リバタリア

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リバタリア(Libertalia)とは、チャールズ・ジョンソン英語版による海賊の伝記集『海賊史』の第二巻に登場する海賊のユートピアのことである。

リバタリアは18世紀フランス人の海賊ミッソンと修道士のカラチオーリによってマダガスカル島に建設された。リバタリアは当時の一般的な通念である奴隷制や専制主義などを否定し自由や平等、民主主義などの価値観を重視していた。またリバタリアの住人達は既存の人種区分を嫌悪し自らをリベリと称した。最終的にリバタリアは彼らを恐れたマダガスカルの先住民達により破壊されたという。

リバタリアについて記された史料は『海賊史』以外に存在せず現代の研究者はリバタリアおよび創設者のミッソンはジョンソンによる創作だと考えている[1][2]

背景[編集]

リバタリアは、海賊と海賊船長のミッソンによって設立された伝説上のコロニーであるが、ほとんどの歴史家がその実在に疑問を呈している。リバタリアという名前はラテン語で自由を意味するリベリが元になっている。ミッソンが掲げる理想は、あらゆる人種、信条、信念を持つ人々が、どんな制限も受けないような社会を創るというものだった。彼はリバタリアの人々に、過去の出身国によるものではなく、リバタリア独自のデモニムを与えたかった[3]:417。歴史家で活動家のマーカス・レディカーは海賊について下記のように説明している。

These pirates who settled in Libertalia would be "vigilant Guardians of the People's Rights and Liberties"; they would stand as "Barriers against the Rich and Powerful" of their day. By waging war on behalf of "the Oppressed" against the "Oppressors," they would see that "Justice was equally distributed."[4]

リバタリアのモットーは「神と自由のために」であり、ジョリー・ロジャーとは対照的な白い旗を使用していた[5]

位置[編集]

リバタリアが存在していた可能性がある、アントンギル湾 (ランター湾)の地図。

現代の研究者たちは、リバタリアは実在した場所ではなく、フィクションの存在であったと考えている[6]。ジャーナリストのKevin Rushbyは、海賊の子孫を見つけ出すためにこの一帯を探し回ったが、出会すことはできず、「他の人もチャレンジしては失敗している」と指摘した[7]

マダガスカル島とその周辺には海賊の入植地があり、リバタリアはそこを拠点にしていた可能性もある。フォール・ドーファンアブラハム・サミュエルセント・マリー島アダム・ボールドリッジランター湾ジェームズ・プランティン、これらは皆元海賊で、交易所や町を設立していた。これらの場所は、その時代の公式文書や手紙に頻繁に登場するが、リバタリアは海賊史の第2巻だけにしか記載がない[8]。歴史家のクリストファー・ヒルはリバタリアはランター湾にあったのではないかと指摘している[9]

ジョンソンは、リバタリアについて詳述している。リバタリアの港の両側に高架の砦を建設して、各砦に40丁の鉄砲を配置する計画をポルトガル人が提案していた。砦の下には、町と居住区があった。リバタリアは、最寄りの町から東南東に約13マイル離れた場所に位置していた[3]

批判[編集]

ジョンソンによる『リバタリア』は、完全なフィクション[10]、作り話(apocryphal)[11]、あるいはutopian commentaryとして扱われてきた[12]。『海賊史』にミッソンのような架空の人物が含まれていることを根拠に、この書物全体が信頼できないと判断する学者も存在するが、他の部分は様々な史料により裏付けが取られている[13]

脚注[編集]

  1. ^ フィリップ・ゴス『海賊の世界史 下』朝比奈一郎訳、中公文庫、2010年8月25日、41頁。
  2. ^ 薩摩真介『海賊の大英帝国』講談社、2018年11月9日、143頁。
  3. ^ a b DeFoe, Daniel (26 January 1999). A General History of the Pyrates. Toronto: Dover Publications. ISBN 0-486-40488-9 
  4. ^ Rediker, Marcus (2004), Villains of All Nations: Atlantic Pirates in the Golden Age, Beacon Press, Beacon, Massachusetts. 0-8070-5024-5.
  5. ^ Philip Gosse (March 24, 2014). “Misson, Captain”. The Pirates' Who's Who. Burt Franklin. pp. 211–219. http://www.gutenberg.org/files/19564/19564-h/19564-h.htm 
  6. ^ Little, Benerson (15 September 2017) (英語). The Golden Age of Piracy: The Truth Behind Pirate Myths. New York: Skyhorse Publishing, Inc.. ISBN 9781510713048. https://books.google.com/books?id=M2uIDAAAQBAJ 
  7. ^ Rushby, Kevin (4 October 2017) (英語). Hunting Pirate Heaven: In Search of Lost Pirate Utopias. New York: Bloomsbury Publishing USA. ISBN 9780802779779. https://books.google.com/books?id=cxCiAwAAQBAJ 
  8. ^ Pirates & Privateers: the History of Maritime Piracy - Pirate Havens Madagascar”. www.cindyvallar.com. 2017年10月4日閲覧。
  9. ^ ロドルフ・デュラン、ジャン=フィリップ・ベルニュ『海賊と資本主義: 国家の周縁から絶えず世界を刷新してきたものたち』Cccメディアハウス、2014年8月20日(日本語)。
  10. ^ Sanders, Richard (18 September 2017) (英語). If a pirate I must be: the true story of Bartholomew Roberts, king of the Caribbean. London: Aurum. pp. 154–155. https://books.google.com/books?id=7iB_AAAAMAAJ 
  11. ^ Leeson, Peter (5 June 2017). “The Invisible Hook”. NYU Journal of Law and Liberty 4: 155. http://www.peterleeson.com/The_Invisible_Hook.pdf. 
  12. ^ Fox, Edward Theophilus (8 September 2017) (英語). 'Piratical Schemes and Contracts': Pirate Articles and Their Society 1660-1730. Exeter UK: University of Exeter. https://ore.exeter.ac.uk/repository/handle/10871/14872 
  13. ^ Kuhn, Gabriel (4 October 2017) (英語). Life Under the Jolly Roger: Reflections on Golden Age Piracy. Oakland CA: PM Press. ISBN 9781604860528. https://books.google.com/books?id=FGX7BgAAQBAJ