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「F-F境界」の版間の差分

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[[File:Phanerozoic Biodiversity.svg|thumb|400px|顕生代の生物多様性(属レベル)の推移。横軸は年代を表し、単位は百万年。灰色が大量絶滅を最初に示した[[セプコスキ]]のデータ、緑色が"well-defined"データ、黄色の三角が五大絶滅事件。最も左の黄色の三角がF-F境界]]
#転送 [[大量絶滅#デボン紀後期]]
'''F-F境界'''(エフ・エフきょうかい、{{lang-en-short|Frasnian–Famennian boundary}})とは[[地質年代区分]]の用語で、約3億7220万年前(誤差160万年)の後期[[デボン紀]]の[[フラニアン]]期と[[ファメニアン]]期の境界に相当する<ref>{{Cite web|url=http://www.geosociety.jp/uploads/fckeditor//name/ChronostratChart_jp.pdf |title=INTERNATIONAL CHRONOSTRATIGRAPHIC |publisher=[[日本地質学会]] |accessdate=2020-07-16}}</ref>。[[古生物学]]上では五大大量絶滅に数えられる[[顕生代]]二度目の[[大量絶滅]]のうち主要な絶滅事変が発生し、全海洋生物種のうち約80%<ref name=サンタフェ/><ref name=3600万年>{{Cite news|和書|url=https://www.afpbb.com/articles/-/3265161 |title=大量絶滅から生物回復までに要した歳月は3600万年 研究 |date=2020-01-27 |newspaper=AFP BB NEWS |publsiher=[[フランス通信社]] |accessdate=2020-07-16}}</ref>、属では50%代<ref name=サンタフェ/><ref name="ucr"/>、科では19%が絶滅した<ref name="ucr">{{cite web|url=http://math.ucr.edu/home/baez/extinction|author= John Baez |title=Extinction |date=2006-04-08 |accessdate=2020-07-16}}</ref>。この出来事は'''ケルワッサー事変'''とも呼ばれ<ref name="Racki, 2005">Racki, Grzegorz, "Toward understanding Late Devonian global events: few answers, many questions" in Jeff Over, Jared Morrow, P. Wignall (eds.), ''Understanding Late Devonian and Permian-Triassic Biotic and Climatic Events'', Elsevier, 2005.</ref><ref name="McGhee">{{cite book|last=McGhee|first=George R.|title=The Late Devonian Mass Extinction: The Frasnian/Famennian Crisis|url=https://books.google.com/books?id=xc70cveVCJsC&pg=PA9|accessdate=23 July 2015|date=1 January 1996|publisher=Columbia University Press|isbn=978-0-231-07505-3|page=9|ref=harv}}</ref>、F-F境界とケルワッサー海洋無酸素事変層は一致する<ref name=ベトナム>{{Cite journal|和書|author1=小松俊文 |author2=浦川良太 |author3=山内一輝 |author4=稲田稔貴 |author5=前川匠 |author6=高嶋礼詩 |author7=マーク・ウィリアムズ |author8=クリストファー・ストッカー |author9=グエン・ダック・フォン |author10=ザン・フン・ザン |title=フラスニアン・ファーメニアン境界を含む北部ベトナムの上部デボン系炭酸塩岩類 |date=2017-12-26 |journal=堆積学研究 |publisher=[[日本堆積学会]] |volume=76 |issue=1 |page=2 |url=https://doi.org/10.4096/jssj.76.2 |doi=10.4096/jssj.76.2}}{{フリーアクセス}}</ref>。なお、デボン紀にはD-C境界(デボン紀 - 石炭紀境界)でも絶滅事変が起こっており、この2つを合わせてデボン紀の大量絶滅事変として扱うことも多い<ref name=2010富山>{{Cite journal|和書|author=角和善隆 |title=南中国の珪質岩層に記録されたデボン紀後期における生物大量絶滅事件前後での海洋環境変動 |year=2010 |journal=日本地質学会学術大会講演要旨 第117年学術大会(2010富山)|publisher=日本地質学会 |url=https://doi.org/10.14863/geosocabst.2010.0.115.0 |doi=10.14863/geosocabst.2010.0.115.0}}{{フリーアクセス}}</ref>。

大量絶滅から海洋生態系が回復するには3600万年を要したと見られている<ref name=3600万年/>。デボン紀の大量絶滅が上記の2つの大規模な絶滅事変のみで構成されるか、あるいは小さな絶滅事変の連続からなるかは明らかでないが、300万年後の間隔で一連の異なる絶滅のパルスが複数の原因で発生していたことが示唆されている<ref>{{Cite web|url=http://gsa.confex.com/gsa/2003AM/finalprogram/abstract_61972.htm |title= TOWARD UNDERSTANDING OF LATE DEVONIAN GLOBAL EVENTS: FEW ANSWERS, MANY QUESTIONS |author=Racki Grzegorz |archiveurl= https://web.archive.org/web/20120121003439/http://gsa.confex.com/gsa/2003AM/finalprogram/abstract_61972.htm |accessdate=2020-07-16 |archivedate=2012-01-21}}</ref>。約2500万年の間に、[[ジベティアン]]、[[フラニアン]]、[[ファメニアン]]のそれぞれの末期に7回もの大量絶滅が起きたとする説も提唱されている<ref name="sole">Sole, R. V., and Newman, M., 2002. "Extinctions and Biodiversity in the Fossil Record - Volume Two, The earth system: biological and ecological dimensions of global environment change" pp. 297-391, ''Encyclopedia of Global Environmental Change'' John Wiley & Sons.</ref>。

