におい
においとは
- 空気中を漂ってきて嗅覚を刺激するもの[1](注. 広辞苑では嗅覚系の説明は2番目以降である。)
- 赤などのあざやかな色彩が美しく映えること[2]。視覚で捉えられる美しい色彩のこと。「匂い」
- 襲の色目のひとつ、上を濃く、下を薄くする配色。「匂い」。
概説
まず広辞苑でどう解説しているか紹介する。次の順番で掲載されている。
- 赤などのあざやかな色彩が美しく映えること[3]。視覚で捉えられる美しい色彩のこと。「匂い」
- 襲の色目のひとつ、上を濃く、下を薄くする配色。「匂い」。
- 空気中を漂ってきて嗅覚を刺激するもの[4][5]。
近年では、後者の意味(嗅覚を刺激され人が感じる感覚)で用いることのほうが増えている。
- 表記
「におい」は大和言葉であるが、漢字を当てる場合、基本的には「匂」「匂い」と表記する。ただし「匂」は当用漢字ではなく、また国字である。 良いにおいを「匂い」、悪いにおいは「臭(にお)い」と書く。[注 1]
よいにおい(匂い)は大和言葉で「かおり」や、漢語で「香気(こうき)」とも言う[6]。「かおり」に感じを当てる場合は「香り」「薫り」「芳り」などである。(いずれも当用漢字だが「芳」は表外訓)などを当てる。
なお「かおり」「かほり」「香」は日本女性の名前として用いられることがある。
色彩
においとは、赤などのあざやかな色彩が美しく映えることである[7]。視覚で捉えられる美しい色彩のこと。「匂い」
また襲の色目のひとつ、上を濃く、下を薄くする配色。
例えば万葉集には次のような歌がある。
また「いろは歌」の冒頭でも「いろはにほへと(色は匂えど)」とある。
襲の色目のひとつ、上を濃く、下を薄くする配色も「匂い」という。
- 花の部位
伝統的に花の雄蕊雌蕊をまとめて「におい」と言う。日本画や友禅などの和柄、焼物、漆器の蒔絵、絞り細工など細工の花の中心部分のこと。奥により強い存在を感じさせる表に一部が表出したものを「匂い」と呼ぶ。
嗅覚の感覚内容
基本的な分類
- 匂い、香り
においのなかでも、特に好ましいものは「かおり」「香り」、「香気(こうき)」「芳香(ほうこう)」と呼びわけることがある。
- 臭い
不快なにおい、くさいにおいは、現代では「臭気」と言う。「臭」という漢字をあて「臭い(におい)」とも書く。
臭いの中でもとくに強い不快感をもたらすものを悪臭という。
においと人の関係
- においと感情のつながりの強さ
近年の医学領域における様々な研究成果により、匂いというのは、他の感覚とは異なり 大脳辺縁系に直接届いていることが明らかになった。その大脳辺縁系は「情動系」とも呼ばれており、匂いは人間の本能や、特に感情と結びついた記憶と密接な関係がある、と指摘されている。つまり匂いは、最も感情を刺激する感覚なのだとされているのである[9]。
- におい感受性の男女差
女性は、男性よりも脳の嗅覚野が発達しているので、匂いに敏感に反応する。[10]
女性は男性以上に においに関心を寄せるが、その理由のひとつに、感覚の男女差がある[11]。女性は男性よりも嗅覚が敏感だと言われている[11]。ひとつの要因は、女性というのは月経周期内の時期などによって、嗅覚が敏感になる時期があることである[11]。なお排卵期には「成人男性に関係するようなにおい」や「不快なにおい」に対する嗅覚感受性が低下するという[11]。月経期には、反対に、「不快なにおい」に敏感になる女性が多いと言われている[11]。
脳の発達には男女差があり、嗅覚をつかさどるのは「嗅覚野」なのだが、そこは大脳辺縁系と関係が強いとされていて、その大脳辺縁系というのは、記憶をつかさどる海馬や感情を司る扁桃体があり、嗅覚的感知に大きな影響を与えている[11]。脳がそういう構造になっているので、匂いと記憶、また、匂いと感情 は結びつきやすいのである。そして、女性はにおいを嗅いだ時に、同時にそれに関連する記憶まで呼び覚ましやすいのである[11]。
- 生理的な影響
においは人に生理的な影響を与えることがある。例えば、ジャスミンの匂い(香り)は心拍のパワースペクトルのLF成分を有意に増大させる、との研究もある。これはジャスミンの香りが副交感神経の活動増大させ(=交感神経を抑制し)精神性の負荷を減少させることを示唆している[12]。
においにかかわる技術、文化の伝承
中世にその原型が生まれ20世紀により具体的に提唱されたアロマテラピーは、主として花や木に由来する芳香成分の香りを活用し、ストレスを解消したり心身の健康の維持に役立つ、ともされる技術である。
視覚的イメージ(視覚内容)、音(聴覚内容)、味(味覚内容)などに比べると、匂い(嗅覚内容)というのは、論じられたり教育されたりする機会は比較的少ない。また、近年の日本では匂いが無いことがよしとされて、消臭グッズなどの売上が伸びている。このような、匂いを避けるという現象の背後には、《匂いの抑圧》があり、さらにその背後には、《本能の抑圧》や《性の抑圧》が潜んでいる、と鈴木隆は述べた[13][14]
