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'''マイクロプラスチック'''({{lang-en-short|microplastics}})は、([[生物物理学]]的)[[環境]]中に存在する微小な[[プラスチック]][[粒子]]であり、特に[[海洋]]環境において極めて大きな問題になっている<ref>読売新聞 2016年4月2日 33面掲載。</ref>。一部の海洋研究者は1mmよりも小さい顕微鏡サイズのすべてのプラスチック粒子<ref>Browne, Mark A: "Ingested microscopic plastic translocates to the circulatory system of the mussel, Mytilus edulis (L.)", ''Environmental Science & Technology'', 42(13), pp. 5026–5031, 2008</ref>と定義しているが、現場での採取に一般に使用されるニューストンネットのメッシュサイズが333μm (0.333 mm) であることを認識していながら<ref>Moore, C J: "A comparison of plastic and plankton in the North Pacific central gyre", ''Marine Pollution Bulletin'' 42(12), pp. 1297–1300, 2001</ref>、5 mmよりも小さい粒子と定義している研究者もいる<ref name="Moore, C J pages 131-139">Moore, C J: "Synthetic polymers in the marine environment: A rapidly increasing, long-term threat", ''Environmental Research'', 108(2), pp. 131–139, 2008</ref>。
'''マイクロプラスチック'''({{lang-en-short|microplastics}})は、([[生物物理学]]的)[[環境]]中に存在する微小な[[プラスチック]][[粒子]]であり、特に[[海洋]]環境において極めて大きな問題になっている<ref>読売新聞 2016年4月2日 33面掲載。</ref>。一部の海洋研究者は1mmよりも小さい顕微鏡サイズのすべてのプラスチック粒子<ref>Browne, Mark A: "Ingested microscopic plastic translocates to the circulatory system of the mussel, Mytilus edulis (L.)", ''Environmental Science & Technology'', 42(13), pp. 5026–5031, 2008</ref>と定義しているが、現場での採取に一般に使用されるニューストンネットのメッシュサイズが333μm (0.333 mm) であることを認識していながら<ref>Moore, C J: "A comparison of plastic and plankton in the North Pacific central gyre", ''Marine Pollution Bulletin'' 42(12), pp. 1297–1300, 2001</ref>、5 mmよりも小さい粒子と定義している研究者もいる<ref name="Moore, C J pages 131-139">Moore, C J: "Synthetic polymers in the marine environment: A rapidly increasing, long-term threat", ''Environmental Research'', 108(2), pp. 131–139, 2008</ref>。


海洋生物がマイクロプラスチック自体と、それに付着した有害物質([[ポリ塩化ビフェニル|PCB]]や[[DDT]]など)を摂取し、[[生物濃縮]]によって[[海鳥]]や[[人間]]の[[健康]]にも影響することが懸念されている<ref>[https://www.nikkei.com/article/DGKKZO27248650S8A220C1TJN000/ 微小プラスチックごみ、海洋汚染の要因に 有害物質ため込み濃縮 生態系・人間の健康に悪影響も]『日本経済新聞』朝刊2018年2月23日(ニュースな科学面)</ref>。科学的な検証・検討は途上であるが、発生を減らす取り組みが始まっている。
海洋生物がマイクロプラスチック自体と、それに付着した有害物質([[ポリ塩化ビフェニル|PCB]]や[[DDT]]など)を摂取し<ref>山下麗、田中厚資、高田秀重、[https://doi.org/10.18960/seitai.66.1_51 海洋プラスチック汚染:海洋生態系におけるプラスチックの動態と生物への影響] 日本生態学会誌 2016年 66巻 1号 p.51-68, {{doi|10.18960/seitai.66.1_51}}</ref>、[[生物濃縮]]によって[[海鳥]]や[[人間]]の[[健康]]にも影響することが懸念されている<ref>[https://www.nikkei.com/article/DGKKZO27248650S8A220C1TJN000/ 微小プラスチックごみ、海洋汚染の要因に 有害物質ため込み濃縮 生態系・人間の健康に悪影響も]『日本経済新聞』朝刊2018年2月23日(ニュースな科学面)</ref>。科学的な検証・検討は途上であるが、発生を減らす取り組みが始まっている。