後期デボン紀までに、陸上には[[植物]]と[[昆虫]]が進出し、海にはサンゴと層孔虫類による大規模な礁が形成されていた。[[ユーラメリカ大陸]]と[[ゴンドワナ大陸]]は後の[[パンゲア大陸]]に成長しつつあった。絶滅は海洋生物にのみ影響したらしく、[[腕足動物]]や[[三葉虫]]および造礁生物などが打撃を受け、特に造礁生物はほぼ完全に絶滅した。絶滅の原因は不明であるが、主な仮説として地球寒冷化や海底火山の活動に起因する海水準変動や[[海洋無酸素事変]]が挙げられている<ref name=サンタフェ/>。また、[[スウェーデン]]の{{仮リンク|シリヤン・リング|en|Siljan Ring}}はF-F境界とほぼ同時期の約3億7680万年前(誤差170万年)に地球に衝突した隕石により形成された[[クレーター]]であると考えられており<ref name=EIDBSiljan>{{Cite Earth Impact DB |name=Siljan |accessdate=2020-07-16}}</ref>、その影響も提唱されている<ref name=サンタフェ>{{Cite report|author1=Sole, R. V |author2=Newman, M |url=http://www.santafe.edu/media/workingpapers/99-12-079.pdf |title=Patterns of extinction and biodiversity in the fossil record |archiveurl=https://web.archive.org/web/20120314144008/http://www.santafe.edu/media/workingpapers/99-12-079.pdf |archivedate=2012-03-14 |accessdare=2020-07-16 |publisher=[[サンタフェ研究所]] |location=1399 Hyde Park Rd., Santa Fe, New Mexico, U.S. }}</ref>。

== 後期デボン紀の世界 ==
後期デボン紀の地球の大陸配置は現在の様相と違っていた。超大陸の[[ゴンドワナ大陸]]が南半球を広く覆い、北半球には[[シベリア大陸]]が分布し、赤道付近では[[バルティカ]]大陸などからなる[[ローラシア大陸]]が[[イアペトゥス海]]を狭めながらゴンドワナ大陸方向に移動していた。現在のスコットランド高原や[[スカンディナヴィア]]をまたいで成長し、[[アパラチア山脈]]も現在の北アメリカ大陸で成長しつつあった<ref name=McKerrow>{{cite journal |last1=McKerrow |first1=W.S. |last2=Mac Niocaill |first2=C. |last3=Dewey |first3=J.F. |date=2000 |title=The Caledonian Orogeny redefined |journal=Journal of the Geological Society |volume=157 |issue=6 |pages=1149–1154 |doi=10.1144/jgs.157.6.1149 |bibcode=2000JGSoc.157.1149M |url=https://semanticscholar.org/paper/c4345504fc969eb976baef75f7160de9af008c73 }}</ref>。
[[File:Tiktaalik restoration by ObsidianSoul 01.png|thumb|200px|[[ティクターリク]]の生態復元図]]
生物相も現在とはまるで異なる。[[オルドビス紀]]以降[[蘚類]]や[[苔類]]および[[地衣類]]にも似た形態だった植物は、根・種子・水輸送システムが進化し、常に湿潤な場所から離れても生育できるようになり、高地に大規模な森林を形成するに至った。後期[[ジベティアン]]までには{{仮リンク|クラドクシロプシッダ類|en|Cladoxylopsida}}のシダや[[アーケオプテリス]]などの{{仮リンク|原裸子植物|en|Progymnosperm}}といった現在の樹木に似た生態の系統が出現した<ref name=Algeo1998/>。魚類も大きく放散しており、[[ティクターリク]]などの初期の[[四足動物]]には脚構造が進化し始めた。

== 期間と時期 ==
デボン紀の最後の2000 - 2500万年間は、絶滅率が背景絶滅率を上回る状態が続いていた。この時期には8 - 10回の明瞭な絶滅事変が起きており、特にそのうち2つが深刻なものであった<ref name=Algeo2001>{{cite book|author=Algeo, T.J., S.E. Scheckler and J. B. Maynard|chapter=Effects of the Middle to Late Devonian spread of vascular land plants on weathering regimes, marine biota, and global climate|pages=13–236|editor1=P.G. Gensel |editor2=D. Edwards |year= 2001|title=Plants Invade the Land: Evolutionary and Environmental Approaches|publisher=Columbia Univ. Press: New York.}}</ref>。長期の生物多様性の減少が続いた後に<ref name=Streel2000>{{cite journal|author=Streel, M.|author2=Caputo, M.V. |author3=Loboziak, S. |author4= Melo, J.H.G. |year=2000|title=Late Frasnian--Famennian climates based on palynomorph analyses and the question of the Late Devonian glaciations|journal=Earth-Science Reviews|volume=52|issue=1–3|doi=10.1016/S0012-8252(00)00026-X|pages=121–173|bibcode=2000ESRv...52..121S|url=http://orbi.ulg.ac.be/handle/2268/156563}}</ref>F-F境界に一致するケルワッサー事変、デボン紀末のハンゲンベルグ事変が起きた。[[石炭紀]]の最初の1500万年間は陸上動物の化石がほとんど産出しておらず、これは後期デボン紀の大量絶滅の爪痕であると考えられている。この化石の空白期は{{仮リンク|ローマーのギャップ|en|Romer's gap}}と呼ばれる<ref name=Wardetal06>{{cite journal|author=Ward, P.|author2=Labandeira, C. |author3=Laurin, M |author4= Berner, R |year=2006|title=Confirmation of Romer’s Gap as a low oxygen interval constraining the timing of initial arthropod and vertebrate terrestrialization|journal=Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America|volume=103|issue=45|doi=10.1073/pnas.0607824103|pages=16818-16822|url=https://www.pnas.org/content/103/45/16818.short }}</ref>。2020年1月に発表された中国科学院南京地質古生物研究所による底生生物と浮遊生物およびサンゴの研究によると、前期石炭紀[[ビゼーアン]]でようやく大規模なサンゴ礁と数多くの生物種が出現しており、大量絶滅前の多様性を回復するまでケルワッサー事変から3600万年を要したことになる<ref name=3600万年/>。

