不揮発性メモリ
不揮発性メモリ(ふきはつせいメモリ、英: Non-volatile memory)または不揮発性記憶装置(英: non-volatile storage)は、コンピュータで使われるメモリの一種で、電源を供給しなくても記憶を保持するメモリの総称である。逆に電源を供給しないと記憶が保持できないメモリは揮発性メモリと呼ばれる。
概説
不揮発性メモリは主に補助記憶装置または長期保管用ストレージとして使われる。主記憶装置としては今では主に揮発性の Random Access Memory (RAM) が使われている。したがってコンピュータの電源を切るとRAMに格納されていた内容は失われる。だが、不揮発性メモリにはそれぞれ何らかの欠点があり、主記憶装置に適さない。多くの不揮発性メモリは、RAMよりも高価だったり性能が低かったりする。
不揮発性ストレージには、ROM、フラッシュメモリ、ほとんどの種類の磁気記憶装置(ハードディスクドライブ、フロッピーディスク、磁気テープなど)、光ディスク、初期のコンピュータで使われた紙テープやパンチカードなどがある。アドレスを電気的に指定するもの(半導体メモリなど)と機械的に指定するもの(ハードディスク、光ディスク、磁気テープなど)に分類され、電気的にアドレス指定するものはビット単価が高価だが高速であり、機械的に指定するものはビット単価が安いが低速である。
主記憶装置に不揮発性メモリを採用できれば、相対的に低速なハードディスクなどの補助記憶装置の必要性がなくなる。いくつかの企業が価格面でも性能面でも揮発性のRAMに匹敵する不揮発性メモリを開発中である。例えばIBMはMRAM(磁気抵抗メモリ)を開発中である。不揮発性メモリを主記憶装置に利用できれば省電力になるだけでなく、コンピュータの電源をいつでも切ったり入れたりでき、時間のかかるスタートアップやシャットダウンが不要になる。
半導体メモリ
半導体ベースの不揮発性メモリは、書き込み機構によって次のように分類される。
マスクROM
マスクROMは古くからある不揮発性ROMで、設計段階から配線によって特定のデータを格納するようになっており、そのフォトマスクを使って集積回路を製造すると、シリコンにデータが刻み込まれ後から書き換えることはできない。
したがってマスクROMは大量生産に向いており、初期のミニコンピュータの立ち上げ処理(ブート)のコードの格納などに使われた。
初期コストが高くつき後から修正できないことから、設計の初期段階で使うことは滅多にない。
PROM
PROMは出荷時点では何も記憶していない。ヒューズ型PROMは、シリコンまたは金属製のヒューズがあり専用の書き込み装置で選択的にヒューズを焼き切ることで個々のビットを0から1に変更する。一度ビットの内容を変更すると元に戻すことはできない。不揮発性ではあるが、やや柔軟性に欠ける。
初期のPLD(プログラマブルロジックデバイス)チップもヒューズ型PROMと同様のプログラミング手法を採用していた。
ヒューズ型より新しいアンチヒューズ型PROM(ワンタイム・プログラマブル (OTP) メモリとも)は、集積度・信頼性が高く、読み出しが高速でデータ保持期間が長いことから、家電機器、自動車、RFID、HDMIなどに広く使われている。
EPROM
EPROM技術をベースとした不揮発性メモリには次の2種類がある。
UV-EPROM
記憶内容を消去可能なEPROMで、チップ中央に石英の窓があることからUV-EPROMだとすぐにわかる。電界効果トランジスタのゲート部に電荷を捉えるとビットの内容が1から0に変化する。その電荷を除去するには20分から30分間、波長の短い紫外線を照射すればよく、それによって出荷直後の何も記憶していない状態に戻る。
OTP(ワンタイム・プログラマブル) EPROM
OTP EPROM も基本的には同じものだが、石英の窓がチップにないため、一度書き込むと消去できない。石英を使わないため安価である。
EEPROM
EEPROMは電気だけでチップの記憶内容の一部を選択的に消去でき、しかも消去のために回路から取り外す必要がない。消去と書き込みは人間から見れば高速だが、読み出しに比べると遅い。
特定のビットを書き換えられる回数に限度があり、一般に1万回から10万回とされている。また記憶容量も他の不揮発性メモリに比べると小さい。EEPROMは機器の設定情報などの格納に適しており、モデムなど様々な機器で利用されている。
フラッシュメモリ
フラッシュメモリとEEPROMはよく似ているが、EEPROMがビット単位に消去できるのに対してフラッシュメモリはブロックまたはページと呼ばれる単位でしか消去できない[1]。EEPROMよりも記憶容量が大きくでき、デジタルカメラやパーソナルコンピュータのBIOSチップなどに広く使われている。
構造によりNAND型とNOR型に分けられる。NOR型はランダムアクセスが高速で、1バイト単位の読み出しが可能である。NAND型は連続な読み書きが高速だが、ランダムアクセスはNOR型より遅い。NAND型はNOR型より集積度を高くでき、同じ大きさのシリコンであれば記憶容量をより大きくできる[1]。
NOR型フラッシュメモリのメーカーは次の通りである[2]。
- Atmel
- インテル
- Macronix
- マイクロン・テクノロジ
- Silicon Storage Technology (SST)
- スパンション
- STマイクロエレクトロニクス
NAND型フラッシュメモリのメーカーは次の通りである[3] [4]。
磁気抵抗RAM (MRAM)
磁気抵抗RAM (MRAM) は比較的新しい不揮発性メモリの1つで、トンネル磁気抵抗効果と呼ばれる現象を応用している。不揮発性、データ保持期間が長い、読み書きが高速、低価格など、メモリに求められる特徴を全て備えており、MRAMは特有望な技術と目されている[5]。
