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クマネズミ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
クマネズミ
Rattus rattus
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 LC.svg
Status iucn3.1 LC.svg
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 齧歯目 Rodentia
: ネズミ科 Muridae
: クマネズミ属 Rattus
: クマネズミ R. rattus
タネズミ R. tanezumi
学名
Rattus rattus
(Linnaeus, 1758)
Rattus tanezumi
(Temminck, 1844)
和名
クマネズミ (熊鼠)
タネズミ (田鼠)
英名
Black rat
Pinkroof rat
Ship rat
House rat
頭骨

クマネズミ(熊鼠、: black rat、学名:Rattus rattus)は、 齧歯目ネズミ科クマネズミ属に属する大型のネズミの一種。同属のドブネズミ、小型のハツカネズミと並んで、人家やその周辺に棲息するネズミ類(家ネズミ)の一つ。江戸時代の日本ではクマネズミのことを「田ねずみ」と呼んでいた[2]。 背中の毛が蒔絵筆に使われてきたと言われてきたが、こちらはドブネズミのものであった[3][4]

分類

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ヨーロッパやオセアニアの Rattus rattus(狭義のクマネズミ)とアジアの Rattus tanezumi(タネズミ)を別種とする説がある[5][6]。一方で分子系統学的研究から広義のクマネズミには6つの系統が確認されており、R. tanezumi(系統群II、系統群III・IVを暫定的に含む)のほかにR. sakeratensis(Little Indochinese field rat、系統群V:タイ・ラオス)・R. tiomanicus(マレーシアクマネズミ[7]、Malaysian field rat、系統群VI:インドネシア・マレーシア)を分ける説もある[6]。2022年にマレーシアの個体群に基づき系統群IVをR. diardii(Malayan house rat)として分類する説も提唱されている[8]。日本には主に外来種の Rattus rattus(系統群I)と在来種の Rattus tanezumi(系統群II)が分布するが[6]父島では雑種が見つかっている[5]。1967年に八丈島の個体群がR. rattus diardi(亜種マレーシアクマネズミ、Malayan house rat)として同定されており[9]、2022年には琉球列島南部で系統群IVの分布が報告されている[10]。 同種とする場合は Rattus rattus が共通の学名となる[5][6]

分布

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世界各地に棲む。東南アジアの森林地帯が原産で、暖かく比較的乾いた場所を好み、人間生活への随伴性を身につける前は、樹上生活が生活の中の重要な要素であったこともあり、高所への上り下りが得意。英名に Roof rat(屋根ネズミ)ともいうように、天井裏を騒々しく駆け回るのは、クマネズミである。近年、都会のビル街で増えている。一方、中央アジア原産のドブネズミは湿った場所を好み、高所との行き来がやや不得意なので、建物でも地下街に多い。

日本にも全域に棲息するが、日本へは2世紀頃にヒトとともにユーラシア大陸から渡ってきた史前帰化動物と考えられるとする説[11]と、化石記録から中期更新世以降のヒトよりも早い年代に大陸から移入していた説が有る[12]。また分子系統学分析結果から日本に分布する系統は大陸からの移入系統と、欧米の捕鯨中継基地となった小笠原経由の2系統がある[13]

形態

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頭胴長146-240mm、尾長150-260mm、後足長22-40mm、体重150-200g。クマネズミの尾長は、頭胴長と同じか、それよりやや長い傾向がある(これに対して、ドブネズミは、尾長が頭胴長よりやや短い傾向がある)[14]。背面は褐色ないし灰褐色で、腹面は淡黄褐色や黄色みを帯びた灰色または白色。

耳は比較的大きく、前に倒すと目が隠れる。これにより、ドブネズミ(耳が比較的小さく、前に倒しても目に達しない)と区別することができる。乳頭数は10-12。

染色体数は、ドブネズミと同じく 2n=42。 ただし、染色体、生化学的・形態的特徴から、オセアニアヨーロッパR.rattus と、アジアR.tanezumi に分けられるという見解がある[14]。前者は染色体数 2n=38,後者は 2n=42 であるという。

生態

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生息地

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クマネズミの多くは建物内に棲むが、伊豆諸島小笠原諸島南西諸島では、畑の周辺や森林内などでも見られ、半樹上性生活をするものもあり、無人島にも分布する[14]

