ラッコ

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ラッコ
ラッコ
ラッコ Enhydra lutris
保全状況評価
ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 EN.svgワシントン条約附属書II類
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
上綱 : 顎口上綱 Gnathostomata
もしくは
四肢動物上綱 Tetrapoda
: 哺乳綱 Mammalia
亜綱 : 獣亜綱 Theria
下綱 : 真獣下綱 Eutheria
階級なし : 北方真獣類 Boreoeutheria
上目 : ローラシア獣上目 Laurasiatheria
階級なし : 野獣類 Ferae
食肉形類 Carnivoramorpha
: 食肉目(ネコ目) Carnivora
亜目 : イヌ亜目 Caniformia
下目 : クマ下目 Arctoidea
上科 : イタチ上科 Musteloidea
: イタチ科 Mustelidae
亜科 : カワウソ亜科 Lutrinae
: ラッコ属 Enhydra
: ラッコ E. lutris
学名
Enhydra lutris
(Linnaeus1758)
和名
ラッコ
英名
Sea otter
亜種
本文を参照のこと
現在および過去における分布域
現在および過去における分布域

ラッコ海獺猟虎アイヌ語: Rakko学名Enhydra lutris英語名:Sea otter)は、食肉目(ネコ目)- イヌ亜目- クマ下目 (en)- イタチ科- カワウソ亜科- ラッコ属に分類される、中型の海棲哺乳類(1)。本種のみでラッコ属を形成する。

イタチ科のうちで水棲に進化したのがカワウソ類(カワウソ亜科)であるが、その中から海洋に進出して、陸に依存しないでも棲息可能なまでの本格的な適応[1]を遂げた唯一の現生種[2]が、ラッコ属であり、ラッコである。氷河期を迎えた北太平洋西部海域におけるコンブの出現と適応放散がもたらした新たな生態系が、ラッコの出現および適応放散と密接に関係すると考えられている。

呼称

学名

ラッコに関する最初の学術的な記録は、博物学者ゲオルク・シュテラー1751年のフィールドノートに記されており、学名1758年、博物学者カール・フォン・リンネによって著書『自然の体系  (Systema Naturae』に記載されたことで正式のものとなった[3]。 元々の学名は Lutra marina (「海のカワウソ」の意)であり、転々と有効名を変えた後、1922年になってようやく現在の学名 Enhydra lutris が受け入れられた[4]

属名 Enhydra古代ギリシア語: εν 「〜の中で、中に」 + ὕδωρ 「水」の合成[5]、 種小名 lutris はラテン語で「カワウソ」を意味する lutra より[6]。 あわせて、おおざっぱに言って、「カワウソのような水中のもの」といった意図の命名であると思われる。

日本語名

現在の標準和名「ラッコ」は、近世の日本における標準的な本草学名に由来し、さらにそれはアイヌ語で本種を意味する "rakko" にまで起源を辿れる。

日本語以外の諸言語名

英語では "sea otter" [7](意:海のカワウソ)の名が一般的に慣用されている(1655-1665年初出[7])。 学術的に用いられることが多いのは "sea beaver" (意:海のビーバー)である[8](ただし、この語が指すのはビーバー類ばかりということではない[8])。

生物的特徴

分類

下位分類

亜種として次の3種が知られている。体長、頭部、歯並びなどが異なっている[9][10]。 表記内容は左から順に、学名標準和名英語名、特記事項。

  • Enhydra lutris kenyoni (Wilson1991) アラスカラッコ Alaskan sea otter, Northern sea otter
アリューシャン列島アラスカに棲む[11]アメリカ合衆国オレゴン州などに人工的に移されている[9]。他の2種の中間ぐらいの外観で、下顎骨が長い。学名は、ラッコ研究者のKarl W. Kenyonにちなんで付けられたものであるが、Kenyon自身はこれが亜種とは考えていなかった[12]
  • Enhydra lutris lutris (Linnaeus1758) アジアラッコチシマラッコ) Asian sea otter, Common sea otter、Kuril sea otter, Russian Sea otter, etc.
模式亜種。千島列島コマンドルスキー諸島、太平洋西部に生息する[9]。亜種の中で最も体長が大きく、頭部が広く、鼻が小さいことが特徴である[11]
  • Enhydra lutris nereis (Merriam1904) カリフォルニアラッコ Californian sea otter, Southern sea otter
カリフォルニア州中部沿岸に見られる[9]。頭部が狭く長い。口吻が長く、歯が小さい[11]

分布

日本択捉島東部、千島列島アラスカカリフォルニア州などの北太平洋沿岸に生息している。分布の北限は北極海の氷域であり、南限はカリフォルニアのオオウキモの分布の南限と一致している。

保全状態評価

ENDANGERED (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))

