ニクズク科
ニクズク科 | |||||||||||||||
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分類 | |||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||
Myristicaceae Diels (1917) | |||||||||||||||
タイプ属 | |||||||||||||||
ニクズク属 Myristica Gronov. (1755)[1] | |||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||
nutmeg family[1][2] | |||||||||||||||
下位分類 | |||||||||||||||
ニクズク科(ニクズクか、学名: Myristicaceae)は、モクレン目の科の1つである。常緑性の木本であり、樹液は有色(通常は赤色)。花は小さく単性、花被片はふつう3枚で合生(図1a)、多数の雄しべが合生した単体雄しべをもち、雌しべは1個。種子はふつう派手な仮種皮で包まれ(図1b)、胚乳には虫食い状の陥入がある。世界中の熱帯域に分布し、約20属500種ほどが知られる。ニクズク(Myristica fragrans)の種子は、香辛料のナツメグやメースとして広く利用されている。
特徴
[編集]常緑性まれに落葉性[注 1]の高木から低木であり、まれにつる性(藤本)、精油を含み、ときに芳香をもつ[4][3](下図2a)。枝はしばしば輪生状で横に伸びる[3][5][2](下図2b)。有色(ふつう赤色)の樹液をもつ[4][3][6][5][2](下図2c)。一次維管束は管状[4][5]。木部にタンニンを含む管をもつ[5]。師管の色素体はS-type[4]。節は単葉隙、3葉跡性[4]。
葉はふつう2列互生する[4][5][2](下図2d–f)。葉は葉柄をもち、托葉を欠き、単葉、全縁、革質、葉脈は羽状、ときに腺点をもつ[4][3][2](下図2d–f)。ふつう分泌道をもつ[4]。気孔は平行型[4]。毛(毛状突起)は多様だが、基本的に仮軸分枝した単列毛[4][5]。
花は小さく単性(雄花と雌花が別)、ふつう雌雄異株だがまれに雌雄同株[4][3][6][5][2](下図2g–i)。花序を腋生(ときに幹生)、または頂生する[4][3]。花被は放射相称で漏斗形、鐘形、つぼ形、皿形など、花被片は(2–)3(–5)枚、ときに肉質、白色、緑色、黄色など、1輪、敷石状、基部で合生[4][3][6][5][2](下図2g–i)。雄しべは(2–)3–30(–40)個、1輪、多くは花糸が合生して単体雄しべとなる[4][3][6][5][2](下図2i)。葯は外向、縦裂開する[4][3]。小胞子形成は同時型、タペート組織は分泌型[4]。花粉は単溝粒、単孔粒または無孔粒、2細胞性[4][2]。雌しべは1個、1心皮性、不完全心皮、柱頭はしばしば2裂し、子房上位で1胚珠を含み、基底胎座[4][3][6][5][2]。倒生胚珠、2珠皮性、厚層珠心、珠孔は内種皮性[4][3][5]。胚嚢形成はタデ型、胚乳形成は遊離核型[4]。蜜腺を欠く[2]。
果実は液質から革質、ふつう腹縫線と背縫性の両方で裂開する袋果(まれに非裂開)[4][3][2](下図2j, k)。種子は1個、大きく、ふつう派手な色の仮種皮で包まれている[4][3][6][5](下図2j, k)。内胚乳にはふつう虫食い状の入り組んだ陥入(錯道)があり(下図2l)、ふつう油質[4][3][6][2]。胚はよく分化しているが、非常に小さい[4][3][2]。地下子葉性[4]。
幻覚誘発性のフェノール化合物(ミリスチシンなど)をもつ[2]。アルカロイド、プロアントシアニジン、フラボノール(ケンペロール、クェルセチン)を有し、シアン化物、イソキノリン、イリドイドを欠く[4][5]。染色体数は n = 20, 22, 25, 26[4]。
分布・生態
[編集]アジアからオーストラリア、アフリカ、アメリカの熱帯域に分布しており、おもに低地の熱帯雨林に生育している[6][5][2](図3)。
少なくとも東南アジアでは、小型の甲虫によって送粉される例が多い[5]。またニクズク属の雌花は花粉を形成しないが、花粉を集めるハナバチ類を騙して送粉させることが示唆されている[5]。
仮種皮は薄いが栄養分に富んでおり、これを報酬として旧世界ではサイチョウ類、ハト類、フウチョウ類が、新世界ではオオハシ類や霊長類が種子散布を行う[5]。
人間との関わり
[編集]ニクズク(Myristica fragrans)の種子全体をすりつぶしたものはナツメグ(nutmeg)、仮種皮はメース(mece)とよばれ、香辛料として広く利用されている[6][7][8](図4)。ニクズクやチョウジ(フトモモ科)、コショウ(コショウ科)、シナモン(クスノキ科)などの香辛料に対する需要が、15–16世紀の大航海時代の引き金の1つとなった[6]。ニクズク属の種子は、薬用に用いられることもある[7][8]。
Staudtia や Virola は、木材として利用されることがある[2]。また Virola のいくつかの種は、幻覚誘発剤の原料とされることがある[6][2]。
系統と分類
[編集]古典的な被子植物の分類体系である新エングラー体系やクロンキスト体系では、ニクズク科はモクレン目に分類されていた[9][10][11][12]。その後一般的となったAPG分類体系でも、ニクズク科はモクレン目に分類されている[13]。モクレン目の中では、ニクズク科は最初に分岐したグループであると考えられている[5]。
ニクズク科の中には、約20属500種ほどが知られている[5]。ニクズク科の中では、少数の例外を除いてアフリカ、アジア(オーストリアを含む)、中南米に分布するものからなる系統群に分かれることが示唆されている[14](下図5)。このうちアジアと中南米の系統群は単系統群(myristicoid clade)を構成し(下図5)、これに属する種は発芽孔が溝状でエキシンが網目状の花粉をもつのに対して、アフリカの系統群(mauloutchioid clade)に属する種の花粉は、発芽孔が円形でエキシンが非網目状である[2]。
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5. ニクズク科内の系統仮説[3][14][15](カッコ内は分布域) |
表1. ニクズク科の分類体系の一例[3][14]
