イノストランケビア
イノストランケビア | ||||||||||||||||||||||||||||||
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イノストランケビアの復元骨格
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地質時代 | ||||||||||||||||||||||||||||||
ペルム紀ローピンジアン世 | ||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Inostrancevia Amalitsky, 1922 | ||||||||||||||||||||||||||||||
種 | ||||||||||||||||||||||||||||||
イノストランケビア(学名:Inostrancevia)は、後期ペルム紀のパンゲア大陸に生息した、獣弓類ゴルゴノプス亜目に属する絶滅した四足歩行性の単弓類の属[2]。種によって全長3.5メートルと推定されるように、ゴルゴノプス亜目の中でも最大級の体サイズを持つグループであり、当時の生態系における頂点捕食者であったと目されている[2]。体は比較的細く、発達した左右の犬歯と左右それぞれ4本の門歯を特徴とする[1]。現在のロシア連邦からI. alexandriをはじめとする種の化石が産出することが知られていたが[2]、南アフリカ共和国からも2023年に新種I. africanaが報告され、パンゲア大陸に広く分布していたこと、またルビジェア亜科やテロケファルス類との間で頂点捕食者の生態的地位が目まぐるしく変化したことが示唆される[1]。
研究史
[編集]認識されている種
[編集]1890年代、ロシアの古生物学者ウラジーミル・プロホロビッチ・アマリツキーがヨーロッパロシアのアルハンゲリスク州北ドヴィナ川で上部ペルム系の淡水域の堆積物を発見した。PIN 2005として知られるこの産地は土手の崖に砂岩から構成されたレンズ状の露頭が分布する小川であり、部分的に保存の良い体化石を多数保存している[5]。後期ペルム紀のこの種類の動物相は従来南アフリカ共和国とインドのみで知られていたものであり、19世紀後半と20世紀前半における古生物学上の最も重大な発見の1つと考えられている[6]。現場の予察的な調査の後、アマリツキーは妻アンナ・ペトロヴナ・アマリツカヤと体系的な調査を実施した[5]。最初の発掘は1899年に開始され[7]、発見された化石はポーランドのワルシャワに輸送されてプレパレーションされた[8]。発掘は第一次世界大戦開戦により調査が中断される1914年まで継続された[9]。現場で発見された化石はその後ロシア科学アカデミーの地質・鉱物学博物館へ移された。一覧化された全ての化石がプレパレーションを完了したわけでなく、新たな発見のため100トンを上回るコンクリーションが博物館により約束された[5]。
アマリツキーは1917年に死去したが、彼は大型ゴルゴノプス類の完全な骨格標本PIN 1758 と PIN 2005/1578の2標本を生前に同定していた[10][11][12]。同定の後、アマリツキーは2標本を完全な新属新種に分類し、Inostranzevia alexandriを命名した。2標本のうちPIN 2005/1578がレクトタイプ標本と見なされている[10][11][12]。この分類群が正式に記載されたのは死後の1922年のことであったが[5]、この名称の使用は20世紀初頭の科学文献に遡るものであり、著明な例ではフリードリヒ・フォン・ヒューネやレイ・ランケスターの出版物に見られる[13][14][15][16]。本属の最初の命名に関する分類体系的問題は後に研究の主題として取り扱われることが期待されている[16]。属名とタイプ種の種小名の語源は本分類群における既知の最初の記載で公開されていないが、この動物のフルネームはアマリツキーの師の1人であった[17]著明な地質学者アレクサンドル・イノストランツェフへ敬意を表しての命名である[11]。アマリツキーの論文は北ドヴィナ川で発見された全ての化石について記載したものであり、イノストランケビア自体を記載してはおらず、当該ゴルゴノプス類のさらなる研究を今後のテーマにすることに言及している[5]。
