平安京エイリアン
『平安京エイリアン(へいあんきょうエイリアン)』は、1979年に東京大学の理論科学グループ(略称:TSG)が開発したコンピューターゲーム。当初はパソコンゲームだった。翌1980年1月に電気音響株式会社からアーケードゲームとして発売されている。
概要
東大生が開発したゲームと当時話題になった。プレイヤーは検非違使(けびいし)を操り、平安京に侵入したエイリアンを殲滅(せんめつ)させるという内容。穴を掘り、エイリアンを落とし、埋めるという単純なルールではあるが、それまでの攻めのゲームと違って、プレイヤーが敵に対して行うことは「待ち」であり、非常に戦術的な要素を持っていた。
穴に落ちたエイリアンを埋めるとポイントになり、落としてから埋めるまでの間が短いほど高得点になる。エイリアンは面が進むたび4匹、6匹、8匹と増加。一定時間で穴から脱出するほか、仲間のエイリアンが接触すれば助けられる。1ラウンドで一定時間が経過するとエイリアンが16匹に増殖し、事実上のタイムアウトになる。
ハイスコアを出すと、この頃から定着しつつあったネームエントリーが可能になる。文字の選択方法はただカーソルを動かすのでなく、検非違使を動かして文字のある道を通過するという、凝った演出になっている。
2人プレイでは「1人ずつの交互プレイ」「2人で同時(協力)プレイ」があり、前者をPart1、後者をPart2として選択できる。
CPUはZ80、アーケードゲーム基板はセガ『ヘッドオン』のコピー品を使用している。ただし元々の基板がコピー品ゆえ容易にコピーが可能で、結果として実際に世の中に出回った基板の大半は「コピー品のコピー品」とでも言うべき他社製の基板となってしまった。そのため電気音響製の純正品は現存数が少ない。[1]
開発背景
1979年、週刊朝日の「デキゴトロジー」という人気コラムで、大学サークルが開発したビデオゲームを紹介するシリーズがあった。東工大のゲームが紹介され、次に東大が取材された。記者はまず東大マイコンクラブ(TSGとは別の団体)に行ったが、同サークルが見せたゲームは記者が想定するレベルを満たしていなかった。そこでTSGに取材を申し入れたが、TSGは当時ゲームについて何も取り組んでいなかった。
急遽学生会館ロビーでアイディア出しを行い、河上達(現ソニー)が平安京エイリアンのアイディアを出した。取材時にはアイディアの説明をおこない、これが週刊朝日に掲載された。しかしこの時点では紙の上のアイディアだけで、プログラムにはなっていなかった。その後サークルのメンバーがApple II、言語はBASICでプログラムを作り上げると、記事を見たナムコ、セガ、そして電気音響の三社からオファーが入る。具体的な商品化案を持ってきた電気音響から翌年発売された。開発にあたったTSGのメンバーは荒川隆志、田畑光敏、河上達、武重有正(現Hyperware)、島田啓一郎(現ソニー)達である。
当初のアイデアは「マンションのリビングにゴキブリが這い回っているところにゴキブリホイホイを仕掛けて退治する」というものだったという。ただ、それだとプレイヤーの自由度が大きすぎるのでフィールドを碁盤の目とし、当時映画『エイリアン』が封切り直後だったためメンバーから「どうしてもエイリアンを出したい」という意見があり、ゴキブリをエイリアンに、ゴキブリホイホイを落とし穴に変更。フィールドも碁盤の目のような町ということでいくつか名前が挙がった中から平安京となり、ゲームの大枠が固まったとのこと。[1]
開発当時に「口裂け女」が流行っていた影響で、最初に開発されたパソコン版では、エイリアンから逃げられるようにするためにべっこう飴ボタンというのがあった[2]。ところが1レバー3ボタンという構成は当時のハードウェアではできなかったためアーケード版では削除され、他のゲーム同様に「三回死んだらゲームオーバー」とされている。
なお同社の次回作『ダンシングクイーン』にはTSGは関係していない。
テクニック
エリアは格子状の路地であるため(ゲームを面白くするため、一部路地が埋められて迷路状になっている)、これを応用した様々なテクニックが生まれた。これらは当初『I/O』に掲載された程度のため、マイコン少年の間でしか話題にならなかったが、漫画『ゲームセンターあらし』(すがやみつる)に取り上げられた事で(漫画にも『I/O』からの出典が明記されている)、よく知られた存在となった。[3]
- 隠居掘り
- 自分の直前と直後に穴を掘って、不意打ちされる死角を無くしたもの。ただしエイリアンが二匹以上で来ると、最初のエイリアンが穴に落ちても次のエイリアンが助けるため、逃げ道が無く、(特にエイリアンが多い局面では)食われる危険性が高い。
- アキバ掘り
- 十字路の中央に位置し、四方向の次の十字路に穴を掘るもの。形がJR秋葉原駅に似ている事からこう呼ばれる。隠居掘りよりエイリアンが穴に落ちやすいため初心者向けだが、逃げ道がない欠点は隠居掘りと同じ。
