総会大一五回会期決議一五一四(XV)”. University of Minnesota. 2023年2月10日閲覧。
  8. ^ 国際人権規約【社会権規約】(抄)”. 国立大学法人 神戸大学. 2023年2月11日閲覧。
  9. ^ 『国際法の新展開:太寿堂鼎先生還暦記念』東信堂、1989年、154-188頁。 

関連項目[編集]