アマリツキーの共同研究者であったPavel A. Pravoslavlevは1927年に本属の正式な最初の記載のモノグラフを出版した。このときPravoslavlevは、I. alexandriの記載時点で既に言及されていたものの[5]正式に命名されていなかった追加の種を複数命名し、また既知のI. alexandriの2標本の形態学的特徴を詳細に修正した[18]。命名された全ての種のうち唯一I. latifronsは、ヴラジーミル州Zavrazhyeから産出した非常に不完全な骨格とアルハンゲリスク州で発見された頭骨に基づき、本属の中で明確に異なる種として認識された[10]。種小名latifronsはラテン語で「広い」を意味するlatusと「前頭部」を意味するfrōnsに由来し、その大きさとI. alexandriよりも頭蓋骨が頑強であることを反映している。Pravoslavlevはまた"Inostranzevia"の綴りを"Inostrancevia"に訂正した[18][注釈 1]。これ以降"Inostrancevia"の綴りが普遍的に用いられており、また国際動物命名規約の条33.3.1によればこの綴りが維持されなければならない[20]。なおPravoslavlevによる研究はイノストランケビアの研究史において重要であるが、より近年の研究では、本属の生物学的な理解を拡大するために本属の骨格の解剖学的特徴の再調査が求められている[21]。
Tatarinov (1974)はイノストランケビア属の第3の種であるI. uralensisを命名した。ホロタイプ標本PIN 2896/1は既知の2種よりも小型の個体に由来する部分的な頭骨であり、オレンブルク州のBlumental-3で発見された左基後頭骨から構成される。種小名uralensisはホロタイプ標本が発見されたウラル川に由来する[11][20][22]。化石の保存部位が乏しいことからTatarinovは本種が大型のゴルゴノプス類の別属に属する可能性にも触れているが、それを裏付ける根拠は無い[23]。
第4の種I. africanaは南アフリカ共和国に分布するカルー超層群のNooitgedacht農場で産出した、Nthaopa NtheriとJohn Nyaphuliにより2010年から2011年にかけて発見された2個の標本が知られている。ホロタイプ標本NMQR 4000とパラタイプ標本NMQR 3707は、約2億5400万年前から約2億5190万年前にあたるバルフォア層のDaptocephalus Assemblage Zoneで記録されている[4]。2標本はNooitgedachtで発見された化石を列挙する論文の章で2014年に言及された[24]。本標本はKammerer et al. (2023)で記載され、従来ロシアでしか化石の発見されていなかったイノストランケビア属に分類された。本標本はロシア産の種との間に差異が認められたため、種小名に発見地のアフリカ大陸の名を冠して新たに設立された種I. africanaに分類された。Kammerer et al. (2023)はこの発見に関して主に層序学的な重要性に焦点を当てており、新たな化石の解剖学的な紹介が僅かである。詳細な解剖学的研究は今後のテーマとなる[4]。
かつて分類された種とシノニム
[編集]1927年のモノグラフにおいて、Pravoslavlevはイノストランケビア属に追加の2種I. parvaとI. proclivisを記載・命名した[18]。1940年にイワン・エフレーモフはこの分類に疑義を呈し、I. parvaのホロタイプ標本を別種でなく本属の幼体と見るべきであるとした[20][25]。1953年にBoris Pavlovich Vyuschkovはイノストランケビアとして命名された種の再評価を行い、I. parvaをPravoslavlevにちなむ名を持つ新属Pravoslavlevia属に再分類した[26]。Pravoslavlevia属は独立属かつ有効な属となり、またイノストランケビアとの近縁な属である[10][20][27][28]。またVyuschkov (1953)はI. proclivisをI. alexandriのジュニアシノニムとしたが、そもそもタイプ標本の保存が不完全であるという指摘も行った[26]。この分類群はTatarinov (1974)による属の改訂でI. alexandriと同種とされた[29]。
