クトゥルフ神話

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クトゥルフ神話(クトゥルフしんわ、Cthulhu Mythos)とは、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの描いた小説世界をもとに、ラヴクラフトの友人である作家オーガスト・ダーレス等の間で、架空の神々や地名や書物等の固有の名称の貸し借りによって作り上げられた、架空の神話体系のこと。

目次

[編集] 概要

クトゥルフ

この神話体系で用いられた固有の名称は、後の作家たちにも引き継がれているが、名称に伴う設定については各作家の自主性に任され、たとえばコリン・ウィルソンの『精神寄生体』[1]や『賢者の石』[2]では、本神話大系の名称にも使用されている邪神クトゥルー自体はあくまでもラヴクラフトの創作上の存在とされており、この辺りが世界観の共有を必要とするシェアード・ワールドとは異なっている。

邪神の名前である「Cthulhu」は、本来人間には発音不能な音を表記したものであり、クトゥルフやクトゥルーなどはあくまで便宜上の読みとされているため、クトゥルー神話ク・リトル・リトル神話クルウルウ神話とも呼ばれる。ラヴクラフトから彼の遺著管理者に指名されたロバート・バーロウによると、ラヴクラフト自身はKoot-u-lewと発音していたそうである。またラヴクラフトの書簡には、発音方法が記されたものがある。それによると『Cluh-luhのように音節を分け、舌の先を口蓋にしっかりとつけたまま、唸るように吠えるように、あるいは咳をするようにその音節を出せばいい[3]』と書かれている。1974年出版のラヴクラフト全集を訳した大西尹明はクトゥルフと表記した理由を「発音されると考えられる許容範囲内で、その最も不自然かつ詰屈たる発音を選んだがため」としている。

太古に地球を支配していたが現在は地上から姿を消している、強大な力を持つ恐るべき異形のものども(旧支配者)が現代に蘇るというモチーフを主体とする。中でも、旧支配者の一柱であり、彼らの司祭役を務めているともされる、太平洋の底で眠っているという、タコイカに似た頭部を持つ軟体動物を巨人にしたようなクトゥルフは有名である。

なお、ラヴクラフトは自身の作品群や世界観を指して「クトゥルフ神話」という呼称を用いたことはなく、「クトゥルフ神話」はダーレスが独自の見解を加え体系化した後の呼称ともされる。そのため、ダーレスによる見解を含む場合を「クトゥルフ神話」や「ダーレス神話(Derleth Mythos)」と呼び、ラヴクラフトのみによる作品群やその世界観を指す場合を「原神話」や「ラヴクラフト神話(Lovecraft Mythos)」と呼ぶことで区別することもある。特にダーレスによって持ち込まれたとされている、善悪二元論による「旧神」「旧支配者」という体系に否定的な立場の読者は、この両者を明確に区別している。

[編集] 恐怖の源泉

クトゥルフ神話は多数かつ多様な作品によって構成されており、その源泉を単純に述べることは困難だが、創始者とされるラヴクラフトのホラー小説においては、宇宙的恐怖コズミック・ホラー)という概念がテーマとして挙げられる。これは無機質で広漠な宇宙においては人類の価値観や希望などは何の価値もなく、人はただ盲目的な運命に翻弄されるのみであるという不安と恐怖をホラー小説の形式で描いたものであり、理性を超えた狂気と混沌、吸血鬼幽霊など伝統や文化に基づいた恐怖を排除する傾向、宇宙空間や他次元などの現代的な外世界を取り上げる、などの要素がある[4]。しかし、ヒロイック・ファンタジーの文脈を取り入れたロバート・E・ハワード善悪二元論的な作品を描いたオーガスト・ダーレスブライアン・ラムレイを始めとして、コズミック・ホラー以外のテーマを持つ作品も多く存在する。

