イタリア式庭園
イタリア式庭園(イタリアしきていえん)は、西洋風の庭園の様式のひとつである幾何学式庭園で、テラス式、あるいは露段式庭園とも呼ばれ、丘の中腹に配される隠れ家のような敷地の立地条件、庭園敷地が長角形などの形態のテラス数段での構成、上段テラス中央に建物を配して軸線(ビスタ)を設定し左右対称の構成をとる、多くの人工物を配して訪れる人々を楽しませる、庭園の内部から周囲の風景を眺めパノラマ景を楽しむ、などを特徴とし、14世紀から16世紀にかけて主にイタリア郊外の別荘(ヴィラ)で発達した庭園を指す。とくにルネサンス以来造られていった多くの庭園で全体的にひとつの特徴を成した。
庭園技法
- ジャルディーノ・セグレト(隠れ庭)
- ベルベデーレ(美しき眺め)
- ボスコ(樹林)と列植
- グロッド(人工洞窟)
- 噴水
- カスケード(Cascade:階段滝)
- ビスタ(通景線)
- ノット(結び目)花壇
- 立体迷路
- 彫刻
主なイタリア式庭園一覧
イタリア式庭園の一覧を記述する。
イタリア
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フランス
スペイン
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ドイツ
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イギリス
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アルベルティの庭園論・別荘生活論
15世紀にはいると都市郊外に作られた別荘が都市生活にとって重要になる。レオン・バッチスタ・アルベルティ(1404-1472)はレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)と並ぶ万能の天才とされる。彼は1430年代に教育および家族の倫理について『家族論』を著し、この中で別荘における生活のすばらしさを語る。小プリニウス(古代ローマの行政官で文芸を愛した。62-111頃)の別荘と庭園を基礎に、郊外の丘に太陽と空気と眺めに恵まれた健康によい別荘と庭を余暇の時間を過ごすために造るとよい、と提案。汚く、臭く、暗い、健康に悪い都市の住まいから逃れることを説いている。
1452年には建築デザインの方法を探求した『建築論』を著す。全十冊に渡るこの書物は古代ローマ時代の建築家ヴィトルヴィウスの書物を倣したといわれている。 別荘と庭についても別荘と風景の相互浸透のために、敷地選定、家屋計画、庭園の作庭方法などが書かれている。敷地は田園風景を眺めることが出来る丘の斜面が最適とされ、新鮮な空気、太陽・そよ風を別荘に入れ、風景画を部屋の壁に描き、花輪や蔓草の絵・モザイクを壁や床に描くことや、家屋は風景を味わえるように建設しなければならない、都市や海、平原や丘の風景を楽しむことは欠かせないことだとされている。庭園は壁に囲まれた空間であり、これは略奪などから守る最良の手段であるが、丘の斜面に造られることから壁を超えて庭園の外に広がる風景の美しさを味わうことというこうした観念は従来庭園との大きな違いが表れる。その内部は、太陽の光とそよ風の涼しさを十分に味わえることが基本である。樹木は規則正しく植栽される。また柱廊が壁沿いに造られたり、小径が常緑樹で嫁取りされたり、小川が造られたりする。また舗装部分には風景などの絵が描かれる。庭園全体の具体的なデザインは記されていないが、それでもこのような考えから庭園が造られたことがわかる。
日本における受容
神戸市にある須磨離宮公園(旧武庫離宮、1908年庭園設計福羽逸人)本園では広大な平面幾何学式庭園から続く丘陵部斜面を生かして上部に噴泉、カスケード、その周囲にテラスと花壇、階段を配した典型的なイタリア式庭園が造られている。
淡路市の淡路夢舞台にある「百段苑」は、海を望む一枚の斜面地に百区画の花壇と立体迷路状の階段で構成される。建築家安藤忠雄が設計したイタリア式庭園の幾何学的な部分を洗練した一つの到達した形である。花壇には世界のキク科植物が植栽されている。
千葉大学園芸学部には、敷地に傾斜をつけ、さらに後方には複数の植物が混ざった生垣のあるテラス式の庭園をイタリア式庭園と紹介しているが、植物はアカマツの品種であるタギョウショウなど日本のものを用いている。
横浜市にある山手イタリア山庭園は元イタリア領事館跡地だった敷地で丘の上に位置する。イタリア式庭園を模して水や花壇を幾何学的に配し整備した公園で、敷地内には1993年に山手町45番地から赤屋根のブラフ18番館、1997年に渋谷区から突形屋根をもつ外交官の家が移築復元されている。外交官の家の裏手から遠くみなとみらいのビル群まで見渡すことができるようになっているほか、花壇は一年を通し多彩な花を楽しむことができる。
薔薇で有名な伊丹市にある荒牧バラ公園の植物園は、中央の円形広場を囲むように階段状に庭園が造られている。イタリア式の特徴である立体迷路、テラス状花壇、ベルベデーレ、カスケード等をそなえ、園内のデザインは列柱やアーチなどの南欧風に統一されている。イタリア式特徴のもう一つ、彫刻のトピックとしては小便小僧で有名な姉妹都市ハッセルトから贈られた小便小僧像など。
東京ツインパークスの緑の隣に、イタリア庭園と銘打って整備されている整形式庭園がある。JR線路をまたいで反対側にイタリア街として計画されて現在整備中の敷地に隣接する。つまりこの一画はイタリアの建築様式のビルや舗装まで、イタリアを感じさせる街並みの整備がされている。庭園はイタリア式の特徴からすると、隣接する敷地からこの敷地に入る階段状デッキ部分もあるが高台に位置せず傾斜は無く、大理石の列柱や彫刻を置くなどで、ジャルディーノ・セグレトを切り取って配置した庭のようである。ボスコに模した生垣にはサイプレスなどのほか、タイサンボクなどが使用されている。