ケルワッサー事変はタイプ産地でもる[[ドイツ]]の[[ニーダーザクセン州]] Kellwasser にその名が由来する。ケルワッサー事変は2つの絶滅事変が近い時期に起きたことが分かっている。例えば、[[ベトナム]]の[[ハウザン省]]マーピレン地域に広く分布するトックタット累層では、上部ケルワッサー事変と下部ケルワッサー事変にそれぞれ対応する可能性の高い黒色頁岩層が産出している。黒色頁岩は生物に分解されなかった有機物が海底に堆積したもので、当時の海水が酸素に乏しかったことを意味する。従って、2回の独立した海洋無酸素事変が起きていたことが分かっている<ref name=ベトナム>{{Cite journal|和書|author1=小松俊文 |author2=浦川良太 |author3=山内一輝 |author4=稲田稔貴 |author5=前川匠 |author6=高嶋礼詩 |author7=マーク・ウィリアムズ |author8=クリストファー・ストッカー |author9=グエン・ダック・フォン |author10=ザン・フン・ザン |title=フラスニアン・ファーメニアン境界を含む北部ベトナムの上部デボン系炭酸塩岩類 |date=2017-12-26 |journal=堆積学研究 |publisher=[[日本堆積学会]] |volume=76 |issue=1 |page=2 |url=https://doi.org/10.4096/jssj.76.2 |doi=10.4096/jssj.76.2}}{{フリーアクセス}}</ref>。なお、[[中華人民共和国]][[広西チワン族自治区]][[欽州市]]板城付近には[[ジベティアン]]から前期石炭紀[[トルネーシアン]]までに相当する珪質岩層が分布するが、下部ケルワッサー海洋無酸素事変の痕跡は一切確認されていない。一方で上部ケルワッサー海洋無酸素事変を示す黒色頁岩や有機質石灰岩は産出しており、深海では無酸素環境、浅海では貧酸素環境であったことが示されている。このことは、下部ケルワッサー海洋無酸素事変では無酸素水塊が全球的に分布はしていなかったこと、そして上部ケルワッサー事変では無酸素あるいは富栄養深層水が浅海域に上昇して低酸素化を招いたことを示唆している<ref>{{Cite journal|和書|author=角和善隆 |title=南中国の珪質岩層に記録されたデボン紀後期における生物大量絶滅事件前後での海洋環境変動 |year=2010 |journal=日本地質学会学術大会講演要旨 第117年学術大会(2010富山)|publisher=日本地質学会 |url=https://doi.org/10.14863/geosocabst.2010.0.115.0 |doi=10.14863/geosocabst.2010.0.115.0}}{{フリーアクセス}}</ref>。

[[ベルギー]]のF-F境界付近に相当する浅海堆積岩からは、海洋への土砂流入を示す[[ジベンゾフラン]]と維管束植物の存在を示す[[カダレン]]のピークが確認されている。これらの[[バイオマーカー]]から、陸上植生が物理的に崩壊して海に流れ込んだことが示されている<ref>{{Cite journal|和書|title=3つの大量絶滅時の陸上植生の崩壊と回復:バイオマーカーの証拠 |author1=海保邦夫 |author2=齊藤諒介 |author3=水上拓也 |author4=伊藤幸佑 |author5=谷津進 |author6=小形優加里 |author7=大庭雅寛 |author8=高嶋礼詩 |author9=小松俊文 |year=2013 |journal=日本地質学会学術大会講演要旨 第120年学術大会(2013仙台)|publisher=日本地質学会 |url=https://doi.org/10.14863/geosocabst.2013.0_256 |doi=10.14863/geosocabst.2013.0_256}}{{フリーアクセス}}</ref>。

== 影響 ==
デボン紀の大量絶滅では、全海洋生物種のうち82 - 83%<ref name=サンタフェ/><ref name=3600万年/>、属では50 - 57%<ref name=サンタフェ/><ref name="ucr"/>、科では19%が絶滅した<ref name="ucr"/>。大半の絶滅事変と同様に、小さな生態的地位を占めるスペシャリストの分類群はジェネラリストよりも大きな打撃を受けた<ref name="McGhee"/>。生物多様性の低下は絶滅の増加よりもむしろ[[種分化]]の減少に起因することが複数の統計的解析から示唆されている<ref>{{Cite journal | last=Bambach | first=R.K. | last2=Knoll | first2=A.H. | last3=Wang | first3=S.C. | title=Origination, extinction, and mass depletions of marine diversity | journal=Paleobiology | volume=30 | issue=4 | pages=522–542 | date=December 2004 | url=http://www.bioone.org/perlserv/?request=get-document&issn=0094-8373&volume=30&page=522 | doi=10.1666/0094-8373(2004)030<0522:OEAMDO>2.0.CO;2 }}</ref>。

特に[[サンゴ]]や[[外肛動物]]といった造礁生物が打撃を受けたほか<ref name=サンタフェ/>、[[腕足動物]]・[[三葉虫]]・[[アンモナイト]]・[[コノドント]]・[[アクリターク]]も影響を受けた。[[フデイシ]]と{{仮リンク|ウミリンゴ|en|cystoidea}}はこの絶滅事変で姿を消した。生き残った分類群にも絶滅事変の前後で外見の変化が見られている。三葉虫はケルワッサー事変に向けて目が小型化し、事態が収束してからは元の大きさに戻っている。これにより、当時は海水の[[濁度]]や水深などの要因で視覚の重量度が下がっていたことが示唆されている。三葉虫の頭部などの縁もこの時代に拡大しており、これは海洋の貧酸素化に伴って呼吸器への働きかけを増大させていたと考えられている。コノドントの摂食器の形状も[[δ18O |酸素同位体比]]、すなわち水温と相関があり、これは栄養分の流入の変化に伴って占める栄養段階を変えていたことに関連する可能性がある<ref name="Balter">{{cite journal |title=Record of climate-driven morphological changes in 376&nbsp;Ma Devonian fossils |date=November 2008 |journal=Geology |doi=10.1130/G24989A.1 |volume=36 |pages=907 |last1=Balter |first1=Vincent |last2=Renaud |first2=Sabrina |last3=Girard |first3=Catherine |last4=Joachimski |first4=Michael M. |issue=11 |bibcode=2008Geo....36..907B}}</ref>。

