「四次方程式」の版間の差分
m 126.204.112.123 (会話) による ID:75637185 の版を取り消し タグ: 取り消し |
編集の要約なし |
||
1行目: | 1行目: | ||
{{出典の明記|date=2015 |
{{出典の明記|date=2015-07}} |
||
'''四次方程式'''(よじほうていしき、quartic equation)とは、次数が 4 である |
'''四次方程式'''(よじほうていしき、quartic equation)とは、次数が 4 である[[代数方程式]]のことである。この項目では主に一変数の四次方程式を扱う。 |
||
== 概要 == |
== 概要 == |
||
[[ |
[[画像:四次方程式の解の公式.png|thumb|四次方程式 <math>a_4 x^4 + a_3 x^3 + a_2 x^2 + a_1 x + a_0 = 0</math> の解の公式]] |
||
[[ |
[[画像:四次方程式の解の公式(部分式置き換え).png|thumb|部分式の置き換えにより簡単化したもの]] |
||
一変数の四次方程式は |
一変数の四次方程式は |
||
:{{math|''a'' |
:{{math|''a''{{sub|4}} ''x''{{sup|4}} + ''a''{{sub|3}} ''x''{{sup|3}} + ''a''{{sub|2}} ''x''{{sup|2}} + ''a''{{sub|1}} ''x'' + ''a''{{sub|0}} {{=}} 0 (''a''{{sub|4}} ≠ 0)}} |
||
の形で表現される。 |
の形で表現される。{{math|''a''{{sub|4}}}} で割り |
||
: {{math|''x'' |
: {{math|''x''{{sup|4}} + ''A''{{sub|3}} ''x''{{sup|3}} + ''A''{{sub|2}} ''x''{{sup|2}} + ''A''{{sub|1}} ''x'' + ''A'' {{sub|0}} {{=}} 0}} (<math>A_n = \frac{a_n}{a_4}</math>) |
||
の形にしても根は変わらないのでこの形で論じられることが多い。 |
の形にしても根は変わらないのでこの形で論じられることが多い。 |
||
一般的な四次方程式の解法は、[[ジェロラモ・カルダーノ]]の弟子である[[ルドヴィコ・フェラーリ]]によって発見され、カルダノの著書『[[アルス・マグナ (カルダーノの著書)|アルス・マグナ]]』で概要が述べられた。カルダノは ''x'', ''x'' |
一般的な四次方程式の解法は、[[ジェロラモ・カルダーノ]]の弟子である[[ルドヴィコ・フェラーリ]]によって発見され、カルダノの著書『[[アルス・マグナ (カルダーノの著書)|アルス・マグナ]]』で概要が述べられた。カルダノは {{math2|''x'', ''x''{{sup|2}}, ''x''{{sup|3}}}} をそれぞれ、[[直線|線分]]の長さ、一辺の長さが {{mvar|x}} の[[正方形]]の[[面積]]、一辺の長さが {{mvar|x}} の[[立方体]]の[[体積]]と対応させてとらえ、 4 次以上の方程式には意味がないと考えていたため、三次方程式と違って詳細には述べられていない。 |
||
しかし、カルダノの死後、[[ルネ・デカルト]]は著書『[[方法序説]]』の試論の1つである『幾何学』において[[定規とコンパスによる作図]]を論じ、長さ |
しかし、カルダノの死後、[[ルネ・デカルト]]は著書『[[方法序説]]』の試論の1つである『幾何学』において[[定規とコンパスによる作図]]を論じ、長さ {{mvar|x}} の線分、長さ {{mvar|y}} の線分、長さ {{math|1}} の線分から長さ {{mvar|x y}} の線分が得られることを示している。これによると、長さ {{mvar|x}} の線分と長さ {{math|1}} の線分から長さ {{mvar|x{{sup|n}}}}({{mvar|n}} は任意の[[自然数]])の線分の作図が可能であることが分かるため 4 次以上の方程式を解くことにも幾何学的な意味を与えることは可能であり、カルダノのとらえ方は不十分であったことが分かる。 |
||
その後、四次方程式は三次方程式と同様に様々な解法が発見され、[[五次方程式]]の代数的解法の探索と合わせて詳細な研究が進められた。 |
その後、四次方程式は三次方程式と同様に様々な解法が発見され、[[五次方程式]]の代数的解法の探索と合わせて詳細な研究が進められた。 |
||
19行目: | 19行目: | ||
== 複二次式 == |
== 複二次式 == |
||
四次方程式の内奇数次の項が無い |
四次方程式の内奇数次の項が無い |
||
:''a'' |
:{{math|''a''{{sub|4}} ''x''{{sup|4}} + ''a''{{sub|2}} ''x''{{sup|2}} + ''a''{{sub|0}} {{=}} 0 (''a''{{sub|4}} ≠ 0)}} |
||
の形の式は ''x'' |
の形の式は {{math|''x''{{sup|2}}}} を変数とする[[二次方程式]]と見ることができ、'''複二次方程式''' (''biquadratic equation'') あるいは単に'''複二次式'''と呼ばれる。二次方程式の解法を知っていれば簡単に解くことができる。 |
||
''y'' = ''x'' |
{{math|''y'' {{=}} ''x''{{sup|2}}}} と変換することで {{mvar|y}} に関する二次方程式 |
||
:''a'' |
:{{math|''a''{{sub|4}} ''y''{{sup|2}} + ''a''{{sub|2}} ''y'' + ''a''{{sub|0}} {{=}} 0}} |
||
を得ることができ、この二次方程式を解くことによって根を求められる。 |
を得ることができ、この二次方程式を解くことによって根を求められる。 |
||
また、[[実数]]を係数とする複二次式 |
また、[[実数]]を係数とする複二次式 |
||
:''x'' |
:{{math|1=''x''{{sup|4}} + ''A''{{sub|2}} ''x''{{sup|2}} + ''A''{{sub|0}} = 0}} |
||
に対して、次のような二次式の積への因数分解もよく行われる。 |
に対して、次のような二次式の積への因数分解もよく行われる。{{math|''x''{{sup|2}}}} の二次方程式とみたときの[[判別式]] |
||
:''D'' = ''A'' |
:{{math|1=''D'' = ''A''{{sub|2}}{{sup|2}} − 4''A''{{sub|0}}}} |
||
の[[符号 (数学)|符号]]によって |
の[[符号 (数学)|符号]]によって |
||
''D'' |
{{math|''D'' > 0}} であれば {{math|''x''{{sup|2}}}} について[[平方完成]]することにより |
||
:<math>x^4 +A_2 x^2 + A_0 = \left(x^2 + {A_2 \over 2}\right)^2 - {A_2^2 - 4 A_0 \over 4} |