建物内で暮らすクマネズミは、ビルや天井裏など、比較的乾燥した高いところに生活する。高さと幅が10cmくらいの空間を好む傾向がある。手足の肉球滑り止めとなるヒダがあって登攀力とうはんりょくに優れ、電線や水道管なども巧みに渡ることができる。

小笠原諸島など温暖な島では昼間も見られる一方で、都会では夜間に活動する。「ネズミ道」と呼ばれる壁伝いの通路では、毛皮がこすりつけられるため、壁に黒または灰色のラットサインが残る。ネズミ道は、黒ずんでいるため、発見は容易である。

食性

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雑食性で、種実類(穀物や果実、またはその加工品)が食物の過半量を占め、動物質は比較的少ない。動物の肉や魚介類はあまり好まないが、ゴキブリなど昆虫類は好んで食べる。水分補給のため、柔らかい茎や葉なども摂取する。

ビルでの増殖

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かつての日本家屋では、天井に営巣するクマネズミと、台所や下水道に穴居するドブネズミが、生活の場を棲み分けていた。ハツカネズミはもともと他の2種と比べると少ない。

その後、第二次世界大戦後の都市化とともに、地下街や下水道など湿った場所を好むドブネズミが勢力を伸ばしたが、1970年ごろから、高層建築物の建築ラッシュとともに、乾燥した高いところを好み登攀力に優れ、配管等を伝ってフロア間を自由に行き来することができるクマネズミが目立ち始めた。

東京都内での調査によると、ネズミ関連の相談件数で種の断定ができたものの9割以上がクマネズミであり、住宅の屋根裏などに住むネズミの殆どがクマネズミとなっており、都会の高層階でもクマネズミが大量発生している[15]

クマネズミは他のネズミと比較し、捕獲籠などへの警戒心を強く持っており、発見されても捕獲されにくく、駆除が困難である。殺鼠剤に対しても、もともと警戒心をもつ上に、食べたとしても薬剤耐性のある肝臓の毒代謝能力が高いために死ににくいもの(スーパーラット)が近年では多く現れており、これも増加の一因となっている。

ビル内は、1年中温度が一定に保たれているため、でも盛んに繁殖し、東京都区部では特に夏期に繁殖活動が上昇しており、主要都市を中心に、ビル内でクマネズミが増殖し続けている。ただし、例外的に北海道札幌市では衰退しつつあり、日本の他の都市と比べて、道路幅が広いことから都市の区画間の移動が阻まれ、近親交配遺伝子交流が妨げられているのではないかという仮説が提唱されている。

薬剤抵抗性

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1990年代には、殺鼠剤ワルファリンに耐性のある肝臓の毒代謝能力の高い「ワルファリン抵抗性ネズミ」が現れている[16]。これらのほとんどはクマネズミであるが、クマネズミ以外のネズミにも同様の薬剤抵抗性を持つ個体が見られるようになり、総括して「スーパーラット」と呼ばれる。

スーパーラットにも効く殺鼠剤も研究され、急性毒であるリン化亜鉛ジフェチアロール配合の殺鼠剤がドラッグストアホームセンターで市販されている。

生活環

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妊娠期間は21-24日。胎児数は2-18子で、平均5.5子を産む。子は生後20日ほどで離乳し、12-16週で性成熟する。寿命は、野外で1-2年。

天敵

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捕食者は、ネコカラスイタチフクロウノスリマムシ、シマヘビなど。

宿主

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イエダニはクマネズミに多く寄生する。伊豆諸島ではツツガムシとペストノミの主要寄主、小笠原諸島や南西諸島では広東住血線虫の主要寄主である。

沖縄県八重山諸島[17]、沖縄本島や西表島[18]では、病原性のレプトスピラの宿主であることが報告されている。

家ネズミ

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野外に棲息するアカネズミハタネズミなどの「野ネズミ」に対して、人家やその周辺に棲息するネズミ類を「家ネズミ」と呼ぶ。日本のネズミ類のうちでこれに当たるものは、ドブネズミ・クマネズミ・ハツカネズミの3種に限られる。

