広島高速交通6000系電車

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広島高速交通6000系電車
第19編成(2012年撮影)
基本情報
運用者 広島高速交通(アストラムライン)
製造所 新潟鐵工所川崎重工業三菱重工業
製造年 1993年 - 1994年1997年
製造数 6両編成23本(138両)
運用開始 1994年8月20日
投入先 広島新交通1号線
主要諸元
編成 6両編成(全電動車)
軌間 1,700 mm
2,900 mm(案内輪間隔)
電気方式 直流750 V
(剛体複線式)
最高運転速度 60 km/h
設計最高速度 70 km/h
起動加速度 3.2 km/h/s
減速度(常用) 3.5 km/h/s
減速度(非常) 4.5 km/h/s
編成定員 286人
車両定員 先頭車 43人(着席19人)
中間車 50人(着席24人)
車両重量 先頭車 11.0 t
中間車 10.7 t
全長 先頭車 8,850 mm
中間車 8,400 mm
全幅 2,380 mm
全高 3,290 mm
車体 普通鋼
主電動機 直流分巻電動機
三菱電機製MB-3311-A(250 V、490 A、1,680 rpm)
主電動機出力 110 kw
駆動方式 直角駆動式、差動歯車式
歯車比 41:6 = 1:6.83
編成出力 660 kW
制御方式 高周波分巻チョッパ制御(4象限チョッパ制御)
制動装置 電気指令式空気ブレーキ油圧式ディスクブレーキ回生ブレーキ
保安装置 ATC装置、列車無線(誘導無線方式)
備考 主要数値は[1][2][3][4][5]に基づく。
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広島高速交通6000系電車(ひろしまこうそくこうつう6000けいでんしゃ)[5][6]は、広島県広島市新交通システムアストラムライン)を運営する広島高速交通が、1994年8月20日の開業に合わせて導入した案内軌条式電車である。形式名を60系と記載する資料も存在する[2][7]

概要[編集]

導入までの経緯[編集]

広島県広島市の北西部に位置する丘陵地帯は1970年代以降宅地開発が進み、ラッシュ時には路線バスの定時運行が困難になるほどの深刻な道路の混雑が課題となっていた。そこで交通問題を抜本的に解決するため、1986年にバス以上の輸送力を持つ軌道系交通機関の新交通システム案内軌条式鉄道)の導入が決定し、翌1987年には広島市などが出資する第三セクターである広島高速交通が設立された。公募により"アストラムライン"と言う愛称が付けられたこの路線に向けて開発されたのが6000系である。車両の製造は新潟鐵工所川崎重工業三菱重工業の3社を中心に行われた[2][3][8]

編成・外見・内装[編集]

編成は全電動車で、輸送能力や機器の信頼性、人件費などを考慮した結果、1ユニット3両を背中合わせに連結した6両固定編成となっている[1][9][10]

外見デザインは広島高速交通のシンボルカラーであるクロムイエロー山吹色)を用いた上で、前面から屋根への連続した面の流れや1編成内でのまとまりを重視し、先進性と独自性を表現したものとなっており、複数のイメージスケッチやスケールモデル、実物大モデル等を用いた入念な検討が実施された。塗料はメンテナンスや車両洗浄の頻度削減を図るため、フッ素樹脂に加え新たに開発した焼成塗料が使用されている[1][9]

車内デザインについても解放感や人に優しく分かりやすい形状を念頭に開発が進められ、車内空間を明るくシンプルなものとすることで圧迫感を軽減した。座席は全車ロングシートで、先頭車には収納する事で車椅子スペースとなる折りたたみ式座席が2人分配置されている。腰掛の形状は自動車シートメーカーと共に開発を進め、身体を支持する座面形状、振動を吸収するクッション構造など自動車のシート技術が多数盛り込まれた設計となっている。車内各部に設置されているつり革や握り棒にも形状に工夫が加えられ、前者は混雑時に複数人が持てるよう配慮がなされている。また、アストラムラインは一部に地下鉄として建設された区間を有するため、各部に安全基準に対応した火災対策が施されている他、車両間には引戸が設置されている。[9][11][12]

運転台については全駅とも島式ホームが用いられている事から車両の右側に配置されており、前面窓ガラスは側面にも伸びる大型の曲面ガラスが採用されている[13]。また前面左側には非常口が存在し、非常時には客室との仕切りにある扉の施錠が解除され乗客が避難できるようになっている[12][14]

これらのデザインは駅舎のインテリアデザイン、路線全体の色彩計画等と共にGKデザイン総研広島が手掛けたものである[15]

台車・機器[編集]

6000系の台車(1軸台車)は空気ばねを用いた平行リンク式を採用しており、各車両に1台の動力台車と1台の付随台車が設置されている[13]。車輪は内部に中子式補助輪を入れた気体入りのラジアルタイヤで、全輪ともステアリング機能を有しているほか、緊急時に備えタイヤパンク検知装置も備わっている。台車に用いられる制動装置は油圧式のディスクブレーキである[10]

主電動機は自己通風型直流分巻式で、三菱電機製のMB-3311-A[16]を車体中央下部に装荷し推進軸によって台車に動力が伝達される。制御装置には消費電力の削減や回生ブレーキの導入を目的に高周波分巻チョッパ制御を採用しており、3個が直列接続された電動機を制御する[13]。補助電源装置は静止形インバータ(SIV)を用い、容量は30 kVAである[13]。制動装置は 電気指令式空気ブレーキで、通常時は回生ブレーキ、回生不足時は空気ブレーキが作動するようになっている。また空気圧が減少した際は主電動機に設置されたディスクブレーキを用いた留置ブレーキが働く[10][17][18]