:<math>x^4 +A_2 x^2 + A_0 = \left(x^2 + {A_2 \over 2}\right)^2 - {A_2^2 - 4 A_0 \over 4}</math> |
||
''D'' |
{{math|''D'' < 0}} であれば {{math|''A''{{sub|0}} > 0}} であることに注意して |
||
:<math>x^4 +A_2 x^2 + A_0 = \left(x^2 + \sqrt{A_0} \right)^2 - \left(2 \sqrt{A_0} - A_2 \right) x^2 |
:<math>x^4 +A_2 x^2 + A_0 = \left(x^2 + \sqrt{A_0} \right)^2 - \left(2 \sqrt{A_0} - A_2 \right) x^2</math> |
||
と変形すれば、いずれの場合も[[因数分解]]の公式 |
と変形すれば、いずれの場合も[[因数分解]]の公式 |
||
: |
:{{math|α{{sup|2}} − β{{sup|2}} {{=}} (α + β) (α − β)}} |
||
を利用して実数を係数とする二次式の積に因数分解できる。 |
を利用して実数を係数とする二次式の積に因数分解できる。 |
||
==根の様子== |
== 根の様子 == |
||
四次方程式は、高々4個の根を持つ。 |
四次方程式は、高々4個の根を持つ。 |
||
四次方程式{{math|ax |
四次方程式 {{math|''ax''{{sup|4}} + ''bx''{{sup|3}} + ''cx''{{sup|2}} + ''dx'' + ''e'' {{=}} 0}} の判別式は |
||
:<math>\begin{align} |
:<math>\begin{align} |
||
\Delta=&256a^3e^3-192a^2bde^2-128a^2c^2e^2+144a^2cd^2e-27a^2d^4\\ |
\Delta=&256a^3e^3-192a^2bde^2-128a^2c^2e^2+144a^2cd^2e-27a^2d^4\\ |
||
50行目: | 49行目: | ||
&\ -4ac^3d^2-27b^4e^2+18b^3cde-4b^3d^3-4b^2c^3e+b^2c^2d^2 |
&\ -4ac^3d^2-27b^4e^2+18b^3cde-4b^3d^3-4b^2c^3e+b^2c^2d^2 |
||
\end{align}</math> |
\end{align}</math> |
||
によって与えられ、係数によって定まる以下の4個の定数によって |
によって与えられ、係数によって定まる以下の4個の定数によってさらに詳細な情報が得られる。 |
||
:<math>\begin{align} |
:<math>\begin{align} |
||
P&=8ac-3b^2\\ |
P&=8ac-3b^2\\ |
||
59行目: | 57行目: | ||
\end{align}</math> |
\end{align}</math> |
||
{{math|Δ, P, R, Δ |
{{math|Δ, P, R, Δ{{sub|0}}, D}}に関して、以下の事実が成立する<ref>{{Cite journal |first= E. L.|last=Rees|title=Graphical Discussion of the Roots of a Quartic Equation |journal=The American Mathematical Monthly |volume=29 |issue=2 |year=1922 |pages=51-55 |doi=10.2307/2972804 |jstor=2972804}}</ref>。 |
||
# {{math|Δ<0}}のとき、2つの異なる実数解と2つの互いに共役である複素数解を持つ。 |
# {{math|Δ < 0}} のとき、2つの異なる実数解と2つの互いに共役である複素数解を持つ。 |
||
# {{math|Δ>0}}のとき、 |
# {{math|Δ > 0}} のとき、 |
||
## {{math|P<0}}かつ{{math|D<0}}ならば、4つの異なる実数根を持つ。 |
## {{math|''P'' < 0}} かつ {{math|''D'' < 0}} ならば、4つの異なる実数根を持つ。 |
||
## {{math|P<0}}または{{math|D>0}}ならば、2つの互いに共役である複素数根を2組持つ。 |
## {{math|''P'' < 0}} または {{math|''D'' > 0}} ならば、2つの互いに共役である複素数根を2組持つ。 |
||
# {{math |
# {{math|1=Δ = 0}} のときにのみ、方程式は重根を持ち、 |
||
## {{math|P<0}}かつ{{math|D<0}}かつ{{math|Δ |
## {{math|''P'' < 0}} かつ {{math|''D'' < 0}} かつ {{math|Δ{{sub|0}}≠0}} ならば、実数に1つの二重根と2つの異なる根を持つ。 |
||
## {{math|D>0}}または |
## {{math|''D'' > 0}} または({{math|''P'' < 0}} かつ({{math2|''D'', ''R''}} のどちらかが0でない))ならば、実数に1つの二重根を持ち、2つの互いに共役である複素数根を持つ。 |
||
## {{math|Δ |
## {{math|Δ{{sub|0}}{{=}}0}}かつ{{math|D≠0}}ならば、実数に1つの三重根と1つの重根でない根を持つ。 |
||
## {{math|D{{=}}0}}のとき、 |
## {{math|''D'' {{=}} 0}} のとき、 |
||
### {{math|P<0}}ならば、実数に2つの異なる二重根を持つ。 |
### {{math|''P'' < 0}} ならば、実数に2つの異なる二重根を持つ。 |
||
### {{math|P<0}}かつR=0ならば、それぞれが二重根である互いに共役である複素数根を2つ持つ。 |
### {{math|''P'' < 0}} かつ {{math|''R'' {{=}} 0}} ならば、それぞれが二重根である互いに共役である複素数根を2つ持つ。 |
||
### {{math|Δ |
### {{math|Δ{{sub|0}} {{=}} 0}} ならば、{{math|−{{sfrac|''b''|4''a''}}}} を四重根として持つ。 |
||
以上には、例えば{{math|Δ>0}}かつ{{math|P·D<0}}である場合などが記されていない。しかし、このような組み合わせは実際には存在しない。 |
以上には、例えば {{math|Δ > 0}} かつ {{math|''P''·''D'' < 0}} である場合などが記されていない。しかし、このような組み合わせは実際には存在しない。 |
||
== フェラーリの方法 == |
== フェラーリの方法 == |
||
'''[[ルドヴィコ・フェラーリ|フェラーリ]]の方法'''は、一般的な四次方程式の解法のうちで最初に与えられた解法である。四次方程式 |
'''[[ルドヴィコ・フェラーリ|フェラーリ]]の方法'''は、一般的な四次方程式の解法のうちで最初に与えられた解法である。四次方程式 |
||
:''a'' |