ラヴクラフトがクトゥルフ神話に描いた恐怖は、彼自身の恐怖感に由来していると考えられている。彼の作品には、自身の家系から来る遺伝的な狂気への恐怖、退行、悪夢などいくつかの共通したモチーフが見られる[5]。また、ラヴクラフトは海産物に対して病的な恐怖を抱いていた[6]

さらに、ラヴクラフトが東洋人ポーランド人黒人などのマイノリティに対して恐怖感と嫌悪感を持っていたことも知られている[7]。多くの人種の平等を唱えながら、ネグロイドオーストラロイドだけは生物学的に劣っているとして、この二者に対して明確な線引きが必要だと主張した[8]。当時としては問題にはならないが、現代であれば人種差別主義と言えるほどの偏見であり、これはそのまま『クトゥルフの呼び声』や『ダンウィッチの怪』での、人間と人ならざるものとの混血といったモチーフに結びついている[9]

また、ニューヨークに象徴される現代アメリカ文化に対する嫌悪感も強く描写されており、ラヴクラフトの恐怖と嫌悪は人種云々以前に現実全般(己自身をも含む)に及んでいたものと思われる[10]

[編集] 神話体系の発展

一連の小説世界はラヴクラフトによって創始され、彼の死後その友人である作家オーガスト・ダーレスがいくつかの重要な設定を付加して「クトゥルフ神話」として体系化した。ラヴクラフト自身は人知や時空を超越した宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)を描く新しいジャンルの小説を構想しており、事実後期の作品群には共通した人名、地名、怪物名、書名等が現れ、作品間の時系列的関係にも考慮の跡がみられる。しかし、背景をなす神話世界の全体像に関してはもっぱら暗示するにとどまった(これは怪奇文学の表現技法の一つでもある→朦朧法)。

ラヴクラフトの理解者を自認するダーレスは、これらの作品群が万人に受け入れられるよう“わかりやすい構図”を付加した。1931年に『潜伏するもの』を執筆し、「旧神」が邪悪な旧支配者を封印したとする独自の見解を発表した。ダーレスは旧神と旧支配者の対立構造を持ち込み、旧支配者に四大属性を割り当てるなど新たな解釈を行なった。そのため、ラヴクラフトの作品に明記されていない設定が数多く追加されることになった。だがラヴクラフトはダーレスを咎めず、「潜伏するもの」を力作と褒めて彼を激励した。その後、ダーレスの体系化に従った作品が多数発表され、これにより「クトゥルフ神話」は確立する。ダーレスによると、「クトゥルフ神話」という名称は、神話の基本的な枠組を明らかにした作品がラヴクラフトの『クトゥルフの呼び声』であることに基づいており、神名ではなく作品名に由来するものである。

ダーレスはアーカム・ハウスという出版社を創設してラヴクラフトの作品を出版する一方、「クトゥルフ神話」体系の普及に努め、他の作家がこの体系に従った「クトゥルフ神話」作品を書くように働きかけた。これによってラヴクラフトという作家は広く認知されることとなったが、ダーレスは、ラヴクラフトの文学を後世に伝え広めた最大の貢献者として称賛される一方で、ラヴクラフトのコズミック・ホラーを世俗的な善vs悪の図式に単純化したという理由で批判されることにもなった。 又、ダーレスはラヴクラフトやスミスの書簡集も出したが、クトゥルー神話については、あくまでも作品として発表されたものに記された部分にだけ注目していた。だが、書簡の中でのみ言及されている設定や神々の名もあった。最初にそこに注目したのはリン・カーターだった。たとえば彼は、クラーク・アシュトン・スミスが作品としてではなくロバート・バーロウ宛ての書簡の中で述べたツァトゥグァの系図を採用し、作品中にクグサクスクルスの名前を導入したりした。今日では、書簡で述べられていた設定は、次々とクトゥルー神話作品に取り入れられている。

