海獣
海獣(かいじゅう、marine mammals[1])は、海に生息する哺乳類(獣)を指す[2]。別名は海獣類・海洋哺乳類・海生哺乳類・海棲哺乳類・海産哺乳類(あるいは、「~哺乳類」の代わりに「~哺乳動物」)。
形質による分類であり、分類学的なグループ(分類群)や系統学的なグループ(クレード)とはならない。もっぱら、水族館学・人文科学・漁業などの分野で使われる用語である。
範囲
水族館学では、
を海獣とする[3]。
これに、部分的に海生であるホッキョクグマを加えることがある[4][1]。アメリカの海産哺乳動物保護法 (MMPA) も、これらを marine mammals(海産哺乳動物 = 海獣)とする。
そのほか、現生ではカワウソの一部[2]を含むこともある。絶滅群では、デスモスチルス目[4][2]、ウミベミンク[2]などがいた。
「海獣」の定義からすると、淡水性・汽水性であるカワイルカやバイカルアザラシは含まれないことになるが、区別されることは少ない。逆に、淡水性のカワウソやビーバーを同等に扱うこともある[3]。
海生への適応
海生への適応度合いで分類すると、3段階に分かれる[1][注釈 1]。
- 海洋常在種
- クジラ類・海牛類。一生を海洋で生活し、陸上では生きられない。
- 海洋適住種
- 鰭脚類・ラッコ。一生の大部分を海洋で生活するが、繁殖期などは陸に上がる。
- 海洋好遊種
- ホッキョクグマ。主に陸上(あるいは氷上)で生活するが、外敵から逃れたり、移動や、餌を採るために、好んで遊泳する。海獣に含めないこともある。
分類
分類群
目分類では、現生3目、デスモスチルス目を含めれば4目に分かれる。海獣類は互いに近縁ではなく、それぞれが独立に(後述の系統図の★の箇所で)海棲に進化した平行進化の一例である。比較的近く同じネコ目に含まれる鰭脚類とラッコも、目の中で特に近くはなく、独立に進化している。
- ジュゴン目(海牛)
- ジュゴン・マナティー
- 鯨偶蹄目の一部
- 鯨類(クジラ・イルカ)
- ネコ目(食肉目)の一部
- 鰭脚類(アシカ・アザラシ など)
- ラッコ・カワウソ
- ホッキョクグマ
- ウミベミンク
- デスモスチルス目(束柱類)
- デスモスチルスなど
海獣は全て、有胎盤類である。すなわち、有袋類・単孔類の海獣はいない。ただし淡水性なら、有袋類のフクロカワウソや、単孔類のカモノハシがいる。
系統
海獣以外の系統は簡略化して記す。
有胎盤類 |
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ラッコは1種のみのグループであるが、河川に棲むカワウソから進化している。つまり、(☆の箇所で)水棲に進化したもっと大きなグループの1種である。なお、カワウソ類も部分的に海生の個体群がいる(特定の種が海生というわけではない)。
特徴
脊椎動物は元来水棲だが、哺乳類は一度完全に陸棲に適応している。そのため海獣は全て二次的に海棲生に再適応したもので、もとからの海生生物に比べ適応が不完全な点も多い。以下のような適応の傾向がほぼ共通に見られる。これは基本的には水中生活への適応であり、淡水産の哺乳類にもほぼ類似の現象が見られるが、海産種の方がより顕著である。
これらは海生爬虫類と同じような傾向であるが、爬虫類では卵生で、卵は水中に耐えられないため、陸で産卵するか、卵胎生になるかの進化が見られる点、元から胎生の哺乳類の方が有利ではある。
- 全て、陸棲の哺乳類と変わらず肺呼吸である。そのため、一定時間ごとに海面に顔を出す必要がある。
- 四肢が鰭に変化する傾向がある。前脚は魚の胸鰭に、後脚あるいは尾は魚の尾鰭に相似する器官となる。
- 断熱のため厚い皮下脂肪を持ち、体毛をほとんど失っている。ただしラッコは体が小型のため皮下脂肪も薄く、かわりに密な毛皮の間の空気層で断熱している。
- 耳介が退化する傾向がある。なお、ホッキョクグマも同様の傾向を示し、これを海中生活への適応と見ることも出来る。しかし、これは同時にクマ類の中でもっとも寒冷地に住む種として、ベルクマンの法則に合う例と見ることも出来る。
- 流線型のなめらかな体の線を持つようになるが、これは水中での抵抗が少なくなる点でも有利である。ホッキョクグマは陸棲の他種のクマと形態はほとんど変わらないが、顕著な違いである流線型の頭部や長い首は水中生活への適応であるとされている。
画像
展示
かつて江の島水族館の改装前には、鰭脚類を主に飼育する「江の島海獣動物園」があり、オットセイを飼育していた[5]。
脚注
注釈
出典
外部リンク
- 『海獣』 - コトバンク
- 海獣好きのための水族館ランキングベスト10 - WEB水族館 全国水族館ガイド(中村元監修)による説明。