ハノーファー・シュタットバーンTW6000形電車
ハノーファー・シュタットバーンTW6000形電車 | |
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TW6000形(ハノーファー・シュタットバーン) (2014年撮影) | |
基本情報 | |
製造所 |
デュッセルドルフ車両製造、リンケ-ホフマン シーメンス、キーペ、AEG(電気機器) |
製造年 | 1974年 - 1993年 |
製造数 | 260両(6001 - 6260) |
投入先 |
ハノーファー・シュタットバーン ブダペスト市電、ハーグ市電、トラム (ハウテン)、タンペレ・ライトレール(譲渡先) |
主要諸元 | |
編成 | 3車体連接車(A車+M車+B車)、両運転台 |
軸配置 | B'2'2'B' |
軌間 | 1,435 mm |
電気方式 | 直流600 V(架空電車線方式) |
設計最高速度 | 80 km/h |
起動加速度 | 1.1 m/s2 |
減速度(常用) | 1.6 m/s2 |
減速度(非常) | 3.0 m/s2 |
車両定員 |
150人(着席46人) (乗客密度4人/m2時) |
車両重量 | 38.8 t |
全長 | 28,280 mm |
全幅 | 2,400 mm |
全高 | 3,730 mm |
車体高 | 3,310 mm |
床面高さ | 943 mm |
固定軸距 | 1,800 mm |
台車中心間距離 | 6,400 mm |
主電動機 | 直流電動機 |
主電動機出力 | 218 kw |
出力 | 436 kw |
制御方式 | 電機子チョッパ制御方式 |
制動装置 | 回生ブレーキ、スプリングブレーキ、電磁吸着ブレーキ |
備考 | 主要数値は[1][2][3][4][5]に基づく。 |
ハノーファー・シュタットバーンTW6000形電車(ハノーファー・シュタットバーンTW6000がたでんしゃ)は、ドイツの都市・ハノーファーのライトレール(シュタットバーン)であるハノーファー・シュタットバーンの電車。路面電車からシュタットバーンへの転換が行われた路線網へ向けて開発された車両で、電機子チョッパ制御の導入を始め多数の革新的な技術を導入した。後継車両の導入に伴い引退が進んでいるが、一部車両はハンガリーの首都・ブダペスト(ブダペスト市電)を始め他都市への譲渡が行われている。形式名の「TW」は「動力車(Triebwagen)」という意味である[1][6][2][3][7]。
概要
[編集]導入までの経緯
[編集]1965年、ハノーファー市議会は交通網の改善や利便性の向上を目的に、路面電車(ハノーファー市電)のうち市内中心部を中心とした一部区間の地下化(シュタットバーン化)を決定し、同年から工事が開始された。それにあたり必要となったのが、従来の低床式プラットホームに加えて地下区間の高床式プラットホームに対応する車両であった。そこで、当時の路面電車(→ハノーファー・シュタットバーン)を運営していたハノーファー市交通会社(ÜSTRA)は1970年に2両の試作車(TW600、TW601)を導入し、長期に渡る試運転を実施した。その成果を基に開発されたシュタットバーン向け車両がTW6000形である[2][3][8][9]。
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TW601(2009年撮影)
構造
[編集]TW6000形は車体両側に乗降扉が設置されている両運転台式の3車体連接車で、運転台を有する前後車体(A車、B車)とパンタグラフが設置されている中間車体(M車)で構成されている。直線的な車体デザインや緑色(オペル・シグナルグリーンL 308)を基調とした塗装は、ハノーファーの工業デザイナーであるハーバード・リンディンガー(Herbert Lindinger)が手掛けている。乗降扉は前後車体に2箇所、中間車体に1箇所設けられており、乗り降りする扉が定まっていた従来の車両と異なり、乗客はどの扉からも乗降が可能な構造となっている。また、使用される系統には高床式プラットホームに加えて路面電車時代から継続して低床式プラットホームが用いられている駅(電停)が存在するため、乗降扉下部には自動的に展開する折り畳み式のステップが設置されている。座席はグラスファイバーによる強化が行われたプラスチック製で、クロスシートと呼ばれる配置がなされている。軽量鋼によって作られた車体の幅については、試作車の試験結果に基づき2,400 mmとなっている[1][6][2][4][5][3][10][11][12][13]。
制御装置は西ドイツ(→ドイツ)の路面電車車両として初めて電機子チョッパ制御方式が採用されており、従来の車両と比べてスムーズな加減速が実現している他、同じく初めての採用となった、電力が回収可能な回生ブレーキの搭載を可能としている。また総括制御による連結運転も可能で、営業運転時には2両編成が組まれる他、最大4両まで連結する事が可能な構造となっている。主電動機は各動力台車に1基づつ搭載されている[1][6][2][3][10][14]。
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車内(2018年撮影)
設計変更
