ネイチャー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。2400:4051:1160:1500:36:95c3:fa5b:fb37 (会話) による 2020年11月15日 (日) 00:57個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (→‎特徴)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

Nature 
略称 (ISO) None
学術分野 学際
言語 英語
詳細
出版社 Nature Publishing Group
出版国 イギリス
出版歴 1869年以降継続
出版間隔 週刊
インパクトファクター 43.070(2019年)
分類
ISSN 0028-0836 (印刷物用)
1476-4687 (ウェブ用)
外部リンク
プロジェクト:出版Portal:書物
テンプレートを表示

ネイチャー』(イギリス英語: Nature)は、1869年11月4日イギリスで天文学者ノーマン・ロッキャーによって創刊された総合学術雑誌である。

世界で特に権威のある学術雑誌のひとつと評価されており、主要な読者は世界中の研究者である。雑誌の記事の多くは学術論文が占め、他に解説記事、ニュースコラムなどが掲載されている。記事の編集は、イギリスの Nature Publishing Group (NPG) によって行われている。NPGからは、関連誌として他に『ネイチャー ジェネティクス』や『ネイチャー マテリアルズ』など十数誌を発行し、いずれも高いインパクトファクターを持つ。

歴史

19世紀後半のイギリスは、テクノロジーや工業の大きな変化や進歩を経験した[1]。この時代の、評価の高い科学誌と言えば、王立協会の審査つきの科学誌(アイザック・ニュートンあたりに始まって、マイケル・ファラデーチャールズ・ダーウィンも寄稿した)であった。1850から1860年代にかけて、ポピュラーサイエンスの定期刊行物が倍増した[2]。そうした刊行物の出版社によると、それらは「科学のオーガン(器官)」であり、「一言で言えば、人々を科学の世界へと繋ぐ手段」であった[2]

ネイチャーが1869年に創刊された当時には、すでにこうした類の定期刊行物はいくつも存在していた。例えばネイチャーに先行していたものとしてはRecreative Science: A Record and Remembrancer of Intellectual Observationが挙げられる。これは1859創刊で、当初は自然史を扱うもので、後に物理分野での観察的な科学や技術的な主題を扱うようになり自然史はあまり扱わなくなった。タイトルも何度か変更された[3]。他にも、1862年創刊のPopular Science Review、1864創刊のQuarterly Journal of Science、1868年創刊Scientific Opinionがあった。

こうした似たりよったりの定期刊行物は全然うまくゆかなかった。最も長く続いたPopular Science Reviewですら20年しか続かず1881年に廃刊Recreative Scienceも、Student and Intellectual Observerも1871年に廃刊。The Quarterly Journalは編集者の交替の後1885年に廃刊。The Readerは1867年廃刊。Scientific Opinionは2年しか続かず、1870年6月に廃刊[4]

The Reader誌の失敗からしばらくして、その元編集者だったノーマン・ロッキャー (Norman Lockyer) は科学誌を新たに創刊することを決意し、その誌名を Nature とした[5]。このNatureという誌名は、ウィリアム・ワーズワースの作品の一節 “To the solid ground of nature trusts the Mind that builds for aye” からとったものである[6]。『ネイチャー』は、当初はマクミラン社によって所有・出版されており、先行していた定期刊行物同様に、「教養ある読者に科学的知識の進歩についての、アクセス可能なフォーラムを提供する」ことを試みたという[5]。Janet Browneによると、『ネイチャー』は「同時代の科学誌群とは比べ物にならないほどポレミック (polemic) な目的の(つまり、討論を挑んだり、議論を引き起こすことが目的の)雑誌として生まれ、育てあげられた[7]

初期の『ネイチャー』はXクラブによって書かれた記事を多数含んでいた[5]。Xクラブとはリベラルで進歩的で、その時代に科学的と信じられていたことに対して異論をとなえることで知られていた科学者集団である[5]

2013年、ノーベル賞受賞者であるランディ・シェクマンがこの『ネイチャー』と『サイエンス』、『セル』の3誌は商業主義に陥っていると批判、絶縁宣言をした[8]

特徴

『ネイチャー』に掲載される論文の学術的な評価は『サイエンス』と並んで高いが、会員からの寄付でなりたつ『サイエンス』とは異なり、『ネイチャー』は商業誌であり学術的な論文の部分のほかに、OpinionやNews & Viewsといった政治的な発言を発する部分からなっており、この政治的な部分が財政的な力と結びついている[9]

特筆すべき掲載記事

『ネイチャー』には、これまでにノーベル賞クラスの業績が多数掲載されてきた。その一方で、偽造や捏造を含む不正論文も掲載されることもあり、その運営方法が議論される機会も多い。

