デミアン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
初版(1919年)

デミアン-エーミール・シンクレールの少年時代の物語』(Demian: Die Geschichte von Emil Sinclairs Jugend)とは、1919年に発表されたヘルマン・ヘッセ教養小説である。この作品は当初「エーミール・シンクレール」という名で刊行されていた。しかし、1920年半ばにOtto FlakeとEduard Korrodiが作者はヘッセであることを証明する論文を発表し、1920年7月にヘッセは『Vivos voco』誌上で真実であることを認め、以後「ヘルマン・ヘッセ」の名で公刊されている。1960年にはプロローグが追加された。

背景[編集]

第一次世界大戦の最中である1914年11月3日、当時スイスベルンに住んでいたヘッセは、祖国ドイツに「友よ!その調子でなく!(O Freunde, nicht diese Töne)」という論文を送った。しかし、その論文は、ドイツの戦争継続を批判する内容であったため、ドイツでは厳しい批判を受けてしまう。そのため、ヘッセは、新聞の論評などで「臆病者」や「裏切り者」と罵られていた。1915年、ドイツ領事館徴兵検査を受けたが、近視を理由に不合格となり、ドイツ捕虜援護事務所で、ドイツ人捕虜に読み物を選ぶ仕事に就く。

マスコミを通じた中傷、仕事による疲弊、1916年3月の父親の死などのさまざまな悩みを抱え、肉体的苦痛を感じるまでに病むが、分析心理学で有名なユングの弟子であるJoseph Bernhard Langたちの助けを借りながら、精神の回復を遂げる。そして、1917年9月から10月にかけて深い精神世界を描いた作品デミアンを執筆した。ヘッセの作品では初めて、「自己を追い求める」といった主題を取り扱っている。ヘッセの作風が、一変した作品であった。

主人公の「シンクレール」という名は、外交官のIsaac von Sinclairから着想を得ており、彼と詩人のフリードリヒ・ヘルダーリンとの友情をモデルとして描かれた物語である。

あらすじ[編集]

小さな町のラテン語学校に通う10歳の主人公エーミール・シンクレールは、些細な理由で、悪童クローマーに脅されてしまう。深く苦しんでいたシンクレールは、ある日、町にやって来たマックス・デミアンに救われる。デミアンは、シンクレールにカインとアベルの逸話について、そして明と暗の両者が存在している二つの世界について語った。そして、それは、シンクレールに大きな影響を残し、シンクレールの葛藤の日々が始まる。

邦訳[編集]

  • 高橋健二訳 岩波文庫、1939 のち新潮文庫、「全集」新潮社
  • 相良守峯訳 角川文庫、1952 
  • 実吉捷郎訳 岩波文庫、1959 
  • 吉田正己訳 世界名作全集:筑摩書房、1961 
  • 秋山英夫訳 講談社文庫、1971
  • 生野幸吉訳 世界文学全集:集英社、1973 
  • 日本ヘルマン・ヘッセ友の会・研究会 編訳 ヘルマン・ヘッセ全集:臨川書店、2005 
  • 「デーミアン」酒寄進一訳 光文社古典新訳文庫、2017

影響[編集]

第一次世界大戦の敗戦後、混乱期にあったドイツでは、この作品は、オスヴァルト・シュペングラーの『西洋の没落』と並んで、広く読まれていた。「明」(公認された世界)と「暗」(公認されていない世界)二つの世界に戸惑いつつも、真の自己を求めていく姿を描いたこの作品は、ヘッセの代表作と評価され、ドイツ国内だけでなく、世界中の青年たちに長く読み継がれ、大きく深い影響を与えた。

その他[編集]

  • 1999年の夏休み』でデミアンを引用したセリフが登場する。
  • 少女革命ウテナ』の生徒会執行部で使われている合言葉は、デミアンがシンクレールに宛てた手紙のオマージュになっている。
  • 東京喰種トーキョーグール』の第1巻 - 喰種(グール)になってしまった主人公の金木が、喰種の大学生先輩から友人を救うため、怒り任せに独白から本作のデミアンのセリフを引用する。
  • 韓国の音楽グループBTSの楽曲『Blood Sweat & Tears』のミュージックビデオ内で引用されている。デミアンは韓国では人気が高く、2008年から2017年までの間で最も売れた古典小説となっている[1]

脚注[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ Demian, The Great Gatsby, Zorba the Greek Best-selling World Classics”. 2018年6月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年6月2日閲覧。

参考資料[編集]

  • 『デミアン』新潮文庫(高橋健二訳) ISBN 978-4102001028
  • ウリ・ロートフス『素顔のヘルマン・ヘッセ』(鈴木久仁子・相沢和子訳)

外部リンク[編集]