レムリア

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レムリア (英語: Lemuria) は、イギリス動物学者フィリップ・スクレーター(1829年 - 1913年)が1874年に提唱した、インド洋に存在したとされる仮想の大陸説[1][2]

また、オカルト系の書物において同一名称の大陸が登場するが、上記の動物学の仮説とはまったくの別物である。

科学

アフリカマダガスカル島にはキツネザルが生息しており、この仲間は世界中でここからしか知られていない。しかし化石種インドから発見されており、また近縁の原猿類はこの島を挟んでアフリカ中部と東南アジアマレー半島インドネシアにのみ生息する。このようにインド洋を隔てた両地域には近縁な生物が見られる(隔離分布)。

これを説明するために、スレーターは5000万年以上前のインド洋にインドの南部、マダガスカル島マレー半島があわさった大陸が存在したのではないかと考え、キツネザル(レムール、Lemur)にちなみ「レムリア大陸」と名付けた[3][4][5]。また、ドイツの動物学者エルンスト・ヘッケルは自著『自然創造史』 (Natürliche Schöpfungsgeschichte) でレムリア大陸こそ人類発祥の地であると主張した[6]。そのほかにも一部の地質学者がインド洋沿岸地域の地層の構造が酷似していることから似たような説を唱えている。

しかし、インド洋を含め、大洋によって隔てられた地域間の生物相の類似については、1912年気象学者アルフレート・ヴェーゲナー大陸移動説によっても説明がなされた。当初はレムリア大陸説をはじめとする陸橋説が優勢だったが、1950年代より大陸移動説が優勢となった。1968年プレートテクトニクス理論の完成により大陸移動説の裏付けが確実なものとなり、レムリア大陸説は否定された[7][8]

オカルト

レムリア大陸説は、神智学協会創設者の1人、ブラヴァツキー夫人によって1888年に刊行された著書『シークレット・ドクトリン』において登場した[9]。レムリアは大陸であり、大陸が存在した位置はインド洋ではなく太平洋にあると発表し、神秘学者達の間では高い支持を得た[9]。また、レムリア大陸における文明が地球上の他の文明より盛んであった時代は、第3根本人種、レムリア時代などと呼ばれるなどと述べた[10]。天帝サナト・クマラが金星より、地球における神(ロゴス)の反映になる任を司るために、1850万年前に「大いなる犠牲」としてエーテル界に顕現されたのが、このレムリア時代であると主張した[11]。サナト・クマラが地球に顕現された事により、動物人間の状態であった人類は、本当の意味での魂のための器[12]として完成し、この時代に、肉体とエーテル体は完全に結び付いた、などと主張した。

大陸

レムリア大陸は最大時には太平洋をまたがって赤道を半周する、現在のユーラシア大陸と同位の面積があったが、およそ7万5千年という長い年月にわたる地殻変動により大半が減少し、最後には日本の東方にオーストラリア程度の大陸が2つ残り、やがて完全に沈没したと説かれた[13]

沈没期の最後に残った2つの大陸の事をムー大陸とレムリア大陸とに別ける神秘学者や秘教学者もいるが、最初の巨大大陸時をムー大陸と呼ぶ者もいる。ジェームズ・チャーチワードはムー大陸の起源をレムリア大陸であるとした[9][14]。どちらの大陸も同一の霊的背景にある事は、多くのアカシック・リーディングに依る書物で説かれ、文明の終期にはラ・ムーが指導者に当たっていた事が説かれている[13]

アメリカ合衆国の著作家バーバラ・ウォーカーは、伝説上の大陸名の「レムリア」とは、本来は「レムレスの世界」、すなわち「亡霊の世界」のことを意味していた、と自書で述べている[15]

現在においては、オカルトおよびニューエイジ界に幅広く影響を与えており、プレアデス星団の人々との関わりや、レムリア人の現代への転生、レムリア人が水晶として転生した「レムリアン・クリスタル」等が信じられている[要出典]

タミル人の伝える水没した陸地

クマリ・カンダムの位置。動物学の仮説におけるレムリア大陸と同一視されている

タミル人が古代に著したサンガム文学の叙事詩や中世の伝説などには、海中に没した王国がしばしば登場する。今日のタミル人の間ではこの王国はクマリナドゥ(Kumarinadu)またはクマリ・カンダム(Kumari Kandam)と呼ばれている。19世紀末から20世紀初頭にかけて、タミル人民族主義者の間ではクマリ・カンダムとレムリアを同一視し、レムリア人が人類の文明を築き、その末裔がタミル人だとする超古代文明説が唱えられていた。[要出典]

創作物

アトランティス大陸説のようにプラトンの著作に代表されるような文献は、レムリア大陸および文明説では存在しない(これは「動物学のレムリア説を証明し得る文献は存在しない」というぐらいの意味であり、レムリアとムーが等しいことを主張する神智学系の説を否定するものではない[16])。しかし、それが逆に舞台設定の自由度を高め、創作物の舞台に設定されることがある。たとえばロバート・E・ハワード[17]リン・カーター[18]は、古代レムリアを舞台とした作品を書いた 。また、ラブクラフトの『クトゥルー神話』においてもしばしば言及される[19]

レムリアを扱った作品

脚注

  1. ^ と学会 (1997)、115–117頁。
  2. ^ ディ・キャンプ(1997)、90–120頁。
  3. ^ Neild (2007), pp. 37–39.
  4. ^ ディ・キャンプ (1997)、92頁。
  5. ^ と学会 (1997)、116頁。
  6. ^ Richards, Robert John (2008). The Tragic Sense of Life. University of Chicago Press. pp. p. 250. ISBN 0226712141 
  7. ^ と学会 (1997)、117頁。
  8. ^ ディ・キャンプ (1997)、237–240頁。
  9. ^ a b c 秦野啓(監修)『知っておきたい伝説の秘境・魔境・古代文明』西東社、2009年、18–19頁頁。ISBN 4791616383 
  10. ^ 現在は第5根本人種の時代であり、アーリア時代などと称されるとした。秘教におけるアーリアはヒットラーが提唱したアーリア民族説と異なり全人類の事を指す[要出典]
  11. ^ 明けの明星、啓明とはこの事である。ルシファーは堕落したのではなく、金星より地球人類のために自身を犠牲として奉げたのである[要出典]
  12. ^ 魂のための器、パーソナリティは物質体(肉体とエーテル体)とアストラル体とメンタル体との、3つのフォースから構成される[要出典]
  13. ^ a b 葦原瑞穂『黎明 上・下』太陽出版、2001年5月、240頁。ISBN 978-4-88469-226-1 
  14. ^ レッカ社『「クトゥルフ神話」がよくわかる本』佐藤俊之(監修)、PHP文庫、2008年、236頁。ISBN 4569671365 
  15. ^ バーバラ・ウォーカー 著、山下主一郎ほか 訳『神話・伝承事典 失われた女神たちの復権』大修館書店、1988年、435頁。ISBN 4-469-01220-3 
  16. ^ ベンジャミン・クレーム著『世界大師と覚者方の降臨』、石川道子訳、シェア・ジャパン出版、1998年
  17. ^ D'Ammassa (2006), p. 168.
  18. ^ D'Ammassa (2006), p. 48.
  19. ^ Herrick, James A. (2005). Scientific Mythologies. Downers Grove: InterVarsity. pp. pp. 223–224. ISBN 0830825886 

参考文献

関連項目