脚注

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  1. ^ Kryštufek, B., Palomo, L.J., Hutterer, R., Mitsainas, G. & Yigit, N. 2021. Rattus rattus (amended version of 2016 assessment). The IUCN Red List of Threatened Species 2021: e.T19360A192565917. https://dx.doi.org/10.2305/IUCN.UK.2021-1.RLTS.T19360A192565917.en. Accessed on 17 December 2025.
  2. ^ 金子之史『ネズミの分類学 生物地理学の視点』東京大学出版会、2006年12月15日。ISBN 4-13-060188-1 
  3. ^ 本気で絶滅を目指す!ネズミ駆除体験・業者選び (2021年2月5日). “ネズミの毛で作られた蒔絵筆の話:ネズミの背中の毛で作られた筆:伝統工芸には欠かせない”. 2023年1月17日閲覧。
  4. ^ 輪島塗の蒔絵筆 - 自然史学会連合”. 2023年1月17日閲覧。
  5. ^ a b c 本川雅治・下稲葉さやか・鈴木聡「日本産哺乳類の最近の分類体系 ―阿部(2005)とWilson and Reeder(2005)の比較―」『哺乳類科学』第46巻 2号、日本哺乳類学会、2006年、181-191頁。
  6. ^ a b c d 谷戸崇・岡部晋也・池田悠吾・本川雅治「Illustrated Checklist of the Mammals of the Worldにおける日本産哺乳類の種分類の検討」『タクサ:日本動物分類学会誌』第53巻(号)、日本動物分類学会、2022年、31-47頁。
  7. ^ 川田伸一郎・岩佐真宏・福井大・新宅勇太・天野雅男・下稲葉さやか・樽創・姉崎智子・横畑泰志「世界哺乳類標準和名目録」『哺乳類科学』第58巻 別冊、日本哺乳類学会、2018年、1-53頁。
  8. ^ Mohamad Harris Nasir, Subha Bhassu, Muhamad Shakirin Mispan, Sazaly Abu Bakar, Khoo Jing Jing & Hasmahzaiti Omar, Molecular Identification and Genetic Variation of Rattus Species From Oil Palm Plantations of Malaysia Based on Mitochondrial Cytochrome Oxidase Subunit I (COI) Gene Sequences. Zoological Science 39(6): 554-561.
  9. ^ 今泉吉典「住家性クマネズミの分類, 特に八丈島産の亜種について」『哺乳動物学雑誌』第3巻 6号、日本哺乳動物学会、1967年、145-151頁。
  10. ^ Masaharu Motokawa, Tomohiko Makino, Takashi O. Yato, Shinya Okabe, Tsunehiro Shiroma, Masanao Toyama & Hidetoshi Ota, 2022. First Record of Lineage IV of Rattus tanezumi (Rodentia: Muridae) from the southern Ryukyus, Japan. Mammal Study 47(3): 205-212.
  11. ^ 鈴木欣司『日本外来哺乳類フィールド図鑑』旺文社、2005年7月20日。ISBN 4-01-071867-6 
  12. ^ 上奈穂美ほか 2023, p. 152- (矢部辰男 2008) からの孫引き
  13. ^ 上奈穂美ほか 2023, p. 152.
  14. ^ a b c 阿部永・石井信夫・伊藤徹魯・金子之史・前田喜四雄・三浦慎悟・米田政明『日本の哺乳類 改訂版』東海大学出版会、2005年7月20日。ISBN 4-486-01690-4 
  15. ^ 大都市とネズミ(PDF)
  16. ^ 田中和之, 常仁春成, 谷川力, 池中良徳, 石塚真由美「国内におけるワルファリン抵抗性ネズミの現況」『環境毒性学会誌』第12巻第2号、2009年、61-70頁、doi:10.11403/jset.12.61 
  17. ^ 世界遺産・西表島における「レプトスピラ症」の病原体を 土壌培養と環境DNAから総合分析”. 琉球大学 (2022年4月1日). 2023年9月17日閲覧。
  18. ^ 中村正治, 平良勝也, 大野惇, 増澤俊幸, 角坂照貴, 川端寛樹, 小泉信夫, 藤田博巳「沖縄県におけるレプトスピラの保菌動物調査」『日本獣医師会雑誌』第57巻第5号、日本獣医師会、2004年、321-325頁、CRID 1390282679688363776doi:10.12935/jvma1951.57.321ISSN 0446-6454 

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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