茹でガエル
茹でガエル(ゆでガエル、英語: Boiling frog)、茹でガエル現象(ゆでガエルげんしょう)、茹でガエルの法則(ゆでガエルのほうそく)とは、ビジネス環境の変化に対応する事の重要性、困難性を指摘するために用いられる警句のひとつ。「カエルは、いきなり熱湯に入れると驚いて逃げ出すが、常温の水に入れて水温を上げていくと逃げ出すタイミングを失い最後には死んでしまう(茹でガエル)」という作り話が由来。
経営コンサルタントや活動家などによって[1][2]、自然科学上の実験結果であるかのように語られることがあるが、実際には、カエルは温度が上がるほど激しく逃げようとするため[2][3]、疑似科学的な作り話[4]が広まったものと思われる。
概要
一例をあげると、業績悪化が危機的レベルに迫りつつあるにもかかわらず低すぎる営業目標達成を祝す経営幹部や、敗色が濃厚であるにもかかわらずなお好戦的な軍上層部など、およそ人間は環境適応能力を持つがゆえ、漸次的な変化は万一それが致命的なものであっても受け入れてしまう傾向がある。それを「2匹のカエルを用意し、一方は熱湯に入れ、もう一方は緩やかに昇温する冷水に入れる。すると、前者は直ちに飛び跳ねて脱出・生存するのに対し、後者は水温の上昇を知覚できずに茹でガエルとなってしまう」という寓話にたとえたものである。現実のカエルではありえない。
心理学者や経済学者、経営コンサルタントなどが、著作で比喩として使用することがある[4][5][1]。また、疑似科学、または現実には間違っていると断ったうえで比喩として利用する人もいる[4][1]。
日本では『組織論』(桑田耕太郎・田尾雅夫、1998年、有斐閣アルマ)において『ベイトソンのゆでガエル寓話』として紹介された。主にビジネスセミナーで「茹でガエルになるな」「茹でガエル現象への対応」との主旨で講演が行われることが多いほか、書籍も数多く出版されている。
科学的な検証
19世紀
1869年、ドイツの生理学者フリードリッヒ・ゴルツ (Friedrich Goltz) による脳を切除したカエルを用いた実験が発端と見られる。しかし、ゴルツの実験でも脳のあるカエルは摂氏25度から落ち着かない様子になり、温度が上がるごとに激しくもがき苦しみ42度で死んでしまった[3]。 1873年、ジョージ・ヘンリー・ルイス (George Henry Lewes) による追試験結果がネイチャーに掲載[3][6]された。
20世紀以降
1960年代の東西冷戦、1980年代の終末論、1990年代には温暖化に関連して取り上げられ、またビジネス業界でも広まった。
1995年、アメリカのビジネス誌「Fast Company」が、著名なビジネスコンサルタントが著書で取り上げたこの物語を検証する特集記事[7]を掲載した。この中で、細胞生物学者のダグラス・メルトン (Douglas A. Melton) 博士は「熱湯に入れれば飛び出さずに死んでしまうし、冷たい水に入れれば熱くなる前に飛び出してしまう」と答え、国立自然史博物館も同様の回答をしている。
2002年、ドイツの科学ジャーナリスト (en) クリストフ・ドレッサー (de:Christoph Drösser) は、ドイツ国内でコンサルタントや活動家が盛んに使用する茹でガエルの話を疑わしいと感じながらも、証明するためにカエルを茹でたくはなかった。困ったドレッサーがアメリカの爬虫両生類学者に質問したことを発端として話が学者仲間に伝わり、ホイット・ギボンズ (en) から話を聞いたオクラホマ大学教授の爬虫両生類学者ハッチソンは「その伝説は全てが間違っている。動物学の臨界最高温度 (Critical thermal maximum) 調査で、多くの種類のカエルは調べられており、手順として1分間に水の温度を華氏2度ずつ上げるが、温度があがるごとにカエルはますます活発になって温度の上がった水から逃れようとしたことから、蓋が空いていたり器が小さければ逃げる」と回答した[2]。
出典
- ^ a b c ポール・クルーグマン Boiling the Frog ニューヨーク・タイムズ 2009-7-12掲載 2011-7-15閲覧
- ^ a b c Mike Dorcas, Whit Gibbons Frogs: The Animal Answer Guide JHU Press 2011年 p.117 (J. Whitfield Gibbons THE LEGEND OF THE BOILING FROG IS JUST A LEGEND ジョージア大学 November 18, 2002執筆 2011-07-10閲覧)
- ^ a b c George Henry Lewes Sensation in the Spinal Cord ネイチャー 1873年 p83-p84
- ^ a b c ベイトソン, グレゴリー 『精神と自然:生きた世界の認識論』 佐藤良明訳、思索社、1982年、p327 「われわれを取り巻く状況変化の傾向が、全くといっていいほど意識されていないことは、無視できない問題である。水を入れた鍋の中にカエルをそっと坐らせておき、今こそ跳び出す時だと悟られぬように、極めてゆっくりかつスムーズに温度を上げていくと、カエルは結局跳び出さずにゆで上がってしまうという疑似科学的な作り話(quasi-scientific fable)があるが、われわれ人類も、そんな鍋の中に置かれていて、徐々に進行する公害で環境を汚染し、徐々に堕落していく宗教と教育で精神を腐らせつつあるのだろうか?」(p. 133)(参照文献はなぜ必要か : その目的と機能一橋大学大学院国際企業戦略研究科図書室)
- ^ 経済学者であるミネソタ大学のアンドルー・ヴァン・デ・ヴェン (Andrew H. Van de Ven) 博士[要出典]、ミシガン大学のノエル・ティシュ (Noel M. Tichy) 博士[要出典]など
- ^ ゴルツに関する記述の引用があるGuest-post wisdom on frogs The Atlantic(アメリカの月刊誌)
- ^ Next Time, What Say We Boil a Consultant fastcompany