鉄の同位体

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天然の(Fe)は4種の同位体からなり、その存在比は、半減期3.1×1022年以上の54Feが5.845%、安定同位体56Feが91.754%、57Feが2.119%、58Feが0.282%である。60Feは半減期が260万年の消滅放射性核種である。ただし、60Feは2009年まで半減期が150万年とされていた。

鉄の同位体構成を計測する過去の研究の多くは、宇宙の元素合成(隕石研究)と鉱床形成に起因する60Feの変化の測定に集中したが、最近10年間の質量分析技術の進歩によって、鉄の安定同位体比の微小な割合変化を検出・定量化することが可能になった。この研究の多くは地球惑星科学分野でなされているが、生物学や産業システムでの応用もされ始めている[1]

56Feは核子当たりの質量が最も小さい原子である。そのため、最も安定な原子核であり核分裂反応核融合もせずエネルギーを放出しないと誤解されるが、核子当たりの結合エネルギーが最大となるのは62Niと58Feの2核種である。しかし、56Feは核反応において軽い核種から容易に作り出すことができるため、大質量星内部の元素合成の終点であり、宇宙空間では他の金属と比較してもより一般的である。

隕石SemarkonaChervony Kut中の60Ni(60Feの崩壊生成物)と鉄の安定同位体の存在度の相関から、太陽系形成時の60Feの存在が明らかになった。おそらく微惑星の形成時、60Feの崩壊熱は26Alの崩壊熱とともに、微惑星の再溶融と分化に寄与したものと考えられる。

安定同位体のうち57Feだけが核スピン(-1/2)を有する。このため、57Feはメスバウアー効果の試料として最も用いられる。59Fe(半減期44.495日)は、鉄動態検査に用いられている。

一覧[編集]

同位体核種 Z(p) N(n) 同位体質量 (u) 半減期 核スピン数 天然存在比 天然存在比
(範囲)
励起エネルギー
45Fe 26 19 45.01458(24)# 4.9(15) ms [3.8(+20-8) ms] 3/2+#
46Fe 26 20 46.00081(38)# 9(4) ms [12(+4-3) ms] 0+
47Fe 26 21 46.99289(28)# 21.8(7) ms 7/2-#
48Fe 26 22 47.98050(8)# 44(7) ms 0+
49Fe 26 23 48.97361(16)# 70(3) ms (7/2-)
50Fe 26 24 49.96299(6) 155(11) ms 0+
51Fe 26 25 50.956820(16) 305(5) ms 5/2-
52Fe 26 26 51.948114(7) 8.275(8) h 0+
52mFe 6.81(13) MeV 45.9(6) s (12+)#
53Fe 26 27 52.9453079(19) 8.51(2) min 7/2-
53mFe 3040.4(3) keV 2.526(24) min 19/2-
54Fe 26 28 53.9396105(7) STABLE (>3.1×1022 a) 0+ 0.05845(35) 0.05837-0.05861
54mFe 6526.9(6) keV 364(7) ns 10+
55Fe 26 29 54.9382934(7) 2.737(11) a 3/2-
56Fe 26 30 55.9349375(7) STABLE 0+ 0.91754(36) 0.91742-0.91760
57Fe 26 31 56.9353940(7) STABLE 1/2- 0.02119(10) 0.02116-0.02121
58Fe 26 32 57.9332756(8) STABLE 0+ 0.00282(4) 0.00281-0.00282
59Fe 26 33 58.9348755(8) 44.495(9) d 3/2-
60Fe 26 34 59.934072(4) 2.6(3)E+6 a 0+
61Fe 26 35 60.936745(21) 5.98(6) min 3/2-,5/2-
61mFe 861(3) keV 250(10) ns 9/2+#
62Fe 26 36 61.936767(16) 68(2) s 0+
63Fe 26 37 62.94037(18) 6.1(6) s (5/2)-
64Fe 26 38 63.9412(3) 2.0(2) s 0+
65Fe 26 39 64.94538(26) 1.3(3) s 1/2-#
65mFe 364(3) keV 430(130) ns (5/2-)
66Fe 26 40 65.94678(32) 440(40) ms 0+
67Fe 26 41 66.95095(45) 394(9) ms 1/2-#
67mFe 367(3) keV 64(17) µs (5/2-)
68Fe 26 42 67.95370(75) 187(6) ms 0+
69Fe 26 43 68.95878(54)# 109(9) ms 1/2-#
70Fe 26 44 69.96146(64)# 94(17) ms 0+
71Fe 26 45 70.96672(86)# 30# ms [>300 ns] 7/2+#
72Fe 26 46 71.96962(86)# 10# ms [>300 ns] 0+
  • #でマークされた値は、全てが純粋に実験値から算出されたものではなく、一部体系的な傾向から導き出された推定値を含んでいる。明確なデータが得られていない核スピンに関しては、かっこ書きで表記している。
  • 数値の最後にかっこ書きで表記しているのは、その値の誤差を示している。誤差の値は、同位体の構成と標準の原子質量に関しては、IUPACが公表する誤差で表記しており、それ以外の値は、標準偏差を表記している。

脚注[編集]

  1. ^ Dauphas, N. & Rouxel, O. 2006. Mass spectrometry and natural variations of iron isotopes. Mass Spectrometry Reviews, 25, 515-550

参考文献[編集]