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地獄に堕ちた勇者ども

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地獄に堕ちた勇者ども
La Caduta degli dei
監督 ルキノ・ヴィスコンティ
脚本 ルキノ・ヴィスコンティ
ニコラ・バダルッコ
エンリコ・メディオーリ
製作 アルフレッド・レヴィ
エヴェール・アギャッグ
製作総指揮 ピエトロ・ノタリアンニ
出演者 ダーク・ボガード
イングリッド・チューリン
音楽 モーリス・ジャール
撮影 アルマンド・ナンヌッツィ
パスクァリーノ・デ・サンティス
編集 ルッジェーロ・マストロヤンニ
配給 日本の旗 ワーナー・ブラザーズ映画日本支社
公開 イタリアの旗 1969年10月14日
アメリカ合衆国の旗 1969年12月18日
西ドイツの旗 1970年1月27日
日本の旗 1970年4月11日
上映時間 157分
製作国 イタリアの旗 イタリア
西ドイツの旗 西ドイツ
言語 イタリアの旗 イタリア語
ドイツの旗 ドイツ語
イギリスの旗 英語
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地獄に堕ちた勇者ども』(じごくにおちたゆうじゃども、原題イタリア語: La Caduta degli dei, 英語表記The Damned)は、イタリア人の映画監督ルキノ・ヴィスコンティが、1930年代ドイツにおける鉄鋼一族の凋落を描いた1969年(昭和44年)製作・公開の映画作品である。『ベニスに死す』、『ルートヴィヒ』へと続く、ヴィスコンティ監督の「ドイツ三部作」の一作目。


概要

原案・脚本はヴィスコンティのオリジナルだが、ウィリアム・シェイクスピアの『マクベス』、トーマス・マンの『ブッテンブローク家の人々』からモチーフを得た。マルティンの幼女姦のシーンはフョードル・ドストエフスキーの『悪霊』における「スタヴローギンの告白」からの引用である。 また、実在のクルップ製鉄財閥のナチスへの協力と相続人(en:Arndt von Bohlen und Halbach)の醜聞をモチーフにしている。

配役

エッセンベック製鉄
エッセンベック男爵家


その他

あらすじ


注意:以降の記述には物語・作品・登場人物に関するネタバレが含まれます。免責事項もお読みください。


1933年2月のドイツ。プロイセン貴族で製鉄王のエッセンベック男爵家では、一族内の勢力争いで不穏な空気が漂っていた。当主ヨアヒムは1月に発足したヒトラー首相率いるナチス党との協調路線を選ぼうとしており、そのために反ナチスで民主主義者であるヘルベルトを一族が経営する製鉄会社から追い出さなくてはならなかった。自身が突撃隊員で、突撃隊幕僚長レームとも懇意のコンスタンティンは、ヘルベルトを排除すると同時に一族における自身の影響力を広げようと目論んでいた。製鉄会社の重役であり、ゾフィーの恋人でもあるフリードリヒはエッセンベックの財力を親衛隊の勢力に取り込もうとするアッシェンバッハにけしかけられ、ヘルベルトやコンスタンティンらを押しのけてゾフィーと手を組む自分がエッセンベックを支配ようと考えていた。

ヨアヒムの誕生日の夜、国会議事堂放火事件が起きる。政府は共産党員が犯人であると発表し、これを機会に共産党への粛清を強化する決断をした。同日、既にエッセンベックでの居場所を奪われたヘルベルトを逮捕するため、アッシェンバッハが手配した親衛隊の部隊がエッセンベック家に踏み込んできた。その騒ぎの最中、フリードリヒはヘルベルトの拳銃を使いヨアヒムを殺害。アッシェンバッハは、親衛隊と刑事警察にヘルベルトをヨアヒム殺害犯として捜査するよう指示を出す。ヨアヒム殺害後にエッセンベックの密談が行われた。コンスタンティンはヨアヒムの遺産を引き継ぎ、製鉄会社の筆頭株主となるマルティンをお飾りの社長にして自分が実権を握ろうとしていたが、既にゾフィー、フリードリヒ、アッシェンバッハらに懐柔されていたマルティンはフリードリヒを次の社長に指名する。

