ゲーミフィケーション

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ゲーミフィケーション: gamification)は、課題の解決や顧客ロイヤリティの向上に、ゲームデザインの技術やメカニズムを利用する活動全般[1][2][3]。この言葉は「日常生活の様々な要素をゲームの形にする」という「ゲーム化」(gamefy)から派生し、2010年から使われはじめた。

ゲームデザイン手法や仕組みを用いて問題の解決やユーザー契約などを獲得すること。例えば、既存のシステムサービスへの、順位・可視化・ポイント・カードバッジ・ミッション・レベルシステムの採用など。さらにゲームの要素を盛り込むことによって楽しみながら意図せずそれらと関わっていってもらうことが目的で行われる場合もある。

定義

さまざまな定義があり、論者によって議論が錯綜している節もあるが[4]、『ゲーミフィケーション』の著者である井上明人は下記のように整理している[5]

  • 最広義: 社会的な活動にとってゲームが役に立つこと。
  • 狭義: コンピュータ・ゲームのなかで特徴的に培われてきたノウハウを現実の社会活動に応用すること。アドバゲームシリアスゲームは含まない。
  • 最狭義: 強化学習プロセスやフロー体験を成立させるための最適なフィードバック設計のノウハウを応用すること。

どの論者においても共通するポイントとして、「ゲームを作る」という行為自体とは区別がされている[6]。また、非常に近い概念として、代替現実ゲーム (ARG) というものもある。これと重なりはあるが、「ARGは『特別な体験』というエンタテインメント性が第一義であり、ゲーミフィケーションは『サービスの改善』という実用性が第一義である」という形で区別したほうがよいのではないか、という指摘[7]もある。 他に、単に「楽しくする」という意味での用法についても、議論が分かれている[8]

歴史

ゲーミフィケーションという言葉自体は、2010年から使われはじめ、2011年になって大きく取り上げられはじめた[9]。ゲームのメカニズムの社会的活用、という広義の意味でのゲーミフィケーションの流れは2011年にはじまったことではなく、今回で6度目ぐらいなのではないかとの説もあり[4]、ゲームの社会的活用そのものは新しい現象ではない。

しかし、これが大きく取り上げられはじめた背景としては、再び井上[10]によれば

  1. 北米におけるマーケッターを中心とした流れ(ゲイブ・ジッチャーマンや、ガートナー)
  2. それと時を同じくして、成功事例が積み重なったこと
  3. 成功例が増えるための技術的背景が準備されたこと

などが指摘されている。

主な事例

主な事例は次の通り[11]

ゲームのように夢中にさせて虜にする(はまらせる)仕組みは広く応用されている(類似の概念に「ゲームニクス」がある)[12]

人間の感情や習性を上手く利用し、フィードバック報酬[13]の用意や承認欲求に代表される「自己実現理論[14]や「16の基本的な欲求」[15]を満たすことなどによって動機づけを行う[16]

人は学びたいという欲望があり、達成・刺激が伴うとドーパミンなどの神経伝達物質脳内麻薬が分泌され快感となり、はまることとなる[17][18][19]。しかし、過度となると依存症などの問題となる[20][21]

外発的な金銭的報酬(市場規範)を用意すると、内発的動機づけ(社会規範)を低下させたという報告もあり[22][23]、取り組む行為そのものや、一定方向に導くのには適しているが、作り手側が上手くコントロールしないと、自発性・創造性を否定してしまう場合もある[12][24]

ソニー・コンピュータエンタテインメントによるtorneの操作性・ユーザビリティ[25][26]や、マイクロソフトによるKinectの遊び心[27]任天堂による「QOL(生活の質)を楽しく向上させるもの」もその一種とされる[28][29]

濵田(2015)[30]は、アカデミックな視点からいえば、ゲーミフィケーションユーザーにはたらく心理についての実証研究は、ユーザーの楽しさとゲームのメカニズムと要素、ユーザーの動機づけとゲームのメカニズムと要素、ユーザーの熱心な利用や自己効力感・社会的認知、ユーザー分類に基づく心理の差異、心理因果モデルなどに関連する研究に大別できる、としている。

脚注

  1. ^ 「ゲーミフィケーション」とは?~今さら人に聞けないマーケティング用語をおさらい!
  2. ^ 「モチベーションの理解がゲーミフィケーション理解のコツ」―Gabe Zichermann緊急来日! Gamificationセミナー報告【鈴木まなみ】
  3. ^ アプリでモチベーションを高める「ゲーミフィケーション」の心理学
  4. ^ a b ゲーミフィケーションはゲームを社会化しようとする6度目の試み。井上明人氏によるOCG 2012のセッションレポート
  5. ^ 井上 2012, 付録2.
  6. ^ 「ゲーミフィケーション」のゲーム視点からの脱却!?
  7. ^ 【コラム】ゲーミフィケーションとARG
  8. ^ ゲーミフィケーションの概念を切り分ける
  9. ^ 井上 2012, p. 77.
  10. ^ 井上 2012および、10年後に向けたゲーミフィケーション:井上明人さんインタビュー
  11. ^ ゲーミフィケーションを活用してユーザーの継続率UP!参考になるアプリ・サービス事例10選
  12. ^ a b http://specialflag.net/column.html
  13. ^ ゲーミフィケーションのデザイン:3種類のリワードを使いこなせ、「マネタリーリワード」「インナーリワード」「ソーシャルリワード」
  14. ^ ゲーミフィケーションのデザイン:マズローの欲求5段階説とゲーミフィケーション
  15. ^ 16の基本的な欲求
  16. ^ なぜゲーミフィケーションは効果的なのか?(Why Gamification Works?)
  17. ^ ゲームの力が会社を変える
  18. ^ ドーパミン - のめりこませる科学 —
  19. ^ 科学の力で怠惰を克服。ドーパミンを増やしてやる気を出す方法
  20. ^ 「情報中毒」と「好奇心のパラドックス」
  21. ^ 「学習は脳にダメージを与える」マウス実験で発見
  22. ^ gamificationの理論的背景:自己決定理論
  23. ^ 楽天レシピはなぜクックパッドに勝てないのか?
  24. ^ 職場に忍び寄る「ゲーミフィケーション」
  25. ^ マイクロソフトが「Kinect」で描くUIの未来像--超えるべき課題は?
  26. ^ ゲームの開発ノウハウで家電製品をパワーアップ。「ゲームのチカラを家電に」セッションレポート
  27. ^ ビル・ゲイツはどんな人?草創期のマイクロソフト秘話 西和彦×夏野剛 - YouTube
  28. ^ 任天堂は最強のゲーミフィケーション実践企業
  29. ^ 任天堂が健康分野に進出 違和感のない必然の戦略
  30. ^ 濱田俊也(2015)「ゲーミフィケーションはどのような心理にはたらきかけるのか? : ユーザー心理の研究動向とマーケティングにおける今後の研究課題」http://ci.nii.ac.jp/naid/40020464112/]
  • Popkin, Helen(June 1, 2010). "FarmVille invades the real world". MSNBC.
  • Sinanian, Michael(April 12, 2010). "The ultimate healthcare reform could be fun and games". Venture Beat.

参考文献

  • 井上, 明人『ゲーミフィケーションNHK出版、2012年。ISBN 978-4-14-081516-8https://www.nhk-book.co.jp/shop/main.jsp?trxID=C5010101&webCode=00815162012 

関連書籍

関連項目

外部リンク