イグノーベル賞
イグノーベル賞 (イグノーベルしょう、英: Ig Nobel Prize) とは、「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して与えられる賞である。
イグノーベル賞は1991年に創設された。「イグノーベル(Ig Nobel)」とは、ノーベル賞の創設者ノーベル (Nobel [noubél] ) の名前に否定を表す接頭辞的にIgを加え、英語の形容詞 ignoble [ignóubl]「恥ずべき、不名誉な、不誠実な」にかけたもので、もじりあるいは駄洒落のたぐいである。Ig Nobel の正式な発音は[ignoubél] で、e にアクセントがある。
これまでの受賞者、受賞内容の詳細は下記2項を参照のこと。
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内容 [編集]
同賞を企画運営するのは、サイエンス・ユーモア雑誌『風変わりな研究の年報』 (Annals of Improbable Research) と、その編集者であるマーク・エイブラハムズである。 共同スポンサーは、ハーバード・コンピューター協会、ハーバード・ラドクリフSF協会など。
同賞には、工学賞、物理学賞、医学賞、心理学賞、化学賞、文学賞、経済学賞、学際研究賞、平和賞、生物学賞などの部門がある。毎年10月、風変わりな研究をおこなったり社会的事件などを起こした10の個人やグループに対し、時には笑いと賞賛を、時には皮肉を込めて授与される。
イグノーベル賞の受賞条件は「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」である。この為「日本トンデモ本大賞」などと同じく疑似科学者が受賞する事も多く、例えばホメオパシーの信奉者ジャック・ベンベニストには1991年と1998年の2度、イグノーベル賞が贈られている。しかし正統的な科学研究もこの定義にのっとってさえいれば受賞する事もある。
皮肉や風刺が理由で賞が参与されることもあり、例えば「水爆の父」として知られるエドワード・テラーは「我々が知る「平和」の意味を変えることに、生涯にわたって努力した」として1991年にイグノーベル平和賞を受賞し、世界の反対を押し切って水爆実験を強行したフランスの大統領、ジャック・シラクも1995年に「ヒロシマの50周年を記念し、太平洋上で核実験を行った為」やはり平和賞を受賞した。1999年の科学教育賞は進化論教育を規制しようとしたカンザス州教育委員会ならびにコロラド州教育委員会に贈られた。
ゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)などと同じく、賞の授与に激怒する受賞者たちがいる一方、むしろ好意的に受けとめる受賞者たちもいる。 賞の性質上、授与式に受賞者が現れない事も多いが、エイブラハムズの本ではこれに対し「受賞者は授与式に出席できなかった(出席する気もなかっただろうが)。」と批評する。
授賞式は毎年10月、ハーバード大学のサンダーズ・シアターでおこなわれており、イグノーベル賞受賞者らも出席する。ノーベル賞では、式の初めにスウェーデン王室に敬意を払うのに対して、イグノーベル賞では、スウェーデン風ミートボールに敬意を払う。受賞者の旅費、滞在費は自己負担で、式のスピーチでは聴衆から笑いをとることが要求される。制限時間が近づくとぬいぐるみを抱えた少女が受賞者の裾を引っ張り壇上から下ろそうとするが、この少女を買収することによってスピーチを続けることが許される。授賞式の間、観客によって舞台に向かって紙飛行機が投げ続けられるが、2005年を除く例年、2005年のノーベル物理学賞受賞者であるロイ・グラウバー・ハーバード大学物理学教授がその掃除のためのモップ係を務めている。
評価 [編集]
同賞の性質上、名誉と考える受賞者もいれば、不名誉と考える者もいる。脚光の当たりにくい分野の地道な研究に人びとの注目を集めさせ、科学の面白さを再認識させてくれるという点も指摘されている一方、イギリス政府の主任科学アドバイザー、ロバート・メイは1995年、「大衆がまじめな科学研究を笑いものにする恐れがある」と、イグノーベル賞の運営者に対しイギリス人研究者に今後賞を贈らないよう要請した。この主張に対し、イギリスの科学者の多くからは反発・反論が起こった。メイの要請にもかかわらず、1995年以後もイギリス人にはイグノーベル賞が贈られ続けている。