Pravoslavlev (1927)はゴルゴノプス類の別属Amalitzkiaを命名し、A. vladimiriとA. annaeの2種を含めた。これらはI. alexandriの最初の標本を研究したウラジーミルとアンナへの献名である[18]。Vjuschkov (1953)は本属Amalitzkiaをイノストランケビア属のシノニムであるとし、A. vladimiriをI. vladimiriへ改名した[26]。さらに本種はその後の後続研究でI. latifronsのジュニアシノニムとされた[10][30]。またPravoslavlev (1927)によるA. annaeの記載が現実的であるにも拘わらず[18]Vjuschkov (1953)は何らかの理由でA. annaeを疑問名とした[26]。その後、Tatarinov (1974)によりA. annaeはA. vladimiriと同様にI. latifronsのジュニアシノニムとされた[30]。
Ivakhnenko (2003)はヴォログダ州のKlimovo-1で発見された大型の犬歯と部分的な神経頭蓋に基づいてロシア産ゴルゴノプス類の新属Leogorgonを設立し、新種Leogorgon klimovensisを命名した。Ivakhnenko (2003)はこの分類群をルビジェア亜科に分類したが、ルビジェア亜科は現在のアフリカのみから化石が発見されていたグループであったため、本種はアフリカ大陸以外に生息したルビジェア亜科で最初に知られた種となった[31]。しかしIvakhnenko (2008)は解剖学的情報が不足していることからLeogorgonがルビジェア亜科でなくPhthinosuchidaeの仲間である可能性を指摘した[21]。Kammerer (2016)はLeogorgonの犬歯をイノストランケビアのものと同様としつつ、神経頭蓋がディキノドン類に類似することを指摘し、Ivakhnenkoによる分類を否定した。それ以降、Leogorgonはその化石の一部がイノストランケビアに由来する可能性のある疑問名の属とされている[32]。
異なる系統に属する他の種がイノストランケビア属に分類されることもあった。例えば、Efremov (1940)は当時疑問視されていた状態のゴルゴノプス類をI. progressus[10]に分類したが、Bystrow (1955)によりサウロクトヌス属に再分類された[10][20][33][34]。1950年代にウラジーミル州で発見された大型の上顎骨もイノストランケビア属に分類されていたが、1997年にテロケファルス類に再分類され、2008年にMegawhaitsiaのホロタイプ標本に指定された[35]。
特徴
[編集]イノストランケビアは頑強な形態を持つゴルゴノプス類であり、スペインの古生物学者Mauricio Antónは本属を「リカエノプスのスケールアップバージョン」と説明した[36]。後期ペルム紀で最も象徴的な動物の1つであるイノストランケビアはゴルゴノプス類の中で特に大型であり、これに比肩する体サイズの属は南アフリカのルビジェアのみである[20][36]。ゴルゴノプス類は頑強な骨格を持つが、獣弓類としては四肢が長く、肘が外側に向いている差異があれどもある程度イヌに似た姿勢を取っていた[36]。ゴルゴノプス類のような非哺乳形類型獣弓類が体毛に被覆されていたか否かは不明である[37]。
I. alexandriの標本PIN 2005/1578とPIN 1758は同定された中で最大かつ最も完全なゴルゴノプス類の標本である。両標本は全長約3メートルに達し[36]、頭蓋骨長が50センチメートルを超過する[5]。しかし、より断片的な化石のみから知られているI. latifronsの推定体サイズはこれを上回っており、頭蓋骨長が60センチメートルに達し、全長約3.5メートル、体重約300キログラムと推定されている[38]。I. uralensisの体サイズは化石が非常に不完全であるため不明であるが、I. latifronsよりも小型と見られる[10]。I. africanaはホロタイプ標本NMQR 4000が頭蓋骨長44.2センチメートル、上腕骨長30.2センチメートル、パラタイプ標本NMQR 3707が頭蓋骨長48.1センチメートル、上腕骨長29.2センチメートルに達する[4]。