ケルワッサー事変で[[放散虫]]は打撃を受けなかったとかつて考えられていたが、全放散虫の科レベルの多様性は失われなかったものの、27%の属がフラニアン期末に絶滅していたことが2002年に判明した。フラニアン期ではEntactinaria亜目が支配的な放散虫であったが、F-F境界で放散虫群集の大転換が起き、ファメニアン期ではAlbaillellaria亜目とNassellaria亜目が繁栄した<ref>{{Cite journal|和書|author=梅田真樹 |title=古生代放散虫の分類 と消長史-7回の絶滅事件- |journal=地学雑誌 |publisher=[[東京地学協会]] |volume=111 |issue=1 |pages=47 |date=2002-02-25 |doi=10.5026/jgeography.111.33 |url=https://doi.org/10.5026/jgeography.111.33}}{{フリーアクセス}}</ref>。ベトナム北部のフラニアン階に相当するトクタット累層からはテンタキュリトイドと呼ばれる微小な円錐形の殻化石が多産するが、その産出量と多様性は化石記録上減少しており、低緯度の古テチス海域における彼らの絶滅パターンが窺える<ref name=ベトナム/>。

== 原因 ==
ケルワッサー事変に関連する絶滅は長期間に及んで起こったため原因を1つに絞ることは難しく、原因と結果を分けて考えることも困難である。堆積記録からは後期デボンきに環境変動が起きていたことが示されており、これが生物に直接影響して絶滅を引き起こしたと見られている。環境変動の原因については議論の余地がある。

中期デボン紀の終わりから後期デボン紀にかけては堆積記録で複数の環境変動が検出されている。海洋深層水の無酸素水塊の拡大<ref name=Algeo1998/>、埋没した炭素同位体比の急上昇<ref name=Algeo1998/>、特に熱帯の礁における底生生態系の荒廃<ref name=Algeo1998/>などが環境変動の証拠であり、ケルワッサー事変の前後では頻繁に海水準が変動していたこと、そしてそのうち1回の海面上昇が無酸素堆積物と関連していることも分かっている<ref name=Bond2008>{{cite journal|doi=10.1016/j.palaeo.2008.02.015|title=The role of sea-level change and marine anoxia in the Frasnian-Famennian (Late Devonian) mass extinction|year=2008|author1=David P. G. Bond |author2=Paul B. Wignalla |volume=263|journal= Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology|pages=107–118|issue=3–4|url=http://eprints.whiterose.ac.uk/3460/1/bondb2.pdf}}</ref>。

以下に環境変動の原因となった候補を列挙する。

=== 天体衝突 ===
天体衝突は[[K-Pg境界]]や[[T-J境界]]など他の大量絶滅の原因に挙げられおり、デボン紀においても動物相の転換の主要な原因として提唱されている<ref name="McGhee" />。{{仮リンク|シリヤン・リング|en|Siljan Ring}}を形成した天体は、[[コノドント]]の絶滅パターンと照らし合わせて、ケルワッサー事変と同時期か直前に地球に衝突したと考えられている<ref>{{Cite journal|author1=J.R. Morrow |author2=C.A. Sandberg |url=http://www.lpi.usra.edu/meetings/metsoc2005/pdf/5148.pdf |title=Revised Dating Of Alamo And Some Other Late Devonian Impacts In Relation To Resulting Mass Extinction |journal=68th Annual Meteoritical Society Meeting (2005) |publisher=Meteoritical Society |year=2005}}</ref>。なお、ケルワッサー事変の時代の{{仮リンク|アラモ (ネバダ州)|label=アラモ|en|Alamo, Nevada}}のクレーター{{en|Alamo bolide impact}}やハンゲンベルグ事変の時代の{{仮リンク|ウッドレイ・クレーター|en|Woodleigh crater}}といった大半の衝突クレーターは絶滅事変と一致すると断定できるほど正確な年代測定ができず、正確な年代測定が実施されたクレーターは絶滅の時期と一致していない状況である<ref name="Racki, 2005"/>。[[イリジウム]]異常や微小な球体状の岩石構造からも隕石衝突の特徴が確認されているが、これらはおそらく別の要因によるものであると考えられている<ref name=Algeo1995/><ref>{{cite journal |vauthors=Wang K, Attrep M, Orth CJ |date=December 2017 |title=Global iridium anomaly, mass extinction, and redox change at the Devonian-Carboniferous boundary |journal=Geology |volume=21 |issue=12 |pages=1071–1074 |doi=10.1130/0091-7613(1993)021<1071:giamea>2.3.co;2}}</ref>。

=== 植物の進化 ===
デボン紀の間に陸上植物は大きく進化した。発達した水輸送システムにより複雑な枝と根の構造を取ることができるようになり、植物はその高さを増した<ref name=Algeo1998>{{cite journal|author=Algeo, T.J.|year=1998|title=Terrestrial-marine teleconnections in the Devonian: links between the evolution of land plants, weathering processes, and marine anoxic events|journal=Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences|volume=353|issue=1365|pages=113–130|doi=10.1098/rstb.1998.0195|last2=Scheckler|first2=S. E.|pmc=1692181}}</ref>。これに関連して、種子が出現したことにより植物は繁殖と分散が可能となり、これまでは生育できなかった内陸部や高地にも分布を広げることとなった<ref name=Algeo1998/>。この2つの要素が地球規模で植物の重要性を高め、特に[[アーケオプテリス]]の森林は急速にデボン紀の地上を覆った。

