美術モデル

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美術モデル(中央上部:19世紀・フランス)

美術モデルとは、絵画彫刻版画素描など、あらゆる美術作品に資するための人体モデルである。絵のモデルについては絵画モデルともいう。

日本では、明治時代には芸用モデル、といわれていたが、戦後外来語が多用される時代に至りデッサン[1]モデル、クロッキー[2]モデル、美術モデルなどと、用途や使命によって呼ばれ方が変わる。“写真起こし”では得られない、生身の立体モチーフでの練習などでは必要である。

歴史[編集]

ルーブル美術館の入館案内書の記述によれば、美術モデルは紀元前からその存在は確認されているとあり、モデルと名のつく物の中では最古の存在であるとの説もある。日本においては、明治時代1871年頃より宮崎菊という女性が裸婦モデルをしたのが最初とされるが、江戸時代の浮世絵春画にも裸婦像がみられる。春画の場合、上半身には着物を着ている場合も多い。

概要[編集]

美術モデルは、立ち・座り・寝ポーズの基本的ポーズをとるのが普通である。ポーズは通常、毎回同じポーズをとる場合と、毎回違うポーズをとる場合がある。前者は「固定ポーズ」、後者は「クロッキー」と呼ばれることが多い。クロッキーの場合は短時間でモチーフの形状をつかむことを主眼に行われる。そのため、5分以下で順次ポーズを変えることもしばしば行われる。その他に、静止せずにずっと動き続けている、「ムービング」と呼ばれるものもある。

20分間ポーズをとり、10分間ないし5分間の休憩を挟むのが一般的である。20分ポーズを6回で一単位とし、ポーズと休憩の合計時間は、2.5時間~3時間というケースが多い。

美術モデルとして求められるのは、ポーズ中動かないこととされている。固定ポーズの場合は、休憩をはさんでも同じポーズをすることが当然求められる。

クライアントの要求により、ポーズを決めるのに数分かかることもある。また、ポーズはモデルに任せられることも多いため、その場の描き手の技量や求めるものに応じ、瞬時にポージングしていくことが必要とされる。また、動きの大きなポーズほど体力的にきついものとなり、相応の慣れと忍耐を必要とする。そのため、多くの場合、美術モデル斡旋事務所等に所属している、プロのモデルを使用するのが通例である。

なお、美術モデルとは、「芸術の分野に於ける創作活動に従事するモデル」であり、商業関係や芸能関係やファッション関係のモデルとは異なる職業である、と、理解しておきたい。

需要[編集]

構図や採寸の基本となる骨格や筋肉のつき方を習得するのに最適であるし、人体そのものが無限の曲線からなるため、モチーフとしてもきわめて追求しがいのあるものである。体型や年齢としてはさまざまな体型、年齢のモデルを描くのが理想であるが、モデルを確保するのは大都市部の美術系大学や絵画教室以外では、かなり困難である。中高年のモデル希望者も減っていることから、必然的に標準体型か痩せ型の若いモデルが増加している。

モデルの需要としては、現在ではモデルを使用するのが絵画系の美大や絵画教室だけでなく、デザイン系、マンガ系、服飾系など様々な学校から個人的なサークルまである。ヌードモデルから、民族衣装・バレエ衣装などの舞踊衣装・職業制服・ドレス・平服(カジュアルな服装)等の様々な衣装を着用する着衣モデルまで、業務内容も多様である。

プロの美術モデルの場合は、ヌードモデルのみを専門にしているモデルも、着衣モデルのみを専門にしているモデルも存在しているが、女性ヌードモデルの需要が圧倒的に多い。着衣のモデルの場合、自前の民族衣装やバレエの衣装を用いることも多い。

美術モデルの需要について見ると、男性は女性よりも圧倒的に少なく、実際の現場でも女性モデルの雇用が多い。ただし、ジェンダーフリーの世の中を反映して、また実際的な要求としても筋肉や骨格を把握しやすいことや、男女差の認識の必要性等、昔よりも男性モデルを目にする機会は少し増えてきた。学校によっては、女性モデルしか使用しないが、一方では半数ずつカリキュラムを組む場所もあり、要は講師の考え方しだいである。

モデル報酬など[編集]

専業としている美術モデルも少なからずいる一方、美術・舞踏・バレエ・現代舞踊・演劇・音楽系の仕事をしていて(あるいは目指しながら)兼業として美術モデルをしている人も多い。報酬は、フリーのモデル(美術モデルを斡旋している事務所等に所属していないモデル)で、謝礼程度の報酬や交通費などである。美術モデル事務所等に所属しているプロの美術モデルの場合には、事務所規定の報酬となる訳だが、モデル本人への支払いも更に高額になる上に、事務所への支払いも必要になる。

クロッキー会や絵画教室、美術大学では、モデルに対する迷惑行為はしてはならない。例えばクロッキー会の後に、モデルにしつこく言い寄るような行為のことである。また、モデルに対してプライベートな質問はしない、というのが暗黙のルールでもある。

彫刻のモデルの場合、ポーズをつける際に、モデルの手や腕にふれてポーズをつけることもある。

アート作品製作上、写真撮影を求められる場合もある。しかし、美術モデルを斡旋している事務所等に所属しているプロの美術モデルの場合には、モデルの写真撮影は基本的に事務所が禁止している場合がある為、写真を撮る場合にはモデル本人やモデル事務所に必ず確認が必要である。

関連項目[編集]

著名な美術モデル[編集]

女流美術家として名を上げた人も含まれる。

外部リンク[編集]

脚注[編集]

出典[編集]

  • 『美術モデルのころ』著者:長島はちまき(basilico)
  • 『ある美術モデルの肖像』著者:小林範子(大陸書房)
  • Lipton, Eunice (1992). Alias Olympia: A Woman's Search for Manet's Notorious Model and Her Own Desires. Cornell University Press. ISBN 978-0-8014-8609-8. 
  • Steiner, Wendy (2010). The Real Thing: the Model in the Mirror of Art. University of Chicago Press. 
  • Waller, Susan (2006). The Invention of the Model: Artists and Models in Paris, 1830–1870. Burlington: Ashgate. ISBN 0-7546-3484-1.