Status iucn3.1 EN.svg

絶滅危惧IA類(CR)環境省レッドリスト

Status jenv CR.png

[13]

  • 北海道版レッドデータブック - 希少種

E. l. nareis
ワシントン条約附属書I類

形態

ラッコの前肢

体長約55- 130cm、尾長約13- 33cm、体重約15- 45kgと、イタチ科最重量種である。尾は短く扁平。尾の基部には臭腺(肛門腺)を持たない。体毛密度が高く、哺乳類のなかでも最も高い部類に入る。8億本もの体毛が全身に生えており、これは6cm²皮膚ヒト頭髪すべてが生えているのと同等である。全身をくまなく毛繕いするために柔軟な体、皮膚を具えている。「綿毛」と呼ばれる柔らかい下毛が 1cm²あたり10万本以上密生している。水中に潜るときでも、綿毛の間に含まれた空気が断熱層となり、防寒の役目を果たしている。背面は濃褐色、頭部は淡褐色の体毛で被われる。部には洞毛が密生する。幼獣は全身が黄褐色、亜成獣は全身が濃褐色の体毛で被われる。

前肢は短く、後肢は大型。指趾の境目は不明瞭で、後肢は状になる。

大臼歯は大型で丸みを帯び、固い獲物を噛み砕くことに適している。水分は海水を飲むことで補い、浄化のため腎臓の大きさはカワウソ類の平均的な大きさの2倍にもなる。

生態

ジャイアントケルプコンブの一種)を生態的基盤として、また、“寝床”として海に暮らすラッコたち
カニを食べるラッコ

海岸から10km以内の沿岸域に生息する。陸上に上がることは稀であるが、天候が荒れた日には上がることもある。数十頭からなる群れを形成し、生活する。昼行性で、夜間になると海藻を体に巻きつけて海流に流されないようにして休む。防寒効果を維持するため、頻繁に毛繕いをし、毛皮を清潔に保っている。幼獣の毛繕いは母親が行う。

食性は動物食で、魚類貝類甲殻類ウニなどを捕食する。ただし、他の海獣に比べると泳ぎが上手ではないため、泳いでいる魚を捕らえるのは苦手[14]。海中で獲物を捕らえ、水面まで運んでから食べる。貝類を食べる際には胸部に石や別の貝類を乗せ、それらに貝殻を打ちつけ叩き割ってから下顎門歯で中身をこじ開けて食べる。サル目を除いた哺乳類では本種のみ道具を使う例が報告されている。亜種カリフォルニアラッコでは道具を使い貝類を割る行動が比較的確認されているものの、主に柔らかい獲物を食べる亜種アラスカラッコでは道具を使って貝類を割ることは稀とされる。なお、動物園などで飼育されているラッコの場合は自然界には無い道具を使用するほかに水槽のガラスに貝殻を叩きつけることも確認されており、日本豊橋総合動植物公園では強化ガラスを叩きつけすぎて強化ガラスにヒビが入った例も確認されている。また貝類を食べる際の石等の道具や食べ切れなかったアサリ等はわき腹のたるみをポケットにして、しまいこんでおく癖がある。

ラッコが長く生息する海域ではウニが食い尽くされて、主に貝類を捕食するようになるといわれる。そういった生態から漁業被害を訴えられることもあるが、ウニが増えるとコンブなどの海藻が食い尽くされる弊害があり、ラッコが生息することでそれを防ぐ効果もある(キーストーン捕食者の例も参照) 。

繁殖形態は胎生交尾出産は海上で行う。春になると雄は雌に交尾のアピールをし、雌の承諾が得られると並んで仰向けになって波間に浮かぶ。雄は交尾の際、体勢を維持するために雌の鼻を噛む。たいていはすぐに治る軽症で済むが、稀に傷が悪化し、食物を食べられなくなることなどで命を落としてしまうケースもある。雄は交尾が済むと別の雌を探しにいき、子育てに参加することはない。 妊娠期間はおよそ8- 9か月。1回に1頭、稀に2頭の幼獣を産む。腹の上に仔を乗せながら、海上で仔育てを行う。幼獣は親が狩りをしている間、波間に浮かんで親が戻ってくるのを待つ。このときは無防備になり、ホホジロザメに約1割の幼獣が捕食されてしまう。幼獣は親から食べられる物の区別や道具の使い方を習う。成長したラッコは気に入った特定の石を保持し、潜る際には(おもし)に使う。

人間との関係

狩られたラッコの毛皮と人間(1892年アラスカ地方はフォックス諸島ウナラスカ。ヒトとの大きさ比較を兼ねる)

