ジョージ6世戴冠記念観艦式
ジョージ6世戴冠記念観艦式(ジョージろくせいたいかんきねんかんかんしき)は、1936年に退位した英国王エドワード8世に代わって新国王となったジョージ6世の戴冠式を記念した観艦式である。1937年5月20日に実施した。
招待国
招待されたのはアルゼンチン、キューバ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、日本、オランダ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スペイン、スウェーデン、トルコ、アメリカ合衆国、ソビエト連邦の18カ国。
フランスは竣工したばかりの新鋭高速戦艦(巡洋戦艦)「ダンケルク」を、ナチス・ドイツはドイッチュラント級装甲艦(俗称ポケット戦艦)[1]「アドミラル・グラーフ・シュペー」を[注釈 1]、日本は条約型甲巡「足柄」を[4]、アメリカはロッドマン提督が座乗する戦艦ニューヨークを派遣した。日本は秩父宮雍仁親王(昭和天皇の名代)と勢津子妃を派遣し、秩父宮はイギリス戦艦クイーン・エリザベス (HMS Queen Elizabeth, 00) に乗艦して観艦式に臨んだ。
なお、ホスト国イギリスの超弩級戦艦ネルソン級、オランダ海軍、ドイツ海軍、日本海軍、フランス海軍以外の参加艦は、第一次世界大戦前後に建造された旧式艦が多かった。また第一次世界大戦後に建造されたものでは、日本海軍(足柄)、ドイツ海軍(シュペー)、フランス海軍(ダンケルク)、オランダ海軍(ジャワ)、フィンランドの最新鋭艦「ヴァイナモイネン」[注釈 2]やポーランドの「バーザ」やスペインの「シスカル」などがあった。
外国招待艦艇の中でも、足柄(1万トン級重巡)、シュペー(ポケット戦艦)[8]、ジャワ(満載排水量約8,000トン)、ダンケルク(満載排水量約35,000トン最新鋭主力艦)や、近代化改修実施後のソ連戦艦マラート、アメリカ戦艦ニューヨークなど列強の精鋭艦をのぞけば、小規模な海軍しか保有していない国家が派遣できたのは、海防戦艦もしくは小型艦(駆逐艦、通報艦)であった。新鋭巡洋艦を多数保有していたイタリア王国は、ジョージ6世戴冠記念観艦式にイタリア王立海軍の艦艇を1隻も派遣しなかった。
参加艦船
観閲船(御召船)
- ロイヤルヨット「ヴィクトリア・アンド・アルバート (Victoria and Albert)」
招待された外来艦
※国名ABC順。
- アルゼンチン - リバダビア級戦艦2番艦「モレノ (Moreno)」
- キューバ - 軽巡洋艦「キューバ (Cuba)」
- デンマーク - 海防戦艦「ニールス・ユール (Niels Iuel)」[9]
- エストニア - カレフ級潜水艦1番艦「カレフ (Kalev)」
- フィンランド - ヴァイナモイネン級海防戦艦1番艦「ヴァイナモイネン (Väinämöinen)」[10]
- フランス - ダンケルク級戦艦1番艦「ダンケルク (Dunkerque)」
- ドイツ - ドイッチュラント級装甲艦3番艦「アドミラル・グラーフ・シュペー (Admiral Graf Spee)」
- ギリシャ - 装甲巡洋艦「イェロギオフ・アヴェロフ (Giorgios Averoff)」[注釈 3]
- 日本 - 妙高型重巡洋艦3番艦「足柄 (Ashigara)」
- オランダ - ジャワ級軽巡洋艦1番艦「ジャワ (Java)」
- ポーランド - ブルザ級駆逐艦1番艦「ブルザ (Burza)」
- ポルトガル - アフォンソ・デ・アルブケルケ級通報艦2番艦「バルトロメウ・ディアス (Bartolomeu Dias)」
- ルーマニア - レジェーレ・フェルディナンド級駆逐艦2番艦「レジーナ・マリーア (Regina Maria)」
- スペイン - チュルカ級駆逐艦12番艦「シスカル (Ciscar)」
- スウェーデン - スヴァリイェ級海防戦艦2番艦「ドロットニング・ヴィクトリア (Drottning Victoria)」[13]
- トルコ - コカテーペ級駆逐艦1番艦「コカテーペ (Kokatepe)」
- アメリカ合衆国 - ニューヨーク級戦艦1番艦「ニューヨーク (New York)」
- ソビエト連邦 - ガングート級戦艦2番艦「マラート (Marat)」
出典
注
- ^ イギリスとナチス・ドイツは1935年中旬に英独海軍協定を締結し、一応外交関係を保っていた[2]。なお観艦式参加時のシュペー艦長はコンラート・パツィヒ大佐であった[3]。
- ^ ヴァイナモイネンは1929年10月15日起工、1930年12月20日進水、1932年9月29日竣工、1932年12月31日に艦隊へ配備された[5]。「スウェーデン海軍の海防戦艦ドロットニング・ヴィクトリアが、フィンランド海軍の海防戦艦イルマリネンを曳航してジョージ6世戴冠記念観艦式に送り届けた。」という俗説(記事)がある[6]。実際には両艦は行動を共にしておらず、俗説は事実ではない[7]。
- ^ イタリア王国が建造したピサ級巡洋艦で、ギリシャ海軍が購入したもの[11]。1911年6月24日、ジョージ5世の戴冠記念観艦式に参加した[12]。
脚注
- ^ ポープ、ラプラタ沖海戦 1978, pp. 22–23, 31–32.
- ^ ポープ、ラプラタ沖海戦 1978, pp. 24–25.
- ^ オスプレイ、ポケット戦艦 2006, p. 41.
- ^ 橋本、海防戦艦 2022, p. 249.
- ^ 橋本、海防戦艦 2022, p. 245.
- ^ 橋本、海防戦艦 2022, p. 246.
- ^ 橋本、海防戦艦 2022, p. 248.
- ^ オスプレイ、ポケット戦艦 2006, p. 44戦前の活動
- ^ 橋本、海防戦艦 2022, p. 91.
- ^ 橋本、海防戦艦 2022, p. 247.
- ^ 橋本、海防戦艦 2022, p. 318.
- ^ 遣英艦隊記念 1912, p. 206附表第二 スピットヘッド觀艦式参列各國軍艦要目概表
- ^ 橋本、海防戦艦 2022, p. 179.
参考文献
- ゴードン・ウィリアムソン〔著〕、イアン・パルマ―〔カラー・イラスト〕『世界の軍艦イラストレイテッド2 German Pocket Battleships 1939-45 ドイツ海軍のポケット戦艦 1939 ― 1945』柄澤英一郎〔訳〕、株式会社大日本絵画〈オスプレイ・ミリタリー・シリーズ Osprey New Vanguard〉、2006年1月。ISBN 4-499-22899-9。
- 橋本若路『海防戦艦 設計・建造・運用1872~1938』イカロス出版株式会社、2022年7月。ISBN 978-4-8022-1172-7。
- ダドリー・ポープ『ラプラタ沖海戦 グラフ・シュペー号の最期』内藤一郎(第5版)、早川書房〈ハヤカワ文庫ノンフィクション〉、1978年8月。ISBN 4-15-050031-2。
- 国立国会図書館デジタルコレクション - 国立国会図書館
- 遣英艦隊記念帖編纂委員 編『遣英艦隊記念』画報社支店、1912年7月 。
関連項目
外部リンク
- La gran Revista Naval de 1937 por la Coronacion de Jorge VI記念観艦式の説明のあるページ。参加艦艇の写真がある。