== 発生源と拡散状況 ==
== 発生源と拡散状況 ==
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* [[工業]]用[[研磨材]]、([[角質]]除去タイプの)洗顔料、[[化粧品]]または[[サンドブラスト]]用研削材<ref>European Commission, GREEN PAPER On a European Strategy on Plastic Waste in the Environment, COM(2013)123 final, 7.3.2013, p 6.[http://ec.europa.eu/environment/waste/pdf/green_paper/green_paper_en.pdf]</ref>などに直接使用するために生産されるマイクロプラスチック、または多種多様な消費者製品を生産するための前段階の原料([[ペレット]]またはナードルと呼ばれる)として間接的に使用するために生産されるマイクロプラスチック("一次マイクロプラスチック")。'''マイクロビーズ'''とも呼ばれる([[:en:Microbead]])
* [[工業]]用[[研磨材]]、([[角質]]除去タイプの)洗顔料、[[化粧品]]または[[サンドブラスト]]用研削材<ref>European Commission, GREEN PAPER On a European Strategy on Plastic Waste in the Environment, COM(2013)123 final, 7.3.2013, p 6.[http://ec.europa.eu/environment/waste/pdf/green_paper/green_paper_en.pdf]</ref>などに直接使用するために生産されるマイクロプラスチック、または多種多様な消費者製品を生産するための前段階の原料([[ペレット]]またはナードルと呼ばれる)として間接的に使用するために生産されるマイクロプラスチック("一次マイクロプラスチック")。'''マイクロビーズ'''とも呼ばれる([[:en:Microbead]])
* 特に[[漂流・漂着ごみ|海洋ゴミ]]などの大きなプラスチック材料が壊れて段々と細かい断片になる結果、環境中に形成されたマイクロプラスチック(いわゆる"二次マイクロプラスチック")。この崩壊をもたらす原因は、[[波]]などの機械的な力と太陽光、特に[[紫外線]] (UVB) が引き起こす[[光化学]]的プロセスである。
* 特に[[漂流・漂着ごみ|海洋ゴミ]]などの大きなプラスチック材料が壊れて段々と細かい断片になる結果、環境中に形成されたマイクロプラスチック(いわゆる"二次マイクロプラスチック")。この崩壊をもたらす原因は、[[波]]などの機械的な力と太陽光、特に[[紫外線]] (UVB) が引き起こす[[光化学]]的プロセスである。
* 家庭での衣類の[[洗濯]]による[[布]]からの[[合成繊維]]の脱落。[[下水道]]に流れ込む洗濯[[生活排水|排水]]中のマイクロプラスチック粒子と環境中のマイクロプラスチックの組成との比較により、1 mm未満の粒径のマイクロプラスチック汚染の大半が脱落した合成繊維から構成される可能性があることが示唆されている<ref>{{cite journal | title = Accumulation of Microplastic on Shorelines Woldwide: Sources and Sinks | journal = Environmental Science & Technology | volume = 45 | issue = 21 | pages = 9175–9179| id = | url = http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/es201811s?mi=0&af=R&publication=40025991&prevSearch=ebpr | accessdate = 2012-01-27 | doi=10.1021/es201811s}}</ref>。
* 家庭での衣類の[[洗濯]]による[[布]]からの[[合成繊維]]の脱落。[[下水道]]に流れ込む洗濯[[生活排水|排水]]中のマイクロプラスチック粒子と環境中のマイクロプラスチックの組成との比較により、1 mm未満の粒径のマイクロプラスチック汚染の大半が脱落した合成繊維から構成される可能性があることが示唆されている<ref>{{cite journal | title = Accumulation of Microplastic on Shorelines Woldwide: Sources and Sinks | journal = Environmental Science & Technology | volume = 45 | issue = 21 | pages = 9175–9179| id = | url = http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/es201811s?mi=0&af=R&publication=40025991&prevSearch=ebpr | accessdate = 2012-01-27 | doi=10.1021/es201811s}}</ref>。最近数十年間の世界のプラスチック消費量の増加により、マイクロプラスチックは全世界の海洋に広く分布するようになり、その量は着実に増大している<ref name="Moore, C J pages 131-139">Moore, C J: "Synthetic polymers in the marine environment: A rapidly increasing, long-term threat", ''Environmental Research'', 108(2), pp. 131–139, 2008</ref>。人口密集地から遠い[[北極海]]の[[海氷]]中でも確認されている<ref>[https://www.nikkei.com/article/DGKKZO30748970R20C18A5CR0000/ 「プラスチック微粒子 北極海の氷 汚染最悪レベル」]『日本経済新聞』夕刊2018年5月21日(社会・スポーツ面)2018年5月26日閲覧。</ref>。
最近数十年間の世界のプラスチック消費量の増加により、マイクロプラスチックは全世界の海洋に広く分布するようになり、その量は着実に増大している<ref name="Moore, C J pages 131-139">Moore, C J: "Synthetic polymers in the marine environment: A rapidly increasing, long-term threat", ''Environmental Research'', 108(2), pp. 131–139, 2008</ref>。人口密集地から遠い[[北極海]]の[[海氷]]中でも確認されている<ref>[https://www.nikkei.com/article/DGKKZO30748970R20C18A5CR0000/ 「プラスチック微粒子 北極海の氷 汚染最悪レベル」]『日本経済新聞』夕刊2018年5月21日(社会・スポーツ面)2018年5月26日閲覧。</ref>。