アストラムラインは側面案内軌条式を採用しており、案内バーには複線式剛体トロリーに対応した集電装置が備わっている。正極負極はそれぞれ独立しており、離線を防ぐため母線が引き通されている[10]

設計上の最高速度は70 km/hだが、営業時の速度はATC信号によって設定されており、マスター・コントローラーの頻繁なノッチ操作をしなくても一定の速度が維持されるようになっている。万が一信号コード以上の速度で運行した場合には、自動的に制動装置が作動し所定の速度まで減速する。車両に設置されている信号受信器は並列配置された2重系となっており、双方に不一致が生じた場合は低い速度の信号を優先して実行する。これらの信号が伝達されない無信号区間では、ATC受信器から非常ブレーキの指令がATC制御装置へ出力される[18]

運用[編集]

1994年8月20日の開業時に22編成が導入された6000系は、西風新都を始めとする開発地域の交通機関として使用された他、同年のアジア競技大会1996年ひろしま国体等でも輸送手段として活躍した。1998年には輸送力増強用として1編成(第23編成)が増備されたが、この編成については空調の効果を高めるため、熱線吸収ガラスの採用やヒーターの容量や配置変更、日除け幕の降下位置の延長などの改良が実施された。また、開業当初積雪によるスリップが多発したことを受け、タイヤメーカーとの協議の上で開発されたサイピングやブロックパターンを表面に追加したタイヤへの交換を実施した。1999年から営業運転を開始した1000系電車と共に、2019年12月現在アストラムラインの全列車に使用されている[2][3][6][5][19]

また、6000系はその車両デザインが高く評価され、1995年度グッドデザイン賞旅客デザイン部門の金賞を受賞している[5][20]

編成[編集]

  広島高速交通 6000系[1][3]
形式 6100形
(Mc1)
6200形
(M2)
6300形
(M3)
6400形
(M4)
6500形
(M5)
6600形
(Mc6)
ユニット 1ユニット 2ユニット
車両番号 新潟鐵工所 6101

6109
6120

6123
6201

6209
6220

6223
6301

6309
6320

6323
6401

6409
6420

6423
6501

6509
6520

6523
6601

6609
6620

6623
川崎重工業 6110

6116
6210

6216
6310

6316
6410

6416
6510

6516
6610

6616
三菱重工業 6117

6119
6217

6219
6317

6319
6417

6419
6517

6519
6617

6619

今後の予定[編集]

老朽化に伴い、2020年3月から営業運転を開始する7000系への置き換えが決定しており、全24編成が揃う2025年度までに引退する予定となっている。(既に数編成が廃車されている) [6][21]

脚注[編集]

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b c d 徳永昭正, 橋本和明 & 島倉正 1995, p. 72.
  2. ^ a b c d けいてつ協會 (1997-3-1). 知られざる鉄道 リニアーモーターカーからトロッコまで200選. JTBパブリッシング. JTB. pp. 149. ISBN 978-4533026607 
  3. ^ a b c d よくあるご質問(FAQ)”. 広島高速交通. 2019年12月8日閲覧。
  4. ^ 川崎重工業(株)『川崎重工業株式会社百年史 : 1896-1996. 資料・年表』”. 渋沢社史データベース. 2019年12月8日閲覧。
  5. ^ a b c d 現有車両ガイド - 広島高速交通”. 日本地下鉄協会. 2019年12月8日閲覧。
  6. ^ a b c 「6000系と1000系の置換え用として登場した新形式車両 広島高速交通 7000系」『鉄道ファン』第60巻第1号、交友社、2020年1月1日、74-75頁。 
  7. ^ 徳永昭正, 橋本和明 & 島倉正 1995, p. 71.
  8. ^ 徳永昭正, 橋本和明 & 島倉正 1995, p. 70.
  9. ^ a b c 徳永昭正, 橋本和明 & 島倉正 1995, p. 73.
  10. ^ a b c d 徳永昭正, 橋本和明 & 島倉正 1995, p. 77.
  11. ^ 徳永昭正, 橋本和明 & 島倉正 1995, p. 74.
  12. ^ a b 徳永昭正, 橋本和明 & 島倉正 1995, p. 75.
  13. ^ a b c d 日本鉄道運転協会『運転協会誌』1994年9月号ニュース「広島新交通システムアストラムラインの概要」pp.29 - 30。
  14. ^ 徳永昭正, 橋本和明 & 島倉正 1995, p. 76.
  15. ^ アストラムライン ASTRAM LINE”. GKデザイン総研広島. 2019年12月8日閲覧。
  16. ^ 『モノレールと新交通システム』グランプリ出版、2004年12月16日、182頁。 
  17. ^ 徳永昭正, 橋本和明 & 島倉正 1995, p. 80.
  18. ^ a b 徳永昭正, 橋本和明 & 島倉正 1995, p. 82.
  19. ^ あゆみ History”. ひろしま西風新都. 2019年12月8日閲覧。
  20. ^ 旅客車 アストラムライン HRT-60系”. グッドデザイン賞. 2019年12月8日閲覧。
  21. ^ アストラムラインに新型車両を導入へ”. 鉄道ファン - 鉄道ニュース. 交友社 (2017年7月14日). 2019年12月8日閲覧。

参考資料[編集]

  • 徳永昭正、橋本和明、島倉正「広島高速交通60系新交通車両「アストラムライン」」『車両技術』第206号、1995年2月、71-82頁、doi:10.11501/3293491ISSN 0559-7471 
  • 日本鉄道運転協会『運転協会誌』1994年9月号ニュース「広島新交通システムアストラムラインの概要」(林 一成・広島高速交通(株)運輸部長)

外部リンク[編集]