カオリナイト

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カオリナイト
分類 ケイ酸塩鉱物
シュツルンツ分類 9.ED.05
Dana Classification 71.1.1.2
化学式 Al4Si4O10(OH)8
結晶系 三斜晶系
へき開 一方向に完全
モース硬度 1 - 2
光沢 土光沢真珠光沢
白色
条痕 白色
比重 2.6
文献 [1][2][3]
プロジェクト:鉱物Portal:地球科学
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カオリナイトkaolinite[4]カオリン石[5] )は、鉱物ケイ酸塩鉱物)の一種。化学組成は Al4Si4O10(OH)8結晶系三斜晶系粘土鉱物の一種。高陵石ともいう。

kaolinite の名は、中国の有名な粘土の産地である江西省景徳鎮付近の高嶺(カオリン:Kaoling)に由来する。高嶺で産出する粘土は、景徳鎮で作られる磁器の材料として有名である。また、同質の粘土(鉱石)はカオリン(kaolin)、または陶土(china clay)と呼ばれる。

産出地[編集]

長石などが変質して生じる。ろう石の中に含まれる。

日本では、岡山県備前市三石広島県庄原市勝光山が産地として有名。

性質・特徴[編集]

カオリナイトは長期の風化作用によって花崗岩などの長石が分解して生成される。 このためカオリナイトを含む粘土の多くは不純物を含んでおり、それらは元の岩石が何であったかによって異なる。 また、風化作用の結果として生成するためカオリナイト自身は最も反応性の低い粘土鉱物である[6]

カオリナイトはアルミニウムの水酸化合物の八面体とケイ素の酸化物の四面体が1:1で構成する薄い層からなり、それらは水分子による水素結合やファンデルワールス力による結合をしている。そのためカオリナイトには吸水性がある。この二つの化合物は土壌ではそれぞれ別の化合物と反応する。 ゆえに乾くと水分子が消えて体積が5%前後小さくなり、近隣の層が癒着して動くようになる。 このときは水分子でなく水酸基によって互いに水素結合している[7]。 水素結合によって結合している各層は強固で、容易に分離することはできず、容易には分離できないバリアを生成する。 このためカオリナイトの堆積物は堆積時に水溶していた物質を捕獲・保存することができる。

カオリナイトの化学構成モデル

スメクタイトとは異なり、カオリナイトは非膨張性であり、その高い分子安定性の結果、同型置換は限定的か存在しない。

しかしpHにより性質を変える特徴を持ち、周囲のpHに応じて金属を吸着し層の辺縁と表面層の水素イオンを放出するか、あるいはその反応を阻害する(陽イオン交換樹脂と似た性質である)。

この性質のために土壌には陽イオンを保持・交換して栄養分を制御する能力があり、それを定量化したものをCEC(陽イオン交換容量)という。この能力により土壌は植物との間に相互作用を持つ。また汚染物質との間にも相互作用を持つ。

カオリナイトはCECが特に高いことが知られている。pHでほとんど変化しないこの性質はイライトと同じように、カオリナイトに永久電荷の主たる供給源があることを示唆する。一方で、カオリナイトにおいては各層間の永久電荷よりも水酸基による変位電荷のほうが卓越しているため[8][9]なんらかの実験不備があったことを疑う意見もある。

この金属の吸着は土壌の物性に変化を及ぼす可能性がある。Pb2+(鉛イオン),Cd2+(カドミウムイオン),Zn2+(亜鉛イオン)の吸着はカオリナイトに負荷を与える可能性がある。カオリナイトの扱い方によって変化は異なるが、膨張・分子の構造中の圧力・凝結・せん断強度の低下・透水係数や圧縮性の上昇が起こると考えられている。また、陽イオン交換により層間のファンデルワールス力の変化も主張されている。こうした変化はカオリナイトの層状構造に空隙が生じたことを示唆する。イオンの吸着によって層内の原子同士のファンデルワールス力が低下しても同様の空隙が生ずる可能性はある。しかし層内のファンデルワールス力がどのような影響を受けているかはわかっていない。

この3種の金属イオンの吸着について、長期的(24h)にはPb2+を最も吸着するが、短期的(0.1h)には3種類のうちで最も吸着が少ないことが報告されており、Pb2+の吸着速度が少なくとも初期においては他の3種に比べて遅い。また、Cd2+の吸着量が他に比べて少ないことも分かっており、吸着部位がイオンによって異なる可能性があると考えられている。また、Cd2+の吸着はpHによって左右されやすいことも報告されている。そのためCd2+の吸着位置はpHの影響を受けやすいカオリナイトの層の辺縁であると考えられている。

カオリナイトの化学構造の変化や物理化学的変質は静止圧力や摩擦にさらされたときに顕現する。

触った感じはぬるぬるしている。吸水性が高いので、舌に乗せると吸い付く性質があり、特有の匂いを発する。 各層は緻密に結合しているため、吸水は構造的には各層の辺縁と表面層でのみ起こっている。

