赤毛のレドメイン家

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赤毛のレドメイン家The Red Redmaynes[1]は、イーデン・フィルポッツの長編推理小説1922年刊行。1920年代の欧米における「本格推理小説黄金時代」の傑作群のひとつに数えられる、古典推理小説。

イングランド・ダートムアとイタリアコモ湖畔を舞台に、レドメイン一族を標的におこる連続殺人事件、およびロンドン警視庁の若手刑事マーク・ブレンドンと、初老の探偵(かつてのロンドン警視庁刑事)ピーター・ガンズの捜査を描く。

評価[編集]

フィルポッツは元来田園小説などで高い評価を得た作家で、還暦を前にした1921年「灰色の部屋」を発表、新境地として推理小説に進出している。その背景もあって、「赤毛のレドメイン家」は充実した風景描写、また恋愛が物語と有機的に絡み合って効果をあげた点、刑事たちの人間味や犯人の性格などの確かな描写によって、高く評価されている(恋愛が物語展開と深く結びつき、探偵役の人間味が描かれている点は1913年のE・C・ベントリー作『トレント最後の事件』と共通する)。

日本では江戸川乱歩が高く評価したことで、古典本格推理小説としての評価を確立。乱歩は当作を高く評価しただけでなく、1936年に当作の翻案作品『緑衣の鬼』を発表している(緑は赤の補色である)。

日本語訳小史[編集]

1922年発表の作品だけに、第二次世界大戦前から井上良夫の翻訳によって紹介されていた。この井上訳は終戦後の1950年、雄鶏社の「雄鶏みすてりーず」で『赤毛のレドメイン』として再刊されており、縮訳版ながら歴史的なものである。井上はフィルポッツ作品では他に『闇からの声』も翻訳している。

最初の完訳版となったのは、1956年6月、新潮社「探偵小説文庫」の1冊として刊行された『赤毛のレドメイン家』で、翻訳は橋本福夫(橋本は同書の解説でやや控え目に、最初の完訳版だと述べている)。橋本版は58年9月に新潮文庫に編入されて長く親しまれたが、現在は品切。橋本は後に『闇からの声』や『灰色の部屋』『溺死人』(すべて創元推理文庫)も翻訳、日本でのフィルポッツ紹介に功があった。

橋本版の刊行以後、60年代にかけて多くの叢書からの翻訳が相次いで刊行される。まず橋本版の初出直後の1956年9月、東京創元社「世界推理小説全集」で大岡昇平訳による『赤毛のレッドメーン』刊行、1959年、同叢書の普及文庫版として創刊された創元推理文庫にも同年6月に『赤毛のレッドメーンズ』として加わった。

1961年3月には中央公論社「世界推理名作全集」に『赤毛のレドメイン家』として収められる。翻訳は宇野利泰(彼は翻訳家生活初期にフィルポッツ作品『医者よ自分を癒せ』を訳した経験を持つ)。宇野版は1962年9月、同叢書の普及版「世界推理小説名作選」にも加わる。更に1970年10月には創元推理文庫に新版として編入されることになり、それまで同文庫で親しまれた大岡版『赤毛のレッドメーンズ』は宇野版と入れ替わる形で絶版となった。その後は宇野版・創元推理文庫新版が40年にわたって版を重ね、現在も新刊書店店頭に並んでいる。

一方、1962年に東都書房で「世界推理小説大系」が刊行されており、同叢書にも荒正人訳で『赤毛のレドメイン一家』として収められている。同じ巻にはやはり荒の訳で『闇からの声』も収録された。1977年10月、荒版は『赤毛のレドメイン家』に改題して講談社文庫に収められたが、現在は品切(荒版『闇からの声』も翌1978年同文庫に収められたが、こちらも現在品切)。角川文庫でも、1963年5月に『赤毛のレッドメーン家』として赤冬子の訳で刊行された(現在品切)。

以上のようにさすがに翻訳が出揃った感もあったのか、その後新訳は長らく試みられることはなかったが、1999年、集英社文庫で「乱歩が選ぶ黄金時代ミステリー」シリーズの刊行が始まり、本作も実に36年ぶりに安藤由紀子による新訳が刊行された。しかしこの安藤版も現在品切になっており、先述の宇野版が現在新刊で唯一入手可能なヴァージョンとなっている。

脚注[編集]

  1. ^ Red Redと反復させて効果を生んでいる。