フォモール族

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フォモール族(フォモールぞく、Fomoireフォウォレ)は、アイルランド神話に伝わる巨人族。なおゲール語において、M音とW音は混同されやすい。

 草野巧によれば、山羊などの頭を持つと言われ[1]、また、文献によっては「単眼で隻腕、一本足」と言われるが、マダと言われるフォモールの戦士は「1本腕、100本の脚 4つの頭」と書かれ、キッホル(Cichol Gri-cen-chos)王は、手足がない、肉の塊のようだと言われる。

 アイルランドのさらに北に位置する、「荒波のロッホラン(Lochlann)」を故郷とするとされる[2]

呼称或いは語源説[編集]

健部伸明編『幻獣大全』(新紀元社 214頁)によれば、フォモールという語がFogh(略奪)とMara(海)から作られていることから、海賊として語られていたとする。また、アンナ・フランクリン『図説妖精百科事典』404頁では、海の巨人を指す「Fomhoire」、また地下の妖精の意味である「Fomhoisre」を語源とする。

 キャロル・ローズ『世界の怪物・神獣事典』361頁によれば、表記は「Fomor」「fomorian」「fomoire」「fomoiri」「fomhoraigh」「fomhoire」「fomorii」「fo-muir」がある。

井村君江はフォモールについて「海の下」としている[3]

概要[編集]

西方から訪れた種族の侵入を再三にわたって阻んだ異形の巨人で、巨石を苦もなく扱う、人喰いの怪物とされる。

 K・ブリッグズ他は、「土着の」者であるとし、水木しげるは「太古からアイルランドに棲みついて」いる彼らについて『妖精なんでも入門』で日本の先住民族とされる土蜘蛛などとの関連性を示唆している[4]が、『幻獣大全』では、「(ケルトとして)異文化」で、彼らへ恐ろしい強敵として登場するこの一族について、a『オシァン』にロッホランにはノルド人の王が住むという描写があるbフォモールは連合国家であり、ヨトゥンとの類似も含め北欧の政治体制と似る、点から「ゲルマン人」がモデルであるとする説と、アイルランドの巨石機構がアフリカから運ばれたとする『ブリテン列王史』第6部8章2節の記述から、「アフリカ人」であるとする伝承もあるとしている[5]。 。アンナ・フランクリンは、彼らの皮膚が「浅黒い」と書かれることから、「初めて妖精を語った」と言われるクロマニヨン人の表現するネアンデルタール人の可能性がるという説を紹介している[6]

 彼らは火を使う習慣が無かったらしく、トゥアハ・デ・ダナンのキアン(Cian)が火を使っているために、バロールが受け入れている。

来歴[編集]

 最初[7]に侵入してきたパーソロン族は、入植後300年目を明日に控えた頃、フォモール王、足無しキッホル率いる、隻脚で隻腕の兵士と接触する。彼らの間で行われたイーハ平原の戦い(Cath Maige Itha)で、フォモール軍は一応パルホーロン軍に壊走させられるが、彼らは最後フォモール族によってペストに感染させられ全滅した。次に侵略してきたネヴェズ族は、当初、Rath(王宮)の建設にフォモールの4人へ掘を作らせたが、彼らが1日で作ってしまったため、彼らがネヴェズ族の王によって殺される。それに対する報復として、フォモールの2人の王ゲン(Gend)、セニャン王(Segnand)が、4度戦いを挑むが、戦争そのものはフォモールの敗退と2王の戦士で終る。ただその後、伝染病によりネヴェズ王が死んだため、彼らはフォモール族に隷属を強いられ年貢として穀物、牛と子供を納めなければならなくなった。

フォモール族の支配に最初に成功したのはフィル・ボルグ族であるが、彼らはフォモール族とは平和的に共存し、彼らとフォモール王との間に後の王となるインジッヒ(Indich mac de domnann)が産れる。インジッヒは後にフォモールを率いて5番目の侵入者であるトゥアハ・デ・ダナーン(ダーナ神族)と戦い、戦死することになる。その彼らトゥアハ・デ・ダナンはやはり当初、穏やかというより冷戦のような状態が続き、不死王エラハ(Eratha mac delbaeth)のような、トゥアハデダナンの娘エリーと恋をしブレスを生むに至る者も出る。

