耐Gスーツ

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MSF830 Anti-G Suit

耐Gスーツ(たいジー スーツ)とは高いG(加速度)が戦闘機パイロットに掛かることによって発生するブラックアウトを軽減させるための衣類パイロットスーツ)である。形状は下肢を被うズボン状である。戦闘機パイロットを同様に襲う生理現象のレッドアウトは軽減できない。

GにはプラスGとマイナスGがあるが、ブラックアウトはプラスGにて起こり、レッドアウトはマイナスGで起こる。ブラックアウトは血液がプラスGによって下肢に移動し、に十分な酸素供給ができなくなって貧血のように失神する状態をいう。航空機の構造上プラスGの方が大きく、発生する頻度や時間も多いので、戦闘機によるドッグファイトでは対策が重要となった。

開発された経緯[編集]

エルメンドルフ空軍基地第3航空団所属のF-15パイロット

第一次大戦中から、旋回・宙返りのような戦闘機の急激な挙動時に、パイロットが失神する危険性があることは経験上知られていた。戦闘機の急激な挙動に起因する強いGの影響による脳への血流障害であることが原因と判明したため、1941年にトロント大学のウィルバーR.フランクスにより開発された。

当時の耐Gスーツは脚部を水の圧力で圧迫し、Gがかかっても血流が下肢に集中するのを防止し、脳への血流障害が発生しないようにする構造となっていた。その後、アメリカ陸軍航空隊によって1944年9月に空気膨張式の耐Gスーツが開発され、太平洋戦争終盤には実戦で使用されるようになった。

第二次世界大戦以降のジェット戦闘機の登場を受け、より高速化した現代の戦闘機の航空戦ではパイロットにかかるGはより強いものとなり、耐Gスーツは戦闘機パイロットの標準装備品となっている。

機構[編集]

下半身を締め付けることで脳の虚血状態を防止する方法が考案された。スーツ自体の構造はズボン状の浮き輪あるいは救命胴衣のような構造で、搭乗時に操縦席にあるコネクタへホースで接続される。過剰なGがパイロットに掛かると自動的に圧搾空気がスーツ内へ送り込まれて下半身を圧迫し、血液の降下を軽減する。近年では従来のスーツに加えてベストヘルメットにも同様の機能を付け、下半身だけでなく上半身や頭部も圧迫するようにしたコンバットエッジというものも登場しており、耐G能力をさらに向上させている。

航空機は戦闘機に限らず設計段階で機体への限界Gが算出されており、それを超える操縦を行った場合は空中分解や部品の破損、機体の寿命の低下が起こる可能性がある。激しいGの増減が機体に加わるジェット戦闘機では、これを監視するために操縦席にGメーターが従来から備わっており、耐Gスーツへの自動加減圧はその情報が利用される。

液体式[編集]

開発当初は液体が利用されていたが、高高度で気温が下がると熱伝導率が高いため体温が奪われる[1]ことや凍結すること、重量もかさむため、現在では軍用の耐Gスーツは空気式に置き換わっている。

レッドブル・エアレース・ワールドシリーズでは常に低空を飛行するため、開始当初から水を使用した耐Gスーツ『G-Race Suits』が使われている[1][2]

限界と強化[編集]

訓練を積んでいない人間が失神しないのは6Gが限度であるが[1]、瞬間的ならば耐えることが出来るという[3]。トレーニングを積んだ曲技飛行士が耐Gスーツ(液体式)を使用すれば10Gでも操縦を続けることが可能であるが、体調などの要因で変化するためルールで制限をかけることが多い。

戦闘機パイロットは耐Gスーツがない状態で8Gに耐えることが求められる[4]が、G耐性には個人差があり特にグレイアウトの始まりは変えられない。しかしウェイトリフティングなどで上半身の筋肉を強化する、心肺機能を強化してより多くの酸素を脳へ供給できるようにする[3]大腿腓腹筋など下半身の筋力強化する、ピラティス・メソッドなどで体幹を鍛える[5]などの身体トレーニングにより、ブラックアウトになるGを引き上げることが可能である。戦闘機パイロットだった油井亀美也は、訓練開始時点では3Gでグレイアウト、6Gでブラックアウトしていた[6]が、訓練終了間際には8Gでもブラックアウトにならず訓練に合格した[4]

人間は慣れればある程度血流をコントロールすることが可能[1]であるため『Gがかかる前に深呼吸して息を止め、下半身の筋肉を緊張させる[1]』『適切なタイミングで呼吸を繰り返す』などの手法で一時的に失神を防ぐことが出来るという。また戦闘機パイロットは意図的に5G程度を体にかけグレイアウトになってから即緩めることで、1時間ほどG耐性を向上させる『Gウォーム』という手法を利用している[5]

応用[編集]

耐Gスーツの技術を救急医療に応用したものとして、ショックパンツMAST)がある。これは、骨盤骨折などに伴う出血性ショックに対して圧迫止血を行うとともに、下半身の血液を強制的に上半身へ還流させることで中枢部の血流を確保し、本格的な医療を行うまでの間の状態を維持するものである。ただし、心原性ショックについては下肢からの静脈還流が増加し、心臓に対する負荷が増して心不全を助長することから、禁忌とされている。

脚注[編集]

関連項目[編集]