[[京都学]]の田中周平[[准教授]]([[環境]])などの調査によると[[2016年]]10 - 12月に[[日本]]の5つの湾と[[琵琶湖]]で合計197匹の[[魚類|魚]]を採取して検査したところ、うち74匹の[[消化管]]からマイクロプラスチックが検出された<ref>{{Cite news|title=魚4割、体内に微細プラ 国内各地の海や湖で確認 京大「影響調査を」|newspaper=『[[日本経済新聞]]』夕刊|date=2017-09-05|url=https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG05H0Y_V00C17A9CR0000/}}</ref>。
牛島ほか(2018)<ref name=jswe.41.107>牛島志、田中周平、鈴木裕識 ほか、[https://doi.org/10.2965/jswe.41.107 日本内湾および琵琶湖における摂食方法別にみた魚類消化管中のマイクロプラスチックの存在実態]環境学会誌 2018 年 41 巻 4 号 p. 107-113, {{doi|10.2965/jswe.41.107}}</ref>によれば、2016年10 - 12月に日本の5つの湾と[[琵琶湖]]で合計197匹の[[魚類|魚]]を採取して検査したところ、うち74匹の[[消化管]]から140個マイクロプラスチックが検出された<ref name=jswe.41.107 />との報道がされた<ref>{{Cite news|title=魚4割、体内に微細プラ 国内各地の海や湖で確認 京大「影響調査を」|newspaper=『[[日本経済新聞]]』夕刊|date=2017-09-05|url=https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG05H0Y_V00C17A9CR0000/}}</ref>。


[[スプートニク]]日本は2018年03月25日の記事で[[サイエンティフィック・リポーツ]]の掲載論文について引用し、太平洋を浮流するゴミを約7万9000トンと算出した上で、うち31%がマイクロプラスチックであるとした。また、[[東日本大震災]]によって海洋流出した漂流物についても言及している<ref>{{Cite news|title=太平洋のゴミ、想像以上の規模だと判明|newspaper=『スプートニク日本』|date=2018-03-25|url=https://jp.sputniknews.com/science/201803254711539/}}</ref>。
[[スプートニク]]日本は2018年03月25日の記事で[[サイエンティフィック・リポーツ]]の掲載論文について引用し、太平洋を浮流するゴミを約7万9000トンと算出した上で、うち31%がマイクロプラスチックであるとした。また、[[東日本大震災]]によって海洋流出した漂流物についても言及している<ref>{{Cite news|title=太平洋のゴミ、想像以上の規模だと判明|newspaper=『スプートニク日本』|date=2018-03-25|url=https://jp.sputniknews.com/science/201803254711539/}}</ref>。