一例としてコピペ流用や加工が大量にあり一見して明らかな捏造の隠蔽と撤回回避のための虚偽訂正であったにも関わらず、過失という著者の虚偽説明を鵜呑みにして、訂正公告で過失と表明し、虚偽内容の大量訂正を行う事がある[10]。例えば元東京大学分子細胞生物学研究所教授はネイチャー論文で「捏造改ざんの疑いを把握していながら、当該論文の撤回を回避するためにその隠蔽を図り、関係者に画像や実験ノートの捏造・改ざんを指示し、事実と異なる内容を学術誌の編集者へ回答するなど、極めて不当な対応をとっていた。」[11]

このような杜撰な審査、不正隠蔽の片棒を担ぐ出版社の大量訂正掲載に対し、日本分子生物学会の研究倫理のフォーラムで大量訂正は一種の査読システム違反であり、後から大量訂正できるならば、査読者がデータの公正さや結論の正しさを判断する事ができないという指摘があったが、ネイチャー誌の編集者は論文の主旨、結論が正しいかどうかで撤回かどうかを判断するという回答であった[12]

東大分生研の明白なコピペ捏造と大量訂正による隠蔽後も同様の明白なコピペ捏造の掲載が繰り返されている[13][14]

画期的業績

一部リンク先は無料公開されていない。

日本人のさきがけ的な寄稿

南方熊楠が1892 - 1900年のイギリス滞在中書いた、「極東の星座」を始めとする何点もの論文が『ネイチャー』に掲載された[15]。当時日本人の寄稿は、南方の論文を除けばせいぜい1点しかなかった、という[15][16]。生涯にわたって『ネイチャー』に掲載された熊楠の論文は51本にものぼり、これは日本人としてはもちろん、単独名の論文掲載としては歴代投稿者の中での最高記録であるという[17]

20世紀に初版が発表されたユニークな論文

歴史の節で解説したように、『ネイチャー』はもともと、polemicalな(定説に異論を唱え、議論を挑む姿勢の)ものとして生まれ、育てられたものであり、近年でもそうした姿勢・ポリシーで掲載されている論文がある。

  • ユリ・ゲラー - Targ R. & Puthoff H., "Information transmission under conditions of sensory shielding", Nature 251, 602-607 (1974).
先行コラムとして"Challenge to Scientist", Nature 246, 114, (1973) がある。本論文の掲載の是非については編集部内でも議論を呼び、Nature 251, 559-560 (1974) に「議論を呼ぶ研究の掲載も価値がある」として掲載されている。この問題はNature 254, 470-473 (1975) でも再度取り上げられている。
  • ネッシー - "Naming the Loch Ness monster", Nature 258, 466-468 (1975).
これは論文でなくコラム記事である。
  • ホメオパシー - Davenas, E., Beauvais, F., Amara, J., Oberbaum, M., Robinzon, B., Miadonna, A., Tedeschi, A., Pomeranz, B., Fortner, P., Belon, P., Sainte-Laudy, J., Poitevin, B. & Benveniste, J., "Human basophil degranulation triggered by very dilute antiserum against IgE", Nature 333, 816-818 (1988).
1991年イグノーベル賞受賞論文。なお、Nature 431, 729 (2004) にはBenvenisteの追悼記事が掲載された。

ネイチャーの購読

サイエンス』やPNASなどの他の総合学術誌が、オンライン限定アクセス、つまり紙媒体を配信せずにオンラインのアクセスのみの配信方法を認める代わりに安価で記事を閲覧可能とする配慮をしているのに対し、『ネイチャー』の場合は、日本国内向けには「オンライン限定のアクセスに限定するかわりに安価に論文を購読できるオプション」はない。もっとも、2011年から、iPad用のアプリを使えば安価に定期購読できるようになった[18]

『ネイチャー』を個人購読した場合には、オンラインアクセスの権利が付与されるが、この権利は極めて限定的である。個人購読の場合、オンラインアクセスは約10年前から現在まで(2008年時点では1997年から2008年)に発行された記事に限定される。これ以前の記事はNature Archiveの扱いとなる[19][20]

2016年現在、Nature Archiveは下記の2種類に分類される。

日本で『ネイチャー』を購読した場合にはNature Archiveへのオンラインアクセス権が存在しないことは、日本語のSubscriptionフォーム上には明記されず、曖昧にされていて[21]、個人向けにはFAQにおいて、英国本社のサイトをみるように指示されているのみである。つまり、個人向けには、10年以上前の論文への安価なアクセス手段は、事実上ない。対照的に、『サイエンス』の場合は個人向けのオンライン限定アクセスを購入した場合、定価(税抜き)で$199だが、常に割引状態であり(学生やポスドクなら1万円/年以下、その他は1万円/年程度で可能)、創刊以降全ての記事を読むことが可能である。PNASの場合には、10年以上前の記事は無料で誰でもアクセス可能である。論文1個1個を個別に閲覧する場合の価格は、~18$/記事 とされているが、原著論文 (Article) の場合には30$/記事である。アクセス権は7日間に限り有効で、それ以降は消滅する[22]