==== 河川の富栄養化 ====
現在の高い樹木は水と栄養素の獲得のため、そして植物体の固定のために深い根を必要とする。根は岩盤層を粉砕して、深い土壌層を何メートルみも亘って安定させている。しかしそれとは対称的に、デボン紀の植物には仮根と[[地下茎]]しかなく、地表をわずか数センチメートル程度しか貫くことができなかった。土壌の大部分が安定していなかったことから[[風化]]が促進され、植物や藻類の栄養分となるイオンが放出された<ref name=Algeo1998/>。河川に栄養分が比較的急激に流入したことで[[富栄養化]]が起こり、それに続いて微生物が利用可能な酸素を全て使い切る勢いで有機物を分解し、河川水は無酸素状態に陥った。フラニアン期の化石サンゴ礁は低栄養状態でしか生育できないストロマトライトとサンゴが支配的であるため、高濃度の栄養塩の流入が絶滅の原因になったことが推測されている<ref name=Algeo1998/>。無酸素状態は寒冷化よりも生物にとって危機的であり、絶滅事変に支配的な要因であった可能性が示唆されている<ref name=Algeo1995>{{cite journal|author=Algeo, T.J.|author2=Berner, R.A.|author3=Maynard, J.B.|author4=Scheckler, S.E.|author5=Archives, G.S.A.T.|year=1995|title=Late Devonian Oceanic Anoxic Events and Biotic Crises: "Rooted" in the Evolution of Vascular Land Plants?|journal=GSA Today|volume=5|issue=3|url=ftp://rock.geosociety.org/pub/GSAToday/gt9503.pdf}}{{Dead link|date=February 2020 |bot=InternetArchiveBot |fix-attempted=yes }}</ref>。

また、[[2004年]]に放送された[[NHKスペシャル]]『[[地球大進化〜46億年・人類への旅]]』の第3集「大海からの離脱 そして手が生まれた」では、乾季にアーケオプテリスの葉が河川中に落葉し、その分解の過程で酸素が消費されたことが淡水域の酸素不足の原因であったと説明されている<ref>{{Cite episode |title=大海からの離脱 そして手が生まれた|series=NHKスペシャル 地球大進化〜46億年・人類への旅 第3集 |serieslink=NHKスペシャル |network=[[NHK総合テレビジョン|NHK総合]] |airdate=2004-12-25 |url=https://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009010503_00000}}</ref>。

==== 二酸化炭素の消費 ====
植物は[[光合成]]の形で大気中の[[二酸化炭素]]の消費にも働くため、地球の寒冷化を引き起こしたと指摘もされている。特にD-C境界に相当するハンゲンベルグ事変は[[氷河期]]の到来とも関連している<ref name="Brezinski et al. 2009">{{cite journal |title=Evidence for long-term climate change in Upper Devonian strata of the central Appalachians |doi=10.1016/j.palaeo.2009.10.010 |author1=Brezinski, D.K. |author2=Cecil, C.B. |author3=Skema, V.W. |author4=Kertis, C.A. |journal=Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology |volume=284 |issue=3–4 |year=2009|pages=315–325 |url=https://www.researchgate.net/publication/223209616|bibcode=2009PPP...284..315B }}</ref>。

=== 火成活動 ===
2002年に、火成活動が後期デボン紀の大量絶滅の原因として提唱された<ref name=Krav2002>{{cite journal |author=Kravchinsky, V.A. |author2=K.M. Konstantinov |author3=V. Courtillot |author4=J.-P. Valet |author5=J.I. Savrasov |author6=S.D. Cherniy |author7=S.G. Mishenin |author8=B.S. Parasotka |year=2002 |title=Palaeomagnetism of East Siberian traps and kimberlites: two new poles and palaeogeographic reconstructions at about 360 and 250&nbsp;Ma |journal=Geophysical Journal International |volume=148 |pages=1–33 |url=http://gji.oxfordjournals.org/content/148/1/1.abstract |doi=10.1046/j.0956-540x.2001.01548.x|doi-access=free }}</ref>。デボン紀の終わりには極度に広大な[[シベリア・トラップ]]が存在し、熱いマントルの上昇の上で[[リフト (地質)|リフト運動]]しており、これがF-F境界およびD-C境界での大量絶滅の原因とされた<ref name=Krav2012>{{cite journal |last=Kravchinsky |first=V. A. |year=2012 |title=Paleozoic large igneous provinces of Northern Eurasia: Correlation with mass extinction events |journal=Global and Planetary Change |volume=86–87 |pages=31–36 |doi=10.1016/j.gloplacha.2012.01.007 |bibcode=2012GPC....86...31K}}</ref>。ヴィリュイと[[ドニエプル・ドネツ]]の火成活動がF-F境界に、コラとTiman-Pechora の火成活動がD-C境界に相当することが示唆されている<ref name=Krav2012/>。2010年には、シベリア大陸上の[[ヴィリュイスク]]地域のヴィリュイとケルワッサー事変が対応していることが[[アルゴン-アルゴン法]]により確かめられた<ref>{{cite journal |title=Preliminary dating of the Viluy traps (Eastern Siberia): Eruption at the time of Late Devonian extinction events? |author=Courtillot, V. |display-authors=etal |year=2010 |journal=Earth and Planetary Science Letters |volume=102 |issue=1–2 |pages=29–59 |doi=10.1016/j.earscirev.2010.06.004 |bibcode=2010ESRv..102...29K}}</ref><ref name=":1">{{cite journal |title=New <sup>40</sup>Ar/<sup>39</sup>Ar and K–Ar ages of the Viluy traps (Eastern Siberia): Further evidence for a relationship with the Frasnian–Famennian mass extinction |author=Ricci, J. |display-authors=etal |year=2013 |journal=Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology |volume=386 |pages=531–540 |doi=10.1016/j.palaeo.2013.06.020}}</ref>。