[編集]全260両のうち、最初の100両(6001 - 6100、1974年 - 1978年製)はデュッセルドルフ車両製造(→デュワグ)が生産した一方、それ以降の160両(6101 - 6260、1979年 - 1993年製)はリンケ-ホフマンが製造を担当した。電気機器については、両社共にシーメンス、キーペ、AEGの各社が生産したものを用いた。また、1993年まで長期に渡って行われた製造の過程では、以下のような設計変更が行われた[15][16][17][3][18][17]。
- 2次車 - 床張りの変更、ワイパーの位置の移動、前面の行先表示器の終点表示灯の追加、連結器の位置の自動修正機構の搭載、抵抗器の追加、中央車体への座席の追加など。
- 3次車 - 運行管理システムであるIBIS装置の搭載。これについては1次車・2次車も後付で設置された。
- 4次車 - 天窓の設置、電機子チョッパ制御装置のマイクロプロセッサ制御の採用、車内の屋根を金属製に変更、尾灯の追加など。
- 5次車 - 乗降扉の窓の大きさを拡大。
- 6次車 - 中間車体の乗降扉付近のバーの撤去。
運用
[編集]最初の車両(6001)は1974年12月に到着し、翌1975年9月に開通した地下区間を含む系統に投入された。当初は25両のみがデュッセルドルフ車両製造に発注されていたが、今後のシュタットバーン網の拡大を見据えて早期に100両の注文へと変更された。その後もリンケ-ホフマンに製造企業が変更される形で増備が続き、前述の通り改良を重ねながら最終的に1993年までに260両が導入される事となった[3][13][16][17][19]。
その後、2000年に開催された万国博覧会(EXPO 2000)での多客輸送を経て車両が余剰となった事を機に、TW6000形のハノーファー・シュタットバーンからの撤退が始まり、解体された車両も存在する一方、後述の通り多くの車両が他都市へ譲渡されている[1][13][16][20]。
一方、一部車両はハノーファーで保存されており、そのうち2006年に営業運転を終了したトップナンバーの6001は2010年以降動態保存されており、イベント時の運転に加えて教習用に使われる事もある。他にも2018年に廃車となった2両(6129、6166)はハノーファー路面電車博物館で動態保存され、博物館内の路線を使った運転体験に用いられている[13][16][21][22]。
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2008年撮影
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2009年撮影
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2017年撮影
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2018年撮影
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2019年撮影
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2019年撮影
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2020年撮影
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2021年撮影
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2021年撮影
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2021年撮影
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2021年撮影
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2021年撮影
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2022年撮影
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2022年撮影
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2023年撮影
譲渡
[編集]ハノーファー・シュタットバーンでの営業運転を終了したTW6000形の一部は他都市の路面電車への譲渡が行われており、特に2000年の万国博覧会に合わせた運用を経て新型車両の導入により余剰となった車両の多くがブダペスト市電を始めとした各地の路面電車で再度営業運転に用いられている[23][24][15]。
ブダペスト
[編集]ハンガリーの首都・ブダペストの路面電車であるブダペスト市電では、1950年代から1960年代に製造された旧型電車(UV形)の老朽化が問題となっていた。そこで2000年にハノーファー市交通会社はブダペスト市に対し、余剰となったTW6000形の譲渡を提案した。その後、他国からの中古車両の導入に関して論争が巻き起こったものの、最終的に2001年2月にブダペスト市議会はTW6000形の購入を決議した[7]。