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脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b “Myristicaceae R. Br.”. Tropicos v3.3.2. Missouri Botanical Garden. 2022年8月10日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Judd, W.S., Campbell, C.S., Kellogg, E.A., Stevens, P.F. & Donoghue, M.J. (2015). “Myristicaceae”. Plant Systematics: A Phylogenetic Approach. Academic Press. p. 255. ISBN 978-1605353890
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r “Myristicaceae”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022年7月12日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa Watson, L. & Dallwitz, M. J. (1992 onwards). “Myristicaceae R. Br.”. The families of flowering plants: descriptions, illustrations, identification, and information retrieval.. 2022年7月12日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Stevens, P. F. (2001 onwards). “MYRISTICACEAE”. Angiosperm Phylogeny Website. 2022年7月12日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o トーマス・ウィルソン & 植田邦彦 (1997). “ニクズク科”. 週刊朝日百科 植物の世界 9. pp. 98–100. ISBN 9784023800106
- ^ a b 星川清親, 堀田満, 新田あや (1989). “ニクズク属”. In 堀田満ほか. 世界有用植物事典. 平凡社. pp. 700–701. ISBN 9784582115055
- ^ a b 「ナツメグ」 。コトバンクより2022年8月9日閲覧。
- ^ 加藤雅啓 (編) (1997). “分類表”. バイオディバーシティ・シリーズ (2) 植物の多様性と系統. 裳華房. p. 270. ISBN 978-4-7853-5825-9
- ^ 井上浩, 岩槻邦男, 柏谷博之, 田村道夫, 堀田満, 三浦宏一郎 & 山岸高旺 (1983). “モクレン目”. 植物系統分類の基礎. 北隆館. pp. 219–222
- ^ Melchior, H. (1964). A. Engler's Syllabus der Pflanzenfamilien mit besonderer Berücksichtigung der Nutzpflanzen nebst einer Übersicht über die Florenreiche und Florengebiete der Erde. I. Band: Allgemeiner Teil. Bakterien bis Gymnospermen
- ^ Cronquist, A. (1981). An integrated system of classification of flowering plants. Columbia University Press. ISBN 9780231038805
- ^ Chase, M. W., Christenhusz, M. J. M., Fay, M. F., Byng, J. W., Judd, W. S., Soltis, D. E., ... & Stevens, P. F. (2016). “An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG IV”. Botanical Journal of the Linnean Society 181 (1): 1-20. doi:10.1111/boj.12385.
- ^ a b c Shivaprakash, K. N., Rajanna, J. M., Gunaga, S. V., Ravikanth, G., Vasudeva, R., Shaanker, R. U. & Dayanandan, S. (2022). “The flooded habitat adaptation, niche differentiation, and evolution of Myristicaceae trees in the Western Ghats biodiversity hotspot in India”. Biotropica. doi:10.1111/btp.13078.
- ^ Doyle, J. A., Sauquet, H., Scharaschkin, T. & Le Thomas, A. (2004). “Phylogeny, molecular and fossil dating, and biogeographic history of Annonaceae and Myristicaceae (Magnoliales)”. International Journal of Plant Sciences 165: 555-567. doi:10.1086/421068.
外部リンク
[編集]- Kabeya, Y. & Hasebe, M.. “モクレン類/モクレン目/ニクズク科”. 陸上植物の進化. 基礎生物学研究所. 2022年7月12日閲覧。
- Stevens, P. F. (2001 onwards). “MYRISTICACEAE”. Angiosperm Phylogeny Website. 2022年7月12日閲覧。(英語)
- Watson, L. & Dallwitz, M. J. (1992 onwards). “Myristicaceae R. Br.”. The families of flowering plants: descriptions, illustrations, identification, and information retrieval.. 2022年7月12日閲覧。(英語)
- “Myristicaceae”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022年7月12日閲覧。(英語)