最近では、さまざまな業種の、様々な企業がにおいを活用して、イメージアップや販売促進をはかろうとしている。こうしたことは10時間以上も香りを長続きさせる最新のにおい噴霧器が開発されたり、「禁煙を手助けする効果がある」とされたり「記憶力を高める効果がある」とされる《機能性アロマ》が開発されたことによる。ただし、人工的な香りが氾濫することによって、「日本人がもつ繊細な《香り文化》が失われつつあるのではないか」「自然の かすかなにおい を教える必要があるのではないか」という専門家の指摘もあるという[15]。
「部屋干し」のにおい
洗濯物を室内に干した時(つまり「部屋干し」をした時)問題となるのが その臭いであるが、これは洗濯物が乾燥するまでの長時間、衣類が湿っていることによって(ちょうど菌の繁殖条件がそろっており)雑菌が繁殖し、それによって臭いが発生しているからである[16]。
これを防ぐ方法はいくつかあるが、ひとつは、できる限り短時間で乾かす、という方法である[16]。他にも、雑菌を極力少ない状態にしておく、ということも大切である[16]。また、「部屋干し専用」の洗剤(抗菌作用のある薬剤が入っているもの)を使う方法、また通常の洗濯洗剤に加えて衣類用漂白剤(漂白剤は結局、滅菌剤(除菌剤)として使われている)を入れる[16]、などの方法で、菌の繁殖を最低限にすることが可能である[16]。
脚注
- ^ 例外として「くさいにおい」は「臭いにおい」と書くのが基本だが、「臭い匂い」と書くことはある。読みづらいので「臭い臭い」とは書かない。
- 出典
- ^ デジタル大辞泉
- ^ 広辞苑 第5版、p.2018。※ 広辞苑第5版でも第6版でも、視覚的な匂いのほうをまず一番目に挙げており、嗅覚的な匂いの説明はその後に配置している。
- ^ 広辞苑 第5版、p.2018。※ 広辞苑第5版でも第6版でも、視覚的な匂いのほうをまず一番目に挙げており、嗅覚的な匂いの説明はその後に配置している。
- ^ デジタル大辞泉
- ^ 注. 広辞苑では嗅覚系の説明は2番目以降である。
- ^ 広辞苑第六版「におい」
- ^ 広辞苑 第5版、p.2018。※ 広辞苑第5版でも第6版でも、視覚的な匂いのほうをまず一番目に挙げており、嗅覚的な匂いの説明はその後に配置している。
- ^ 広辞苑第五版 p.2018 「匂い」
- ^ 青木 孝志、足達 義則「ジャスミンの匂いが心拍変動に与える影響」(研究発表,第21回生命情報科学シンポジウム)
- ^ 斎藤勇『面白いほどよくわかる!「女」がわかる心理学』西東社, 2014 p.61
- ^ a b c d e f g 斎藤勇『面白いほどよくわかる!「女」がわかる心理学』西東社, 2014 p.118-119
- ^ 青木 孝志、足達 義則「ジャスミンの匂いが心拍変動に与える影響」(研究発表,第21回生命情報科学シンポジウム)
- ^ 鈴木隆『匂いのエロティシズム』集英社, 2002、ISBN 4087201295。
- ^ 鈴木隆『匂いの身体論:体臭と無臭志向』八坂書房, 1998、4896944151
- ^ NHKクローズアップ現代「広がる“においビジネス”」
- ^ a b c d e 矢野きくの『省エネで部屋干し洗濯物を早く乾かす方法』株式会社オールアバウト, 2013。「部屋干しをした洗濯物は、そもそもなぜ臭うのか?」の章。google eブックスで確認可能。
関連項目
- 香、香道
- 香水、オーデコロン
- フレーバー
- 香料
- 香辛料
- アロマ、アロマテラピー
- 六境、現象、クオリア
- かおり風景100選(環境省)
- フェロモン
- 体臭、口臭、加齢臭
- トリメチルアミン尿症(「魚臭症候群」とも。悪臭の出る疾患)
- 資格、学会など
関連文献
単行本
- コルバン・アラン『においの歴史: 嗅覚と社会的想像力』藤原書店, 1990 ISBN 4938661160
- 元木沢文昭『においの科学』理工学社、1998、ISBN 4844509209
- アニック・ル・ゲレ『匂いの魔力: 香りと臭いの文化誌』工作舎、2000、ISBN 4875023286
- Graham A. Bell, Annesley J. Watson、健夫川口『味とにおい:感覚の科学 : 味覚と嗅覚の 22章』フレグランスジャーナル社、2002、ISBN 4894790521
- 高橋庸一郎『匂いの文化史的研究:日本と中国の文学に見る』和泉書院, 2002
- チャンドラー・バール『匂いの帝王:天才科学者ルカ・トゥリンが挑む嗅覚の謎』早川書房、2003、ISBN 4152085363
- ルカ・トゥリン『香りの愉しみ、匂いの秘密』河出書房新社、2008、ISBN 4309252192
- エイブリー・ギルバート『匂いの人類学: 鼻は知っている』ランダムハウス講談社、2009、ISBN 4270005130
- 澁谷達明、市川眞澄『匂いと香りの科学』朝倉書店、2007、ISBN 4254102070
- 外池光雄『におい・香りの情報通信』フレグランスジャーナル社、2007ISBN 4894791129
論文
- 竹村明久、相良和伸、山中俊夫ほか「においの強さ・快適性に関する各種の言語評定尺度における表現用語間隔の比較」日本建築学会環境系論文集 第74巻 第638号,495-500,2009年 4 月
- 小沼真幸、林田和人、渡辺仁史「住宅内の匂いによる時間と家族の想起」2007年度日本建築学会関東支部研究報告集