ハック・ア・シャック

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ハック・ア・シャック (Hack-a-Shaq) は、バスケットボールにおいてフリースローの下手な選手に対して意図的にパーソナル・ファウルをすること。もともとはNBAダラス・マーベリックスの監督であったドン・ネルソンがシカゴ・ブルズと対戦するときに失点を減らすために使われた守備の戦術。しかし2000年ごろからはロサンゼルス・レイカーズにいたシャキール・オニールと対戦するチームによって主に使われている。プレーオフなど、緊迫した試合の終盤で使われることがある。

Hackとは相手の選手を手ではたくことによるファウルであり、シャキール・オニールに対して多用されることによって、また、韻を踏んで語感がいいのでこういう名前で呼ばれている。ほかにはブルース・ボウエンに対してBruise-a-Bruce、ベン・ウォレスに対してHack-a-Benという呼び方がされる。デトロイト・フリー・プレスはBop-a-Benと呼ぼうと提案している。

オフ・ザ・ボールの選手に対する意図的なファウル[編集]

ウィルト・チェンバレンが意図的なファウルを頻繁に受けて、リーグが問題視し始めた。初めのころはオフ・ザ・ボール(ボールを持っていない人)の選手へのファウルに対する決まりがなかった。得点能力は高かったがフリースローの下手なチェンバレンは相手ディフェンダーから逃げるため走り回っていた。NBAはこの好ましくない状況を回避するために、試合の残り時間が2分以内では、「オフ・ザ・ボールの選手に対して意図的にファウルをしても、フリースロー後に攻撃権は移らない」というルールを設定した。僅差の試合終盤で行われるファウルゲームでは、ボールハンドリングしているオフェンスプレーヤーに対してファウルを行う必要がある。

パット・ライリーの言葉。「最も楽しいことのひとつは、ウィルトを追っている選手を見ることだった。おにごっこのようだった。ウィルトは走り回った。あまりにもまぬけに見えるのでリーグはルールを変えたんだ。」

ハック・ア・シャックの誕生[編集]

ドン・ネルソン1990年代に理論を生み出す。「フリースローの下手な選手に対するファウルを繰り返すことは、普通のディフェンスをするよりも失点を減らせる」というもの。

この作戦の最初の犠牲者[編集]

ドン・ネルソン1997年にこの作戦をシカゴ・ブルズにいたデニス・ロッドマンに使った[1]。ロッドマンのシーズン平均フリースロー成功率は38%だったためである。しかしその試合でロッドマンはフリースローを12本中9本を決め、作戦は大失敗に終わった。むしろ犠牲者はネルソン率いるマーベリックスのババ・ウェルズといえる。彼は3分でファウル・アウトするというNBAの不名誉な新記録を打ち立ててしまったからである[2]

シャックに対して初めて使用[編集]

1999年にドン・ネルソンはシャックに対してハック・ア・シャックを実行した。レイカーズはその試合に勝利したものの、シャックはフリースロー37本中13本の成功にとどまり、成功したこの戦術はリーグに広まった[2]

その他の選手への使用[編集]

2015年のプレーオフ2回戦で、ロサンゼルス・クリッパーズヒューストン・ロケッツドワイト・ハワードに対して使用、第2戦でハワードはフリースローを21本中13本ミスした。第4戦ではクリッパーズのデアンドレ・ジョーダンが前半だけで28本のフリースローを試投するNBA記録が誕生、ジョーダンはそのうち10本しか成功できなかった。7戦に及んだシリーズでハワードは85本中33本成功、ジョーダンは84本中39本の成功にとどまった[2]

他にこの作戦が使用される選手としては、ベン・ウォーレスブルース・ボウエンがあげられる。ウォーレスは生涯フリースロー成功率が42%しかなくNBA史上最低の成功率(1000回以上試投した選手中)である。また、ボウエンは3ポイントシュートの名手として知られているにも関わらず、フリースロー成功率56%であるため、狙われがちである。

2016年1月20日、ヒューストン・ロケッツデトロイト・ピストンズ戦において、ロケッツが、ピストンズセンターアンドレ・ドラモンドに対して、ハック戦術を用い、計36フリースロー中、成功数13という結果となり、1試合で、1プレーヤーが23本のフリースローを外すというNBA記録が生まれた[3][4]

問題提起[編集]

2000年にカンファレンス決勝でポートランド・トレイルブレイザーズが、NBAファイナルインディアナ・ペイサーズが実行した。しかし、レイカーズが優勝したのでリーグは特に問題視しなかった。

NBAコミッショナーデビッド・スターン「急いで、ハック・ア・シャックの解決策を作るつもりはない。」

スターンの後にNBAコミッショナーとなったアダム・シルバーは、2015年、この戦術を取れないようにするルール改正を検討することを明らかにした[5]

シャックのコメント[編集]

「もうフリースロー成功率は気にしない。必要なときには決めるって前から言っている。」

批判[編集]

作戦を実行したロサンゼルス・クリッパーズに対してタイショーン・プリンスは「自分のチーム(この場合、クリッパーズ)の選手に対して失礼だ。君たちは守備ができない、と自分のチームの選手に言っているのと同じだ。」と述べた。

05-06シーズン[編集]

2006年のプレイオフのイースタンカンファレンス決勝では、デトロイト・ピストンズマイアミ・ヒートのシリーズで両チームが使用した。NBAファイナルでは、延長戦にもつれ込んだ第5戦でダラス・マーベリックスも使用した[6]

フィクションでの事例[編集]

漫画「SLAM DUNK」にて、「ハック・ア・シャック」という言葉が生まれる前に同様の作戦が描かれた。インターハイ予選決勝リーグのある試合で主人公・桜木花道がバスケットボール歴3ヶ月足らずであることに着目した対戦相手のポイントガード牧紳一が桜木に対して試合中2度に渡り意図的にパーソナルファウルを仕掛けている。

脚注[編集]

  1. ^ Bubba Wells Fouls Out in 3 Minutes. December 29, 1997”. sportshistorytoday.com. 2013年3月2日閲覧。
  2. ^ a b c Sam Apple (2015年5月28日). “Hack-a-League”. THE NEW YORKER. 2015年7月7日閲覧。
  3. ^ http://espn.go.com/nba/recap?gameId=400828522
  4. ^ NBA Game Info DET vs. HOU(2016/01/20) NBA.com 2016年01月20日
  5. ^ Tim MacMahon (2015年4月24日). “Adam Silver says Hack-a-Shaq not entertaining, expects talk of change”. ABC. 2015年7月7日閲覧。
  6. ^ Miami Heat take NBA Championship amid controversy” (2006年6月21日). 2015年7月7日閲覧。