ヴィリュイ大型火山岩地域は現在のシベリア大陸北東縁の大部分を覆っている。3つに分かれたリフト体系がデボン紀で形成されており、ヴィリュイのリフトはそのリフト体系の分岐の1つであり、残る2つも現在のシベリア大陸の辺縁を形成している。一帯の火山岩は後期デボン紀から前期石炭紀の後の堆積物に覆われている<ref name=Kuz2010>{{cite journal |author=Kuzmin, M.I. |author2=Yarmolyuk, V.V. |author3=Kravchinsky, V.A. |year=2010 |title=Phanerozoic hot spot traces and paleogeographic reconstructions of the Siberian continent based on interaction with the African large low shear velocity province |journal=Earth-Science Reviews |volume=148 |issue=1–2 |pages=1–33 |doi=10.1016/j.earscirev.2010.06.004 |bibcode=2010ESRv..102...29K}}</ref>。ヴィリュイのマグマからは形成された火山岩・[[岩脈]]・[[岩床]]は32万平方キロメートルを超える面積を覆い、火成活動に由来する物質の体積は100万立方キロメートルを超える<ref name=Kuz2010/>。

ヴィリュイの火成活動は大気中に十分量の二酸化炭素と[[二酸化硫黄]]をもたらして温室効果と生態系の安定性を崩し、ケルワッサー事変の黒色頁岩堆積に対応する急速な地球寒冷化・海水準低下・海洋無酸素事変を起こした可能性がある<ref name=B2014>{{cite journal |last1=Bond |first1=D. P. G. |last2=Wignall |first2=P. B. |year=2014 |title=Large igneous provinces and mass extinctions: An update |journal=GSA Special Papers |volume=505 |pages=29–55 |url=http://specialpapers.gsapubs.org/content/505/29.abstract}}</ref><ref name="Balter" /><ref>{{Cite journal |title=Conodont apatite ''δ''<sup>18</sup>O signatures indicate climatic cooling as a trigger of the Late Devonian mass extinction |author=Joachimski, M. M. |display-authors=etal |year=2002 |journal=Geology |volume=30 |issue=8 |page=711 |doi=10.1130/0091-7613(2002)030<0711:caosic>2.0.co;2|bibcode=2002Geo....30..711J }}</ref><ref>{{cite journal |title=The Late Devonian Frasnian–Famennian event in South China — Patterns and causes of extinctions, sea level changes, and isotope variations |author=Ma, X. P. |display-authors=etal |year=2015 |journal=Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology |volume=448 |pages=224–244 |doi=10.1016/j.palaeo.2015.10.047}}</ref>。

=== 他の可能性 ===
海水準変動や気候変動の期間・選択制・周期性を説明できない他の仮説は排除されてきた<ref name=Algeo1995/>。見落とされていた仮説として、現在では活動していないがデボン紀には活発であったケルベレアン・カルデラ{{en|Lake Eildon National Park}}が候補に挙げられており、約3億7400万年前に[[破局噴火]]したと考えられている<ref name="Cerberean Caldera">{{cite journal |last1=Clemens |first1=J. D. |last2=Birch |first2=W. D. |title=Assembly of a zoned volcanic magma chamber from multiple magma batches: The Cerberean Cauldron, Marysville Igneous Complex, Australia |journal=Lithos |volume=155 |date=2012 |pages=272–288 |bibcode=2012Litho.155..272C |doi=10.1016/j.lithos.2012.09.007 }}</ref>。カルデラの残骸は[[オーストラリア]]の[[ビクトリア州]]で見ることできる。

== 出典 ==
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2020年7月16日 (木) 10:47時点における版

顕生代の生物多様性(属レベル)の推移。横軸は年代を表し、単位は百万年。灰色が大量絶滅を最初に示したセプコスキのデータ、緑色が"well-defined"データ、黄色の三角が五大絶滅事件。最も左の黄色の三角がF-F境界

F-F境界(エフ・エフきょうかい、: Frasnian–Famennian boundary)とは地質年代区分の用語で、約3億7220万年前(誤差160万年)の後期デボン紀フラニアン期とファメニアン期の境界に相当する[1]古生物学上では五大大量絶滅に数えられる顕生代二度目の大量絶滅のうち主要な絶滅事変が発生し、全海洋生物種のうち約80%[2][3]、属では50%代[2][4]、科では19%が絶滅した[4]。この出来事はケルワッサー事変とも呼ばれ[5][6]、F-F境界とケルワッサー海洋無酸素事変層は一致する[7]。なお、デボン紀にはD-C境界(デボン紀 - 石炭紀境界)でも絶滅事変が起こっており、この2つを合わせてデボン紀の大量絶滅事変として扱うことも多い[8]

大量絶滅から海洋生態系が回復するには3600万年を要したと見られている[3]。デボン紀の大量絶滅が上記の2つの大規模な絶滅事変のみで構成されるか、あるいは小さな絶滅事変の連続からなるかは明らかでないが、300万年後の間隔で一連の異なる絶滅のパルスが複数の原因で発生していたことが示唆されている[9]。約2500万年の間に、ジベティアンフラニアンファメニアンのそれぞれの末期に7回もの大量絶滅が起きたとする説も提唱されている[10]

後期デボン紀までに、陸上には植物昆虫が進出し、海にはサンゴと層孔虫類による大規模な礁が形成されていた。ユーラメリカ大陸ゴンドワナ大陸は後のパンゲア大陸に成長しつつあった。絶滅は海洋生物にのみ影響したらしく、腕足動物三葉虫および造礁生物などが打撃を受け、特に造礁生物はほぼ完全に絶滅した。絶滅の原因は不明であるが、主な仮説として地球寒冷化や海底火山の活動に起因する海水準変動や海洋無酸素事変が挙げられている[2]。また、スウェーデンシリヤン・リング英語版はF-F境界とほぼ同時期の約3億7680万年前(誤差170万年)に地球に衝突した隕石により形成されたクレーターであると考えられており[11]、その影響も提唱されている[2]

