リッチモンド公爵

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リッチモンド公爵ゴードン=レノックス家の紋章のエスカッシャン部分

リッチモンド公爵英語: Duke of Richmond)は、イングランド貴族公爵位。

4回創設されており、現存する第4期のリッチモンド公爵位はイングランド王チャールズ2世の非嫡出子チャールズ・レノックス1675年に叙されたのに始まり、以降その子孫のレノックス家(後にゴードン=レノックス家と改称)によって代々世襲されている。同家はスコットランド貴族爵位レノックス公爵連合王国貴族ゴードン公爵、フランス貴族爵位オウビーニュイ公爵フランス語版を併せ持っている。法定推定相続人は従属爵位の一つマーチ伯爵英語版儀礼称号として称する。

歴史[編集]

リッチモンド公爵位は4回創設されている。いずれもイングランド貴族の爵位である。現存するのは第4期のリッチモンド公爵位である。

1期〜3期[編集]

1525年ヘンリー8世の非嫡出子ヘンリー・フィッツロイ(1519–1536)サマセット公爵位やノッティンガム伯爵位とともに授与されたのが最初の創設だが、彼には子供がなかったので一代で絶えている[1]

二期目は、第2代レノックス公爵(スコットランド貴族)ルドヴィック・ステュワート英語版(1574-1624)1623年5月17日に授与されたのにはじまる。しかし男子後継者を残せなかったため、やはり一代で絶えた[2]

一方レノックス公爵位はルドヴィックの弟エスメ英語版(1579-1624)に継承されたが、彼は継承後すぐに死去し、その長男であるジェイムズ(1612-1655)が第4代レノックス公爵位を継承した。このジェイムズに1641年8月8日にリッチモンド公爵位が与えられたのが3期目の創設である[3]。しかし3代目のチャールズ英語版(1639-1672)を最後に継承者が途絶え、レノックス公爵位をはじめとする他の爵位ともども消滅した[4]

4期レノックス家[編集]

グッドウッド・ハウス英語版をバックに立つ第9代リッチモンド公爵フレデリック・ゴードン=レノックス英語版

フランス王ルイ14世がイングランドの宮廷にスパイとして送り込んだ女官ルイーズ・ケルアイユ(1649-1734)イングランド王チャールズ2世の御手付きとなり、その間に非嫡出子チャールズ・レノックス(1672-1723)を儲けた。このチャールズが1675年8月9日に3歳にしてリッチモンド公爵に叙されたのが現在まで続く4期目のリッチモンド公爵位の創設である。彼は直後の同年9月9日にスコットランド貴族爵位レノックス公爵位も与えられ、またチャールズの母ルイーズも1684年1月にフランス貴族爵位オウビーニュイ公爵フランス語版を与えられたので、レノックス家はリッチモンド公爵位、レノックス公爵位、オウビーニュイ公爵の3つの公爵位を継承する家柄となる[5]。父チャールズ2世から寵愛を受けた初代公爵は経済面でも優遇され、タイン(Tyne)産出の石炭の出荷量に応じた終身賦課金を受ける権利を与えられ、将来までの財政基盤を確保した。役職面でも主馬頭英語版などを与えられていた。晩年にはウェスト・サセックス・グッドウッド(Goodwood)に屋敷英語版と所領を構えた[6]

2代公爵チャールズ(1701-1750)は襲爵前に陸軍軍人や庶民院議員を務めた。爵位継承後はジョージ1世ジョージ2世の侍従を務めた。また領地に動物園を創設したことでも知られる[7]

3代公爵チャールズ(1735-1806)は陸軍元帥まで昇進した軍人であるとともに貴族院議員として議会政治に積極的に参加し、王室費の無駄使いを追及したり、選挙法改正による選挙権の拡大や選挙権を18歳に引き下げる改革を熱心に訴えたが、こうした主張は当時は過激思想と看做されていたので「社会主義者」と呼ばれて政界で忌み嫌われたという[8]。政界以外の活動では1801年グッドウッド競馬場を創設している[9]

4代公爵チャールズ英語版(1764-1819)も陸軍軍人として活躍しながらトーリー党の議員として議会で活躍した。1789年の摂政法改正問題の際には摂政の権限を制限すべきことを訴えて国王ジョージ3世の次男であるヨーク公フレデリックと対立を深めて決闘に及んでいる(両者とも大きな怪我はなかった)[10]。その後、1818年英国領北アメリカ(カナダ)総督になっているが、その翌年にセント・ローレンス川狂犬病にかまれて恐水病となり病死している[11]

