ヤマト1

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神戸海洋博物館で野外展示されているヤマト-1
船歴
起工 1989年
進水 1992年6月16日
性能諸元
総トン数 185トン
全長 30.0m
型幅 10.39m
深さ(型) 2.50m
計画最大速力 8ノット(時速15km)
定員 10名(乗員3名 その他7名)
船殻材質 アルミニウム合金
超伝導電磁石 性能諸元
形式 6連環内部磁場超伝導電磁石

×2基

コイル 性能諸元
中心磁界 単体 3.5テスラ(T)
中心磁界 6連環 4.0テスラ(T)
磁界有効長 3.000mm
冷却方式 液体ヘリウム浸漬冷却
クライオスタット[1] 性能諸元
外径 1.800mm
全長 5.400mm
常温ボア 260mm
重量 15トン以下
熱侵入量 7 ワット以下
お台場船の科学館にて屋外展示されている推進装置。下側に写る大型容器がクライオスタット。上部に取り付けられた構造物が液体ヘリウム収納容器。クライオスタット右側から海水が侵入し左側へと排出される。右舷推進器東芝製。

ヤマト-1(ヤマトワン)[2]とは、1992年(平成4年)6月16日神戸港において、世界で初めて超伝導を利用した電磁推進によって海上航行実験に成功したスクリュープロペラが存在しない世界初の実験船である。

船名である「ヤマト」とは、日本を表すヤマトに由来する。同時に宇宙戦艦ヤマト戦艦大和また古事記に記されている日本武尊の歌である「やまとは国のまほろば・・・」などの意味もこめられている。

2008年現在、神戸海洋博物館にて外殻と推進装置内部の超伝導電磁石が野外展示されており推進装置は船の科学館に屋外展示されている。

開発経緯 概要

世界の造船量50%を超えるシェアを誇り「造船王国」と呼ばれた日本ではあったが、コンテナ船LNG船ホバークラフトジェットフォイルと言った付加価値の高い船舶は国外製が多く、船の「心臓」であるエンジンなども海外製やライセンス生産などに頼らなければならない実情があった。また1985年昭和60年)当時、日本造船業界は海運不況の煽りを受け軒並み業績が低迷し、それに伴い研究開発なども沈滞傾向であった。そこで、のち「ヤマト1開発研究委員会」委員長となる笹川陽平が国内造船業に問題提起すると共に、経験の浅い技術者養成なども視野に入れた計画を立案する。

通常、船舶はスクリュープロペラを有している。ジェットスキーなどウォータージェット推進器を用いた船舶もジェット噴射構造内部にインペラ[3]と呼ばれる小型高速回転プロペラを利用し、海水を高圧にて噴射することによって推力に変えている。これに対し「ヤマト1」は一切の回転系推力発生器を使用せず、かわりに、超伝導電磁石を利用し強力な磁場を作り出し、磁場中の海水に電流を流してローレンツ力により海水を噴射するウォータージェット推進方式を採用している。これによりスクリューや内燃機などが不要になりほぼ無音航行が可能であり、また不快な振動が無く環境性能も高い。(静粛性が高い。航行により波きり音は発生する。)構造特性からプロペラ部分のスペースが不要になる事により自由度が高い船尾設計が可能になり、船殻を貫通する構造物が無い為に海水が船体内部に侵入しない、スクリューを高速回転させる事で発生するキャビテーションが発生しないなどの利点がある。

推進装置は2基搭載されているが、それぞれ別のメーカーにて製造された。右舷推進器は東芝が担当し、左舷推進器は三菱重工が担当した。[4]また船殻は専門工業デザイナーに依頼された。[5]

実験船ではあるが、試験航行に関して通常の海域を航行するため海事関係法令の適用[6]を受けなければならない。そこで開発当初からこれが考慮され設計されている。運輸省(現・国土交通省)検査官による基準検査を受け合格したため、船舶国籍証明書、船舶検査証書の交付が行なわれている。

国内外での関心が高く、処女航海日には多くの関係者や海外の軍関係者、造船関係招待者が神戸を訪れている。その他、ロイター通信ワシントン・ポストなどの紙面を飾った。

試験航行後の展示保管場所候補として東京と神戸が挙げられたが、検討の結果、神戸市に対し無償譲与することとなった。

電磁推進の基本原理

フレミングの左手の法則という電磁気学の法則がある。電磁推進はこの法則の応用である。推進装置は磁力発生装置と電流を流す装置から成る。磁力発生装置により、船底付近で海水中に磁場を作り、この磁場に直交するように電流を流すことによって導体(海水)にローレンツ力が働き、海水を押し出す。これによって船に推進力が得られる。