:{{math|1=''a''{{sub|4}} ''x''{{sup|4}} + ''a''{{sub|3}} ''x''{{sup|3}} + ''a''{{sub|2}} ''x''{{sup|2}} + ''a''{{sub|1}} ''x'' + ''a''{{sub|0}} = 0 (''a''{{sub|4}} ≠ 0)}} |
||
を ''a'' |
を {{math|''a''{{sub|4}}}} で割り |
||
: |
:{{math|1=''x''{{sup|4}} + ''A''{{sub|3}} ''x''{{sup|3}} + ''A''{{sub|2}} ''x''{{sup|2}} + ''A''{{sub|1}} ''x'' + ''A''{{sub|0}} = 0}} |
||
の形にする。( ''A'' |
の形にする。( ''A''{{sub|''n''}} = ''a''{{sub|''n''}} / ''a''{{sub|4}}) |
||
:<math> |
:<math>B_3 := \frac{A_3}{4}</math> |
||
とし |
とし |
||
:''x'' = ''y'' − ''B'' |
:{{math|1=''x'' = ''y'' − ''B''{{sub|3}}}} |
||
によって変数変換を行うと |
によって変数変換を行うと |
||
:''y'' |
:''y''{{sup|4}} + (''A''{{sub|2}} − 6 ''B''{{sub|3}}{{sup|2}}) ''y''{{sup|2}} + (''A''{{sub|1}} − 2 ''A''{{sub|2}} ''B''{{sub|3}} + 8 ''B''{{sub|3}}{{sup|3}}) ''y'' + (''A''{{sub|0}} - ''A''{{sub|1}} ''B''{{sub|3}} + ''A''{{sub|2}} ''B''{{sub|3}}{{sup|2}} − 3 ''B''{{sub|3}}{{sup|4}}) = 0 |
||
のように三次の項が消えた方程式が得られる。見やすいように |
のように三次の項が消えた方程式が得られる。見やすいように |
||
:{{math|''y'' |
:{{math|''y''{{sup|4}} + ''p y''{{sup|2}} + ''q y'' + ''r'' {{=}} 0}} |
||
と書く。 ''q'' = 0 の時は、 複二次式として解けばよいので、以後は ''q'' ≠ 0 とする。 |
と書く。 ''q'' = 0 の時は、 複二次式として解けばよいので、以後は ''q'' ≠ 0 とする。 |
||
93行目: | 91行目: | ||
:<math> \left(y^2 + \frac{p + u}{2}\right)^2 - u \left(y - \frac{q}{2u}\right)^2 = 0 </math> |
:<math> \left(y^2 + \frac{p + u}{2}\right)^2 - u \left(y - \frac{q}{2u}\right)^2 = 0 </math> |
||
と変形する。ここで上式を展開し係数を比較すると、''u'' の[[三次方程式]] |
と変形する。ここで上式を展開し係数を比較すると、''u'' の[[三次方程式]] |
||
:{{math|''u'' (''p'' + ''u'') |
:{{math|''u'' (''p'' + ''u''){{sup|2}} − 4 ''r u'' {{=}} ''q''{{sup|2}}}} |
||
が得られる。このような補助的な方程式を、与えられた四次方程式に関する'''三次分解方程式'''(''resolvent cubic equation'') という。 ''q'' ≠ 0 なので、この分解方程式の解は ''u'' ≠ 0 を満たしており、この解の一つを ''u'' として取る。また、求める四次方程式は |
が得られる。このような補助的な方程式を、与えられた四次方程式に関する'''三次分解方程式'''(''resolvent cubic equation'') という。 ''q'' ≠ 0 なので、この分解方程式の解は ''u'' ≠ 0 を満たしており、この解の一つを ''u'' として取る。また、求める四次方程式は |
||
:<math> \left\{ \left(y^2 + \frac{p + u}{2}\right) + \sqrt{u} \left(y - \frac{q}{2u}\right) \right\} \left\{ \left(y^2 + \frac{p + u}{2}\right) - \sqrt{u} \left(y - \frac{q}{2u}\right) \right\} = 0 </math> |
:<math> \left\{ \left(y^2 + \frac{p + u}{2}\right) + \sqrt{u} \left(y - \frac{q}{2u}\right) \right\} \left\{ \left(y^2 + \frac{p + u}{2}\right) - \sqrt{u} \left(y - \frac{q}{2u}\right) \right\} = 0 </math> |
||
100行目: | 98行目: | ||
== デカルトの方法 == |
== デカルトの方法 == |
||
[[ルネ・デカルト|デカルト]]は、著書『[[方法序説]]』の試論の1つである『幾何学』において四次方程式 |
[[ルネ・デカルト|デカルト]]は、著書『[[方法序説]]』の試論の1つである『幾何学』において四次方程式 |
||
:''y'' |
:''y''{{sup|4}} + ''p y''{{sup|2}} + ''q y'' + ''r'' = 0 |
||
の解を求めるために、二次式による因数分解 |
の解を求めるために、二次式による因数分解 |
||
:''y'' |
:''y''{{sup|4}} + ''p y''{{sup|2}} + ''q y'' + ''r'' = (''y''{{sup|2}} + ''c''{{sub|1}} ''y'' + ''c''{{sub|0}}) (''y''{{sup|2}} + ''d''{{sub|1}} ''y'' + ''d''{{sub|0}}) |
||
を仮定した方法を奨めた。係数比較によって |
を仮定した方法を奨めた。係数比較によって |
||
:''c'' |
:''c''{{sub|1}} + ''d''{{sub|1}} = 0 |
||
:''c'' |
:''c''{{sub|0}} + ''d''{{sub|0}} + ''c''{{sub|1}} ''d''{{sub|1}} = ''p'' |
||
:''c'' |
:''c''{{sub|1}} ''d''{{sub|0}} + ''c''{{sub|0}} ''d''{{sub|1}} = ''q'' |
||
:''c'' |
:''c''{{sub|0}} ''d''{{sub|0}} = ''r'' |
||
が得られる。上の 3 つの式から |
が得られる。上の 3 つの式から |
||
:''d'' |
:''d''{{sub|1}} = − ''c''{{sub|1}} |
||
:2 ''c'' |