また、日本国内での『ネイチャー』の購読価格は米国での購読に比べ極めて高価である。米国内在住の場合は税抜きで$199/年(約2万円/年)である[23]のに対し、日本国内では個人5.35万円/年 程度かかる[24]。この価格は、他の総合学術誌の価格に比べても大幅に高価であり、さらに個人でフィジカル・レビュー全誌をオンラインで購入するのに必要な価格(実勢)よりも高価である。バックナンバーはクレジットカード決済はオンライン注文できるが、学術関係者・法人での銀行振込では日本出版貿易の扱い[25]となり、個人ではクレジットカード決済でのオンライン注文か洋書を扱っている店舗・書店での購入となる[26]

日本国内の『ネイチャー』購読者は、自動的にNature ダイジェストの購読者とされ、30-40ページほどの日本語で書かれた小冊子が毎月送られるという特典がある。

関連誌

オリジナル研究論文誌

プロトコール

出典

  1. ^ Siegel, "A Cooperative Publishing Model for Sustainable Scholarship," p. 88
  2. ^ a b Barton, R. (1998). "Just before Nature: The purposes of science and the purposes of popularization in some english popular science journals of the 1860s". Annals of science 55 (1):
  3. ^ 「Intellectual Observer: A Review of Natural History, Microscopic Research, and Recreative Science」さらに後には「Student and Intellectual Observer of Science, Literature, and Art」
  4. ^ Barton, "Just Before Nature," p. 7
  5. ^ a b c d Browne, Charles Darwin: The Power of Place, p. 248
  6. ^ ここで、前後も含めて読める。
  7. ^ Browne, Charles Darwin: The Power of Place, p. 248
  8. ^ 3科学誌は商業主義…ノーベル受賞者が「絶縁」アーカイブ
  9. ^ 竹内薫「科学の興亡 「ネイチャー」vs.「サイエンス」(第8回)「ネイチャー」大解剖」『新潮45』第30巻第1号、2011年1月、184-191頁、NAID 40017409805 
  10. ^ “Nature 480, 132 (01 December 2011)”. 2020年5月16日閲覧。
  11. ^ 分子細胞生物学研究所・旧加藤研究室における論文不正に関する調査報告(第一次)”. 東京大学科学研究行動規範委員会. 2020年5月16日閲覧。
  12. ^ 第36回年会・理事会企画フォーラム 全文記録 セッション3. 研究不正を防ぐジャーナルシステム”. 日本分子生物学会. 2020年5月16日閲覧。
  13. ^ Elisabeth Bik氏のツイート”. Elisabeth Bik. 2020年5月16日閲覧。
  14. ^ Nature volume 573, pages139–143(2019)”. 2020年5月16日閲覧。
  15. ^ a b 神坂次郎放送大学特別講義「孤高の学者 南方熊楠」2009年6月、12月、2011年12月9日など、再放送多数。
  16. ^ なお、これら『ネイチャー』に掲載された南方の論文を日本の昭和天皇も愛読していたと言い、後に南方熊楠が和歌山に戻った時に、天皇は南方に会いたいと切望し、神島での「御進講」が実現したという(出典:神坂次郎、放送大学特別講義「孤高の学者 南方熊楠」)
  17. ^ 田辺探訪 南方熊楠”. 田辺観光協会. 2014年6月21日閲覧。
  18. ^ nature.comのiPadアプリを配信開始”. natureasia.com. ネイチャー (2011年1月24日). 2012年11月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年12月3日閲覧。
  19. ^ 国際科学雑誌ネイチャーが、その10年に報じた科学の全内容をアーカイブとして収録いたしました。” (PDF). natureasiapacific.com. ネイチャー. 2006年11月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年12月3日閲覧。
  20. ^ nature archive”. natureasia.com. ネイチャー. 2008年3月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。
  21. ^ nature.comについて : ヘルプ”. Nature Asia-Pacific. ネイチャー. 2007年6月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年12月3日閲覧。「14) オンライン上で論文が見られないのですが。」
  22. ^ 論文単位での購入は可能ですか?”. natureasia.com. ネイチャー (2015年7月9日). 2016年12月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年12月3日閲覧。
  23. ^ Subscribe to Nature Arabic Edition
  24. ^ 個人 / 学生購読価格表
  25. ^ 商品一覧│日本出版貿易株式会社 日本の文化を海外へ。海外の文化を日本へ。
  26. ^ バックナンバー (Single Issue) は購入できますか?”. natureasia.com. ネイチャー (2015年9月11日). 2016年12月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年12月3日閲覧。

関連項目

外部リンク

ネイチャー・ジャパン株式会社(Nature Japan K.K. Part of Springer Nature)が運営するnatureasia.comのサイト