ウルシ
ウルシ | ||||||||||||||||||||||||||||||
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Toxicodendron vernicifluum(2009年8月2日)
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分類(APG III) | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Toxicodendron vernicifluum (Stokes) F.A.Barkley (1940)[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
ウルシ(漆) | ||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
lacquer tree、Chinese lacquer、 Japanese lacquer-tree、varnish tree、 Japanese lacquer tree |
ウルシ(漆[4]、学名: Toxicodendron vernicifluum、英: Lacquer tree) は、ウルシ科ウルシ属の落葉低木ないし高木。和名の由来は、紅葉する葉の美しさから「うるわしの木」と言ったのがウルシになったという説がある[5]。中国名は漆[1]。
形態
[編集]樹5m-15mになる低木で樹形はあまり分枝しない[6][7]。葉は奇数羽状複葉、小葉は3枚から7枚(1対から3対)で鋸歯を持たない(いわゆる全縁)[6]
雌雄異株で雄花しか付けない雄株と雌花しか付けない雌株がある。雄花は緑色で雄蕊は5本、雌花は子房1つに対し柱頭が3分されたものが付く[6]。種子は核果。
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ウルシの新芽(開芽時は赤みを帯びる)
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ウルシの若葉とつぼみ
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黄褐色に黄葉した葉
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灰白色の幹
類似種
[編集]類似種との区別は小葉に注目する。鋸歯があるものはヌルデである。次に小葉のうち最も茎に近いものの大きさを見る。ウルシはどの葉も大きな差は無いが、ヤマウルシは明らかに小さい。ヤマハゼとウルシはよく似るが、ヤマハゼは小葉のウルシよりも大きさが小さいわりに側脈は多い[8]。
生態
[編集]種子は厚い種皮に覆われ吸水性に乏しく、そのまま播種しても非常に発芽しにくい。このために濃硫酸への浸漬処理が古くから行われてきた。これに加えて低温処理を行ったうえで、発芽までは20℃程度で管理することも併用すると良いという[9]。
分布
[編集]アジア地域、中国からヒマラヤ山脈付近にかけての地域が原産地とされ[6]、日本には古い時代にわたってきた外来種とされている。
自然分布域については従来は中国中西部以西とされてきたが[6]、東端は朝鮮半島付近に達するという説もありはっきりしない[10]。日本伝来の時期についても、隋の時代(西暦581年-618年)かそれ以後とされてきたが、2000年代以後遺跡の木片の解析などから縄文時代には伝わった史前帰化植物ではないかという説が提唱されている[11]。
日本には5000年ほど前に中国経由で渡来したという説がある[12][13][14][15]。しかし、中国より古い時代の漆器が日本の縄文時代の遺跡から発掘されており、また自然木と考えられるウルシも縄文時代より日本各地で出土していることから[16]、中国から持ち込まれたのではなく、日本国内に元々自生していた可能性も考えられる。また、採取法の違いなどから、日本の漆器を独自のものとする説もある。1984年に福井県若狭町の鳥浜貝塚で出土した木片を、2011年に東北大学が調査したところ、およそ1万2600年前のものであることが報告されているが、これがいまのところ最古のウルシである[17][18]。
人間との関係
[編集]樹液・樹脂
[編集]古くから、樹皮を傷つけて生漆を採り、果実は乾かした後に絞って木蝋を採ることができる商品作物として知られており、江戸時代には広島藩などで大規模な植林が行われていた記録が残る[19]。北海道の網走にあるウルシ林は、幕末の探検家、松浦武四郎がアイヌの人々に漆塗りを伝えようとの考えで植えたものが伝わったといわれる[4]。
塗料としての漆は、塗りが美しいばかりではなく、保ちがよく劣化しにくい長所がある[4]。寒い地方のものが漆としての品質が優れるとされ、津軽塗や会津塗などが有名である[4]。日本の漆工芸は17世紀に非常に重要な産業になったため、1868年の明治維新まで、樹液を採取するウルシの木はすべて登録制となっていた[13]。現代の日本の漆工芸で使用する生漆(きうるし)の大部分は、中国からの輸入に頼っている[13]。漆塗りに使う樹液の採取方法は、夏至ごろにウルシの樹皮に幾筋も平行な傷をつけ、にじみ出てきた黄色い樹液を掻き取る「漆掻き」という作業が行われる[13]。1本の木から採れる樹液の量は、1年間で250 cc程度で、中国では2、3年採取したら木を休ませる[13]。日本では、10年ほど育てたウルシの木から数か月かけて樹液を採り尽くし、木を伐採してしまう「殺し掻き」が主流である[13]。伐採されたウルシは、切り株から生えたひこばえを10年かけて再び育てて樹液を採取する[13]。採取されたウルシの樹液から不純物を取り除き、熱処理して、煤や金属粉などを混ぜて塗料とし、素地となる木や竹、紙などに塗り重ねて乾燥させて研磨する工程を何度も繰り返すことで、透明感があり硬くて耐水性のある表面を形成する[13]。