その性質上多くの誤解を生んでいるが、受賞に不正確さなどは勘案されない。ユーモラスであれば、人類の進歩への貢献などとは無関係に選考の対象となる。
歴史 [編集]
「イグノーベル賞」という名称を最初に考案したのは、イスラエルの物理学者アレクサンダー・コーンであるといわれている。コーンは1955年に The Journal of Irreproducible Results (JIR) 誌を創刊し、1968年の同誌上で 'Ignobel Prize' という語を複数回使用している。また、コーンは JIR 誌の編集者であったマーク・エイブラハムズに実際にイグノーベル賞を設立することを勧め、1994年には共同で現在のイグノーベル賞を主催する Annals of Improbable Research (AIR) 誌を創刊している。
1997年、JIR 誌の編集者ジョージ・シェアは、商標侵害、詐欺、共謀などを理由としてエイブラハムズを訴え、また420万ドルの賠償金を求めた。これに対し、ノーベル賞受賞者のリチャード・ロバーツ、ダドリー・ハーシュバック、ウィリアム・リプスコムは、"Strategic AIR Defence Fund" (戦略防空基金 = 雑誌名 AIR と、防空 "air defence" をかけた洒落)を設立し、エイブラハムズを支援した。
参考文献 [編集]
- マーク・エイブラハムズ 『イグ・ノーベル賞 大真面目で奇妙キテレツな研究に拍手!』 福嶋俊造訳、阪急コミュニケーションズ、2004年3月。ISBN 4-484-04109-X。 - 原タイトル:Ig Nobel Prizes。
- マーク・エイブラハムズ 『もっと!イグ・ノーベル賞 世の常識を覆す珍妙な研究に栄誉を!』 福嶋俊造訳、ランダムハウス講談社、2005年8月。ISBN 4-270-00091-0。 - 原タイトル:Ig Nobel 2。
- マーク・エイブラハムズ 『イグ・ノーベル賞 世にも奇妙な大研究に捧ぐ!』 福嶋俊造訳、講談社〈講談社+α文庫 G201・1〉、2009年9月。ISBN 978-4-06-281313-6。 - 『もっと!イグ・ノーベル賞』(ランダムハウス講談社、2005年刊)の抜粋、加筆・修正、再編集。
- 久我羅内 『めざせイグ・ノーベル賞 傾向と対策』 阪急コミュニケーションズ、2008年10月。ISBN 978-4-484-08222-6。
- 志村幸雄 『笑う科学 イグ・ノーベル賞』 PHP研究所〈PHPサイエンス・ワールド新書 008〉、2009年11月。ISBN 978-4-569-77440-4。 - 並列シリーズ名:PHP science world。
- V.B.マイヤーロホ 『動物たちの奇行には理由(ワケ)がある イグ・ノーベル賞受賞者の生物ふしぎエッセイ』 江口英輔訳、技術評論社〈知りたい!サイエンス〉、2009年4月。ISBN 978-4-7741-3799-5。
- V.B.マイヤーロホ 『動物たちの奇行には理由(ワケ)がある イグ・ノーベル賞受賞者の生物ふしぎエッセイ』part2、江口英輔訳、技術評論社〈知りたい!サイエンス〉、2010年4月。ISBN 978-4-7741-4201-2。
- Nadis, Steve (October 1997). “Irreproducible pursues the improbable”. Nature (Nature Publishing Group) 389 (6650): 431. doi:10.1038/38852.
関連項目 [編集]
- イグノーベル賞受賞者の一覧
- ステラ賞 - 米国の裁判で最も馬鹿馬鹿しいものに贈られる賞。
- ゴールデンラズベリー賞(ラジー賞) - アメリカ合衆国製作の映画で、「最低の」ものに与えられる賞。アカデミー賞のパロディー。
- ダーウィン賞 - 愚かな行為により死亡もしくは生殖能力を無くした人に贈られる賞。
- 日本トンデモ本大賞 - 「著者の意図とは異なる視点・観点から読んで楽しむ事ができる本」のうち、一番「トンデモない」ものに与えられる賞。
- バッドアート美術館 - 真面目な意図で制作されたにもかかわらず、あまりに酷すぎて目をそらせないほどの迫力がある「悪い芸術品」を集めた美術館。