エコフェミニズム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
エコフェミニズムは、エコロジー運動とフェミニズム運動の概念を併せ持った社会的・経済的な思想や活動の総称。
目次 |
[編集] 概要
「エコフェミニズム」という言葉が登場したのは1974年、フランス人フェミニストのフランソワーズ・デュボンヌが創出した。「エコロジカル・フェミニズム」とも呼ばれるエコフェミニズムは、「女性の抑圧と自然破壊には関連がある」と考える思想・運動である。最近は、女性の抑圧と自然破壊のみならず、階級支配・人種差別・動物虐待など多種多様な不平等も視野に入れてきている。
また特にポスト構造主義の影響を受け、「女性」というカテゴリーの本質性も問われるようになった。現在は「第三世界の女性」「レズビアン女性」などの視点からのエコフェミニズム再考も行われている。
代表的なエコフェミニストには、キャロリン・マーチャント、ヴァンダナ・シヴァ、マリア・ミース、メアリー・メラー、スーザン・グリフィン、カレン・ウォレン、ヴァル・プラムウッドらがいる。また、エコフェミニズムという語が登場する1974年以前に関して言えば、エレン・スワロー・リチャーズやレイチェル・カーソンらもエコフェミニストと言えよう。日本では青木やよひ、綿貫礼子、萩原なつ子らがいる。
マーチャント(1994)はエコフェミニズムを4分類している。4分類とは、
- リベラル・エコフェミニズム
- カルチュラル・エコフェミニズム
- ソーシャル・エコフェミニズム
- ソーシャリスト・エコフェミニズム
である。
1.は既存の社会経済体制での男女平等と女性の環境運動への参加、2.は前近代的な自然・女性(性)の賞賛、3.はマレイ・ブクチンの唱えたソーシャル・エコロジーのフェミニスト版で社会経済体制の改革を、4.はソーシャリスト・エコロジーのフェミニスト版で3.と同様に社会経済体制の改革を、それぞれ志向する。
エコフェミニズムの具体的な運動としては、ノーベル平和賞を受賞したケニアのワンガリ・マータイによる「グリーン・ベルト・ムーブメント」、女性たちが木に抱きついて森林破壊に抵抗したインドの「チプコ運動」などが挙げられる。日本では北九州市の「青空がほしい運動」、滋賀県の「せっけん運動」などがあった。
日本では、エコフェミニズムをめぐって、80年代半ばに青木やよひと上野千鶴子との間に「青木・上野論争」が生じた。「イリイチ流エコフェミニズム」「カルチュラル・エコフェミニズム」を標榜する青木が論争で上野に負かされた格好となり、これがきっかけで、日本でのエコフェミニズムの萌芽の機会が奪われた。
しかし、90年代半ばにメラーやミースが来日し、エコフェミニズムの再考/再興が生じたが、残念ながら一時的なものにとどまった。
文芸評論の分野では、エコクリティシズムの1分野にエコフェミニズム批評がある。エコクリティシズムにエコフェミニズムの視点を取り入れたエコフェミニズム批評は、テクストの批評であるものの、それがエコフェミニズムという思想・運動自体に及ぼす影響は見逃せない。またその方法論としては、テクスト内での西洋的二元論の脱構築、エクリチュール・フェミニンの機能、女性/自然の表象の効果などが挙げられる。テリー・テンペスト・ウィリアムスの作品はエコフェミニズム批評の対象となる重要なネイチャーライティングである。日本の場合、石牟礼道子、森崎和江などの作品がその対象となるだろう。代表的なエコフェミニズム批評家にはGreta GaardやPatrick Murphyらがいる。
[編集] 人物
- キャロリン・マーチャント
- ヴァンダナ・シヴァ
- マリア・ミース
- メアリー・メラー
- スーザン・グリフィン
- カレン・ウォレン
- ヴァル・プラムウッド
- エレン・スワロー・リチャーズ
- レイチェル・カーソン
- Greta Gaard
- Patrick Murphy
- 青木やよひ
- 綿貫礼子
- 萩原なつ子
[編集] 参考文献
- 青木やよひ(1994)『フェミニズムとエコロジー(増補新版)』新評論
- ダイアモンド,I.・オレンスタイン,G.F.(編著)(1994)『世界を織りなおす:エコフェミニズムの開花』(奥田暁子・近藤和子・訳),學藝書林
- Gaard, G., & Murphy, P. D. (Eds.) (1998) Ecofeminist Literary Criticism: Theory, Interpretation, Pedagogy. Urbana: University of Illinois Press
- 萩原なつ子(2005)「『環境とジェンダー』の交錯―自然と人間の共生をめざして」原ひろ子(監修)『ジェンダー研究が拓く地平』(317-334頁).文化書房博・社
- メラー,M.(1993)『境界線を破る! エコ・フェミ社会主義に向かって』(壽福眞美・後藤浩子・訳),新評論
- マーチャント,M.(1994)『ラディカルエコロジー 住みよい世界を求めて』(川本隆史・須藤自由児・水谷広・訳),産業図書
- ミース,M.・トムゼン,V.B.・ヴェールホフ,C.V.(1995)『世界システムと女性』(古田睦美・善本裕子・訳),藤原書店
- シヴァ,V.(1994)『生きる歓び イデオロギーとしての近代科学批判』(熊崎実・訳),築地書館
- 上野千鶴子・綿貫礼子(編著)(1996)『リプロダクティブ・ヘルスと環境 共に生きる世界へ』工作舎