:2 ''c''{{sub|0}} ''c''{{sub|1}} = ''c''{{sub|1}}{{sup|3}} + ''p c''{{sub|1}} − ''q'' |
||
:2 ''d'' |
:2 ''d''{{sub|0}} ''c''{{sub|1}} = ''c''{{sub|1}}{{sup|3}} + ''p c''{{sub|1}} + ''q'' |
||
が得られる。 |
が得られる。 |
||
:4 ''c'' |
:4 ''c''{{sub|1}}{{sup|2}} ''r'' = 4 ''c''{{sub|1}}{{sup|2}} ''c''{{sub|0}} ''d''{{sub|0}} = (2 ''c''{{sub|0}} ''c''{{sub|1}})(2 ''d''{{sub|0}} ''c''{{sub|1}}) = (''c''{{sub|1}}{{sup|3}} + ''p c''{{sub|1}} − ''q'')(''c''{{sub|1}}{{sup|3}} + ''p c''{{sub|1}} + ''q'') |
||
であるから |
であるから |
||
:''c'' |
:''c''{{sub|1}}{{sup|2}}( ''c''{{sub|1}}{{sup|2}} + ''p''){{sup|2}} - ''q''{{sup|2}} = 4 ''c''{{sub|1}}{{sup|2}} ''r'' |
||
という ''c'' |
という ''c''{{sub|1}} に関して 6 次の方程式が得られる。偶数次の項しか無いので ''u'' = ''c''{{sub|1}}{{sup|2}} とでもおけば |
||
:''u''( ''u'' + ''p'') |
:''u''( ''u'' + ''p''){{sup|2}} - ''q''{{sup|2}} = 4 ''r u'' |
||
という ''u'' に関する三次方程式が得られる。この方程式は、フェラーリの方法で得たのと同じ'''三次分解方程式'''であり、これを解くことによって、元の方程式の根が得られる。 |
という ''u'' に関する三次方程式が得られる。この方程式は、フェラーリの方法で得たのと同じ'''三次分解方程式'''であり、これを解くことによって、元の方程式の根が得られる。 |
||
124行目: | 122行目: | ||
:(''x'' + ''a'' + ''b'' + ''c'') (''x'' + ''a'' − ''b'' − ''c'') (''x'' − ''a'' + ''b'' − ''c'') (''x'' − ''a'' − ''b'' + ''c'') |
:(''x'' + ''a'' + ''b'' + ''c'') (''x'' + ''a'' − ''b'' − ''c'') (''x'' − ''a'' + ''b'' − ''c'') (''x'' − ''a'' − ''b'' + ''c'') |
||
:= ((''x'' + ''a'') |
:= ((''x'' + ''a''){{sup|2}} − (''b'' + ''c''){{sup|2}}) ((''x'' − ''a''){{sup|2}} − (''b'' − ''c''){{sup|2}}) |
||
:= (''x'' |
:= (''x''{{sup|2}} − ''a''{{sup|2}}){{sup|2}} + (''b''{{sup|2}} − ''c''{{sup|2}}){{sup|2}} − (''x'' + ''a''){{sup|2}} (''b'' − ''c''){{sup|2}} − (''x'' − ''a''){{sup|2}} (''b'' + ''c''){{sup|2}} |
||
:= ''x'' |
:= ''x''{{sup|4}} + ''a''{{sup|4}} + ''b''{{sup|4}} + ''c''{{sup|4}} − 2 (''x''{{sup|2}} ''a''{{sup|2}} + ''x''{{sup|2}} ''b''{{sup|2}} + ''x''{{sup|2}} ''c''{{sup|2}} + ''a''{{sup|2}} ''b''{{sup|2}} + ''b''{{sup|2}} ''c''{{sup|2}} + ''c''{{sup|2}} ''a''{{sup|2}}) + 8 ''x a b c'' |
||
:= ''x'' |
:= ''x''{{sup|4}} − 2 (''a''{{sup|2}} + ''b''{{sup|2}} + ''c''{{sup|2}}) ''x''{{sup|2}} + 8 ''a b c x'' + ''a''{{sup|4}} + ''b''{{sup|4}} + ''c''{{sup|4}} − 2 (''a''{{sup|2}} ''b''{{sup|2}} + ''b''{{sup|2}} ''c''{{sup|2}} + ''c''{{sup|2}} ''a''{{sup|2}}) |
||
という等式を用いると ''x'' を変数とする四次方程式 |
という等式を用いると ''x'' を変数とする四次方程式 |
||
:''x'' |
:''x''{{sup|4}} − 2 (''a''{{sup|2}} + ''b''{{sup|2}} + ''c''{{sup|2}}) ''x''{{sup|2}} + 8 ''a b c x'' + ''a''{{sup|4}} + ''b''{{sup|4}} + ''c''{{sup|4}} − 2 (''a''{{sup|2}} ''b''{{sup|2}} + ''b''{{sup|2}} ''c''{{sup|2}} + ''c''{{sup|2}} ''a''{{sup|2}}) = 0 |
||
の根は ''a'', ''b'', ''c'' を用いて |
の根は ''a'', ''b'', ''c'' を用いて |
||
:− ''a'' − ''b'' − ''c'', − ''a'' + ''b'' + ''c'', ''a'' − ''b'' + ''c'', ''a'' + ''b'' − ''c'' |
:− ''a'' − ''b'' − ''c'', − ''a'' + ''b'' + ''c'', ''a'' − ''b'' + ''c'', ''a'' + ''b'' − ''c'' |
||
135行目: | 133行目: | ||
この方程式と、 3 次の項の消えた四次方程式 |
この方程式と、 3 次の項の消えた四次方程式 |
||
:''x'' |
:''x''{{sup|4}} + ''p x''{{sup|2}} + ''q x'' + ''r'' = 0 |
||
の係数を比べ、 ''p'', ''q'', ''r'' から ''a'', ''b'', ''c'' を求めることができれば、 3 次の項の消えた四次方程式の根は上にあるように 4 つ求まる。 |
の係数を比べ、 ''p'', ''q'', ''r'' から ''a'', ''b'', ''c'' を求めることができれば、 3 次の項の消えた四次方程式の根は上にあるように 4 つ求まる。 |
||
実際に係数を比べてみれば |
実際に係数を比べてみれば |
||
:''p'' = − 2 (''a'' |
:''p'' = − 2 (''a''{{sup|2}} + ''b''{{sup|2}} + ''c''{{sup|2}}) |