彼らはフィル・ボルグ族よりも巧妙にフォモール族を懐柔し、フォモール族の隙を付いて彼らをアイルランドから駆逐しロッホランへも侵入、ミズケーナ王を虐殺する。その後生き延びた者は妖精としてひっそりと暮らしているといわれている。

マグ・トゥレドの戦い[編集]

 トゥアハデダナン、とフィル・ヴォルグ(厳密には彼らの内にフィル・ドーナン、ガリョーンという別の一族がいる)、フォモールは当初、エリンの島を2分していたが、それぞれの人口増加により領土問題が発生し、1回目の「マグ・トゥレドの戦い」が勃発する。  これによりフィル・ボルグの王Eochaidが戦死、ヌァザが腕を失って終結する。後エラッハの息子ブレスが推されてトゥアハ・デ・ダナーンの王に即位することになった。

 トゥアハ・デ・ダナーンは重税を課された。エラッハの息子ブレスがトゥアハ・デ・ダナーンの王に即位したことをよいことに、「インデフ・ マク・デー・ドウナン(Indich mac de domnann)、エラッハ・マク・デルバイス(Eratha mac delbaeth)、テスラ(Tethra)といったフォウォレ族の3王」がなした[8]とする説と、ブレス王が単独で行ったとする説がある。その7年の圧政後、ヌァザの復帰とブレス王の放逐により事態が変る。

 一説にはトゥアハ・デ・ダナンと融和政策を考えていたという不死王エラッハは、息子たるブレスの亡命と生存を喜んだあと彼の失政をたしなめ、魔眼をもつバロールという勇将(かつヘブリディーズ諸島王)の元へ導き、彼の助言により搾取を継続しはする。

ルーが取税人を倒して勃発する第二次マグ・トゥレドの戦いは、バロールとインデフ王が陣頭に立ち軍を招集した[9]。総力戦であり、フォウォレ族もトゥアハ・デ・ダナーンも、双方が重要な人物を失っている。

亜種または一族[編集]

 健部伸明編『幻獣大全』は、フィンランドの伝承に登場するポホヤ(Pohja)が、「ポホヨラと呼ばれる北の海の底に住んでいる」「疫病を広める」「フォモールとポホヤが発音的に似る」点からこの2つが何らかの関連をしている可能性があるとし、「フォモール」に入れている[10]

 マン島で、巨人はフォール(Foawr)とよばれる。かつて「角足のジミー(Jimmy Squarefoot)」と呼ばれる、陸も海も走る豚を乗り回していた彼らは、フォモールの伝播とされ、人肉食の習慣はないものの投石と、牛の略奪はすると言われる。

 ヤン・ブレキリアン『ケルト神話の世界』139頁で、ウェールズの巨人イズパザデン・ペンカウルをバロールの伝播したものとしている。

 スコットランドファハンはフォモール王キッホル率いる歩兵部隊の、1本足に1本腕でフレイルなどを用いるという描写と類似する為、キャロル・ローズ他はフォモールの亜種であるとしている。

脚注[編集]

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ 草野巧『幻想動物事典』p265
  2. ^ 『幻獣大全』 214頁
  3. ^ 『ケルトの神話 女神と英雄と妖精と』筑摩書房ちくま文庫 56頁
  4. ^ 水木しげる漫画大全集 補巻3 媒体別妖怪画報集(3)』488頁で「フォモーリアン」として収録。
  5. ^ 『幻獣大全』 214頁
  6. ^ 『図説妖精百科』154頁
  7. ^ パーソロン或いはパルホーロン族のさらに前が語られることもある
  8. ^ Gray (1982) tr., The Second Battle of Moytura §50, ed. CMT §25; Stokes (1891), pp. 62–63
  9. ^ Gray (1982) tr., The Second Battle of Moytura §50, ed. CMT §50; Stokes (1891), pp. 74–75
  10. ^ 『幻獣大全』 252頁)

参考文献[編集]

関連項目[編集]