木材
[編集]道管の配置は環孔材で気乾比重は0.5程度。曲げや圧縮の数値は低く、強度的にはそれほど強いものではない[20]。材は、耐湿性があり、黄色で箱や挽き物細工にする。
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ウルシ材は心材色のみが黄色い
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辺材は白く黒いところは形成層にあった漆が空気に触れた部分
アレルギー
[編集]いわゆる「かぶれる木」として有名である。本種をはじめ、近縁種はアレルギー性接触性皮膚炎[注釈 1](いわゆる「ウルシかぶれ」)を起こしやすいことで有名である。これは、ウルシオールという物質によるものである[13]。液体のウルシオールは激しいかぶれを引き起こし[21]、人によってはウルシに触れなくとも、近くを通っただけでかぶれを起こすといわれている。また、ウルシオールの蒸気でさえ、数か月も残る痒みを引き起こすといわれる[21]。山火事などでウルシなどの木が燃えた場合、その煙を吸い込むと気管支や肺内部がかぶれて呼吸困難となり、非常に危険である。なお、ウルシオールは硬化してしまえば安全であるので、漆器に食品を貯蔵しても問題はない[21]。
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ウルシにかぶれた腕
食用・薬用
[編集]若い新芽の部分は食べることができ、味噌汁や天ぷらにすると美味しく食べられるとも言われるが、後述するようにウルシかぶれが発生する事が考えられるので、食べない方が無難である。中国の山奥には種子から搾った油があるという[22]。
「東医宝鑑」においてはウルシを材料とした漢方薬や、薬効に関しての記述があり、本書では固形化したウルシの樹液をじっくり煎って粉末にしたものを「乾漆」として漢方薬の材料として記載している。このことから、古くからウルシはそれがもたらす薬効が期待され、医学の面でも利用があったといえる。
日本の東北地方では、密教の僧侶が即身仏となって悟りを開くためウルシが使われたといわれる[21]。即身仏とは僧侶がミイラ化したもので、即身仏となるためには数年をかけて食物の摂取量を徐々に減らしていき、植物の種子や根、樹皮だけを食べて痩せていき、最後にウルシの樹液から作った茶を飲んで自身をミイラ化させていくのだという[21]。死亡から3年後に墓が開かれるが、まれに遺体が腐敗や分解されずに残っていると、即身仏と見なされる[21]。この風習は自殺幇助であるとして19世紀末に法律で禁止されたが、日本のいくつかの寺院には、現代でも良好な保存状態を保つ即身仏が安置されている[21]。
名前
[編集]ウルシ属
[編集]ウルシ属(ウルシぞく、学名: Toxicodendron)は、ウルシ科の属の一つ。学名は「毒のある木」を意味する[13]。
- Toxicodendron acuminatum
- Toxicodendron diversilobum
- ツタウルシ Toxicodendron orientale
- タイワンツタウルシ Toxicodendron orientale subsp. hispidum
- Toxicodendron parviflorum
- Toxicodendron potaninii
- アメリカツタウルシ(ポイズンオーク)Toxicodendron pubescens
- Toxicodendron radicans
- ポイズンアイビー Toxicodendron radicans subsp. radicans
- Toxicodendron rydbergii
- Toxicodendron striatum
- ハゼノキ Toxicodendron succedaneum
- ヤマハゼ Toxicodendron sylvestre
- ヤマウルシ Toxicodendron trichocarpum
- ウルシ(この記事) Toxicodendron vernicifluum
- ドクウルシ(ポイズンシュマック)Toxicodendron vernix
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ アレルギー反応であって、ウルシオール自体が「毒性分」であるわけではない。
出典
[編集]- ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Toxicodendron vernicifluum (Stokes) F.A.Barkley ウルシ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年6月14日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Rhus verniciflua Stokes ウルシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年6月14日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Rhus vernicifera DC. ウルシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年6月14日閲覧。
- ^ a b c d 辻井達一 2006, p. 115.
