コノテガシワ

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コノテガシワ
コノテガシワ
保全状況評価[1]
LOWER RISK - Near Threatened
(IUCN Red List Ver.2.3 (1994))
分類
: 植物界 Plantae
: 裸子植物門 Pinophyta
: マツ綱 Pinopsida
: マツ目 Pinales
: ヒノキ科 Cupressaceae
: コノテガシワ属 Platycladus
: コノテガシワ P. orientalis
学名
Platycladus orientalis (L.) Franco[2]
シノニム
和名
コノテガシワ
英名
Chinese Arborvitae

コノテガシワ(側柏、学名Platycladus orientalis)は、ヒノキ科の植物の1種[5]。コノテガシワ属唯一の現生種である。

名称

和名コノテガシワは、「児の手ガシワ」の意で、葉を子供が手のひらを垂直に立てたような形に見立てて名付けられたものである[6]。また「カシワ」は、米を蒸して調理する上下に組み合わさる壷状の道具から、上にのせられた穴あきの壷に入った米が、湯を沸かす下の壷に落下しないように、上の壷穴にコノテガシワの葉を詰める用として使われたことによる[7]。「カシワ」の語源は、炊(かしぐ)葉という意味で、昔はこの葉で料理を盛り付けたり、蒸したりするときに使われたことに由来する[6][7]

中国植物名(漢名)は側柏(そくはく)[8]。ヒノキ科の植物であるが、和名の中にブナ科の「カシワ」が使われているのは、漢名に「柏」の字が使われているからではないかとする説も言われている[9]中国では、「柏」はヒノキのなかまを意味する語である[7]

特徴

中国北部の原産といわれ[6]韓国中華人民共和国北部に分布する。庭木生け垣鉢植えなどでよく見かける[6]

常緑針葉高木または低木[8]で、高さは高いもので10メートルほどになる[6]。枝は密に出てほぼ直立し、枝葉はヒノキによく似た形であるが、手のひらを立てたようなつきかたをして、葉の表も裏も同じ緑色で、表裏の区別が無い[10][注釈 1]。雌雄異花で、花期は3 - 4月頃。は目立たず[6]、雌花は淡紫緑色、雄花は黄褐色である。5月ころになる球果は目立ち、角のある独特の形で淡灰青色になる。根の発達は良好で、風の強い地域でも倒伏しがたい[11]。成長も早く安価で流通する[11]。葉は、冬は赤銅色に染まり、春になると黄金色となる。芽吹く力が強いのが特徴で、幹だけになるような強い剪定をしても再び芽吹くことが知られている[11]

栽培

日本ではこんもりと丸みを帯びた樹幹の小低木となる園芸品種のセンジュ(千手)が広く普及しており、公園木、庭木としてよく栽培されている。病害虫に強く、鉢栽培でも独特の姿が楽しめる[11]挿し木はやや困難[11]。日光と水分を好むが、日陰と寒冷は好まない[11]。庭や生け垣などでは、樹形を整えるために年に1 - 2回ほど刈り込まれる[6]

園芸品種

  • Platycladus orientalis'Collen's Gold'('Collens Gold')'コレンス・ゴールド(コリンズゴールド) - 高さ6-8m程度までに成長するが[5]、横幅は1m程度に収まる細長い品種[11]。鉢栽培にはあまり向いていない[11]。新芽は黄金色で、冬でもあまり変色しないがやや茶色を帯びる[5]
  • Platycladus orientalis'Aurea nana'オーレア・ナナ -
  • Platycladus orientalis'Rosedalisr'ローズダリス - 全高2m程度にしか育たない小型品種[5]。柔らかいモコモコした葉で積雪による被害を受けやすい。乾燥に耐え、鉢栽培に適している。日陰に弱い。冬は青紫色となる[5]。葉や灰緑色[5]
  • Platycladus orientalis'Semperaurea'オウゴンコノテ - 別名センパオーレア。早くから日本に導入されたコニファーで卵型の樹形となる[5]。高さは1-7m、横幅2m程度まで成長する。この品種の代表種。寒さにも強い[5]
  • Platycladus orientalis'Elegantissima'エレガンティシマ - 新芽は黄金色で、高さ6-8mに成長する。北海道などの寒冷地には適さない[5]

