ネイチャーライティング
| 文学 |
|---|
![]() |
| ポータル |
| 各国の文学 記事総覧 出版社・文芸雑誌 文学賞 |
| 作家 |
| 詩人・小説家 その他作家 |
ネイチャーライティング(英: nature writing)は、伝統的に、自然環境をめぐるノンフィクション文学と定義される。ただし、nature writingという英語が本格的に使用され始めたのは、20世紀初めのアメリカにおいてだと考えられている。一般的に、20世紀以降はnature writingという用語が使用されるようになったが、19世紀以前はnatural historyという用語が使用されていた。
ネイチャーライティングを特徴付ける要素として、自然界についての事実や自然、科学的情報に依拠する一方、自然科学系の客観的な自然観察とは異なり、自然環境をめぐる個人的な思索や哲学的思考を含むということが挙げられる。
トーマス・ライアン著『この比類なき土地―アメリカン・ネイチャーライティング小史』(村上清敏・訳)によれば、ネイチャーライティングとは次の3つの局面を備えた文学ジャンルということができる。
- 博物誌に関する情報 (natural history information)
- 自然に対する作者の感応 (personal reaction)
- 自然についての哲学的な考察 (philosophical interpretation)
また、ライアンが示すネイチャーライティングのサブ・カテゴリーには、野外ガイドおよび専門的な論文、博物誌のエッセイ、自然逍遥(散策、散歩のこと)、孤独と僻地での生活をテーマとしたエッセイ、旅行と冒険についてのエッセイ、農場の生活に関するエッセイ、そして自然における人間の役割についての文章がある。
ライアンが挙げているそれぞれの代表的な作者と作品、およびその分類は、下記の表を参照のこと。
| 野外ガイドおよび専門的な論文 | 博物誌のエッセイ | 逍遥 | 孤独と僻地での生活についてのエッセイ | 旅行と冒険に関するエッセイ | 農場の生活についてのエッセイ | 自然における人間の役割 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| クラーレンス・キング『体系的地質学』(1878) | ジョン・ミューア『シエラ山系での研究』(1874-75) | ジョン・D・ゴッドマン『あるナチュラリストの逍遥』(1828) | ヘンリー・デイヴィッド・ソロー『ウォールデン』(1854) | ウィリアム・バートラム『旅行記』(1791) | ヘクター・セント・ジョン・デ・クレヴクール『アメリカ農夫の手紙』(1782) | ジョン・バローズ『宇宙を受け入れて』(1920) |
| オウラス・ミューリー『動物の足跡に関する野外ガイド』(1954) | レイチェル・カーソン『われらをめぐる海』(1950) | ジョン・バロウズ『エンレイソウ』(1871) | ヘンリー・ベストン『ケープコッドの海辺で暮らして』(1928) | ヘンリー・デイヴィッド・ソロー『メインの森』(1864) | リバティー・ハイド・ベイリー『農夫への一年の収穫』(1972) | ジョセフ・ウッド・クルーチ『みごとな生命の連鎖』(1956) |
| ロジャー・トーリー・ピーターソン『西部の鳥に関する野外ガイド』(1961) | アン・ツウィンガー,ビアトリス・ウィラード『樹林限界を超えて』(1972) | ジョン・K・テレス『ローレル・ヒルからシラーの沼地へ』(1969) | シガード・F・オールソン『リスニング岬』(1958) | チャールズ・シェルドン『ユーコン河上流の野生』(1911) | ウェンデル・ベリー『継続する調和』(1972) | ジョン・ヘイ『自然を擁護して』(1969) |
| ジョン・ヘイ『生き残りの精神』(1974) | アニー・ディラード『ティンカー・クリークのほとりで』(1974) | エドワード・アビー『砂の楽園』(1968) | エドワード・ホークランド『一世紀昔からの手記』(1969) | |||
| バリー・ロペス『極北の夢』(1986) |
現代ネイチャーライティングの起源は、18世紀後半から19世紀にかけて欧米で流行した博物学(ナチュラル・ヒストリー)の作品にあるようだ。博物学(ナチュラル・ヒストリー)の代表的な作家は、イギリスでは『セルボーンの博物誌』(1789年初版)の著者ギルバート・ホワイトや『種の起源』(1859年初版)のチャールズ・ダーウィン、そしてアメリカではウィリアム・バートラム、ジョン・ジェイムス・オーデュボンが挙げられるだろう。
ネイチャーライティングが1つのジャンルとして確立されたのは、哲学や文学におけるロマン主義運動が、自然と人間との関係に対する考え方や個人の自然体験への見方に影響を与えた時期を経た18世紀の終わりとされる。このように成立年代が近接していることもあって、ネイチャーライティングとロマン主義とは、しばしば混同されがちである。2つが共有している価値観は、
- 世界と人間が同質であるとみなす視点、
- 合理主義、物質主義への懐疑的視点、ないしは否定、
- 自然を生命の源と考える姿勢、
- 素朴で、原初的なものへの傾倒などが挙げられる(ライアン, 2000)。
一方、異なる部分は、ネイチャーライティングが自然に対する科学的理論や観察、分析に依存する面が大きいのに対し、ロマン主義は自然を神話化することに重きをおく傾向にあるという点である。
ヘンリー・デイヴィッド・ソローはしばしばアメリカン・ネイチャーライティングの父と呼ばれる。その他代表的ネイチャーライターとして、ラルフ・ウォルドー・エマソン、ジョン・ミューア、アルド・レオポルド、レイチェル・カーソン、エドワード・アビー(アビー自身はそれを拒否しているが)などが挙げられる。
[編集] 参考文献
- 『フォリオa』 2号(特集 〈自然〉というジャンル1/アメリカン・ネイチャー・ライティング) ふみくら書房,1993.
- 『フォリオa』 5号(特集 〈自然〉というジャンル2/ジャパニーズ・ネイチャーライティング) ふみくら書房,1999.
- トーマス・ライアン 『この比類なき土地——アメリカン・ネイチャーライティング小史』 村上清敏訳,英宝社,2000 ISBN 978-4269820074.
- 文学・環境学会編 『たのしく読めるネイチャーライティング 作品ガイド120』 ミネルヴァ書房,2000 ISBN 978-4623033072.
- 野田研一 『交感と表象——ネイチャーライティングとは何か』 松柏社,2003 ISBN 978-4775400449.