== 海洋環境への潜在的影響 ==
== 海洋環境への潜在的影響 ==
[[2008年]]9月9日から11日まで[[アメリカ合衆国]][[ワシントン州]][[タコマ|タコマ市]]の[[ワシントン大学]]タコマ校で開催された、マイクロプラスチックの海洋ゴミの存在、影響および環境運命についての最初の国際研究[[ワークショップ]]に参加した研究者たちは、以下の根拠によりマイクロプラスチックが海洋環境に問題をもたらしていることに合意した。
2008年9月9日から11日まで[[アメリカ合衆国]][[ワシントン州]][[タコマ|タコマ市]]の[[ワシントン大学]]タコマ校で開催された、マイクロプラスチックの海洋ゴミの存在、影響および環境運命についての最初の国際研究[[ワークショップ]]に参加した研究者たちは、以下の根拠によりマイクロプラスチックが海洋環境に問題をもたらしていることに合意した。
* マイクロプラスチックが海洋環境中に存在することが確認されている。
* マイクロプラスチックが海洋環境中に存在することが確認されている。
* これらの粒子の滞留期間が長い(したがって、今後も集積する可能性が高い)。
* これらの粒子の滞留期間が長い(したがって、今後も集積する可能性が高い)。
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== 国際的取組 ==
== 国際的取組 ==
* [[2016年]](平成28年)[[5月16日]]に[[富山市]]で開かれた先進7カ国([[G7]])環境相会合で、海を漂う微細プラスチックごみについて「[[海]]の[[生態系]]にとって脅威だ」との認識を確認した。
* 2016年(平成28年)5月16日に[[富山市]]で開かれた先進7カ国([[G7]])環境相会合で、海を漂う微細プラスチックごみについて「[[海]]の[[生態系]]にとって脅威だ」との認識を確認した。
* [[欧州連合]](EU)はマイクロプラスチックによる海洋汚染防止のため、EU内で流通するプラスチック製容器・包装などを全て再利用かリサイクルが可能なものへ2030年までに切り替える方針を2018年1月16日に発表した。リサイクル技術向上のため1億[[ユーロ]]を投じる<ref>[https://this.kiji.is/326172135988937825 EU、使い捨てプラ容器追放へ 再利用へ30年までに実現][[共同通信]]2018年1月17日(2018年2月8日閲覧)</ref>。
* [[欧州連合]](EU)はマイクロプラスチックによる海洋汚染防止のため、EU内で流通するプラスチック製容器・包装などを全て再利用かリサイクルが可能なものへ2030年までに切り替える方針を2018年1月16日に発表した。リサイクル技術向上のため1億[[ユーロ]]を投じる<ref>[https://this.kiji.is/326172135988937825 EU、使い捨てプラ容器追放へ 再利用へ30年までに実現][[共同通信]]2018年1月17日(2018年2月8日閲覧)</ref>。
* [[イギリス]]の[[テリーザ・メイ]]首相は2018年1月11日、2042年までにプラスチック廃棄物を可能な限りなくす長期環境計画を公表した<ref>[https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26478880S8A200C1920M00/ 【大機小機】欧州のプラスチック規制]『日本経済新聞』朝刊2018年2月2日</ref>。
* [[イギリス]]の[[テリーザ・メイ]]首相は2018年1月11日、2042年までにプラスチック廃棄物を可能な限りなくす長期環境計画を公表した<ref>[https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26478880S8A200C1920M00/ 【大機小機】欧州のプラスチック規制]『日本経済新聞』朝刊2018年2月2日</ref>。
* 海洋国家である[[日本]]においては[[環境省]]が主体となり、他の海洋ゴミと同様に調査・対策研究を進めている<ref>[http://www.env.go.jp/water/marine_litter00_MOE.pdf 海洋ごみシンポジウム2016 海洋ごみとマイクロプラスチックに関する環境省の取組] 平成28年12月10日</ref>。
* 海洋国家である日本においては[[環境省]]が主体となり、他の海洋ゴミと同様に調査・対策研究を進めている<ref>[http://www.env.go.jp/water/marine_litter00_MOE.pdf 海洋ごみシンポジウム2016 海洋ごみとマイクロプラスチックに関する環境省の取組] 平成28年12月10日</ref>。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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* チャールズ・モア、カッサンドラ・フィリップス著、海輪明秀訳『プラスチックスープの海-北太平洋巨大ごみベルトは警告する』NHK出版、2012年8月25日、ISBN 978-4-14-081560-1 、pp 284-285 (Charles Moor and Cassandra Phillips, “PLASTIC OCEAN”, 2011).
* チャールズ・モア、カッサンドラ・フィリップス著、海輪明秀訳『プラスチックスープの海-北太平洋巨大ごみベルトは警告する』NHK出版、2012年8月25日、ISBN 978-4-14-081560-1 、pp 284-285 (Charles Moor and Cassandra Phillips, “PLASTIC OCEAN”, 2011).
* European Commission, GREEN PAPER On a European Strategy on Plastic Waste in the Environment, COM(2013)123 final, 7.3.2013, p 6, pp 14-16.[http://ec.europa.eu/environment/waste/pdf/green_paper/green_paper_en.pdf]
* European Commission, GREEN PAPER On a European Strategy on Plastic Waste in the Environment, COM(2013)123 final, 7.3.2013, p 6, pp 14-16.[http://ec.europa.eu/environment/waste/pdf/green_paper/green_paper_en.pdf]
* Lusher, A.L., et al. Occurrence of microplastics in the gastrointestinal tract of pelagic and demersal fish from the English Channel. Mar. Pollut. Bull. (2012), http://dx.doi.org/10.1016/j.marpolbul.2012.11.028
* Lusher, A.L., et al. Occurrence of microplastics in the gastrointestinal tract of pelagic and demersal fish from the English Channel. Mar. Pollut. Bull. (2012), {{doi|10.1016/j.marpolbul.2012.11.028}}
* 小島あずさ・眞淳平 著、『海ゴミ-拡大する地球環境汚染』中公新書、2007年7月25日、ISBN 978-4-12-101906-6、pp77-83、pp 99-100、pp 137-158、pp 212-222.
* 小島あずさ・眞淳平 著、『海ゴミ-拡大する地球環境汚染』中公新書、2007年7月25日、ISBN 978-4-12-101906-6、pp77-83、pp 99-100、pp 137-158、pp 212-222.