ヨアヒムの葬儀が終わると、エッセンベック家では勢力争いが本格化。だがそれはエッセンベック家の内輪もめに収まらなくなっていた。党の私兵集団からドイツ正規軍への昇格を目論む突撃隊は、エッセンベックの工場で作られる武器を欲しがっており、コンスタンティンがその為に行動している。一方ナチス党党首でありドイツ首相となったヒトラーは、将来的に実施するつもりの戦争を念頭に国防軍との連携を重視。その国防軍は既に人員数だけは自分達を遥かに凌ぐ突撃隊を警戒しており、武器を渡すのを拒んでいた。親衛隊員であるアッシェンバッハは国防軍に有利な方向で取り計らいを進めるが、コンスタンティンはあきらめていなかった。

ヒトラーが政権を握ったヴァイマル共和政は急速に第三帝国へとその姿を変えていく。ギュンターの大学では焚書が行われ、トーマス・マンヘレン・ケラーの書物が焼かれた。海外逃亡中のヘルベルトからギュンターに手紙が送られてきたことを知った学長は、顔をしかめて嫌悪感をあらわにする。ドイツ民族はハーケンクロイツの下で統一されつつあった。

そんなことはどこ吹く風で、マルティンは怠惰で退廃的な生活に浸っている。ヨアヒム最後の誕生会では場末のキャバレーに立つ踊り子のような女装をし、卑猥な歌を歌う見世物で皆の度肝を抜いて見せた。普段は昼間から情婦のアパートに転がり込み、何をするわけでもなくすごしている。ある時、情婦と同じアパートにユダヤ人の幼い少女がいるのを知ったマルティンは少女をレイプし、これを苦にした少女は間もなく自殺する。地元の警察は証言などからマルティンに容疑を向けた。そこで警察に顔が利き、エッセンベックの一族でもあるコンスタンティンに相談。これを好機としたコンスタンティンはマルティンを脅迫し、会社の主導権掌握と突撃隊への武器供与を一気に推し進めようと動き始める。

ゾフィーとフリードリヒは窮地に陥る。ゾフィーはアッシェンバッハに相談し、そこで彼は一計を案じる。自分の計画を阻むコンスタンティン、膨張し続けヒトラー批判を隠すことすらしない突撃隊、そしてその突撃隊をまとめる幕僚長レーム。彼らを一網打尽にし、脅威と障害物を一気に排除してしまう作戦を考え始めた。

そして、1934年6月30日の朝がやってきた。「長いナイフの夜」事件の始まりである。

階級の翻訳について

アッシェンバッハの階級は「親衛隊大佐」と字幕がついているが、役者が話す台詞では Hauptsturmführer となっており、これは直訳で「高級中隊指揮官」あるいは「高級中隊指導者」となり、旧日本陸海軍の呼称を用いた軍隊階級風訳では「親衛隊大尉」とするのが通例である。アッシェンバッハの制服左襟に装着されている階級章も高級中隊指揮官のものであることからも、「親衛隊大佐」とする翻訳は適切とはいえない。これは訳者のミスと推測されるが、原語の階級呼称自体が親衛隊独特のもので軍隊や警察とは共通性がなく、ナチス・ドイツ時代においても親衛隊の階級を巡っては「どの階級と、どの階級が対等なのか」の判断で混乱を招いたといわれている。

関連・影響

  • 三島由紀夫は本作を絶賛し、「久々に傑作といえる映画を見た。生涯忘れがたい映画作品の一つになろう」ではじまる評論を寄稿している。三島は映画の背景となったナチスによる事件には特別な関心を持っていたようで、事件を題材にとった『わが友ヒットラー』という作品も書いている。
  • 70年代英パンクバンドダムドの初期のアルバムの邦題は『地獄に堕ちた野郎ども(Damned, Damned, Damned)』はこの映画のタイトルをもじっている。