ケナガマンモス
ケナガマンモス | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ケナガマンモス M. primigenius 復元図
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
地質時代 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
新生代第四紀更新世 - 完新世 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Mammuthus primigenius (Blumenbach, 1799) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ケナガマンモス ウーリーマンモス | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Woolly mammoth |
ケナガマンモス (学名:Mammuthus primigenius) は哺乳綱長鼻目ゾウ科マンモス属の一種である。英名(Woolly mammoth)からウーリーマンモスとも。マンモス属を代表する種であり、日本でマンモスと言えば大半はこの種を指す。
マンモス属としては中型で、ユーラシア大陸の広範囲(東は中国中部から朝鮮半島を含むシベリアと西は北西ヨーロッパ)や北海道、北アメリカ大陸に生息していた。シベリアからは時折、軟体部が保存された標本が永久凍土から発掘されている。
発見と研究の歴史
[編集]ケナガマンモスを含む絶滅した様々なゾウの化石は古くからヨーロッパ人に知られていたが、それらは聖書の記述に基づいて、巨獣や巨人のような伝説の生き物の遺体として解釈されていた。18世紀に入るとアイルランドの収集家ハンス・スローン[1][2]やフランスの博物学者ジョルジュ・キュヴィエ[3]らが「巨人の骨=ゾウの骨」という認識を示し、1799年にドイツの動物学者ヨハン・フリードリヒ・ブルーメンバッハが「最初のゾウ」を意味するElephas primigeniusの学名を与えた。1828年、イギリスの解剖者ジョシュア・ブルックスは、自身の所有していたケナガマンモスの化石にMammuthus borealisの学名を与え発表した[4]。"マンモス"という言葉は少なくとも17世紀初頭から使われていた[5]が、その由来はよく分かっていない。シベリアの少数民族マンシ人の言葉で「大地の角」を意味するmēmoŋtに由来するという説[6]や、アラビア語で巨大な獣を意味するmehemotに由来するという説、エストニア語で大地を意味するmaa、あるいはモグラを意味するmuttに由来するという説などが唱えられている。
絶滅
[編集]ほとんどのケナガマンモスの個体群は、他の氷河期の主要生物と並んで、更新統後期から完新世初期にかけて消滅した。この絶滅は、4万年前に始まり、14,000〜11,500年前にピークを迎えた第四紀の大量絶滅の一部を形成した。 科学者は、その生息地の収縮を引き起こした主要因が狩猟や気候変動であるのか、それとも2つの組み合わせによるものであったのかについて意見が分かれている。 原因が何であれ、大型哺乳類は、生息数が少なく再生率が低いことから、一般的に小規模哺乳類よりも脆弱とされている。ケナガマンモスの個体群は、一瞬でその全てが消滅したわけでは無いが、徐々にその数を減らしていった。ほとんどのケナガマンモスは1万4000年から1万年前に絶滅し、9,650年前にシベリアのキテク半島に存在していた個体群を最後にシベリアからは姿を消した[7][8]。アラスカのセントポール島に残存していた北米最後の個体群も紀元前3600年頃に絶滅した[9][10][11]。そしてウランゲリ島に残っていた地球最後の個体群も紀元前2000年頃に絶滅し、地球上から完全に姿を消した[12][13][14][15]
生存説
[編集]ケナガマンモスの生存説は古くから主張されている。19世紀には、シベリアに暮らす少数民族によって「巨大な生物」の報告がロシア当局に何度か伝えられていたが、科学的な証拠はこれまでに浮上していなかった。1899年10月にはヘンリー・トゥケマンという人物がアラスカ州で射殺したマンモスの標本をスミソニアン協会へ寄付すると表明したが、博物館はその話を否定した[16]。フランスの臨時代理大使M.ギャロンは、ウラジオストク滞在中の1920年にロシアの毛皮業者から聞いた話として、タイガの奥深くに巨大な毛深いゾウが生息しているということを1946年に書き残している。シベリアはその広大さからくまなく調査することは不可能であるため、ケナガマンモスが生き延びたと完全に排除することはできないが、これまでの研究から最も新しい個体群でも数千年前に絶滅したことが分かっている。生存説の大半はケナガマンモスの死体を目撃した先住民によって誇張され伝わったものだと考えられている[17]。
著名な標本
[編集]名前 | 画像 | 発見地 | 発見年 | 生存年代(BP) | 概要 |
---|---|---|---|---|---|
アダムスマンモス | シベリア、レナ川河口[18] | 1799年[18][19] | 35,800±1200[18][20] | 最初に発見されたマンモスの全身骨格。骨の他、皮膚、体毛、生殖器などの軟体部が残っていた[19]。 | |
ベレゾフカマンモス | シベリア、ベレゾフカ川[21] | 1900年[21] | 44,000±3,500[21] | 頭部を除くほぼ全身の軟体部が残存。胃の内容物や固化した血液も回収された[21]。 | |