後期デボン紀の世界

後期デボン紀の地球の大陸配置は現在の様相と違っていた。超大陸のゴンドワナ大陸が南半球を広く覆い、北半球にはシベリア大陸が分布し、赤道付近ではバルティカ大陸などからなるローラシア大陸イアペトゥス海を狭めながらゴンドワナ大陸方向に移動していた。現在のスコットランド高原やスカンディナヴィアをまたいで成長し、アパラチア山脈も現在の北アメリカ大陸で成長しつつあった[12]

ティクターリクの生態復元図

生物相も現在とはまるで異なる。オルドビス紀以降蘚類苔類および地衣類にも似た形態だった植物は、根・種子・水輸送システムが進化し、常に湿潤な場所から離れても生育できるようになり、高地に大規模な森林を形成するに至った。後期ジベティアンまでにはクラドクシロプシッダ類英語版のシダやアーケオプテリスなどの原裸子植物英語版といった現在の樹木に似た生態の系統が出現した[13]。魚類も大きく放散しており、ティクターリクなどの初期の四足動物には脚構造が進化し始めた。

期間と時期

デボン紀の最後の2000 - 2500万年間は、絶滅率が背景絶滅率を上回る状態が続いていた。この時期には8 - 10回の明瞭な絶滅事変が起きており、特にそのうち2つが深刻なものであった[14]。長期の生物多様性の減少が続いた後に[15]F-F境界に一致するケルワッサー事変、デボン紀末のハンゲンベルグ事変が起きた。石炭紀の最初の1500万年間は陸上動物の化石がほとんど産出しておらず、これは後期デボン紀の大量絶滅の爪痕であると考えられている。この化石の空白期はローマーのギャップと呼ばれる[16]。2020年1月に発表された中国科学院南京地質古生物研究所による底生生物と浮遊生物およびサンゴの研究によると、前期石炭紀ビゼーアンでようやく大規模なサンゴ礁と数多くの生物種が出現しており、大量絶滅前の多様性を回復するまでケルワッサー事変から3600万年を要したことになる[3]

ケルワッサー事変はタイプ産地でもるドイツニーダーザクセン州 Kellwasser にその名が由来する。ケルワッサー事変は2つの絶滅事変が近い時期に起きたことが分かっている。例えば、ベトナムハウザン省マーピレン地域に広く分布するトックタット累層では、上部ケルワッサー事変と下部ケルワッサー事変にそれぞれ対応する可能性の高い黒色頁岩層が産出している。黒色頁岩は生物に分解されなかった有機物が海底に堆積したもので、当時の海水が酸素に乏しかったことを意味する。従って、2回の独立した海洋無酸素事変が起きていたことが分かっている[7]。なお、中華人民共和国広西チワン族自治区欽州市板城付近にはジベティアンから前期石炭紀トルネーシアンまでに相当する珪質岩層が分布するが、下部ケルワッサー海洋無酸素事変の痕跡は一切確認されていない。一方で上部ケルワッサー海洋無酸素事変を示す黒色頁岩や有機質石灰岩は産出しており、深海では無酸素環境、浅海では貧酸素環境であったことが示されている。このことは、下部ケルワッサー海洋無酸素事変では無酸素水塊が全球的に分布はしていなかったこと、そして上部ケルワッサー事変では無酸素あるいは富栄養深層水が浅海域に上昇して低酸素化を招いたことを示唆している[17]

ベルギーのF-F境界付近に相当する浅海堆積岩からは、海洋への土砂流入を示すジベンゾフランと維管束植物の存在を示すカダレンのピークが確認されている。これらのバイオマーカーから、陸上植生が物理的に崩壊して海に流れ込んだことが示されている[18]

影響

デボン紀の大量絶滅では、全海洋生物種のうち82 - 83%[2][3]、属では50 - 57%[2][4]、科では19%が絶滅した[4]。大半の絶滅事変と同様に、小さな生態的地位を占めるスペシャリストの分類群はジェネラリストよりも大きな打撃を受けた[6]。生物多様性の低下は絶滅の増加よりもむしろ種分化の減少に起因することが複数の統計的解析から示唆されている[19]

特にサンゴ外肛動物といった造礁生物が打撃を受けたほか[2]腕足動物三葉虫アンモナイトコノドントアクリタークも影響を受けた。フデイシウミリンゴ英語版はこの絶滅事変で姿を消した。生き残った分類群にも絶滅事変の前後で外見の変化が見られている。三葉虫はケルワッサー事変に向けて目が小型化し、事態が収束してからは元の大きさに戻っている。これにより、当時は海水の濁度や水深などの要因で視覚の重量度が下がっていたことが示唆されている。三葉虫の頭部などの縁もこの時代に拡大しており、これは海洋の貧酸素化に伴って呼吸器への働きかけを増大させていたと考えられている。コノドントの摂食器の形状も酸素同位体比、すなわち水温と相関があり、これは栄養分の流入の変化に伴って占める栄養段階を変えていたことに関連する可能性がある[20]

ケルワッサー事変で放散虫は打撃を受けなかったとかつて考えられていたが、全放散虫の科レベルの多様性は失われなかったものの、27%の属がフラニアン期末に絶滅していたことが2002年に判明した。フラニアン期ではEntactinaria亜目が支配的な放散虫であったが、F-F境界で放散虫群集の大転換が起き、ファメニアン期ではAlbaillellaria亜目とNassellaria亜目が繁栄した[21]。ベトナム北部のフラニアン階に相当するトクタット累層からはテンタキュリトイドと呼ばれる微小な円錐形の殻化石が多産するが、その産出量と多様性は化石記録上減少しており、低緯度の古テチス海域における彼らの絶滅パターンが窺える[7]