Everspin Technologies(フリースケール・セミコンダクタからのスピンオフ)の 4Mbit MRAM などの第一世代のMRAMは電流磁場方式の書き込みを採用していた。現在開発が進んでいる第二世代では、Crocus Technology の Thermal Assisted Switching (TAS) 方式[5]と Crocus、ハイニックス、IBMなど複数の企業が採用している Spin Torque Transfer (STT) 方式[6]がある。
その他
半導体以外の不揮発性メモリ
半導体ではないが、可動部分がなく電気だけで読み書きが可能なメモリとして次のものがある。
機械的な可動部のある記憶装置は、記録媒体を読み書きする構造(ヘッド)を持つ。この場合回路レイアウトがデータ記憶密度の主たる要因ではないため、半導体メモリに比べて大容量にしやすい。
有機メモリ
プリンテッド・エレクトロニクス技術を使った重合体による強誘電体メモリ (FeRAM) が存在する。
Thin Film Electronics は強誘電性重合体をベースとした書き換え可能な不揮発性の有機メモリを開発した。同社はプリンテッド・エレクトロニクス技術を使ったメモリを2009年に発表している[7] [8] [9]。同社の有機メモリは強誘電体の重合体を単純マトリックス方式の電極で挟んだ構造になっている。金属の配線が交わるところがそれぞれFeRAMのようなメモリセルとなっている。半導体の強誘電体メモリと同様の不揮発性メモリであり、フラッシュメモリと同等の機能を提供する。
NVRAM
コンピュータ装置の設定情報などを記憶するための、小容量の不揮発性メモリのことをNVRAMと呼ぶことがある。NVSRAMとも呼ばれる。 NVRAMは、ICパッケージ中にSRAMと小型電池を内蔵した構造をとる。 リアルタイムクロック回路を内蔵しているものもある。
- PC/AT互換機のパーソナルコンピュータでは、各種設定情報を保持するために搭載している。初期のPC/AT互換機では、TTLが主流の回路構成素子だったのに対し、当時は特殊だったCMOSで作られていたためNVRAMのことをCMOSと呼ぶことがあった。現在(2007年)のパーソナルコンピュータでは、設定を記憶するメモリはチップセットに内蔵され、電池を外付けする構成が多い。
- サンマイクロシステムズのワークステーションSPARCstationでは、NVRAMにイーサネットインタフェースのMACアドレスが保存されており、電池が消耗した場合MACアドレスが変わってしまう問題が発生することがあった。
仕様比較
2007年3月時点の仕様 [10] | 2.5" HDD | 1" マイクロドライブ | フラッシュメモリ | 光ディスク | 磁気テープ | MRAM |
---|---|---|---|---|---|---|
機種 | Hitachi Travelstar 5k160 | Hitachi Microdrive 3k8 | Hynix HY27UH08AG5M | ブルーレイ | HP Ultrium 960 | Everspin[11] MR2A16A |
記憶密度 (GBit/cm2) | 20.3 | 18.4 | 6.7 | 3.8 | 0.047 | 0.0021 |
記憶容量 (GByte) | 160 | 8 | 2 | 50 | 400 | 0.004 |
ビット単価 (Eur/GByte) | 1.5 | 9.0 | 6.0 | 1.25 | 0.075 | 35000 |
デバイス単価 (Eur) | 110 | 87 | 14 | 635 | 2340 | 17.4 |
媒体単価 (Eur) [12] | nd | nd | nd | 40 | 30 | nd |
データレート (Mbit/s) | 540 | 80 | 23 | 144 | 640 | 436 |
アクセス時間 (ms) [13] | 11 | 12 | 0.025 | 180 | 72000 | 0.000035 |
電力消費量 (W) [14] | 1.8 | 0.6 | 0.1 | 25 | 20 | 0.08 |
寸法 高さ×幅×奥行き (cm) |
0.95x7x10 | 0.5x3x4 | 0.1x1.2x2 | 4x15x19 | 2x10x10 | 0.1x1x1.8 |
脚注・出典
- ^ a b By Russell Kay, ComputerWorld. “Flash memory.” June 7, 2010.
- ^ EE Times Herald. “Flash memory chips for your embedded design.”
- ^ By Mark LaPedus, EE Times. “NAND flash vendors gear up for new wave of apps.” October 1, 2007.
- ^ By Dave Burskey, Electronic Design. “Demanding Applications Push NAND Flash Densities .” April 13, 2006.
- ^ a b The Emergence of Practical MRAM Crocus Technology
- ^ Tower invests in Crocus, tips MRAM foundry deal EETimes
- ^ Thinfilm and InkTec awarded IDTechEx' Technical Development Manufacturing Award IDTechEx, April 15th 2009
- ^ PolyIC, ThinFilm announce pilot of volume printed plastic memories EETimes, September 22th 2009
- ^ All set for high-volume production of printed memories Printed Electronics World, April 12th 2010
- ^ Informationstoragecourse2007
- ^ もともとはフリースケールの一部
- ^ 可搬媒体の場合
- ^ 平均/典型
- ^ 平均