ディーマ[22] | シベリア北東部、キルギルヤーク川付近[22] | 1977年[22] | 41,000±900[22] | 最初に発見された幼年個体[22]。 | |
ユカギルマンモス | シベリア、ユカギールの南東30km地点 | 2002年 | 18,560±50 | 鼻を除く頭部および左前足が完存。2005年日本国際博覧会のグローバル・ハウスで展示された。 | |
リューバ[23][24] | シベリア北東部、ヤマル半島のユリベイ川[23][24] | 2007年[23] | 41,700+700/-550[23] | マンモスの子供としては最も保存状態が良い[23][24]。個別記事参照。 | |
ユカ[25][26] | シベリア、ユカギールの東30km地点[26] | 2010年[26] | 34,300+260/−240[26] | 体組織の95%が残存[25][26]。2017年には特別展マンモスYUKAとして日本でも展示された。個別記事参照。 |
文化面
[編集]知名度に秀でた絶滅動物のため、古今東西の多くの作品に登場している。
- 映像作品
- ウォーキングwithビースト最終回で登場。ドキュメンタリー形式の本作では、本種の食事や喧嘩の様子が詳細に再現された。また天敵のホラアナライオンやネアンデルタール人との関係も強調された。
- プレヒストリックパーク第2回〜最終回にかけて活躍。主人公のナイジェル・マーヴェンによって瀕死のメス個体が救い出され、後にマーサと名付けれられる。多少なりともの確執を経てアフリカゾウの群れに加わった。最終回ではティラノサウルスのマチルダと激突している。
- マムーの物語〜氷河期を生きたマンモスの物語幼少期に剣歯虎によって攻撃されたメスの子供が主役を務めた。季節の変化や数多の天敵、そして環境変動に翻弄される本種が生々しく描写されている。
- マンモス研究最前線
脚注
[編集]- ^ Sloane, H. (1727–1728). “An Account of Elephants Teeth and Bones Found under Ground”. Philosophical Transactions 35 (399–406): 457–471. Bibcode: 1727RSPT...35..457S. doi:10.1098/rstl.1727.0042.
- ^ Sloane, H. (1727–1728). “Of Fossile Teeth and Bones of Elephants. Part the Second”. Philosophical Transactions 35 (399–406): 497–514. Bibcode: 1727RSPT...35..497S. doi:10.1098/rstl.1727.0048.
- ^ Cuvier, G. (1796). “Mémoire sur les épèces d'elephans tant vivantes que fossils, lu à la séance publique de l'Institut National le 15 germinal, an IV” (French). Magasin encyclopédique, 2e anée: 440–445.
- ^ Brookes, J. (1828). A catalogue of the anatomical & zoological museum of Joshua Brookes. 1. London: Richard Taylor. p. 73. オリジナルの24 September 2015時点におけるアーカイブ。
- ^ Lister, 2007. p. 49
- ^ “Mammoth entry in Oxford English Dictionary” (2000年). 2018年4月29日閲覧。
- ^ Lister, 2007. pp. 146–148
- ^ Stuart, A. J.; Sulerzhitsky, L. D.; Orlova, L. A.; Kuzmin, Y. V.; Lister, A. M. (2002). “The latest woolly mammoths (Mammuthus primigenius Blumenbach) in Europe and Asia: A review of the current evidence”. Quaternary Science Reviews 21 (14–15): 1559–1569. Bibcode: 2002QSRv...21.1559S. doi:10.1016/S0277-3791(02)00026-4.
- ^ Dale Guthrie, R. (2004). “Radiocarbon evidence of mid-Holocene mammoths stranded on an Alaskan Bering Sea island”. Nature 429 (6993): 746–749. Bibcode: 2004Natur.429..746D. doi:10.1038/nature02612. PMID 15201907.
- ^ Yesner, D. R.; Veltre, D. W.; Crossen, K. J.; Graham, R. W.. “5,700-year-old Mammoth Remains from Qagnax Cave, Pribilof Islands, Alaska”. Second World of Elephants Congress, (Hot Springs: Mammoth Site, 2005): 200–203.