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* [http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000116.pdf 平成28年度化学物質安全対策(マイクロプラスチック国内排出実態調査)報告書] 経済産業省
* [http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000116.pdf 平成28年度化学物質安全対策(マイクロプラスチック国内排出実態調査)報告書] 経済産業省
* [http://www.ecosci.jp/microplastics/ マイクロプラスチック問題] ecosci.jp(生活環境化学の部屋)
* [http://www.ecosci.jp/microplastics/ マイクロプラスチック問題] ecosci.jp(生活環境化学の部屋)
* 高田 秀重、[https://doi.org/10.14862/geochemproc.64.0_222 マイクロプラスチックの地球化学] 日本地球化学会 2017年度日本地球化学会第64回年会講演要旨集 p.222-, {{doi|10.14862/geochemproc.64.0_222}}


; ニュース
; ニュース
:* Science Daily, Nov. 2, 2007. [http://www.sciencedaily.com/releases/2007/10/071029092034.htm "'Microplastics' May Pose Previously Unrecognized Pollution Threat"]
:* Science Daily, Nov. 2, 2007. [http://www.sciencedaily.com/releases/2007/10/071029092034.htm "'Microplastics' May Pose Previously Unrecognized Pollution Threat"]
:* 日本経済新聞、2014年3月6日、[http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0600D_W4A300C1000000/ "洗顔料のプラスチック粒子、米で規制へ 湖沼汚染を懸念"]
:* 日本経済新聞、2014年3月6日、[http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0600D_W4A300C1000000/ "洗顔料のプラスチック粒子、米で規制へ 湖沼汚染を懸念"]
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2018年12月13日 (木) 09:14時点における版

マイクロプラスチック: microplastics)は、(生物物理学的)環境中に存在する微小なプラスチック粒子であり、特に海洋環境において極めて大きな問題になっている[1]。一部の海洋研究者は1mmよりも小さい顕微鏡サイズのすべてのプラスチック粒子[2]と定義しているが、現場での採取に一般に使用されるニューストンネットのメッシュサイズが333μm (0.333 mm) であることを認識していながら[3]、5 mmよりも小さい粒子と定義している研究者もいる[4]

海洋生物がマイクロプラスチック自体と、それに付着した有害物質(PCBDDTなど)を摂取し[5]生物濃縮によって海鳥人間健康にも影響することが懸念されている[6]。科学的な検証・検討は途上であるが、発生を減らす取り組みが始まっている。