5代公爵チャールズ英語版(1791-1860)も襲爵前には陸軍軍人を務め、爵位継承後にはホイッグ党の議員として政界で活躍し、1830年から1834年のホイッグ党政権で郵政長官英語版を務めている[12]。また競馬では襲爵前の1812年グッドウッドカップの創設を主導した[9]。5代公爵の母シャーロットはゴードン公爵ゴードン家の出身であるが、1836年にゴードン公爵家が跡継ぎなく絶えた際に彼女が唯一の相続人となり、これによってゴードン家の財産はレノックス家によって受け継がれることになった。これを機にレノックス家はゴードン=レノックス家と改姓している[13]

6代公爵チャールズ(1818-1903)保守党貴族院院内総務英語版を務め、枢密院議長英語版等の閣僚職を歴任した。ヴィクトリア女王のお気に入りの貴族であり、1876年には祖母の実家の爵位ゴードン公爵位(連合王国貴族)を改めて与えられた。これによってゴードン=レノックス家はリッチモンド公爵位、レノックス公爵位、ゴードン公爵、オウビーニュイ公爵の4つの公爵位を持つ唯一の家柄となった。彼の代にはその所有地は28万エーカーにも及んでいたという[14]

7代公爵チャールズ(1845-1928)と8代公爵チャールズ英語版(1870-1935)の相次ぐ死で相続税・財産税攻勢の直撃を被り、9代公爵フレデリック英語版(1904-1989)は家計の立て直しに苦労した。この際にスコットランド・フォッシャバーズ英語版ゴードン城英語版やその周辺の土地、スコットランド・バンフシャーの土地などを売却している。地主業だけに頼る貴族的生活に見切りをつけて、グッドウッド地所会社を創設して家具製造・競馬場・住宅建設など幅広く事業を手掛けた[15]

10代公爵は、9代公爵の長男チャールズ英語版(1929-2017)である。現在の当主はその長男チャールズ英語版(1955-)であり、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードの創設者として知られる[16]

現当主の保有爵位[編集]

現在の当主である第11代リッチモンド公爵チャールズ英語版は以下の爵位を保有している[17][18]


一覧[編集]

第1期リッチモンド公(1525年)[編集]

肖像 爵位の代数
名前
(生没年)
受爵期間 続柄 その他の爵位
Horenbout HenryFitzRoy.jpg 初代リッチモンド公爵
ヘンリー・フィッツロイ
(1519-1536)
1525年
- 1536年
ヘンリー8世の非嫡出子 サマセット公爵
ノッティンガム伯爵

第2期リッチモンド公(1623年)[編集]

肖像 爵位の代数
名前
(生没年)
受爵期間 その他の爵位
Portrait of Ludovic Stewart 2nd Duke of Lennox by Simon de Passe.jpg 初代リッチモンド公爵
ルドヴィック・ステュワート英語版
(1574-1624)
1623年
- 1624年
レノックス公爵
レノックス伯爵英語版
リッチモンド伯爵

第3期リッチモンド公(1641年)[編集]

肖像 爵位の代数
名前
(生没年)
受爵期間 続柄 その他の爵位
James Stuart Louvre.jpg 初代リッチモンド公爵
ジェイムズ・ステュワート
(1612-1655)
1641年
- 1655年
ルドヴィックの甥 レノックス公爵
レノックス伯爵英語版
マーチ伯爵英語版
レイトン・ブロムズウォルドのステュアート男爵
John Weesop Esme Stuart Duke of Richmond c.1653.JPG 第2代リッチモンド公爵
エスメ・ステュワート英語版
(1649-1660)
1655年
- 1660年
先代の子
Peter Lely Charles Stewart 3rd Duke of Richmond.jpg 第3代リッチモンド公爵
チャールズ・ステュワート英語版
(1639-1672)
1660年
- 1672年
先代の従兄弟 レノックス公爵
レノックス伯爵
マーチ伯爵
リッチフィールド伯爵英語版
レイトン・ブロムズウォルドのステュアート男爵
クリフトン男爵英語版

第4期リッチモンド公(1675年)[編集]