薬用

枝葉には精油0.26%が含まれ、精油成分はピネンセスキテルペンアルコールカリオフィリンなどである[6]。精油のほかには、タンニンフラボノールなども含む[6]。種子には、脂肪油を含んでいる[6]

よく生育した葉と球果は薬用部位になり、粗く刻んだ葉を日干ししたものを側柏葉(そくはくよう)、球果の中の種子を採取して3 - 4日ほど日干しにしたものを側柏仁(そくはくじん)または柏子仁(はくしにん)と称して生薬にする[6][8]。精油は少量であるが、漢方では、タンニンの収斂作用、止血作用を目的に処方に配剤している[6]。脂肪油には滋養強壮効果があると考えられており、漢方でも同様の目的で処方に配剤されている[6]

民間療法では、下痢止めや、鼻血、吐血、子宮出血などの各種出血に、側柏葉1日量2 - 15グラムを400 - 600 ccで半量になるまでとろ火で煮詰めた煎じた汁(水性エキス)を、食間3回に分けて服用する用法が知られている[6]。葉は患部の熱をとって出血を止める作用があり、服用すると身体を冷やしやすいので、多く飲んだり長期使用は禁忌とされる[8]あせもかぶれ、肌荒れには、側柏葉を布袋に入れて風呂に入れて浴湯料にすると、治りを早めるのに役立つといわれている[6]円形脱毛症には、日本薬局方アルコール1リットルにつき葉30グラムの割合で、1か月以上漬け込んだ液を塗る[8]

側柏仁(種子)は、滋養強壮を目的にフライパンなどで乾煎りしてすり潰したものを、1回3グラム、1日3回ほど紅茶などに混ぜて飲むとよいと言われている[6]。また側柏仁は不安やストレスによる不眠症や、便秘に1日量2 - 3グラムを400 ccの水で煎じて3回に分服してもよいが、下痢をしやすい人への服用は禁忌とされる[8]

脚注

注釈

  1. ^ 同じヒノキ科でもヒノキ属などでは明確な表裏の区別が認められる。

出典

  1. ^ Conifer Specialist Group 1998. Platycladus orientalis. In: IUCN 2010. IUCN Red List of Threatened Species. Version 2010.4.
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Platycladus orientalis (L.) Franco”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2020年6月6日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Biota orientalis (L.) Endl.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2020年6月6日閲覧。
  4. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Thuja orientalis L.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2020年6月6日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i コニファー きれいに育てる全テクニック 監修 尾上信行 小学館 ISBN 4-09-305242-5
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 田中孝治 1995, p. 145.
  7. ^ a b c 田中潔『知っておきたい100の木:日本の暮らしを支える樹木たち』主婦の友社〈主婦の友ベストBOOKS〉、2011年7月31日、93頁。ISBN 978-4-07-278497-6 
  8. ^ a b c d e f 貝津好孝 1995, p. 159.
  9. ^ 辻井達一『日本の樹木』中央公論社〈中公新書〉、1995年4月25日、116頁。ISBN 4-12-101238-0 
  10. ^ 田中孝治 1995, p. 49.
  11. ^ a b c d e f g h 高橋護 コニファーガーデン―園主が教える選び方・育て方 (コツのコツシリーズ) 単行本 – 2007/7 農山漁村文化協会 ISBN 9784540051784

参考文献

  • 貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、159頁。ISBN 4-09-208016-6 
  • 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、145頁。ISBN 4-06-195372-9 

関連項目

  • 祥應寺 - 天然記念物のコノテガシワ。