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2021年1月29日 (金) 17:38時点における版

オタネニンジン
オタネニンジン
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 core eudicots
階級なし : キク類 asterids
階級なし : キキョウ類 campanulids
: セリ目 Apiales
: ウコギ科 Araliaceae
: トチバニンジン属
Panax [1][2]
: オタネニンジン
P. ginseng [2]
学名
Panax ginseng C.A.Mey. (1842) [3][4]
和名
オタネニンジン[1][2]
チョウセンニンジン[3]
英名
Chinese ginseng[5][6][7]
Korean ginseng[6][7]

オタネニンジン(御種人蔘) は、ウコギ科多年草[8]。原産地は中国遼東半島から朝鮮半島にかけての地域といわれ、 中国東北部ロシア 沿海州にかけて自生する。

薬用または食用に用いられ、チョウセンニンジン朝鮮人蔘)、コウライニンジン高麗人蔘)、また単に人蔘とも呼ばれる[9]。なお、野菜のニンジンセリ科であり、本種の近類種ではなく全く別の種である。

特徴

草丈は50~60cm[8]。茎は1本だけ直立し、茎頂に5出掌状複葉を輪生する[8]。葉は楕円形又は卵形で鋸歯があり先端は尖る[8]

花は白色を帯びた淡緑色で散形花序[8]

名称

北朝鮮製の化粧品
개성고려인삼」(開城高麗人蔘)の表記がある

由来

本種は元来「人蔘」と呼ばれ、中国、朝鮮半島、および日本では古くからよく知られた薬草だった。枝分かれした根の形が人の姿を思わせることが、その名称の由来といわれている。

10世紀前半成立の『和名類聚抄』巻20「草類」の人参の記述では、和名を「加乃仁介 久佐」(カノニケ草)と表記している[10]

「御種人蔘」の名は、八代将軍徳川吉宗対馬藩に命じて朝鮮半島で種と苗を入手させ、試植と栽培・結実の後で各地の大名に種子を分け与えて栽培を奨励し、これを敬って「御種人参」とよぶようになったといわれる[11]。これ以前の「人蔘」は朝鮮半島からの輸入に依存していた。

中国東北部では「棒槌」(bàngchuí、「木槌」「洗濯棒」の意)とも呼ばれる[12]

人蔘とニンジン

このように「人蔘」の語は元来本種を指すものだったが、日本においては、江戸時代以降、セリ科の根菜“胡蘿蔔”[13](こらふ、現在のニンジンのこと)が舶来の野菜として知られるようになると、本種と同様に肥大化した根の部分を用いることから、これを類似視して、「せりにんじん」などと呼んだ[14]

時代が下るにつれて“せりにんじん”は基本野菜として広く使われるようになり、名称も単に「にんじん」と呼ばれることが多くなったが、一方本種はといえば医学の西洋化につれて次第に使われなくなっていったことから、いつしか「人蔘」と言えば“せりにんじん”のことを指すのが普通となった。

その後、区別の必要から、本種に対しては、明示的に拡張した「朝鮮人蔘」の名が使われるようになった(レトロニム)。

戦後になると、日本の人蔘取扱業者は輸入元の韓国で嫌がられる「朝鮮」の語を避けて「薬用人蔘」と称してきたが、後に「薬用」の名称が薬事法に抵触するとする行政指導を受け呼称を「高麗人蔘」へ切り替えた[15][出典無効]

以上2種類の植物について、各国語の呼び名を対照すると以下のとおりである。

日本語 中国語 繁体字/簡体字 朝鮮語 英語
本種 高麗人蔘、朝鮮人蔘 人蔘/人参 [rénshēn、レンシェン] 인삼人蔘) [insam、インサム] ginseng [ジンセン]
ニンジン にんじん (人参) 胡蘿蔔/胡萝卜 [húluóbo][13]
紅蘿蔔/红萝卜 [hóngluóbo] など
당근唐根) [danggeun、タンクン] carrot

韓国産の土産物用・輸出用の人蔘製品については、最大の顧客が日本(人)であることから、単に「人蔘」とはせずに「高麗人蔘」(고려인삼 [Goryeo insam、コリョインサム])を名乗る場合が非常に多い。また、「高麗はかつて朝鮮に存在した統一王朝の名称であり、その頃から栽培が始まったためにこの名がある」といった旨の説明がしばしば添えられているが、実際は日本から逆輸入された名称である。なお、北朝鮮産の人蔘製品でも「高麗人蔘」を名乗る例は存在する。