||
:''q'' = 8 ''a b c'' |
:''q'' = 8 ''a b c'' |
||
:''r'' = ''a'' |
:''r'' = ''a''{{sup|4}} + ''b''{{sup|4}} + ''c''{{sup|4}} − 2 (''a''{{sup|2}} ''b''{{sup|2}} + ''b''{{sup|2}} ''c''{{sup|2}} + ''c''{{sup|2}} ''a''{{sup|2}}) = (''a''{{sup|2}} + ''b''{{sup|2}} + ''c''{{sup|2}}){{sup|2}} − 4 (''a''{{sup|2}} ''b''{{sup|2}} + ''b''{{sup|2}} ''c''{{sup|2}} + ''c''{{sup|2}} ''a''{{sup|2}}) |
||
ここで ''f'' |
ここで ''f''{{sub|0}} = (2 ''a''){{sup|2}}, ''f''{{sub|1}} = (2 ''b''){{sup|2}}, ''f''{{sub|2}} = (2 ''c''){{sup|2}} とおけば |
||
:''f'' |
:''f''{{sub|0}} + ''f''{{sub|1}} + ''f''{{sub|2}} = − 2 ''p'' |
||
:''f'' |
:''f''{{sub|0}} ''f''{{sub|1}} + ''f''{{sub|1}} ''f''{{sub|2}} + ''f''{{sub|2}} ''f''{{sub|0}} = ''p''{{sup|2}} − 4 ''r'' |
||
:''f'' |
:''f''{{sub|0}} ''f''{{sub|1}} ''f''{{sub|2}} = ''q''{{sup|2}} |
||
となり、[[根と係数の関係]]により ''f'' |
となり、[[根と係数の関係]]により ''f''{{sub|0}}, ''f''{{sub|1}}, ''f''{{sub|2}} は三次方程式 |
||
:''u'' |
:''u''{{sup|3}} + 2 ''p u''{{sup|2}} + (''p''{{sup|2}} − 4 ''r'') ''u'' − ''q''{{sup|2}} = 0 |
||
の解であり、これもフェラーリの方法に現れた'''三次分解方程式'''である。この三次方程式を解くことによって ''a'', ''b'', ''c'' が得られる。 |
の解であり、これもフェラーリの方法に現れた'''三次分解方程式'''である。この三次方程式を解くことによって ''a'', ''b'', ''c'' が得られる。 |
||
157行目: | 155行目: | ||
フェラーリの方法において、四次方程式は |
フェラーリの方法において、四次方程式は |
||
:''y'' |
:''y''{{sup|4}} + ''p y''{{sup|2}} + ''q y'' + ''r'' = 0 |
||
の形に変形される。この方程式の 4 つの根を ''r'' |
の形に変形される。この方程式の 4 つの根を ''r''{{sub|0}}, ''r''{{sub|1}}, ''r''{{sub|2}}, ''r''{{sub|3}} とする。三次分解式を解くことで四次方程式は、 2 つの二次方程式 |
||
:<math> y^2 + {p + u \over 2} = \pm \sqrt{u} \left(y - {q \over 2u}\right)</math> |
:<math> y^2 + {p + u \over 2} = \pm \sqrt{u} \left(y - {q \over 2u}\right)</math> |
||
に分解することができた。 |
に分解することができた。 |
||
:<math> y^2 + {p + u \over 2} = \sqrt{u} \left(y - {q \over 2u}\right)</math> |
:<math> y^2 + {p + u \over 2} = \sqrt{u} \left(y - {q \over 2u}\right)</math> |
||
は、元の四次方程式の 4 つの根のうちの 2 つを根とするが、これをとりあえず ''r'' |
は、元の四次方程式の 4 つの根のうちの 2 つを根とするが、これをとりあえず ''r''{{sub|0}}, ''r''{{sub|1}} の 2 つとしたとき、 |
||
:<math> y^2 + {p + u \over 2} = - \sqrt{u} \left(y - {q \over 2u}\right)</math> |
:<math> y^2 + {p + u \over 2} = - \sqrt{u} \left(y - {q \over 2u}\right)</math> |
||
の根は ''r'' |
の根は ''r''{{sub|2}}, ''r''{{sub|3}} となり、[[根と係数の関係]]から |
||
:<math> r_0 + r_1 = \sqrt{u} </math> |
:<math> r_0 + r_1 = \sqrt{u} </math> |
||
:<math> r_2 + r_3 = - \sqrt{u} </math> |
:<math> r_2 + r_3 = - \sqrt{u} </math> |
||
したがって |
したがって |
||
:(''r'' |
:(''r''{{sub|0}} + ''r''{{sub|1}}) (''r''{{sub|2}} + ''r''{{sub|3}}) = − ''u'' |
||
便宜上 |
便宜上 |
||
:<math> y^2 + {p + u \over 2} = \sqrt{u} \left(y - {q \over 2u}\right)</math> |
:<math> y^2 + {p + u \over 2} = \sqrt{u} \left(y - {q \over 2u}\right)</math> |
||
の根を ''r'' |
の根を ''r''{{sub|0}}, ''r''{{sub|1}} としたが、根の並び方はいろいろ考えられる。 ''r''{{sub|''m''}} と ''r''{{sub|''n''}} を入れ替える[[対称群|互換]]を σ{{sub|''m,n''}} と書けば、例えば |
||
:σ |
:σ{{sub|''0,1''}} (''r''{{sub|0}} + ''r''{{sub|1}}) (''r''{{sub|2}} + ''r''{{sub|3}}) = (''r''{{sub|0}} + ''r''{{sub|1}}) (''r''{{sub|2}} + ''r''{{sub|3}}) |
||
:σ |
:σ{{sub|''0,2''}} (''r''{{sub|0}} + ''r''{{sub|1}}) (''r''{{sub|2}} + ''r''{{sub|3}}) = (''r''{{sub|2}} + ''r''{{sub|1}}) (''r''{{sub|0}} + ''r''{{sub|3}}) |
||
など、一般には異なる値を取ることになる。このように調べていくと 4 つの根の並び方は 4! = 24 通りあるが |