- ^ 辻井達一 2006, p. 117.
- ^ a b c d e 林弥栄 (1969) 有用樹木図説(林木編). 誠文堂新光社, 東京. 国立国会図書館書誌ID:000001136796(デジタルコレクション有)
- ^ 邑田仁 監修 (2004) 新訂原色樹木大圖鑑. 北隆館, 東京. 国立国会図書館書誌ID:000007340594
- ^ 初島住彦 (1976) 日本の樹木―日本に見られる木本類の外部形態に基づく総検索誌―. 講談社, 東京. 国立国会図書館書誌ID:000001121521(デジタルコレクション有)
- ^ 今井駿輔 , 稲木孝至, 小原淳, 小串重治, 衣笠利彦 (2021) ウルシ種子の休眠打破条件および発芽特性の解明. 日本緑化工学会誌 47(1), p.99-104. doi:10.7211/jjsrt.47.99
- ^ 鈴木三男, 米倉浩司, 能城修一 (2007) ウルシ Toxicodendron vernicifluum (Stokes) F. A. Barkl(. ウルシ科)の中国における分布と生育状況. 植生史研究 15(1), p.58-62, doi:10.34596/hisbot.15.1_58
- ^ 能城修一, 鈴木三男 (2004) 日本には縄文時代前期以降ウルシが生育した. 植生史研究 12(1), p.3-11. doi:10.34596/hisbot.12.1_3
- ^ 辻井達一 2006, p. 114.
- ^ a b c d e f g h i j ドローリ 2019, p. 131.
- ^ 平岡裕一郎, 花岡創, 平尾知士, 渡辺敦史「DNAマーカーを利用して栽培樹木の起源を探る:ウルシやハゼノキは移入種か?」『日本森林学会大会発表データベース』第123回日本森林学会大会第0号、日本森林学会、2011年、M05-M05、doi:10.11519/jfsc.123.0.M05.0、NAID 130005047773。
- ^ 渡辺敦史, 田村美帆, 泉湧一郎, 山口莉未, 井城泰一, 田端雅進「DNAマーカーを利用した日本に現存するウルシ林の遺伝的多様性評価」『日本森林学会誌』第101巻第6号、日本森林学会、2019年、298-304頁、doi:10.4005/jjfs.101.298、ISSN 1349-8509、NAID 130007793895。
- ^ 鈴木三男, 能城修一, 小林和貴「鳥浜貝塚から出土したウルシ材の年代」『植生史研究』第21巻第2号、日本植生史学会、2012年10月、67-71頁、doi:10.34596/hisbot.21.2_67、ISSN 0915-003X、NAID 40019477294。
- ^ 2011年11月6日、第26回日本植生史学会大会で東北大学の鈴木三男教授らのグループが発表
- ^ “1万2600万年前のウルシ展示 県立若狭歴史民俗資料館 社会 福井のニュース”. 福井新聞 (2011年10月14日). 2012年12月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年12月9日閲覧。
- ^ 「第三章 城下町と近郊農村の産業」『広島市史 第三巻 社会経済編』pp224 昭和34年8月15日 広島市役所
- ^ 貴島恒夫, 岡本省吾, 林昭三 (1962) 原色木材大図鑑. 保育社, 東京. 国立国会図書館書誌ID:000001030638 (デジタルコレクション有)
- ^ a b c d e f g ドローリ 2019, p. 132.
- ^ 美味の起源 - Netflix、「漆油」
参考文献
[編集]- ジョナサン・ドローリ 著、三枝小夜子 訳『世界の樹木をめぐる80の物語』柏書房、2019年12月1日。ISBN 978-4-7601-5190-5。
- 辻井達一『続・日本の樹木』中央公論新社〈中公新書〉、2006年2月25日、115 - 116頁。ISBN 4-12-101834-6。
- 茂木透写真『樹に咲く花 離弁花2』高橋秀男・勝山輝男監修、山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑〉、2000年、280-281頁。ISBN 4-635-07004-2。