頭骨
[編集]イノストランケビアの頭蓋骨の全体的な形状は他のゴルゴノプス類のものと類似しているが[5]、アフリカ大陸に生息したグループから区別される多数の差異が存在する[20]。頭骨は幅広で、吻部が上昇して長く伸び、眼窩が比較的小さく、頭蓋骨のアーチが薄い[10][21][36]。頭頂孔が頭頂骨の後縁付近に位置しており、長く伸びた空洞状の痕跡の中央部に発達した突起上に存在する[5]。矢状縫合は複雑に湾曲している。Viatkogorgonと同様に、方形骨は最上部の縁が肥厚している[21]。
ロシア産の3種はそれぞれに特筆すべき特徴がある。I. alexandriは後頭部が比較的狭く、側頭窓が幅広かつ丸みを帯びており、翼状骨の横側の凸縁が歯を伴う。I. latifronsは吻部が比較的低くかつ幅広であり、頭頂部がより大型で、歯の本数が少なく、口蓋結節が発達しない。I. uralensisは側頭窓がスロット状で横方向に伸びている[10]。
イノストランケビアの顎は強力に発達しており、歯は獲物を確保してその皮膚を引き裂くことが可能であった。また歯は歯尖を欠いており、門歯・犬歯・後犬歯[注釈 2]に区分される。歯はいずれも大なり小なり横方向に圧縮されており、また細かい鋸歯を前縁と後縁に持つ。口が閉じた際には、上顎の犬歯が歯骨の外側に位置し、下端に届く[5]。イノストランケビアの犬歯の長さは12 - 15センチメートルに達しており、非哺乳類型獣弓類において最大であり[21]、唯一アノモドン類のTiarajudensが同様の大きさの犬歯を持つのみである[39]。上顎と下顎でこれらの犬歯はほぼ大きさが等しく、僅かにカーブしている[21]。門歯は非常に頑強である。後犬歯は上顎に存在し、その歯槽の縁が僅かに上側に向いている。対称的に、下顎には後犬歯が完全に存在しない。歯の生え変わりの際には若い歯が古い歯の歯根で成長し、徐々にそれらを置換した[5]。犬歯のカプセルは非常に大型で、個体成長の様々な段階で置換用の犬歯のカプセルが最大3カプセル保持されている[21]。
体骨格
[編集]イノストランケビアの骨格は四肢が特に頑強である[18][40]。末節骨は鋭利な三角形状であった[5][18][21]。イノストランケビアの体骨格はゴルゴノプス類の中で最も固有派生的である。イノストランケビアは肩甲骨が他の既知のゴルゴノプス類と異なり板状のブレードが拡大しており、また脛骨が特にその関節の縁で稜や厚みが発達している[40]。イノストランケビアの肩甲骨のブレードは極めて大型であり[18][20][41]、その形態はおそらく将来的に古生物学的機能に関する研究対象になると目されている[40]。
分類体系
[編集]1922年に出版された原記載から、イノストランケビアのはゴルゴノプス科のタイプ属ゴルゴノプスとの解剖学的比較を経て、ただちにゴルゴノプス科に分類された[5][19]。その後、ロシアから報告されたゴルゴノプス類はほぼ存在しなかったが、1953年に命名されたPravoslavleviaの同定により分類に新たなターニングポイントが生まれた。Tatarinov (1974)がイノストランケビアをタイプ属とするイノストランケビア科に2属を分類し、Sigogneau-Russell (1989)も同様の分類をしたが、このときイノストランケビア科はゴルゴノプス科の下位分類群としてイノストランケビア亜科に変更された[41]。Ivakhnenko (2002)はロシア産ゴルゴノプス類の再評価を行い、イノストランケビア科を再設立し、この分類群をルビジェア科およびPhtinosuchidaeとともにルビジェア上科に分類した[42]。その1年後にIvakhnenko (2003)はイノストランケビアをイノストランケビア科に分類しながら、その科をイノストランケビアしか含まない単型とした[31]。Gebauer (2007)は後頭骨と犬歯の観察に基づいてイノストランケビアを頑強なアフリカ系統のゴルゴノプス類を構成するルビジェア亜科の姉妹群とした[43]。Kammerer (2016)はGebauerの分析を不十分と批判し、彼女の分析で使用された特徴の多くが個体差あるいは個体発生を経た差異で変動しうる頭蓋骨の比率に基づいていることを指摘した[32]。