産地

1997年に発見された推定樹齢500年の高麗人蔘(由志園にて)

現在、全体の70%以上が韓国と中国で栽培されているが、日本でも江戸時代から栽培されている。

古くから薬効が知られ珍重されていたが、栽培は困難で、18世紀はじめの李氏朝鮮で初めて成功した。韓国では忠清南道錦山郡仁川広域市江華郡北朝鮮では開城市が産地として有名。中国では長白山(白頭山)の麓で「長白山人蔘」として栽培される。日本では福島県会津地方長野県東信地方島根県松江市大根島(旧八束町)の由志園などが古くからの産地として知られる[11]

栽培にはおよそ2 - 6年ほどの月日を掛けた上で根が収穫されるが、5年以上のものが良品とされ栽培が難しい[9]。日本には野性はなく、栽培地では小屋掛けで直射日光と雨除けをして、通常は6年がかりで栽培する。皮を剥ぎ、根を天日で乾燥させたものを白参(はくじん、ペクサム、백삼)、皮を剥がずに湯通ししてから乾燥させたものを紅参、(こうじん、ホンサム、홍삼)ということもある。なお、日本薬局方においては、根を蒸したものを紅参としている[11]。他に、濃い砂糖水に漬け込んでから乾燥させる糖参もあり、白参に分類される。

利用

韓国のマーケットにて

生薬

人参と紅参

生薬である人参(ニンジン)や紅参(コウジン)の基原植物である[8]。人参(ニンジン)は根をそのまま又は軽く湯通しして乾燥させた生薬である[8]。紅参(コウジン)は根を蒸してから乾燥させた生薬である[8]

主要成分

主要な薬用部位は根で有用成分に、ジンセノサイドとよばれる13種のサポニン群、その他精油脂肪油コリンが含まれている[11]。ストレスによる胃腸虚弱や食欲不振、嘔吐、下痢、病後の回復期、疲労回復、滋養強壮に効能があるとされ[11][9][信頼性の低い医学の情報源?]伝統医学として古くから服用されてきた。

伝統医学的観点では、低い血圧を高める作用があるため高血圧の人は控えるべきだと言われてきたが、ジンセノサイドの一部分には高い血圧を降下させる作用があるとされ、高血圧症、低血圧症それぞれ体に合わせて調整作用するといわれている[11]。また、種々のストレスに対しても抵抗力を増す効果があるとされ、自律神経の乱れを整え、生体の防御作用を助けるものと考えられている[11]。風邪などの発熱時は避けることとされている[16][信頼性の低い医学の情報源?]

漢方では紅参(コウジン)よりも人参(ニンジン)を配合するものが多く、人参湯類(人参湯六君子湯四君子湯大建中湯など)のほか、黄耆とともに参耆剤(補中益気湯十全大補湯など)に配合されている[8]

民間では、1日量1 - 3グラムの人参を400 ccの水に入れて30分ほど煎じ、3回に分けて服用する[9]。また人参酒としては、紅参か白参20 - 100グラム、または生のオタネニンジン80 - 90グラムを、35度の焼酎1リットルに漬けて、冷暗所に約1 - 3か月保存したものが1日量で約20 ccを目安に飲用される[11]。1回目に浸した人参を使って、再度6か月漬け込み2回目の人参酒を作ることも出来る[11]。そのあとの人参は、料理にも使える[11]

ただし、オタネニンジンのヒトを対象とした質の高い試験は無く、健康的有益性を裏付けるエビデンスは存在しない[17][18]。ただし、血圧およびに血糖値に影響を与えるとされ、副作用としては頭痛、睡眠障害および消化器障害などが報告されている[17]