この譲渡に際して、ブダペスト側の要望に応じてハノーファーで各種の改造や仕様変更が行われており、塗装が黄色を基調としたものに変更されている他[注釈 1]、運転台もデジタルディスプレイを搭載した近代的なものに交換され、清掃時の効率性を高めるための床材の変更も実施されている。車両番号も変更されており、デュッセルドルフ車両製造製の車両は1500番台(93両、1500 - 1592)、リンケ-ホフマン製の車両は1600番台(25両、1600 - 1624)の番号が付けられている[7][23][24][15]。
2001年に最初の車両が納入され、試運転を経て10月3日から営業運転を開始しており、それ以降ハノーファーを含めた各都市から以下のように複数回に渡って譲渡が実施されている。2017年時点では主にドナウ川の東岸にあたるペスト地区の系統で使用されているが、これらの系統は全て低床式プラットホームであるため、バリアフリーの面で難が生じている[4][17][7][26][27]。
- 2001年 - 76両をハノーファー・シュタットバーンから譲受。当初は68両の予定であったが、追加購入が行われた。
- 2010年 - 2011年 - 20両をハノーファー・シュタットバーン、ハーグ市電から譲受。そのうち4両は部品取り用の非営業車両であったが、後年に1両が営業運転に投入された。これに加えて3両が譲受される予定だったが実現せず、これらの車両は解体された。
- 2011年 - 10両をハノーファー・シュタットバーンから譲受。
- 2015年 - 2016年 - 15両をハノーファー・シュタットバーンから譲受。
デン・ハーグ
[編集]オランダの首都であるデン・ハーグの路面電車であるハーグ市電には、11号線の運用を補完するため2002年に8両(6037、6053、6055、6057、6064、6098、6099)が譲渡された。しかし運用は2005年までの短期間で終わり、以降全車ともブダペスト市電へ再譲渡された[24][15]。
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車内
ハウテン
[編集]オランダの都市・ハウテンには2001年以降ライトレールが存在しており、その開業に備えて2000年に2両のTW6000(6016、6021)が譲渡された。しかしライトレールは2008年12月13日をもって廃止され、最後まで使用されていた6016はその後解体された一方、6021については廃止に先立つ2005年にハノーファーに返却された後、ブダペスト市電への再譲渡が実施されている[24][28][15][29]。
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車内
タンペレ
[編集]フィンランドの都市・タンペレには2021年8月に開通したライトレール(タンペレ・ライトレール)が存在するが、開通に先立つ2020年にTW6000が1両(6148)譲渡され、2022年まで各種試験運転に用いられた[30][31]。
同型車両
[編集]ハノーファー・シュタットバーンの保線や緊急時に用いられる事業用車両のうち、線路を削り適切な形状に保つ2車体連接式のレール削正車(841)はTW6000形を基に製造された車両である。また、ライプツィヒの路面電車(ライプツィヒ市電)にも同型のレール削正車(5090)が導入されたが、こちらは2010年にノルウェーの都市・ベルゲンのライトレール(ベルゲン・ライトレール)へ譲渡され、同路線の事業用車両(901)として使用されている[32][33][34]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d e “Stadtbahn”. ÜSTRA. 2024年8月1日閲覧。
- ^ a b c d e “Beipacktext TW6000 Hannover”. Halling.at. 2024年8月1日閲覧。
- ^ a b c d e f g R. J. Buckley 1981, p. 321.
- ^ a b c Pádár László 2022, p. 5.
- ^ a b Pádár László 2022, p. 6.
- ^ a b c “InfobroschürenInfobroschüren zur A-Linie”. Initiative Pro D-Tunnel e.V.. 2024年8月1日閲覧。
- ^ a b c d “10 éve közlekednek Budapesten a TW 6000 típusú villamosok – 10 éves a 3-as villamos is”. Városi és Elővárosi Közlekedési Egyesület (2011年10月18日). 2024年8月1日閲覧。
- ^ Achim Uhlenhut (2015年9月22日). “40 Jahre (U-Bahn) Tunnel in Hannover”. ÜSTRA. 2015年11月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年8月1日閲覧。
- ^ Christoph Heuer (2020-10). “Pinoierarbeit von DÜWAG, LHB & ÜSTRA”. Strassenbahn Magazin (GeraMond Verlag GmbH): 76-80.