電磁推進原理は古くから知られており、1961年に米国人であるW.A.Riceにより特許が取得されている。その後マサチューセッツ工科大学高速船研究を行なっていたR. A. Doragh とウエスティング・ハウス社の技術者であるS.Wayが、既に電磁推進船の研究を行なっていた。またR. A. Doragh は研究結果から船を推進させるに十分な力を発生させるには、超伝導電磁石ではなければならないと結論を導き出している。

日本においては、1976年神戸商船大学(現・神戸大学)の佐治吉郎教授が超伝導に着目し、世界で初めて模型船(長さ1m)レベルでの実験に成功している。

電磁推進方式

推進方式には大きく分け交流磁場方式と直流磁場方式がある。交流方式は建造時には実現されておらず、直流方式を採用せざるを得なかった。[7]次に作用域分類の採用が行なわれたが、磁場を発生させる箇所を船体外へ出す方式と、船体内部に貫通ダクトを設置し、ダクト内の海水を作用させる(ウォータージェット方式)があるが、結果、後者を採用した。前者のメリットは装置が簡素化されるが、磁場の外部環境への影響が大きく電磁障害などが考慮された結果、内部貫通方式を採用するに至った。

実現に関しての諸問題

実現に向け推進装置の大きさ
超伝導電磁石の冷却に液体ヘリウムを使用するので、推進装置全体が大型になる。推進装置重量が増す事により排水量185トンクラス[8]でありながら、定員は10人と少ない。
推進装置の出力
通常型船舶並みの出力を得るには少なくとも20〜30テスラが必要であったが、技術的に不可能であった。また搭載された推進器でさえ搭載限界重量であった。
強烈な磁場の漏洩
磁気漏れを防止するための遮蔽材が必要となるため船体重量が増す。船殻は磁気の影響を受けないアルミニウム合金が採用されているが、反面アルミ合金であるため衝撃や歪みに弱く、艤装は船体を海面に浮かべてからでないと行なえないなどのデメリットが発生する。
超電導磁石の冷却
超伝導電磁石に超伝導状態を作り出さなければならず、専用冷却装置を装備しなければならない。液体ヘリウムは高価であり、保管も専用施設が必要になる。これに付随した問題として、航行前に推進装置を予冷しなければならず、試験航行前の予冷は約10日間を要した。[9]

このほかにも対策箇所が多数あり、試験航行時にも故障が発生するなど、商用実現までには至っていないのが現状である。

開発経過

1985年(昭和60年) - 日本造船振興財団が主体になり「超電導電磁推進船開発研究委員会」を設立。
電磁推進船の構成およびシステム調査。
超伝導電磁石、低温技術の調査。
回流水槽の設計製作。
ヤマト1(前面)
1986年(昭和61年)
電磁推進船の推進効率研究。
超伝導電磁石の設計。
船上・地上用ヘリウム冷却装置の設計。
実験棟の建設。
電極材の研究。
1987年(昭和62年)
電磁推進船のモデルテスト。
超伝導電磁石の詳細設計と単体コイル製作。
長水槽の建設。
1988年(昭和63年)
電磁推進船の詳細設計。
コイル・クライオスタットの製作。
冷却装置製作。
試験航海海域の調査。
1989年(平成元年)[元号要検証]
電磁推進船の建造着手。艤装。
コイル他推進装置の組み立て調整。
三菱造船神戸内に陸上支援施設建設。
1990年(平成2年)
電磁推進船の完成。
命名式。
推進装置調整。
1991年(平成3年)
ヤマト-1に電磁推進装置の搭載、調整。
1992年(平成4年)
ヤマト-1神戸湾において海上試験航行。評価など行なう。

脚注

  1. ^ 超伝導電磁石を収納し、極低温状態を維持するための断熱容器。
  2. ^ 書籍や関連資料等では一般にハイフン付きで記しているため、本記事の本文はそれに従っている。日本の船舶法における登記ないし登録ではハイフンの使用を受け付けておらず、記事名はそちらに合わせている
  3. ^ 類似したものにターボチャージャーなどがある。
  4. ^ 規格・仕様のみ指定しての発注。技術者育成と情報の共有化が目的であったため、故意に行なわれた。
  5. ^ 最先端技術船ではあったが、西側船の美しさに習い、美しくない船は宜しく無いとの意向によるものであった。
  6. ^ 俗に言う船舶検査。車で言う車検
  7. ^ 効率から判断すると交流方式が望ましい。
  8. ^ 通常型船舶換算で500人収容と同等である。
  9. ^ 急速冷却が可能ではあったが、これを行なうとコイルに不具合が発生する。

参考文献

  • 『ヤマト-1』 シップ・アンド・オーシャン財団 1996年11月 ISBN 4-916148-01-0

関連項目