ウコギ科の薬用植物

ウコギ科の薬用植物には他にアメリカニンジン(花旗蔘)、トチバニンジン(竹節人蔘)、サンシチニンジン(田七人蔘)、エゾウコギなどがある。

一部ではこれらから抽出し精製したものを『ジンセン』などと呼称しているが、『ジンセン』とは本来、朝鮮人蔘から抽出されたエキスを指す。

  • 独参湯:人蔘のみで構成された漢方方剤。通常、漢方では複数の生薬を組み合わせて用いるため、人蔘を単独で用いる本方は、特異な処方である。

なお、日本には同属の種としてはトチバニンジンエゾウコギなどが自生している。

食材

紅参
現在では入手困難な天然物のオタネニンジン

韓国では煎じたものを人参茶(インサムチャ、人蔘茶)として飲用したり、サムゲタン(参鶏湯、蔘鷄湯)などの料理にも利用するほか、乾燥させる前の「水参」(スサム、水蔘수삼)をスライスして蜂蜜につけて食べたりもする。人蔘入りの栄養ドリンクガム石鹸なども市販されている。日本においては、韓国料理の材料として用いられる他、生のものは短冊切りにして酢味噌和えにしたり、天ぷらの材料とすることがある[11]

北朝鮮では開城の人蔘酒が主要な輸出品となっており、韓国でも京畿道坡州市烏頭山統一展望台などで購入できる。

保護の現状

備考

  • ナマコはその強壮作用から中国語で「海の人参(御種人参)」を意味する名前である「海参(ハイシェン)」と呼ばれる。
  • 江戸時代には大変に高価な生薬で、庶民には高嶺の花だった。このため、分不相応なほど高額な治療を受けることを戒める「人蔘飲んで首括る」のことわざも生まれた[19]。「人参で行水」は医薬のかぎりを尽くして治療をすること[20]

脚注

  1. ^ a b 大場秀章(編著)『植物分類表』(第2刷)アボック社、2010年。ISBN 978-4-900358-61-4 
  2. ^ a b c 米倉浩司『高等植物分類表』(重版)北隆館、2010年。ISBN 978-4-8326-0838-2 
  3. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Panax ginseng C.A.Mey.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2012年8月13日閲覧。
  4. ^ "'Panax ginseng C.A. Mey.". Tropicos. Missouri Botanical Garden. 2200621. 2012年8月13日閲覧
  5. ^ "Panax ginseng C.A. Mey" (英語). Integrated Taxonomic Information System. 2012年8月13日閲覧
  6. ^ a b "Panax ginseng" - Encyclopedia of Life
  7. ^ a b "Panax ginseng". National Center for Biotechnology Information(NCBI) (英語).
  8. ^ a b c d e f g h i 薬草園だより Vol.2015.春夏号(第6刊)”. 神戸学院大学薬学部附属薬用植物園. 2020年3月8日閲覧。
  9. ^ a b c d 貝津好孝 1995.
  10. ^ 中田祝夫編『和名類聚抄 元和三年古活字版二十巻本 附 関係資料集』勉誠社文庫23、第3刷、1987年、229頁。国立国会図書館蔵。
  11. ^ a b c d e f g h i j k 田中孝治 1995.
  12. ^ 昆明植物研究所. “人蔘”. 《中国高等植物数据库全库》. 中国科学院微生物研究所. 2009年2月24日閲覧。
  13. ^ a b 中国語: 蘿蔔 は「大根」を意味し、「胡蘿蔔」はいわば「南蛮大根」、また「紅蘿蔔」は「赤大根」といった意味になる。
  14. ^ 貝原益軒『菜譜』に「胡蘿蔔」の項目あり、「せりにんじん」と訓じている。明治時代の刊本が国会図書館近代デジタルライブラリー[1] で閲覧できる。
  15. ^ http://kinsam.jp/insam/
  16. ^ 吉林インポート商品一覧 朝鮮人蔘 > 紅参”. 吉林インポート. 2012年11月20日閲覧。
  17. ^ a b Asian Ginseng”. National Center for Complementary and Integrative Health (2016年11月29日). 2019年11月10日閲覧。
  18. ^ Geng J, Dong J, Ni H, Lee MS, Wu T, Jiang K, Wang G, Zhou AL, Malouf R (2010年12月8日). “朝鮮人参の認知機能向上効果の確証的なエビデンスはない”. Cochrane. 2019年11月10日閲覧。
  19. ^ http://www.sanabo.com/kotowaza/arc/2002/10/post_725.html
  20. ^ 広辞苑第5版

参考文献

  • 貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、46頁。ISBN 4-09-208016-6 
  • 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、74頁。ISBN 4-06-195372-9 

関連項目

外部リンク