発生源と拡散状況

マイクロプラスチックの発生源と疑われているものは複数存在する。

  • 工業研磨材、(角質除去タイプの)洗顔料、化粧品またはサンドブラスト用研削材[7]などに直接使用するために生産されるマイクロプラスチック、または多種多様な消費者製品を生産するための前段階の原料(ペレットまたはナードルと呼ばれる)として間接的に使用するために生産されるマイクロプラスチック("一次マイクロプラスチック")。マイクロビーズとも呼ばれる(en:Microbead
  • 特に海洋ゴミなどの大きなプラスチック材料が壊れて段々と細かい断片になる結果、環境中に形成されたマイクロプラスチック(いわゆる"二次マイクロプラスチック")。この崩壊をもたらす原因は、などの機械的な力と太陽光、特に紫外線 (UVB) が引き起こす光化学的プロセスである。
  • 家庭での衣類の洗濯によるからの合成繊維の脱落。下水道に流れ込む洗濯排水中のマイクロプラスチック粒子と環境中のマイクロプラスチックの組成との比較により、1 mm未満の粒径のマイクロプラスチック汚染の大半が脱落した合成繊維から構成される可能性があることが示唆されている[8]。最近数十年間の世界のプラスチック消費量の増加により、マイクロプラスチックは全世界の海洋に広く分布するようになり、その量は着実に増大している[4]。人口密集地から遠い北極海海氷中でも確認されている[9]

牛島ほか(2018)[10]によれば、2016年10 - 12月に日本の5つの湾と琵琶湖で合計197匹のを採取して検査したところ、うち74匹の消化管から140個マイクロプラスチックが検出された[10]との報道がされた[11]

スプートニク日本は2018年03月25日の記事でサイエンティフィック・リポーツの掲載論文について引用し、太平洋を浮流するゴミを約7万9000トンと算出した上で、うち31%がマイクロプラスチックであるとした。また、東日本大震災によって海洋流出した漂流物についても言及している[12]

海洋環境への潜在的影響

2008年9月9日から11日までアメリカ合衆国ワシントン州タコマ市ワシントン大学タコマ校で開催された、マイクロプラスチックの海洋ゴミの存在、影響および環境運命についての最初の国際研究ワークショップに参加した研究者たちは、以下の根拠によりマイクロプラスチックが海洋環境に問題をもたらしていることに合意した。

  • マイクロプラスチックが海洋環境中に存在することが確認されている。
  • これらの粒子の滞留期間が長い(したがって、今後も集積する可能性が高い)。
  • 海洋生物によるマイクロプラスチックの摂取が実証されている。

これまでの研究はもっと大きいプラスチックに重点が置かれてきた。(釣り糸漁網などの)プラスチックに絡まるか、プラスチックを摂食するか、喉に詰まらせて窒息することによって、生物が衰弱死してしまうか、陸地に乗り上げて身動きができなくなるといったことに関連する問題は広く認識されている。

これとは対照的に、マイクロプラスチックは5 mmよりも小さくて目立たない存在である。この大きさの粒子は極めて幅広い生物種が利用しうる形態であるが、摂食されることが実証されている例は、沈積物摂食性のゴカイタマシキゴカイ (Arenicola marina))と濾過摂食性のイガイ(ヨーロッパイガイ (Mytilus edulis)[13]の2例しか挙げられていない。食物網の下位にいる生物種の摂食の影響がほとんど知られていないことが不安をもたらしている[4]栄養段階を通じてマイクロプラスチックが移行するかどうかは、まだわかっていない。

マイクロプラスチックを摂食した後の海洋生物への影響は次の3つが考えられる。

  • 摂食器官または消化管の物理的閉塞または損傷
  • 摂食後のプラスチック成分の化学物質内臓への浸出
  • 吸収された化学物質の臓器による摂取と濃縮

小動物は、偽りの満腹感のために食物の摂取が減る危険があり、その結果、飢餓状態に陥るか、それ以外の物理的被害を受ける。しかし、海洋生物に対する長期的な影響は現時点では未知である。

