イヌマキ

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イヌマキ
イヌマキの果実
保全状況評価[1]
LOWER RISK - Least Concern
(IUCN Red List Ver.2.3 (1994))
分類
: 植物界 Plantae
: 裸子植物門 Gymnospermae
: マツ綱 Coniferopsida
: マツ目 Coniferae
: マキ科 Podocarpaceae
: マキ属 Podocarpus
: イヌマキ P. macrophyllus
学名
Podocarpus macrophyllus (Thunb.) Sweet
和名
イヌマキ(犬槇)、クサマキ
変種

イヌマキ(犬槇、学名Podocarpus macrophyllus)は、マキ科マキ属常緑針葉高木日本関東四国九州沖縄)および台湾の比較的暖かい地域に分布する。

特徴

イヌマキの雄花

高さ20 mほど。樹皮は白っぽい褐色で、細かく薄く縦長に剥がれる。は真っ直ぐに伸び、先は上を向くが、大木になると先は下垂する。は細長いが、扁平で主脈がはっきりしており、いわゆる針葉樹の葉には見えない形をしている。

雌雄異株。雄花は前の年の枝に多数つき、穂状で垂れ下がり、黄色い。雌花は1 cmほどの柄の先に小さな包葉があり、その中の1つが伸びて、その先端部に胚珠を含む。胚珠を含む部分が膨らんで種子となり、その基部も丸く膨らむ。基部の膨らみは花床と言われ、熟すると次第に赤くなり、少々松脂臭いものの甘く、食べられる偽果である。種子は緑色になって白い粉を吹く。こちらは成分を含有し、食べられない。全体としては緑と赤色の団子を串刺しにしたような姿となる。などがこの花床を食べるときに種子散布が起こると考えられる。種子はまだ樹上にあるときから発芽を開始することがあり、これを胎生種子と呼ぶ。

照葉樹林に生育し、神社林などでは優占している場合もある。これは森林が小さくなると風の影響を受けやすく、風に強いイヌマキがよく残るためではないかとも言われている。

人間との関わり

利用

庭木としてよく植栽され、庭園などにも植栽される。庭木としては北アメリカ南部でも利用され、クサマキや "buddhist pine"、"fern pine" などと呼ばれる。中華人民共和国では縁起物として人気があり、日本から輸出されてきた(ただし中国政府がについたによる病虫害リスクに対して検疫基準を見直すことを表明し、2019年10月から輸出が止まっている)[2]

防火・防風・防音の機能を有する樹種(防火樹・防風樹・防音樹)としても知られる[3]。そのため屋敷林防風林に用いられる。

遠州地方静岡県浜松市など)ではホソバ(細葉)と呼ばれ、防風林・防砂林目的に生垣として利用されてきた。古民家では必ずといっていいほどこの生垣を持っており、子供たちはおやつ感覚でその実を食べ、葉っぱで手裏剣などを作っていた。

中国原産で、イヌマキより小型で葉の数が多いラカンマキ var. maki は庭木や生垣として栽培される。

果実は、子供が人形独楽やじろべえおはじき、にした。

単にマキともいう。本来は、別にあるマキなる木に対して、それよりも劣るものとして、この種のことを卑しんでつけられた名である。古くはスギ)のことをマキとよんでいたことから、これに対するものとの説、あるいは、紀伊半島四国地方ではコウヤマキを本槇と呼ぶことから、これに対しての命名とする説もある。ただし、材の使用に関しては、それほど劣るものではない。特に水に強いことから、風呂桶などにも用いられる。

沖縄県では、古くから木造住宅の高級建築材として利用されることがあり、国の重要文化財である中村家住宅等にも用いられている[4]。これはイヌマキが強い抗蟻性をもち、住宅の天敵であるシロアリに強いからである[5]沖縄戦で焼失する以前の首里城も、構造材にはイヌマキが用いられていた。第二次世界大戦後の1992年に再建された首里城正殿は、材の枯渇からイヌマキが使えず、タイワンヒノキアスナロが使用された。

千葉県の県の木に指定されている。

鹿児島県では藩政時代から藩主島津氏の命により率先してイヌマキが植えらてきたため生垣や防風林、並木道が多数見受けられ、ヒトツバ(一つ葉)と呼ばれ住民に親しまれていた。 神社やお寺では樹齢数百年にる巨木も多い。 1992年に再建された沖縄首里城では、沖縄では既に手に入らなくなっていたイヌマキ材を補う為、鹿児島から大量に運ばれ利用された。 2010年ごろから中国人バイヤーがイヌマキの買い付けに鹿児島に訪れ、庭木のイヌマキを破格値で買取ることが横行した。数百万円の値がつくこともあり鹿児島からイヌマキの木が無くなるのではと噂されたが、2019年なって中国政府が輸入を禁止したため辛うじて免れた。

地方名

利用されていたので様々な地方名がある。

  • サルモモ(静岡県、福井県島根県山口県
  • サルミノ(大阪府、山口県)
  • サルノキンタマ(山口県)
  • チャーギ(沖縄県)
  • ニンギョー(山口県)
  • ニンギョノキ(大分県長崎県
  • ヒトツバ(宮崎県鹿児島県、沖縄県)
  • ネンネンゴ(静岡県)
  • ヤンゾウコンゾウ(果実の名称、静岡県)

害虫

キオビエダシャクの幼虫が葉の食害を起こす。生育域の拡大は温暖化と関係あるとされているが、1950年代南九州地域で大発生した記録もある[6]。イヌマキ由来のイヌマキラクトンやナギラクトンなどの物質を体内に蓄積することで、鳥などの捕食から逃れている。

参考画像

脚注

関連項目

外部リンク