など、一般には異なる値を取ることになる。このように調べていくと 4 つの根の並び方は 4! = 24 通りあるが |
||
:(''r'' |
:(''r''{{sub|0}} + ''r''{{sub|1}}) (''r''{{sub|2}} + ''r''{{sub|3}}) = − ''u'' |
||
の値は、最初の根の並べ方によって |
の値は、最初の根の並べ方によって |
||
:''s'' |
:''s''{{sub|0}} = (''r''{{sub|0}} + ''r''{{sub|1}}) (''r''{{sub|2}} + ''r''{{sub|3}}) |
||
:''s'' |
:''s''{{sub|1}} = (''r''{{sub|0}} + ''r''{{sub|2}}) (''r''{{sub|1}} + ''r''{{sub|3}}) |
||
:''s'' |
:''s''{{sub|2}} = (''r''{{sub|0}} + ''r''{{sub|3}}) (''r''{{sub|1}} + ''r''{{sub|2}}) |
||
の 3 通りとなる。 |
の 3 通りとなる。 |
||
例えば、互換 σ |
例えば、互換 σ{{sub|0,1}} を作用させると、 |
||
:σ |
:σ{{sub|''0,1''}} ''s''{{sub|0}} = ''s''{{sub|0}} |
||
:σ |
:σ{{sub|''0,1''}} ''s''{{sub|1}} = ''s''{{sub|2}} |
||
:σ |
:σ{{sub|''0,1''}} ''s''{{sub|2}} = ''s''{{sub|1}} |
||
となる。 |
となる。 |
||
一般に、互換 σ |
一般に、互換 σ{{sub|''m,n''}} は ''s''{{sub|0}}, ''s''{{sub|1}}, ''s''{{sub|2}} の並び替えしかしないため ''s''{{sub|0}}, ''s''{{sub|1}}, ''s''{{sub|2}} に関する[[基本対称式]] |
||
:''s'' |
:''s''{{sub|0}} + ''s''{{sub|1}} + ''s''{{sub|2}} |
||
:''s'' |
:''s''{{sub|0}} ''s''{{sub|1}} + ''s''{{sub|1}} ''s''{{sub|2}} + ''s''{{sub|2}} ''s''{{sub|0}} |
||
:''s'' |
:''s''{{sub|0}} ''s''{{sub|1}} ''s''{{sub|2}} |
||
は、互換 σ |
は、互換 σ{{sub|''m,n''}} によって不変であり、 ''r''{{sub|0}}, ''r''{{sub|1}}, ''r''{{sub|2}}, ''r''{{sub|3}} の基本対称式で書けることになる。 |
||
:すなわち ''s'' |
:すなわち ''s''{{sub|0}}, ''s''{{sub|1}}, ''s''{{sub|2}} の基本対称式は、最初に考えた四次方程式の係数 ''p'', ''q'', ''r'' で書ける。 |
||
以上の事から |
以上の事から |
||
:''u'' = − (''r'' |
:''u'' = − (''r''{{sub|0}} + ''r''{{sub|1}}) (''r''{{sub|2}} + ''r''{{sub|3}}) |
||
は、根の並べ方によって 3 つの値 − ''s'' |
は、根の並べ方によって 3 つの値 − ''s''{{sub|0}}, − ''s''{{sub|1}}, − ''s''{{sub|2}} をとり、これらを根とする方程式 |
||
:(''u'' + ''s'' |
:(''u'' + ''s''{{sub|0}}) (''u'' + ''s''{{sub|1}}) (''u'' + ''s''{{sub|2}}) = 0 |
||
の左辺は ''u'' についての多項式として展開すると、その係数が ''p'', ''q'', ''r'' の多項式として書ける式である。この ''u'' に関する三次方程式こそ、フェラーリの方法で'''三次分解方程式'''として求められた方程式に他ならない。 |
の左辺は ''u'' についての多項式として展開すると、その係数が ''p'', ''q'', ''r'' の多項式として書ける式である。この ''u'' に関する三次方程式こそ、フェラーリの方法で'''三次分解方程式'''として求められた方程式に他ならない。 |
||
204行目: | 202行目: | ||
このような式は他にもあり |
このような式は他にもあり |
||
:<math> |
:<math>t_0 = \left(r_0 + r_1\right) - \left( r_2 +r_3\right)</math> |
||
:<math> |
:<math>t_1 = \left(r_0 + r_2\right) - \left( r_1 +r_3\right)</math> |
||
:<math> |
:<math>t_2 = \left(r_0 + r_3\right) - \left( r_1 +r_2\right)</math> |
||
とすれば、<math> |
とすれば、<math>t_0^2, t_1^2, t_2^2</math> を根とする三次方程式で四次方程式を解くこともできる。 |
||
ラグランジュは補助方程式の根を用いて、問題の方程式の根の公式を表現するのとは逆に、補助方程式の根を、元の方程式の根の整式(あるいは一般に有理式)として書ける事が代数的に解ける理由と考え、特に |
ラグランジュは補助方程式の根を用いて、問題の方程式の根の公式を表現するのとは逆に、補助方程式の根を、元の方程式の根の整式(あるいは一般に有理式)として書ける事が代数的に解ける理由と考え、特に |
||
:<math> |
:<math>u = r_0 +i r_1 - r_2 - i r_3</math> |
||
の形の式、さらに一般に、''n''次方程式であれば [[1の冪根|1の原始''n''乗根]]<math>\zeta_n</math> を用いて |
の形の式、さらに一般に、''n''次方程式であれば [[1の冪根|1の原始''n''乗根]]<math>\zeta_n</math> を用いて |
||
:<math> |
:<math>u = \sum_{k=0}^{n-1} \zeta_n^k r_k = r_0 +\zeta_n r_1 + \zeta_n^2 r_2 + \cdots + \zeta_n^{n-2} r_{n-2} + \zeta_n^{n-1} r_{n-1}</math> |
||
の形の式の性質を詳しく調べたが、五次以上の代数方程式の代数的解法の発見には至らなかった。この形の式を'''ラグランジュの分解式'''(''Lagrange resolvent'')という。 |
の形の式の性質を詳しく調べたが、五次以上の代数方程式の代数的解法の発見には至らなかった。この形の式を'''ラグランジュの分解式''' (''Lagrange resolvent'') という。 |
||