- ^ a b Pádár László 2022, p. 7.
- ^ Pádár László 2022, p. 8.
- ^ Pádár László 2022, p. 20.
- ^ a b c d Achim Uhlenhut. “40 Jahre Tw 6001: Zu Weihnachten 1974 kam der erste „Grüne“”. ÜSTRA. 2016年3月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年8月1日閲覧。
- ^ Pádár László 2022, p. 28.
- ^ a b c d e “📷 Terug in de tijd, 25 oktober 2002”. Haggs Openbaar Vervoer Museum (2022年10月25日). 2024年8月1日閲覧。
- ^ a b c d Christine Wendel. “6001: Das Besondere am ersten grünen Stadtbahnwagen”. ÜSTRA. 2020年10月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年8月1日閲覧。
- ^ a b c d “5 éve jár Budapesten a TW6000 és 5 éves a 3-as villamos”. Városi és Elővárosi Közlekedési Egyesület (2006年10月25日). 2007年10月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年8月1日閲覧。
- ^ Pádár László 2022, p. 52.
- ^ Achim Uhlenhut (2020). “Jubiläum: Beginn des U-Bahn-Baus”. ÜSTRA Profil (ÜSTRA) 4: 12-13 2024年8月1日閲覧。.
- ^ Christine Wendel (2019年6月7日). “Die Aufarbeitung des TW 6000”. ÜSTRA. 2020年8月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年8月1日閲覧。
- ^ “Fahrzeuge Hannoversches Straßenbahn-Museum e.V. (Stand 03.2022)”. Hannoversches Straßenbahn-Museum. 2024年8月1日閲覧。
- ^ “Straßenbahn selbst fahren”. Hannoversches Straßenbahn-Museum. 2024年8月1日閲覧。
- ^ a b Stephan Elze (2017年1月17日). “TW 6000 in Budapest – Eine zweite Heimat in der Ferne”. ÜSTRA. 2024年7月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年8月1日閲覧。
- ^ a b c d “Der TW6000 in Budapest”. Halling.at. 2024年8月1日閲覧。
- ^ “DUEWAG TW 6000”. BKV Vasúti Járműjavító Kft. 2024年8月1日閲覧。
- ^ “Roster Budapest, Duewag TW6000”. Urban Electric Transit. 2024年8月1日閲覧。
- ^ “Roster Budapest, LHB TW6000”. Urban Electric Transit. 2024年8月1日閲覧。
- ^ “A TRAM-TRAIN IN THE NETHERLANDS – THE TW 6016”. 24TRAINS.TV. 2024年8月1日閲覧。
- ^ “TW 6000”. Haagse Tram Vrienden. 2024年8月1日閲覧。
- ^ “Timeline”. Tampereen Ratikka. 2024年8月1日閲覧。
- ^ “TRO: Koevaunu TW6000”. Suomen Raitiotieseura ry. (2022年1月28日). 2024年8月1日閲覧。
- ^ Julia Müller (2016年11月3日). “Von Sand und Schienen – Eine HassLiebe”. ÜSTRA. 2020年9月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年8月1日閲覧。
- ^ 鹿島雅美「ドイツの路面電車全都市を巡る 25」『鉄道ファン』第48巻第2号、交友社、2008年2月1日、152-157頁。
- ^ Helene Vassbotten Lervik (2010年10月5日). “Bergen har fått ny slipevogn”. NRK. 2024年8月1日閲覧。
参考資料
[編集]- Pádár László (2022). TW 6000-es típusú villamos műszaki leírása (PDF) (Report). BKV Villamosoktatás. 2024年8月1日閲覧。
- R. J. Buckley (1981-9). “Post-War Hannover Part 4: Rolling Stock”. Modern Tramway and Light Rail Transit (LRTA) 44 (525): 309-321,341.