500℃に加熱すると脆くなり粘土の性質を持たなくなるが、水酸基による水素結合から酸素原子による共有結合に替わるためカオリナイトの分子同士がより強く短く結合する。この時点では層構造は崩壊し分子同士の結合によるアモルファス構造となる。 1000℃で素焼きとなり非常に頑丈で多孔質になる。陶芸の過程ではここで釉薬をかけて乾いたら釉薬に適正な温度で再加熱する。

カオリナイトの構造の特徴と性質についてはさらなる研究が期待される。

用途・加工法[編集]

カオリンを含有し止血効果を持つ軍用のガーゼ
陶芸
高熱に耐える磁器やコート紙の塗工材、クレーなどの材料にされる。この成分が多いほど高温に耐える磁器の材料となる。
陶磁器の素材としてカオリンと表現される場合は主に本項のカオリナイトをさす(ハロイサイトを含む場合もある)[10]
医療
血液の凝固を促進・誘発する性質を持ち、2008年4月にアメリカ海軍医療研究センターがカオリン由来のアルミノケイ酸塩を含有したガーゼを開発し、商業的にも販売した[11]
食用
アフリカで食用の土 (食材)としてミネラルが不足しがちな女性が食している。
その他


カオリナイト - 蛇紋石グループ[編集]

  • カオリナイト(kaolinite) : Al2Si2O5(OH)4、三斜晶系・単斜晶系
  • ディク石(dickite) : Al2Si2O5(OH)4、単斜晶系
  • ナクル石(nacrite) : Al2Si2O5(OH)4、三斜晶系
  • ハロイ石(halloysite) : Al2Si2O5(OH)4・2H2O、単斜晶系
  • アメス石(amesite) : (Mg,Al)3(Si,Al)2O5(OH)4、三斜晶系
  • ケリー石(kellyite) : (Mn,Mg,Al)3(Si,Al)2O5(OH)4、六方晶系
  • ベルチェリン(berthierine) : (Fe,Fe3+,Mg)2-3(Si,Al)2O5(OH)4、単斜晶系
  • グリーナ石(greenalite) : (Fe,Mn,Fe3+)2-3Si2O5(OH)4、単斜晶系
  • ヌポア石(népouite) : (Ni,Mg)3-xSi2O5(OH)4、単斜晶系
  • brindleyite : (Ni,Mg,Fe)2Al(SiAl)O5(OH)4
  • fraipontite : (Zn,Al)3(Si,Al)2O5(OH)4
  • odinite : (Fe3+,Mg,Al,Fe)2.5(Si,Al)2O5(OH)4
  • cronstedtite : Fe2Fe3+(SiFe3+)O5(OH)4
  • manandonite : LiAl2(SiAl0.5B0.5)O5(OH)4
  • pecoraite : Ni3Si2O5(OH)4

脚注[編集]

  1. ^ 国立天文台編 編『理科年表 平成20年』丸善、2007年、645頁。ISBN 978-4-621-07902-7 
  2. ^ Kaolinite (英語), MinDat.org, 2012年3月30日閲覧 (英語)
  3. ^ Kaolinite (英語), WebMineral.com, 2012年3月30日閲覧 (英語)
  4. ^ 文部省編『学術用語集 地学編』日本学術振興会、1984年、62頁。ISBN 4-8181-8401-2 
  5. ^ 松原聰宮脇律郎『日本産鉱物型録』東海大学出版会国立科学博物館叢書〉、2006年、65頁。ISBN 978-4-486-03157-4 
  6. ^ Jorge C. Miranda-Trevino, Cynthia A. Coles『Kaolinite properties, structure and influence on pH』https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0169131703000954#:~:text=Kaolinite%20is%20a%201%3A1%20layer%20mineral%20and%20a,the%20mineral%20are%20hydrogen%20bonded%20together%20%28Bear%2C%201965%29. 2023年6月8日閲覧
  7. ^ "The chemistry of pottery" Stephen Breuer著 https://www.qvevriproject.org/Files/2012.07.00_RSC_Breuer_ChemistryOfPottery.pdf 2023年6月7日閲覧
  8. ^ 山崎淳司『粘土鉱物の構造と化学』https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/68/9/68_356/_pdf/-char/ja 2023年6月8日閲覧
  9. ^ Ma, C., Eggleton, R.A.『Cation exchange capacity of kaolinite』https://www.scopus.com/record/display.uri?eid=2-s2.0-0033050875&origin=inward&txGid=c6d1a9beac8af84d72b130165871221c 2023年6月8日閲覧
  10. ^ 素木洋一『陶芸・セラミック辞典』(1版)技報堂出版、1982年、156-157頁。 
  11. ^ Rowe A (2008年4月24日). “Nanoparticles Help Gauze Stop Gushing Wounds”. Wired (Condé Nast). オリジナルの2009年7月6日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090706091649/http://www.wired.com/medtech/health/news/2008/04/blood_clotting 2009年8月5日閲覧。 
  12. ^ “Dirty eating for healthy living”. Nature. Evolutionary biology 400 (6740): 120–121. (1999). Bibcode1999Natur.400..120D. doi:10.1038/22014. PMID 10408435. 
  13. ^ Stokoderm® Protect PURE”. debgroup.com. Deb USA, Inc. (2017年). 2018年4月12日閲覧。

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]