- 長野掘り
- T字路をエイリアンが動く場合、プログラム上はエイリアンが直線区間を動く確率が高いため、残った一方へエイリアンが曲がってこない(掘り上がる前にエイリアンが穴を埋めてしまっても、検非違使のいる一方側にやって来ない)確率が低い事に賭けて、検非違使を一方側に置きながらT字交差点に穴を掘るもの。長野県出身のTSG会員が編み出した事から命名。
- 心臓掘り
- 迫り来るエイリアンを前にタイミングを計算しながら穴を掘るもの。心臓に悪い技なのでこの名がある。
- 伊藤掘り
- エイリアンが穴に落ちた後すぐ埋めればいいが、しばらくたってから埋め始めると得点が低かったり、時間がたって這い出したエイリアンに食われる危険性がある。そこで落ちた穴の隣に新しい穴を掘り、這い出したエイリアンが新しい穴に落ちたら即座に埋めるもの。東大TSGの伊藤が編み出した事から命名。『あらし』では、あらしが教わってもいないのにこの技を使った事で敵が驚くシーンがあり、そのシーンでこれらのテクニックが説明されていた。
- イゲタ掘り
- 一区画に存在する?十字路四つ×隣接する二方向=計八方向に穴を掘り、完成した形がイゲタ(#)状に見えるのでこの名がある。隠居掘りやアキバ掘りと違ってエイリアンが進入しても逃げ道があり、また伊藤掘りもしやすい(この位置でエイリアンが穴から這い出しても、絶対同じ方向に進む)という二大長所を持つ。ただしイゲタ掘りだけは『I/O』初出時には収録されておらず(したがって『あらし』でも紹介されていない)、別冊「マイコンゲームの本1」に再録された時にこの名がついたため、アーケード版では最も多用されるテクニックとなったが、この名だけはあまり使われなかった。
関連作品
アーケード版
- スペシャルデュアル改造によるコピーゲーム
- 壁の色がオリジナルは緑だが、スペシャルデュアル改造は水色と黄色が存在する。
- 背景の青いコピーゲーム
- こちらはスペシャルデュアルの筐体は使われていなかった。壁は水色、つまり背景色と併せて青の濃淡になっている。
- タイトー版
- ライセンス生産かコピーゲームは不明。筐体やインストラクションカードもタイトー式で当作専用のものが作られた。サウンドもヘッドオンのものを多数使用している。壁は水色。
- タイムエイリアン(豊栄産業→今のバンプレスト)
- エイリアンの速度が最初から最速(ただし穴掘りや穴埋めの時処理落ちする)
- 掘りかけの穴にエイリアンが来た時、オリジナルでは穴が埋まってしまうが、このゲームはそのまま残る。
- サウンドが全て異なる。例えば最初にエイリアンが出現する時、オリジナルは一匹ずつ、このゲームは二匹ずつサウンドが繰りかえされる。
- 壁は黄色。
- など、ゲーム内容にある程度アレンジが行なわれた唯一の作品。
- Digger(セガ・グレムリン)
- アメリカへの輸出用で、ゲーム名の意味は「穴掘り屋」(『ディグダグ』と同語源である)。基本ルールは同じだが、画面などが作り直されており、フォントなどは『ヘッドオン』と同じ。
- スペースパニック(ユニバーサル→後のアルゼ)
- 当作の視点を真上から真横に表現したもので、プレイヤーが上の穴から下の階に飛び降りる事が出来たり、敵(モンスター)を埋める際に縦一列に穴が開いていればまとめて倒すこともできる。
- またチュンソフトの中村光一はアマチェア時代にこのスペースパニックをPC-8001に移植し『I/O』に投稿。『ALIEN Part2』の名で掲載され、中村が手がけたゲームとして多くの人に知られる存在となった。
- キッドのホレホレ大作戦(日本物産)
- 当作のリメイクとして出たもの。
移植
- 雰囲気はオリジナルに忠実。
- 前述のとおり、元々このマイコン版がオリジナルである。壁は黄色。
- キャラクターがドラえもんに変更されており、それにあわせてデモの追加、ドラえもんの曲をアレンジしたBGM、収集物が「ドラ焼き」、出口が「どこでもドア」といった変更がされている。実質は『ホレホレ大作戦』のアレンジ移植版。
- 単に昔のゲームが遊べるだけでなく、検非違使を追いかける別種エイリアンが存在する等のリメイク版も遊べる。コーヒーブレイクデモでは検非違使とエイリアンのダンスが見られる。
- ニチブツにライセンスがあったので、移植することができた。
- 2001年 iモード、j-sky(現・Yahoo!ケータイ)、EZweb版
脚注
- ^ a b 「超アーケード」(多根清史・箭本進一・阿部広樹著、太田出版、2002年)pp.10 - 23
- ^ 「口裂け女はべっこう飴が大好物なので、襲われてもべっこう飴を渡すと口裂け女が夢中でなめている間に逃げられる」という俗説から。
- ^ ちなみに『ゲームセンターあらし』にはTSGも出演しているが、「超アーケード」によれば「特にTSGに話はなく、勝手に載せられた」とのこと。