肖像 爵位の代数
名前
(生没年)
受爵期間 続柄 その他の爵位
Charles Lennox, 1st Duke of Richmond and Lennox by Sir Godfrey Kneller, Bt.jpg 初代リッチモンド公爵
チャールズ・レノックス
(1672-1723)
1675年
- 1723年
チャールズ2世の非嫡出子 レノックス公爵
マーチ伯爵英語版
ダーンリー伯爵
セトリントン男爵
トーボールトン卿
Charles Lennox, 2nd Duke of Richmond, Duke of Lennox.jpg 第2代リッチモンド公爵
チャールズ・レノックス
(1701-1750)
1723年
- 1750年
先代の子
3rd Duke of Richmond.jpg 第3代リッチモンド公爵
チャールズ・レノックス
(1735-1806)
1750年
- 1806年
先代の子
Henry Hoppner Meyer10.jpg 第4代リッチモンド公爵
チャールズ・レノックス英語版
(1764-1819)
1806年
- 1819年
先代の甥
Charles Gordon-Lennox, 5th Duke of Richmond and Lennox by William Salter.jpg 第5代リッチモンド公爵
チャールズ・ゴードン=レノックス英語版
(1791-1860)
1819年
- 1860年
先代の子
Charles Henry Gordon-Lennox, 6th Duke of Richmond, 6th Duke of Lennox, and 1st Duke of Gordon.jpg 第6代リッチモンド公爵
チャールズ・ヘンリー・ゴードン=レノックス
(1818-1903)
1860年
- 1903年
先代の子 レノックス公爵
ゴードン公爵
マーチ伯爵
ダーンリー伯爵
キンラーラ伯爵
セトリントン男爵
トーボールトン卿
Charles Henry Gordon-Lennox, Vanity Fair, 1896-08-20.jpg 第7代リッチモンド公爵
チャールズ・ヘンリー・ゴードン=レノックス
(1845-1928)
1903年
- 1928年
先代の子
Charles Henry Gordon-Lennox, 8th Duke of Richmond and 3rd Duke of Gordon.jpg 第8代リッチモンド公爵
チャールズ・ヘンリー・ゴードン=レノックス英語版
(1870-1935)
1928年
- 1935年
先代の子
9th Duke of Richmond & Gordon 6 Allan Warren.jpg 第9代リッチモンド公爵
フレデリック・チャールズ・ゴードン=レノックス英語版
(1904-1989)
1935年
- 1989年
先代の子
10th Duke of Richmond & Gordon & 5th Duke of Lennox colour.jpg 第10代リッチモンド公爵
チャールズ・ヘンリー・ゴードン=レノックス英語版
(1929-2017)
1989年
- 2017年
先代の子
Lord March.JPG 第11代リッチモンド公爵
チャールズ・ゴードン=レノックス英語版
(1955-)
2017年
- 受爵中
先代の子

法定推定相続人は、現当主の長男マーチ=キンラーラ伯爵(儀礼称号)チャールズ・ゴードン=レノックス(1994-)

系図[編集]

脚注[編集]

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注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^  Martin, Charles Trice (1889). "Fitzroy, Henry (1519-1536)". In Stephen, Leslie. Dictionary of National Biography. 19. London: Smith, Elder & Co. pp. 204–205. 
  2. ^ Lundy, Darryl. “Ludovic Stuart, 2nd Duke of Lennox” (英語). thepeerage.com. 2014年12月24日閲覧。
  3. ^ Lundy, Darryl. “James Stuart, 4th Duke of Lennox” (英語). thepeerage.com. 2014年12月24日閲覧。
  4. ^ Lundy, Darryl. “Charles Stuart, 6th Duke of Lennox” (英語). thepeerage.com. 2014年12月24日閲覧。
  5. ^ 森(1987) p.190-191
  6. ^ 森(1987) p.194-195
  7. ^ 森(1987) p.196-197
  8. ^ 森(1987) p.198-199
  9. ^ a b ロングリグ(1976) p.139
  10. ^ 森(1987) p.200-201
  11. ^ 森(1987) p.201-202
  12. ^ 森(1987) p.202
  13. ^ 森(1987) p.202-203
  14. ^ 森(1987) p.203
  15. ^ 森(1987) p.203-204
  16. ^ Lundy, Darryl. “Charles Henry Gordon Lennox, Earl of March and Kinrara” (英語). thepeerage.com. 2014年12月24日閲覧。
  17. ^ Lundy, Darryl. “Charles Henry Gordon Lennox, 10th Duke of Richmond” (英語). thepeerage.com. 2014年12月24日閲覧。
  18. ^ Heraldic Media Limited. “Richmond, Duke of (E, 1675)” (英語). Cracroft's Peerage The Complete Guide to the British Peerage & Baronetage. 2015年11月1日閲覧。

参考文献[編集]

関連項目[編集]