西船橋駅ホーム転落死事件

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西船橋駅ホーム転落死事件(にしふなばしえきホームてんらくしじけん)は、1986年千葉県船橋市西船橋駅において起こった、絡んできた男性を女性が避けようとして身体を突いたところ男性がホーム下に転落し、そこに進入してきた電車に巻き込まれて死亡したという事件である。

この事件と、福岡県の女性が上司を相手取って起こした日本初の「セクシャルハラスメント」の民事訴訟によって、1980年代末頃より日本において「セクシャルハラスメント」(セクハラ)の概念が知られるようになった。

事件の概要[編集]

1986年1月14日23時頃、日本国有鉄道(現在のJR東日本総武線西船橋駅の4番線ホームで女性(当時41歳)に対して泥酔した男性(当時47歳)が、頭を小突いたり罵声を浴びせたりした。更に男性が両手でコートを掴んできたためにもみ合いとなった。

その後女性は、男性の行為を回避するために、男性を突き飛ばした。男性は泥酔のためかよろめいて線路上に転落した。その場にいた他の客が引き上げようとしたが、男性は入線してきた電車にひかれ死亡した。

当事件について、男性(都立高校体育科教諭)と女性(ダンサー)の職業の対比から、興味本位に報道するマスコミが多かった。しかし、このことが結果として、当事件のような女性に対する男性の暴力の問題を浮き彫りにし、女性に対する有志の女性たちの応援団が結成されるなど支援の輪を広げることとなった。

この事件の裁判で被告女性を支援する女性団体が、女性に対する性的嫌がらせの概念として「セクシャル・ハラスメント」という言葉を使いだした。ただし、この事件の裁判の決着は1987年で、「セクハラ」が流行語となったのは1989年であり、2年間のタイムラグがあるように、この事件が「セクハラ」が日本語として定着する直接のきっかけではなかった。

裁判[編集]

千葉地方裁判所において女性に対し、検察傷害致死罪懲役2年を求刑した。一方、弁護側は、正当防衛の成立を主張した。

急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するためやむを得ずした行為は、正当防衛として処罰の対象とならない(刑法36条1項)。権利を脅かす侵害行為(本件では男性による「絡み」)に対して行われた防衛行為(本件では女性による「突き飛ばし」)が正当な行為として扱われるためにはいくつかの条件があるが、本件では、防衛行為が招来した被害者の死という結果が防衛行為によって守られた利益と比して不均衡であるから一応問題となる。

もっとも、本件のように、反撃行為によって侵された利益が守ろうとした利益よりも大きいケースについては、すでに1969年に最高裁が判断しており[1]、この判例によれば、刑法36条1項にいう「やむを得ずにした行為」とは、「反撃行為が急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を有することを意味し、右行為によつて生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であつても、正当防衛行為でなくなるものではない」とされている。

千葉地裁は1987年9月17日、上記判例に従い、女性が男性の横暴な絡みから逃れるために身体を突いたことは、手段としては妥当なものであり、結果的に男性がホーム下に転落し、ホームと到着した電車に身体を挟まれるという想定外の事情により死亡したとしても、男性による急迫不正な侵害行為から逃れる正当なる防衛行為にあたるとし、被告人に正当防衛を認め無罪とした。検察は控訴せず無罪が確定した。

その他[編集]

  • 女性は「ダイナクイーン」という芸名のストリッパーで、福岡県北九州市に耳が不自由な夫と3人の子供を残しての出稼ぎ中だった。
  • 「セクシャルハラスメント」の単語は1989年12月に自由国民社現代用語の基礎知識』が主催する新語流行語大賞の金賞に選ばれた。1989年8月に福岡県の出版社勤務の女性が上司に対して起こした日本初のセクハラの民事訴訟裁判もあったが、民事裁判は係争中であり、1987年に決着した転落死事件の弁護団長であった河本和子に対して流行語大賞の授賞式が行われた。ただし、「セクシャルハラスメント」は河本が提唱した単語ではない[2]
  • この事件をモデルにした2時間ドラマが後に制作、放映された[3]。事件の舞台は群馬県に変更されているが、実際の裁判と同様に被告人に無罪が言い渡される結末となっている。

出典・脚注[編集]

  1. ^ 最判昭和44年12月4日 刑集第23巻12号1573頁
  2. ^ 弁護士市川清文のHOME BASE アク「セク・ハラ」ハラ道中記
  3. ^ テレビ朝日土曜ワイド劇場」『事件2 OLが見たホーム転落死の真相!1994年6月11日放送。ドラマは法廷ミステリーにアレンジされ、北大路欣也(弁護士役)、奈美悦子(被告人役)、伊武雅刀佐野量子(目撃した証人)らが出演した。

参考文献[編集]

関連項目[編集]