原因

ケルワッサー事変に関連する絶滅は長期間に及んで起こったため原因を1つに絞ることは難しく、原因と結果を分けて考えることも困難である。堆積記録からは後期デボンきに環境変動が起きていたことが示されており、これが生物に直接影響して絶滅を引き起こしたと見られている。環境変動の原因については議論の余地がある。

中期デボン紀の終わりから後期デボン紀にかけては堆積記録で複数の環境変動が検出されている。海洋深層水の無酸素水塊の拡大[13]、埋没した炭素同位体比の急上昇[13]、特に熱帯の礁における底生生態系の荒廃[13]などが環境変動の証拠であり、ケルワッサー事変の前後では頻繁に海水準が変動していたこと、そしてそのうち1回の海面上昇が無酸素堆積物と関連していることも分かっている[22]

以下に環境変動の原因となった候補を列挙する。

天体衝突

天体衝突はK-Pg境界T-J境界など他の大量絶滅の原因に挙げられおり、デボン紀においても動物相の転換の主要な原因として提唱されている[6]シリヤン・リング英語版を形成した天体は、コノドントの絶滅パターンと照らし合わせて、ケルワッサー事変と同時期か直前に地球に衝突したと考えられている[23]。なお、ケルワッサー事変の時代のアラモ英語版のクレーターAlamo bolide impactやハンゲンベルグ事変の時代のウッドレイ・クレーター英語版といった大半の衝突クレーターは絶滅事変と一致すると断定できるほど正確な年代測定ができず、正確な年代測定が実施されたクレーターは絶滅の時期と一致していない状況である[5]イリジウム異常や微小な球体状の岩石構造からも隕石衝突の特徴が確認されているが、これらはおそらく別の要因によるものであると考えられている[24][25]

植物の進化

デボン紀の間に陸上植物は大きく進化した。発達した水輸送システムにより複雑な枝と根の構造を取ることができるようになり、植物はその高さを増した[13]。これに関連して、種子が出現したことにより植物は繁殖と分散が可能となり、これまでは生育できなかった内陸部や高地にも分布を広げることとなった[13]。この2つの要素が地球規模で植物の重要性を高め、特にアーケオプテリスの森林は急速にデボン紀の地上を覆った。

河川の富栄養化

現在の高い樹木は水と栄養素の獲得のため、そして植物体の固定のために深い根を必要とする。根は岩盤層を粉砕して、深い土壌層を何メートルみも亘って安定させている。しかしそれとは対称的に、デボン紀の植物には仮根と地下茎しかなく、地表をわずか数センチメートル程度しか貫くことができなかった。土壌の大部分が安定していなかったことから風化が促進され、植物や藻類の栄養分となるイオンが放出された[13]。河川に栄養分が比較的急激に流入したことで富栄養化が起こり、それに続いて微生物が利用可能な酸素を全て使い切る勢いで有機物を分解し、河川水は無酸素状態に陥った。フラニアン期の化石サンゴ礁は低栄養状態でしか生育できないストロマトライトとサンゴが支配的であるため、高濃度の栄養塩の流入が絶滅の原因になったことが推測されている[13]。無酸素状態は寒冷化よりも生物にとって危機的であり、絶滅事変に支配的な要因であった可能性が示唆されている[24]

また、2004年に放送されたNHKスペシャル地球大進化〜46億年・人類への旅』の第3集「大海からの離脱 そして手が生まれた」では、乾季にアーケオプテリスの葉が河川中に落葉し、その分解の過程で酸素が消費されたことが淡水域の酸素不足の原因であったと説明されている[26]

二酸化炭素の消費

植物は光合成の形で大気中の二酸化炭素の消費にも働くため、地球の寒冷化を引き起こしたと指摘もされている。特にD-C境界に相当するハンゲンベルグ事変は氷河期の到来とも関連している[27]

火成活動

2002年に、火成活動が後期デボン紀の大量絶滅の原因として提唱された[28]。デボン紀の終わりには極度に広大なシベリア・トラップが存在し、熱いマントルの上昇の上でリフト運動しており、これがF-F境界およびD-C境界での大量絶滅の原因とされた[29]。ヴィリュイとドニエプル・ドネツの火成活動がF-F境界に、コラとTiman-Pechora の火成活動がD-C境界に相当することが示唆されている[29]。2010年には、シベリア大陸上のヴィリュイスク地域のヴィリュイとケルワッサー事変が対応していることがアルゴン-アルゴン法により確かめられた[30][31]

ヴィリュイ大型火山岩地域は現在のシベリア大陸北東縁の大部分を覆っている。3つに分かれたリフト体系がデボン紀で形成されており、ヴィリュイのリフトはそのリフト体系の分岐の1つであり、残る2つも現在のシベリア大陸の辺縁を形成している。一帯の火山岩は後期デボン紀から前期石炭紀の後の堆積物に覆われている[32]。ヴィリュイのマグマからは形成された火山岩・岩脈岩床は32万平方キロメートルを超える面積を覆い、火成活動に由来する物質の体積は100万立方キロメートルを超える[32]

ヴィリュイの火成活動は大気中に十分量の二酸化炭素と二酸化硫黄をもたらして温室効果と生態系の安定性を崩し、ケルワッサー事変の黒色頁岩堆積に対応する急速な地球寒冷化・海水準低下・海洋無酸素事変を起こした可能性がある[33][20][34][35]

他の可能性

海水準変動や気候変動の期間・選択制・周期性を説明できない他の仮説は排除されてきた[24]。見落とされていた仮説として、現在では活動していないがデボン紀には活発であったケルベレアン・カルデラLake Eildon National Parkが候補に挙げられており、約3億7400万年前に破局噴火したと考えられている[36]。カルデラの残骸はオーストラリアビクトリア州で見ることできる。

出典

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