五次以上の代数方程式の代数的解法の存在については、[[パオロ・ルフィニ]]、[[オーギュスタン=ルイ・コーシー]]、[[ニールス・アーベル]]らの研究が[[アーベル–ルフィニの定理]]として結実し、否定されることになるが、彼らの研究は、このようなラグランジュの研究を源流としている。 |
五次以上の代数方程式の代数的解法の存在については、[[パオロ・ルフィニ]]、[[オーギュスタン=ルイ・コーシー]]、[[ニールス・アーベル]]らの研究が[[アーベル–ルフィニの定理]]として結実し、否定されることになるが、彼らの研究は、このようなラグランジュの研究を源流としている。 |
||
2020年4月29日 (水) 20:13時点における版
四次方程式(よじほうていしき、quartic equation)とは、次数が 4 である代数方程式のことである。この項目では主に一変数の四次方程式を扱う。
概要
一変数の四次方程式は
- a4 x4 + a3 x3 + a2 x2 + a1 x + a0 = 0 (a4 ≠ 0)
の形で表現される。a4 で割り
- x4 + A3 x3 + A2 x2 + A1 x + A 0 = 0 ()
の形にしても根は変わらないのでこの形で論じられることが多い。
一般的な四次方程式の解法は、ジェロラモ・カルダーノの弟子であるルドヴィコ・フェラーリによって発見され、カルダノの著書『アルス・マグナ』で概要が述べられた。カルダノは x, x2, x3 をそれぞれ、線分の長さ、一辺の長さが x の正方形の面積、一辺の長さが x の立方体の体積と対応させてとらえ、 4 次以上の方程式には意味がないと考えていたため、三次方程式と違って詳細には述べられていない。
しかし、カルダノの死後、ルネ・デカルトは著書『方法序説』の試論の1つである『幾何学』において定規とコンパスによる作図を論じ、長さ x の線分、長さ y の線分、長さ 1 の線分から長さ x y の線分が得られることを示している。これによると、長さ x の線分と長さ 1 の線分から長さ xn(n は任意の自然数)の線分の作図が可能であることが分かるため 4 次以上の方程式を解くことにも幾何学的な意味を与えることは可能であり、カルダノのとらえ方は不十分であったことが分かる。
その後、四次方程式は三次方程式と同様に様々な解法が発見され、五次方程式の代数的解法の探索と合わせて詳細な研究が進められた。
複二次式
四次方程式の内奇数次の項が無い
- a4 x4 + a2 x2 + a0 = 0 (a4 ≠ 0)
の形の式は x2 を変数とする二次方程式と見ることができ、複二次方程式 (biquadratic equation) あるいは単に複二次式と呼ばれる。二次方程式の解法を知っていれば簡単に解くことができる。
y = x2 と変換することで y に関する二次方程式
- a4 y2 + a2 y + a0 = 0
を得ることができ、この二次方程式を解くことによって根を求められる。
また、実数を係数とする複二次式
- x4 + A2 x2 + A0 = 0
に対して、次のような二次式の積への因数分解もよく行われる。x2 の二次方程式とみたときの判別式
- D = A22 − 4A0
の符号によって
D > 0 であれば x2 について平方完成することにより
D < 0 であれば A0 > 0 であることに注意して
と変形すれば、いずれの場合も因数分解の公式
- α2 − β2 = (α + β) (α − β)
を利用して実数を係数とする二次式の積に因数分解できる。
根の様子
四次方程式は、高々4個の根を持つ。
四次方程式 ax4 + bx3 + cx2 + dx + e = 0 の判別式は
によって与えられ、係数によって定まる以下の4個の定数によってさらに詳細な情報が得られる。
Δ, P, R, Δ0, Dに関して、以下の事実が成立する[1]。
- Δ < 0 のとき、2つの異なる実数解と2つの互いに共役である複素数解を持つ。
- Δ > 0 のとき、
- P < 0 かつ D < 0 ならば、4つの異なる実数根を持つ。
- P < 0 または D > 0 ならば、2つの互いに共役である複素数根を2組持つ。
- Δ = 0 のときにのみ、方程式は重根を持ち、
- P < 0 かつ D < 0 かつ Δ0≠0 ならば、実数に1つの二重根と2つの異なる根を持つ。
- D > 0 または(P < 0 かつ(D, R のどちらかが0でない))ならば、実数に1つの二重根を持ち、2つの互いに共役である複素数根を持つ。
- Δ0=0かつD≠0ならば、実数に1つの三重根と1つの重根でない根を持つ。
- D = 0 のとき、
- P < 0 ならば、実数に2つの異なる二重根を持つ。
- P < 0 かつ R = 0 ならば、それぞれが二重根である互いに共役である複素数根を2つ持つ。
- Δ0 = 0 ならば、−b/4a を四重根として持つ。
以上には、例えば Δ > 0 かつ P·D < 0 である場合などが記されていない。しかし、このような組み合わせは実際には存在しない。
フェラーリの方法
フェラーリの方法は、一般的な四次方程式の解法のうちで最初に与えられた解法である。四次方程式
- a4 x4 + a3 x3 + a2 x2 + a1 x + a0 = 0 (a4 ≠ 0)
を a4 で割り
- x4 + A3 x3 + A2 x2 + A1 x + A0 = 0
の形にする。( An = an / a4)
とし
- x = y − B3
によって変数変換を行うと
- y4 + (A2 − 6 B32) y2 + (A1 − 2 A2 B3 + 8 B33) y + (A0 - A1 B3 + A2 B32 − 3 B34) = 0
のように三次の項が消えた方程式が得られる。見やすいように
- y4 + p y2 + q y + r = 0
と書く。 q = 0 の時は、 複二次式として解けばよいので、以後は q ≠ 0 とする。
媒介変数 u ≠ 0 を用い
と変形する。ここで上式を展開し係数を比較すると、u の三次方程式
- u (p + u)2 − 4 r u = q2
が得られる。このような補助的な方程式を、与えられた四次方程式に関する三次分解方程式(resolvent cubic equation) という。 q ≠ 0 なので、この分解方程式の解は u ≠ 0 を満たしており、この解の一つを u として取る。また、求める四次方程式は
となり、この 2 つの二次方程式から、四次方程式の根を求めることができる。
デカルトの方法
デカルトは、著書『方法序説』の試論の1つである『幾何学』において四次方程式
- y4 + p y2 + q y + r = 0
の解を求めるために、二次式による因数分解
- y4 + p y2 + q y + r = (y2 + c1 y + c0) (y2 + d1 y + d0)
を仮定した方法を奨めた。係数比較によって
- c1 + d1 = 0
- c0 + d0 + c1 d1 = p
- c1 d0 + c0 d1 = q
- c0 d0 = r
が得られる。上の 3 つの式から
- d1 = − c1
- 2 c0 c1 = c13 + p c1 − q
- 2 d0 c1 = c13 + p c1 + q
が得られる。
- 4 c12 r = 4 c12 c0 d0 = (2 c0 c1)(2 d0 c1) = (c13 + p c1 − q)(c13 + p c1 + q)
であるから
- c12( c12 + p)2 - q2 = 4 c12 r
という c1 に関して 6 次の方程式が得られる。偶数次の項しか無いので u = c12 とでもおけば