Kammerer and Masyutin (2018)は、ノクニッツァの記載に際してロシアの分類群とアフリカの分類群が2つの異なる分岐群に分けられるべきであると提唱した。基盤的な分類群を除くロシアの属の関係は頭蓋骨の特徴に基づいて支持されており、具体的には翼状骨と鋤骨との密接な接触があることが挙げられる。従来的にイノストランケビアはアフリカ産のゴルゴノプス類との類縁関係が検証されていたため、イノストランケビアとその他のロシア産ゴルゴノプス類との類縁関係が認識されたのは初めてのことであった[20]。Kammerer and Masyutin (2018)により提唱された分類はその後のゴルゴノプス類の系統学的研究の基礎になっており[27][28]、以前の分類と同様にPravoslavleviaはイノストランケビアの姉妹群に配置されている[20][27][28]。
以下のクラドグラムはKammerer and Rubidge (2022)に基づきゴルゴノプス類におけるイノストランケビアの系統的位置を示す[28]。
ゴルゴノプス亜目 |
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進化と絶滅
[編集]ゴルゴノプス類は動物食性の獣弓類における主要なグループを構成しており、その最古の例は中期ペルム紀(グアダルピアン世)の化石記録として南アフリカ共和国に出現している。この時代における本分岐群の大多数の種は非常に小型であり、当時の生態系は頑強な骨格を持つ大型獣弓類であるディノケファルス類が支配的であった[44]。ただし、Phorcysのようないくつかの属は既に比較的大型化しており、カルー超層群の特定の地層で頂点捕食者の地位を占めていたとされる[28]。ゴルゴノプス類は真の哺乳類や恐竜が出現する以前に長大な犬歯を発達させた最初の捕食動物のグループであり、この特徴は後にネコ科やニムラブス科やティラコスミルス科といった異なる肉食哺乳類のグループで独立して進化することになる[45]。
地理的には、ゴルゴノプス類は主に現在でいうアフリカ大陸とヨーロッパロシアに分布していたが[20]、中間的な標本が中華人民共和国北西部のトルファン盆地で発見され[46]、インド中央部に分布するKundaram層からもゴルゴノプス類の可能性のある断片的な標本が報告されている[47]。キャピタニアン期の大量絶滅事変の後、ゴルゴノプス類は大型ディノケファルス類が退いて空白となった生態的地位を優占し、大型化を遂げて頂点捕食者となった。アフリカではルビジェア亜科[32]、ロシアではイノストランケビアがそのような地位を占めた[20][27][48]。イノストランケビアと共存した同時代のゴルゴノプス類はより小型であった[49][50]。
イノストランケビアを含むゴルゴノプス類は、シベリア・トラップに起源を持つ大規模火成活動を主因とするペルム紀末の大量絶滅において、ローピンジアン世後期(チャンシンジアン期)に姿を消した。発生した噴火は重大な気候変動をもたらし、イノストランケビアの生存に不利な環境を形成して絶滅に繋がった。陸上生態系の生態的地位は主竜類を中心とする竜弓類や、絶滅事変を生き延びた数少ない獣弓類である哺乳形類に継承された[51]。しかし、ロシアのゴルゴノプス類には絶滅事変直前の時点で既に姿を消したものもおり、その空位となった地位は短期間の間大型テロケファルス類が占めることとなった[35]。
Kammerer et al. (2023)はアフリカの各地でゴルゴノプス類のルビジェア類が絶滅したことから、イノストランケビアがロシアから移動して限られた時代においてアフリカの頂点捕食者の地位を占めたと主張した。リストロサウルスのようなディキノドン類はペルム紀の次の時代である三畳紀まで生き延びているため、彼らがこの時代のイノストランケビアの餌食になったと見られている[4]。しかし、2024年にはタンザニアのローピンジアン世最初期の地層からイノストランケビアの単離した左前上顎骨が報告されており、イノストランケビアがKammerer et al. (2023)の見解よりも早い時代にアフリカにも分布していたことになる。そしてローピンジアン世前期のイノストランケビアは、ディノゴルゴンやルビジェアといった大型ルビジェア類と共存していたことが示唆される[52]。