ラヴクラフトは彼に先行する作家アルジャーノン・ブラックウッドロード・ダンセイニアーサー・マッケンエドガー・アラン・ポーなどから影響を受けている。今日ではマッケンの『白魔』やロバート・W・チェンバースの『黄の印』など、ラヴクラフトに先行する作品もクトゥルフ神話体系の一部と見なす見解もある。

多くの執筆者の手によって諸々の作品が書かれたこと、創始者のラヴクラフトが構想の全貌を体系化することを試みていなかったことから、クトゥルフ神話が誕生した正確な年を特定することは(そのことに意味があるかどうかは別としても)困難である。「クトゥルフ神話」という名称がラヴクラフトの『クトゥルフの呼び声』に基づいていることから、「クトゥルフの呼び声」が執筆された1926年(または発表された1928年)をクトゥルフ神話誕生の年と見なすことも可能であろう。

ラヴクラフトが創始したクトゥルフ神話作品の基本パターンは、好事家や物好きな旅行者が偶然から旧支配者にまつわる伝承や遺物に触れ、興味を引かれて謎を探求するうちに真相を探り当てて悲劇的最期を遂げ、それを本人(が残した手記で)あるいは友人が語るというもので、特定の地名や神名、魔術書などの独特のアイテムが作中にちりばめられる。

クトゥルフ神話はこうしたアイテムによって定義されているとも言え、小説の素材として多くの作家に愛されてきた。ラヴクラフト以後の作家によって書かれた神話作品は、こうしたラヴクラフトの基本プロットを踏襲して、そこに新たに創作した遺物を付け加えるなどクトゥルフ神話の一部と呼ぶに相応しい本格的なものから、単に旧支配者の神名や召喚の聖句などが作中に出てくるだけのものまで、さまざまに共有・拡張され、膨大な神話体系ができあがっている。そして、これらの神名や新しい土地、魔導書等の名やキャラクターは、ジェームズ・アンビュールの知られざるルー=クトゥの魔神たち(Devil Gods of Lu-Kthu)や、フランクリン・シーライトの創造したアブドゥル・アルハザードの末裔アラン・ハッサードと言った具合に、今も増え続けている。

作家たちの想像力を尽くした、この世のものとも思えない異形の旧支配者たちは、怪奇ファンのみならず多くの読者を楽しませており、今や怪奇小説一つの枠に納まらなくなりつつある。近年、カナダのPermuted Pressから、そうした他ジャンルのクトゥルフ神話(ニャルラトテップの一人称による暗黒小説、シュブ=ニグラスをヒロインとした正統派ロマンス小説、ハーマン・メルヴィル白鯨ジュール・ヴェルヌのキャラクターであるネモ船長を導入した作品等)を集めた『CTHULHU UNBOUND VOL.1』(ISBN-10: 1934861138 )『CTHULHU UNBOUND VOL.2』(ISBN-10: 1934861146 )が刊行されている。 小説のみならず、漫画やゲームの世界にも神話世界は拡張され続けている。

[編集] 日本でのクトゥルフ神話

日本でのクトゥルフ神話の始まりは、少なくとも1956年において、早川書房のアンソロジー『幻想と怪奇2』に「ダンウィッチの怪」の収録が確認されている[11]。ラヴクラフトやクトゥルフ神話が広く知れ渡ったのは、1972年SFマガジン9月臨時増刊号で、クトゥルフ神話が初めて特集されたこと[11]。翌1972年の専門誌『幻想と怪奇』第4号で「ラヴクラフト=CTHULFU神話」と題され特集された[11]ことから、1970年代頃から注目されていると推定できる。

初めは翻訳作品だけだったが、1980年代には日本の小説家によるクトゥルフ神話作品が書かれるようになる。紹介された時期がアメリカで作品の書かれた頃よりずっと後だったせいか、ダーレスによるクトゥルフ神話よりはラヴクラフト作品に近づける傾向が強い。中には、栗本薫の『魔界水滸伝』のようにラヴクラフトからも離れた独自解釈を行った作品も見られる。