また、プラスチックごみが生物相を散布する運び屋の働きをすることも実証されているので、大洋中の拡散の機会が増大することによって全世界の海の生物多様性が危機にさらされている[14]侵略的外来種侵入種の拡散は、汎存種の拡散と同じくらい大きな問題である[15]

海洋環境中に入り込むプラスチック材料の約半数は水に浮くが、生物の付着によってプラスチックゴミは海底に沈みやすくなる。沈んだプラスチックは底生生物底質ガス交換プロセスを阻害する可能性があるが、これが重要になるのは大きいプラスチックゴミの場合である。

マイクロプラスチックと残留性有機汚染物質 (POPs)

さらに、プラスチック粒子は、環境と周囲の海水中に普通に存在する合成有機化合物(例えば、残留性有機汚染物質=POPs など)をその表面から吸収することによって高度に蓄積して運搬する可能性がある[16]。マイクロプラスチックが、このような経路を通ってPOPsを環境から生物に移行させる媒介者の働きをしているかどうかはまだ不明であるが、マイクロプラスチックが食物網に入る潜在的な入口であることを示唆する証拠[17]がある。さらに、プラスチックの製造中に加えられた添加剤が摂食時に浸出して生物に深刻な害をもたらす可能性も懸念されている。プラスチック添加剤による内分泌かく乱は、人と野生生物の生殖に関する健康に等しく影響を及ぼす恐れがある[18]

現在のレベルでは、マイクロプラスチックがPCBダイオキシンDDTなどのPOPsの外洋における世界的に重要な地球化学的貯留層になる可能性は低い。しかし、小規模なスケールでマイクロプラスチックが化学的貯留層として大きい役割を果たすかどうかは明確ではない。大都市の港湾や、農業排水と工業廃水が集中する排水路などの汚染された人口密集地域においては貯留層機能があると考えられる。

石油系ポリマー('プラスチック')は、ほとんどすべて生分解性がない。しかし、石油系ポリマーと同様の生分解性材料の生産に使用できる再生可能な天然ポリマーが現在、開発中である。しかし、それらを大々的に使用する前に、環境中の特性を詳細に精査することが要求される。

国際的取組

  • 2016年(平成28年)5月16日に富山市で開かれた先進7カ国(G7)環境相会合で、海を漂う微細プラスチックごみについて「生態系にとって脅威だ」との認識を確認した。
  • 欧州連合(EU)はマイクロプラスチックによる海洋汚染防止のため、EU内で流通するプラスチック製容器・包装などを全て再利用かリサイクルが可能なものへ2030年までに切り替える方針を2018年1月16日に発表した。リサイクル技術向上のため1億ユーロを投じる[19]
  • イギリステリーザ・メイ首相は2018年1月11日、2042年までにプラスチック廃棄物を可能な限りなくす長期環境計画を公表した[20]
  • 海洋国家である日本においては環境省が主体となり、他の海洋ゴミと同様に調査・対策研究を進めている[21]

脚注

  1. ^ 読売新聞 2016年4月2日 33面掲載。
  2. ^ Browne, Mark A: "Ingested microscopic plastic translocates to the circulatory system of the mussel, Mytilus edulis (L.)", Environmental Science & Technology, 42(13), pp. 5026–5031, 2008
  3. ^ Moore, C J: "A comparison of plastic and plankton in the North Pacific central gyre", Marine Pollution Bulletin 42(12), pp. 1297–1300, 2001
  4. ^ a b c Moore, C J: "Synthetic polymers in the marine environment: A rapidly increasing, long-term threat", Environmental Research, 108(2), pp. 131–139, 2008
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参考文献

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  • European Commission, GREEN PAPER On a European Strategy on Plastic Waste in the Environment, COM(2013)123 final, 7.3.2013, p 6, pp 14-16.[2]
  • Lusher, A.L., et al. Occurrence of microplastics in the gastrointestinal tract of pelagic and demersal fish from the English Channel. Mar. Pollut. Bull. (2012), doi:10.1016/j.marpolbul.2012.11.028
  • 小島あずさ・眞淳平 著、『海ゴミ-拡大する地球環境汚染』中公新書、2007年7月25日、ISBN 978-4-12-101906-6、pp77-83、pp 99-100、pp 137-158、pp 212-222.

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