- u( u + p)2 - q2 = 4 r u
という u に関する三次方程式が得られる。この方程式は、フェラーリの方法で得たのと同じ三次分解方程式であり、これを解くことによって、元の方程式の根が得られる。
オイラーの方法
レオンハルト・オイラーは、三次方程式や四次方程式の解法をいくつか発見した。ここに述べる方法もオイラーの方法と呼ばれる解法の一つである。
- (x + a + b + c) (x + a − b − c) (x − a + b − c) (x − a − b + c)
- = ((x + a)2 − (b + c)2) ((x − a)2 − (b − c)2)
- = (x2 − a2)2 + (b2 − c2)2 − (x + a)2 (b − c)2 − (x − a)2 (b + c)2
- = x4 + a4 + b4 + c4 − 2 (x2 a2 + x2 b2 + x2 c2 + a2 b2 + b2 c2 + c2 a2) + 8 x a b c
- = x4 − 2 (a2 + b2 + c2) x2 + 8 a b c x + a4 + b4 + c4 − 2 (a2 b2 + b2 c2 + c2 a2)
という等式を用いると x を変数とする四次方程式
- x4 − 2 (a2 + b2 + c2) x2 + 8 a b c x + a4 + b4 + c4 − 2 (a2 b2 + b2 c2 + c2 a2) = 0
の根は a, b, c を用いて
- − a − b − c, − a + b + c, a − b + c, a + b − c
の 4 つであることが分かる。
この方程式と、 3 次の項の消えた四次方程式
- x4 + p x2 + q x + r = 0
の係数を比べ、 p, q, r から a, b, c を求めることができれば、 3 次の項の消えた四次方程式の根は上にあるように 4 つ求まる。
実際に係数を比べてみれば
- p = − 2 (a2 + b2 + c2)
- q = 8 a b c
- r = a4 + b4 + c4 − 2 (a2 b2 + b2 c2 + c2 a2) = (a2 + b2 + c2)2 − 4 (a2 b2 + b2 c2 + c2 a2)
ここで f0 = (2 a)2, f1 = (2 b)2, f2 = (2 c)2 とおけば
- f0 + f1 + f2 = − 2 p
- f0 f1 + f1 f2 + f2 f0 = p2 − 4 r
- f0 f1 f2 = q2
となり、根と係数の関係により f0, f1, f2 は三次方程式
- u3 + 2 p u2 + (p2 − 4 r) u − q2 = 0
の解であり、これもフェラーリの方法に現れた三次分解方程式である。この三次方程式を解くことによって a, b, c が得られる。
ラグランジュの方法
ジョゼフ=ルイ・ラグランジュは、既に知られていた三次方程式や四次方程式の解法を、いろいろな視点から詳しく調べ上げた。ここで述べるのは、ラグランジュによるフェラーリの方法の解釈であり、現代的に言えば対称群を用いた方法である。
フェラーリの方法において、四次方程式は
- y4 + p y2 + q y + r = 0
の形に変形される。この方程式の 4 つの根を r0, r1, r2, r3 とする。三次分解式を解くことで四次方程式は、 2 つの二次方程式
に分解することができた。
は、元の四次方程式の 4 つの根のうちの 2 つを根とするが、これをとりあえず r0, r1 の 2 つとしたとき、
の根は r2, r3 となり、根と係数の関係から
したがって
- (r0 + r1) (r2 + r3) = − u
便宜上
の根を r0, r1 としたが、根の並び方はいろいろ考えられる。 rm と rn を入れ替える互換を σm,n と書けば、例えば
- σ0,1 (r0 + r1) (r2 + r3) = (r0 + r1) (r2 + r3)
- σ0,2 (r0 + r1) (r2 + r3) = (r2 + r1) (r0 + r3)
など、一般には異なる値を取ることになる。このように調べていくと 4 つの根の並び方は 4! = 24 通りあるが
- (r0 + r1) (r2 + r3) = − u
の値は、最初の根の並べ方によって
- s0 = (r0 + r1) (r2 + r3)
- s1 = (r0 + r2) (r1 + r3)
- s2 = (r0 + r3) (r1 + r2)
の 3 通りとなる。
例えば、互換 σ0,1 を作用させると、
- σ0,1 s0 = s0
- σ0,1 s1 = s2
- σ0,1 s2 = s1
となる。
一般に、互換 σm,n は s0, s1, s2 の並び替えしかしないため s0, s1, s2 に関する基本対称式
- s0 + s1 + s2
- s0 s1 + s1 s2 + s2 s0
- s0 s1 s2
は、互換 σm,n によって不変であり、 r0, r1, r2, r3 の基本対称式で書けることになる。
- すなわち s0, s1, s2 の基本対称式は、最初に考えた四次方程式の係数 p, q, r で書ける。
以上の事から
- u = − (r0 + r1) (r2 + r3)
は、根の並べ方によって 3 つの値 − s0, − s1, − s2 をとり、これらを根とする方程式
- (u + s0) (u + s1) (u + s2) = 0
の左辺は u についての多項式として展開すると、その係数が p, q, r の多項式として書ける式である。この u に関する三次方程式こそ、フェラーリの方法で三次分解方程式として求められた方程式に他ならない。
このようにしてラグランジュは、四次方程式を解くための補助方程式である三次分解方程式の根が、元の四次方程式の根の整式で書ける事を発見し、補助方程式の次数が三次である理由を、根の置換という立場からはっきりと示した。
このような式は他にもあり
とすれば、 を根とする三次方程式で四次方程式を解くこともできる。 ラグランジュは補助方程式の根を用いて、問題の方程式の根の公式を表現するのとは逆に、補助方程式の根を、元の方程式の根の整式(あるいは一般に有理式)として書ける事が代数的に解ける理由と考え、特に
の形の式、さらに一般に、n次方程式であれば 1の原始n乗根 を用いて
の形の式の性質を詳しく調べたが、五次以上の代数方程式の代数的解法の発見には至らなかった。この形の式をラグランジュの分解式 (Lagrange resolvent) という。 五次以上の代数方程式の代数的解法の存在については、パオロ・ルフィニ、オーギュスタン=ルイ・コーシー、ニールス・アーベルらの研究がアーベル–ルフィニの定理として結実し、否定されることになるが、彼らの研究は、このようなラグランジュの研究を源流としている。
脚注
- ^ Rees, E. L. (1922). “Graphical Discussion of the Roots of a Quartic Equation”. The American Mathematical Monthly 29 (2): 51-55. doi:10.2307/2972804. JSTOR 2972804.
外部リンク
- Calculator for solving Quartics (also solves Cubics and Quadratics)(英語、自動で4次方程式の解を算出してくれる)