毛皮が利用されることもあった。18世紀以降、ロシア人極東に進出してきた理由の一つに本種の毛皮採集が挙げられる。 毛皮目的の乱獲により、20世紀初頭にはラッコの個体数は絶滅寸前にまで減少した。アラスカではカリフォルニアアシカが乱獲などによって激減したことで、それを主要な捕食対象としていた当海域のシャチが食うに困って対象をラッコにシフトし、これによって90%近くを捕食してしまうという事態も起きた。 その後、野生生物に対する意識が保護へと大変換する時代に入ると、以後は生息数を徐々に回復していった。

1989年、アラスカのプリンスウィリアムス湾で超大型タンカーエクソン・バルディーズ号」が座礁し、27万バレル原油が流出するという事故があった。この事故によって約6,000頭のラッコが死亡したとされる(少なくとも1,016頭の死亡が確認されている)。鰭脚類などと比べると体が小さく皮下脂肪が相対的に薄いため、体毛が油で汚染されることで防寒効果が低下して凍死し、また、体毛の間に蓄えられた空気がなくなり、浮力が減少して溺死したのである。

アワビウニなどを捕食する害獣と見なされることもある。国際条約などで保護動物となっている場合が多いので地域の都合で駆除などができない。

シートン動物記によると、本来は海辺で生活する陸棲動物であり、日光浴をしている群れをごく当たり前に見ることができたらしい。その頃は人間に対する警戒心も無かったため、瞬く間に狩り尽くされてしまい、現在のような生態になったと記されている。

日本における人間との関係

日本では平安時代には「独犴」の皮が陸奥国の交易雑物とされており、この独犴が本種を指すのではないかと言われている。陸奥国で獲れたのか、北海道方面から得たのかは不明である。江戸時代地誌には、三陸海岸気仙の海島に「海獺」が出るというものと[15]、見たことがないというものとがある[16]。かつて千島列島北海道襟裳岬から東部の沿岸に生息していたが、毛皮ブームにより、H・J・スノーらの手による乱獲によってほぼ絶滅してしまった。このため、明治時代には珍しい動物保護法「臘虎膃肭獣猟獲取締法(明治四十五年四月二十二日法律第二十一号)」が施行されている。

現在でも時折、千島列島などから来遊し、北海道東岸で目撃されることがあるが、定着するまでには到っていない。2003年頃から襟裳岬近海に、2010年頃から納沙布岬近海に、それぞれ1頭のラッコが定着したが、ウニなどを大量に食べることから漁業従事者は被害(食害)を問題視している。

ラッコを主題とした作品

脚注・出典

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  1. ^ 本来の生態では陸上環境も利用していたが、ヒトの出現によってそれが不可能となった現世でも、海洋のみで生き延びている。
  2. ^ 絶滅種においてラッコ属に匹敵する海洋適応種の存在も考えられるが、少なくとも現在、そのような種は発見されていない。
  3. ^ Final Washington State Sea Otter Recovery Plan”. Washington Department of Fish and Wildlife. 2007年11月29日閲覧。
  4. ^ Love, p. 9
  5. ^ なお、古代ギリシア語で「カワウソ」を指して ενυδρις (enydris) と呼び、語形・語義ともに類似するが、詳細は不明。
  6. ^ 形容詞(第三変化)化したものか。
  7. ^ a b sea otter” (en). Dictionary.com. 2010年5月10日閲覧。
  8. ^ a b Silverstein, p. 34
  9. ^ a b c d Enhydra Lutis”. Animal Diversity Web. University of Michigan Museum of Zoology. 2007年11月24日閲覧。
  10. ^ Enhydra lutris”. ITIS. 2006年3月18日閲覧。
  11. ^ a b c Wilson, Don. E. et al (February 1991). “Geographic Variation in Sea Otters, Enhydra lutris”. Journal of Mammalogy 72 (1): 22 - 36. doi:10.2307/1381977. http://links.jstor.org/sici?sici=0022-2372%28199102%2972%3A1%3C22%3AGVISOE%3E2.0.CO%3B2-M&size=LARGE&origin=JSTOR-enlargePage. 
  12. ^ Soundings: The Newsletter of the Monterey Bay Chapter of ACS”. American Cetacean Society Monterey Bay Chapter (2007年6月). 2008年1月22日閲覧。
  13. ^ 環境省 「哺乳類レッドリスト 2007年版」 2007年8月(CSVファイル)。
  14. ^ ダーウィンが来た! 〜生きもの新伝説〜259回「 密着!ラッコのぷかぷか生活」
  15. ^ 田辺希文 『奥羽観蹟聞老志』 巻之三(『仙台叢書奥羽観蹟聞老志』 仙台叢書刊行会、1928年。海獺の項は上巻81頁)。
  16. ^ 里見藤右衛門 『封内土産考』 1798年(寛政10年)頃(仙台叢書刊行会・編 『仙台叢書』 第3巻[1923年]に収録、海獺の項は454頁)。

参考文献

関連項目

外部リンク