生態
[編集]イノストランケビアや他のゴルゴノプス類のもっとも有名な特徴は、サーベル状に発達した上顎と下顎の犬歯である。これらの動物がどのようにこの歯を利用していたかは議論がある。Lautenschlager et al. (2020)は3次元解析により、イノストランケビアのような長い犬歯を持つ捕食動物の咬合力を算定し[53]、彼らが収斂進化を遂げているにも拘わらずその犬歯を用いた殺害技術が多様であったことを示した。同様の体格であるルビジェアの咬合力は715ニュートンと算出されており、これは骨を噛み砕くには不十分であったものの、ゴルゴノプス類が犬歯の発達した他の捕食動物よりも強力な咬合力を持ったことを明らかにしている[54]。また本研究では、イノストランケビアの顎に大型の間隙の存在が示唆されており、これによりサーベルタイガーであるスミロドンの仮説的な殺害方法と類似する致命的な咬合を可能としたことが示唆された[53]。
古環境
[編集]ヨーロッパロシア
[編集]イノストランケビアが生息していた後期ペルム紀において、南ウラルは北緯28度から北緯34度に位置しており、河川堆積物が優勢であった[55]。特にイノストランケビアが産出した層準であるSalarevo層は季節的な半乾燥気候から乾燥気候であり、浅い湖が定期的に氾濫していた[56]。当時のヨーロッパロシアの古植物相はシダ種子類のPeltaspermalesであるTatarinaやその近縁属が優占しており、イチョウ門(Ginkgophyta)や球果植物が次いで繁栄していた。一方でシダ類は比較的珍しく、トクサ門(Sphenophyta)は局所的にしか生育していなかった[55]。沿岸域には塩生植物や湿生植物、また高標高や旱魃に対する耐性の高い球果植物が生育した[57]。
イノストランケビアの化石産地は陸棲生物と浅水域の淡水棲生物の化石記録が豊富である。具体的には貝虫[3]、魚類、ChroniosuchusやKotlassiaのような爬虫形類、分椎目のドヴィノサウルス、パレイアサウルス類のスクトサウルス、ディキノドン類のヴィヴィアクソサウルス、キノドン類のドヴィニアが含まれる[48][49][57][58]。イノストランケビアは当時の環境における頂点捕食者であり、上述した四肢動物の大半を捕食対象に取ることが可能であった[14][48][49]。イノストランケビアと共存していたより小型の捕食動物として、近縁なゴルゴノプス類のPravoslavleviaや、テロケファルス類のAnnatherapsidusがいた[49][50]。
南アフリカ
[編集]化石記録によれば、I. africanaが産出した化石帯であるDaptocephalus Assemblage Zoneは、水捌けの良い氾濫原であったとされる。当時はペルム紀末の大量絶滅直前にあたり、バルフォア層のより古い地層よりも生物の多様化が進んでいない[4][59]。
カルー盆地の他の地層と同様に、Daptocephalus Assemblage Zone上部ではディキノドン類が最も普遍的に見られる動物である。最も豊富なディキノドン類の中には、化石帯の語源となったダプトケファルスやディイクトドンおよびリストロサウルスがいる。テロケファルス類はほぼ産出しておらず、モスコリヌスとテリオグナトゥスのみが報告されている。キノドン類のプロキノスクスの存在も報告されている[60]。ゴルゴノプス類のArctognathusとCyonosaurusはカルー盆地の広い時間分布に照らせば存在するはずであるが、公式な化石は未発見である。ロシアにおける化石記録と同様に、I. africanaは当該地域における主要な捕食動物であり、同時代のディキノドン類を捕食していた可能性が高い[4]。
注釈
[編集]出典
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