- ^ Crossen, K. S. (2005). “5,700-Year-Old Mammoth Remains from the Pribilof Islands, Alaska: Last Outpost of North America Megafauna”. Geological Society of America 37: 463. オリジナルの7 April 2014時点におけるアーカイブ。 .
- ^ Markus Milligan. “Mammoths still walked the earth when the Great Pyramid was being built”. HeritageDaily – Heritage & Archaeology News. 30 June 2015時点のオリジナルよりアーカイブ。5 July 2015閲覧。
- ^ Stuart, A. J.; Kosintsev, P. A.; Higham, T. F. G.; Lister, A. M. (2004). “Pleistocene to Holocene extinction dynamics in giant deer and woolly mammoth”. Nature 431 (7009): 684–689. Bibcode: 2004Natur.431..684S. doi:10.1038/nature02890. PMID 15470427.
- ^ Vartanyan, S. L. (1995). “Radiocarbon Dating Evidence for Mammoths on Wrangel Island, Arctic Ocean, until 2000 BC”. Radiocarbon 37 (1): 1–6. ISSN 0033-8222. オリジナルの2 April 2012時点におけるアーカイブ。 .
- ^ Nyström, V.; Humphrey, J.; Skoglund, P.; McKeown, N. J.; Vartanyan, S.; Shaw, P. W.; Lidén, K.; Jakobsson, M. et al. (2012). “Microsatellite genotyping reveals end-Pleistocene decline in mammoth autosomal genetic variation”. Molecular Ecology 21 (14): 3391–3402. doi:10.1111/j.1365-294X.2012.05525.x. PMID 22443459.
- ^ Murray, M. (1960年). “Henry Tukeman: Mammoth's Roar was Heard All The Way to the Smithsonian”. Tacoma Public Library. 18 January 2012時点のオリジナルよりアーカイブ。17 January 2008閲覧。
- ^ Lister, 2007. p. 55
- ^ a b c Iacumin, P., Davanzo, S. and Nikolaev, V., 2006. Spatial and temporal variations in the 13 C/12 C and 15 N/14 N ratios of mammoth hairs: palaeodiet and palaeoclimatic implications. Chemical Geology, 231(1), pp.16-25.
- ^ a b Cohen, C., 2002. The Fate of the Mammoth: Fossils, Myth, and History. University of Chicago Press. 336 pp. ISBN 978-0226112923
- ^ Bishop, S., and Burns, P., 1998-2016, Mammoths: Evidence of Catastrophe? TalkOrigins Archive. Access Date October 2, 2017
- ^ a b c d Ukraintseva, V.V., Agenbroad, L.D., Mead, J.I. and Hevly, R.H., 1993. Vegetation cover and environment of the "Mammoth Epoch," Siberia. The Mammoth Site of Hot Springs, Rapid City, South Dakota.
- ^ a b c d e Lozhkin, A.V. and Anderson, P.M., 2016. About the age and habitat of the Kirgilyakh mammoth (Dima), Western Beringia. Quaternary Science Reviews, 145, pp.104-116.
- ^ a b c d e Fisher, D.C., Tikhonov, A.N., Kosintsev, P.A., Rountrey, A.N., Buigues, B. and van der Plicht, J., 2012. Anatomy, death, and preservation of a woolly mammoth (Mammuthus primigenius) calf, Yamal Peninsula, northwest Siberia. Quaternary International, 255, pp.94-105.
- ^ a b c Papageorgopoulou, C., Link, K. and Rühli, F.J., 2015. Histology of a woolly mammoth (Mammuthus primigenius) preserved in permafrost, Yamal Peninsula, northwest Siberia. The Anatomical Record, 298(6), pp.1059-1071.
- ^ a b Boeskorov, G.G., Potapova, O.R., Mashchenko, E.N., Protopopov, A.V., Kuznetsova, T.V., Agenbroad, L. and Tikhonov, A.N., 2014. Preliminary analyses of the frozen mummies of mammoth (Mammuthus primigenius), bison (Bison priscus) and horse (Equus sp.) from the Yana‐Indigirka Lowland, Yakutia, Russia. Integrative zoology, 9(4), pp.471-480.
- ^ a b c d e Rudaya, N., Protopopov, A., Trofimova, S., Plotnikov, V. and Zhilich, S., 2015. Landscapes of the ‘Yuka’mammoth habitat: A palaeobotanical approach. Review of Palaeobotany and Palynology, 214, pp.1-8.