[編集] クトゥルフ神話の神々と生物

[編集] 旧支配者 (古き神々、古き者ども)

旧支配者(Great Old Ones)」という呼称自体は、ラヴクラフトによる小説作品「クトゥルフの呼び声」で言及されているものの[12]、ラヴクラフト自身はクトゥルフ以外に旧支配者の名をまったく挙げていない。後のクトゥルフ神話作品においてこのカテゴリに分類されている神性を旧支配者と呼び、旧神と対立する邪悪な神々として位置づけたのはダーレスによる創作である。

[編集] 外なる神

外なる神(The Outer GODS)」とは、旧支配者とは別格の神々。元は単数でヨグ=ソトースの呼称であった。1980年代に、ケイオシアム社のTRPG『クトゥルフの呼び声』に見られるようになったが、今日では小説にも使用されるようになった。但し、作家に依っては今でも全て旧支配者で通している作家もおり、又、この分類が小説に使用されるようになる前に発表された作品も多く、TRPG以外ではあまり気にする必要は無いと思われる。

[編集] 旧神

旧神はダーレスの創作したものであり、本来はどれが旧神と言えるものではない。しかしながら、Nodens(大いなる深淵の主ノーデンス)が旧神の一柱であるとされることが多く、又、ブライアン・ラムレイフランクリン・シーライトの様に、旧神を敢えて創造し作中に登場させる作家も出て来た。 英語ではThe Elder Gods、又はthe Elder Gods。

[編集] 地球本来の神々

[編集] 異形の神

「異形の神々(Other Gods)」は地球の神々を守る一団

[編集] 旧支配者及び外なる神の従者

[編集] 異種族

[編集] その他

[編集] クトゥルフ神話に登場する書物、地名とアイテム

[編集] 魔導書と書籍

[編集] 架空の地名

町、市の名前
地球上の施設、遺跡、大陸など
ドリームランド(幻夢境)Dreamlands
地球外

[編集] アイテム

[編集] クトゥルフ神話に登場するキャラクター・組織

[編集] キャラクター

[編集] 組織

[編集] クトゥルフ神話の作家と作品

[編集] クトゥルフ神話作家

[編集] 日本のクトゥルフ神話作家

小説家
漫画家
評論家

[編集] クトゥルフ神話に影響を受けた作品

クトゥルフ神話は、多数の作品に影響を与えている。

[編集] 関連項目

[編集] 脚注

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  1. ^ 『精神寄生体』ISBN-10: 489342081X
  2. ^ 『賢者の石』ISBN-10: 4488641016
  3. ^ 学研 エソテリカ別冊 クトゥルー神話の本 P.041 より
  4. ^ 「はじめに」『「クトゥルフ神話」がよくわかる本』 株式会社レッカ社(編)、佐藤俊之(監修)、PHP研究所〈PHP文庫〉、2008年12月17日。ISBN 978-4-569-67136-9
  5. ^ 『クトゥルフ・ハンドブック』27頁、山本弘ホビージャパンISBN 4-938461-46-3
  6. ^ 『クトゥルフ・ハンドブック』111頁。
  7. ^ 『クトゥルフ・ハンドブック』110-111頁。
  8. ^ 『履歴書』(1934年2月13日付F・リー・ボールドウィン宛書簡の一部)『ラヴクラフト全集 3』- H・P・ラヴクラフト、大瀧啓裕訳、東京創元社創元推理文庫〉、ISBN 448852303X
  9. ^ 『クトゥルフ・ハンドブック』111頁。
  10. ^ 『クトゥルフ・ハンドブック』27頁、234-236頁。
  11. ^ a b c 学研 エソテリカ別冊 クトゥルー神話の本 P.164 主要翻訳書・参考書年表より
  12. ^ Wikisource-logo.svg Howard Phillips Lovecraft: The Call of Cthulhu/Chapter II - ウィキソース

[編集] 外部リンク

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