たいと

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84画の漢字「だいと」「おとど」(1)
84画の漢字「たいと」(2)

「たいと」と読む「雲」3つと「龍」3つから成る漢字(たいと)は、総画数が84画という最も複雑な漢字和製漢字)である[1]日本人苗字、または名前であるとされ、他に「だいと」「おとど」とも読むとされる[2][3]

概説

日本で苗字・名前(ただし後述の文献には苗字として記載されている)として用いられたとされる国字。「タイと読む、「雲」3つからなる漢字」(タイ、雲の意、䨺)と「トウと読む、「龍」3つからなる漢字」(トウ、龍が行くの意、)の合字で、上述の画像のとおり、2種類の字形(1)(2)が確認されている。双方は本来同一字だったと推測されるが、『実用姓氏辞典』などが(2)の字形[4]で「たいと」と読むとする一方、『難読姓氏辞典』だけが(1)の字形で「だいと」「おとど」という読みを載せている。いずれも出典が不明のままであり、後述するように苗字としての実在性が認めがたい現況を考えると、この漢字について確定的な基本要素(形・音・義)は何一つないと言える。

実在性

上記のように「「たいと」と読む「雲」3つと「龍」3つから成る漢字」を載せる文献はいずれも苗字として解説しているものの、苗字に関する全国的な悉皆調査が行われた事例がないため、この苗字が現存するのか、あるいはかつて存在したのか、それとも文献に登場しても実際には存在しない幽霊名字であるのかは不明である。1960年代初め、ある証券会社にこの苗字を持つ者が現れ、名刺を残していったともいわれるが[1]、真偽のほどは定かではなく、戸籍上の実名であったのかも疑わしい。

なお、国語学者笹原宏之早稲田大学教授)は、実際には存在しなかったのに誤って生まれた幽霊文字の一つで、元々は一つの漢字ではなかったとの見解を示す[2]。笹原は、かつては親が自分の子のために造字や難読字を用いてその名とする事実があったことを指摘した上で、この漢字も本来苗字などではなく、「タイと読む、「雲」3つからなる漢字トウと読む、「龍」3つからなる漢字」の2字で「たいとう」と読む某人の仮名(けみょう)だったのではないかと考察している[5]。難読で画数の多い字を使った著名人の例としては、明治時代前期の政治家小野梓幼名テツと読む、「龍」4つからなる漢字一(てついち、𪚥一)」があった。

なお法務省が提供する戸籍統一文字情報の検索サイトでは、漢字の画数は64画までとなっている[6]

最も画数が多い漢字(和製漢字)であるとする説が広まった結果、上記の(1)の字を店名ロゴに用いてS.H.N株式会社が商標登録をしている[7]

(2)の字形を店名に用いて「たいと」と読ませる静岡県浜松市西区の四川料理店は「雲雲雲龍龍龍」と漢字6文字でマピオン電話帳に登録されていた[8](なお、2022年2月現在は別のラーメン店が入っており存在しない)。

S.H.N株式会社の子会社で株式会社プロジェクトMが運営するラーメン店「肉玉そばおとど」において、店名看板や暖簾に(1)の文字を使用している店舗も存在する[9]

電算処理

Unicode

2015年10月25日、上述の『難読姓氏辞典』を典拠としてU-source ideographsの参照番号UTC-02960への追加提案が提出された[10]

2015年11月2日、Unicode Technical Comittee #145 において、「「たいと」と読む「雲」3つと「龍」3つから成る漢字」を含む1656字をU-source Ideographsに追加することが決議された[11]

2016年1月14日、UTC-02960として「「たいと」と読む「雲」3つと「龍」3つから成る漢字」を含むU-source IdeographsがUnicode 9.0.0の公開レビューに提出された[12]

2017年11月22日、「「たいと」と読む「雲」3つと「龍」3つから成る漢字」をCJK統合漢字拡張Gに含める方針とした。暫定的なコードポイントはU+310AAであり、第三漢字面に含まれることになる[13]

2020年3月10日、Unicode 13.0において「「たいと」と読む「雲」3つと「龍」3つから成る漢字」がコードポイントU+3106Cで正式に追加された[14]

今昔文字鏡

今昔文字鏡』には66147番に (2) の字形でこの文字が登録されており、BTRON仕様OSの「超漢字」は初期の頃、この文字が表示できることを広告のキャッチフレーズとして用いていた。TRONコードから今昔文字鏡が撤退した現在では、GT書体[15]に収録されている。

出典

  • 大須賀鶴彦『実用姓氏辞典』メーリング、1964年、978頁。 - (2) の字形。
  • 東京電話番号案内局編『ひきやすい難読姓氏辞典』一二三書房、1966年[16]、313頁。 - (2) の字形。『実用姓氏辞典』が本書の参考文献として挙げられている。
  • 大野史朗・藤田豊『難読姓氏辞典 』東京堂出版、1977年、213頁。ISBN 4490100981 - (1) の字形。
  • 丹羽基二『姓氏の語源』角川書店、1981年、441頁。ISBN 4040614003 - 『実用姓氏辞典』を出典とし、(2) の字形。
  • 菅原義三編・飛田良文監修『国字の字典』東京堂出版、1993年、176頁。ISBN 4490102798 - 『姓氏の語源』を出典とし、(2) の字形。
  • 笹原宏之 「姓(名字・苗字)多様であいまい、84画も」(新日本語ノート13)『熊本日日新聞』2002年4月15日付朝刊、7面。 - (2) の字形。
  • 笹原宏之『日本の漢字』岩波書店岩波新書〉、2006年、87-88頁。ISBN 4004309913 - トウと読む、「龍」3つからなる漢字(トウ)の下にタイと読む、「雲」3つからなる漢字(タイ)を書いた字形。ただし、これは誤植であり、2007年発行の第3版ではタイと読む、「雲」3つからなる漢字(タイ)の下にトウと読む、「龍」3つからなる漢字(トウ)を書いた (2) の字形に修正されている。

脚注

  1. ^ a b 笹原宏之 「姓(名字・苗字)多様であいまい、84画も(新日本語ノート13)」『熊本日日新聞』2002年4月15日付朝刊、7面。
  2. ^ a b 読売新聞』朝刊2020年10月8日【言の葉巡り】最多84画の元幽霊文字(編集委員 伊藤剛寛)
  3. ^ 辞書になかった最多画数の漢字「幽霊文字」の怪…「タイト」さんをご存じないですか?、読売新聞オンライン、2020年11月21日
  4. ^ 厳密には初出の字形は雲と龍が全て同形であり、上下段とも、品字様の上部がやや横に広い『大漢和辞典』所収のそれぞれの字形等とは若干異なる。
  5. ^ 講談社『大字典』(1963年)によれば、実際に後者の字で「ゆき」と読む人名が存在した。
  6. ^ 法務省 戸籍統一文字情報 トップ
  7. ^ 第6253154号、J-Plat Pat 特許情報情報プラットホーム
  8. ^ マピオン電話帳 たいと(雲雲雲龍龍龍)
  9. ^ 肉玉そばおとど、株式会社プロジェクトM
  10. ^ Request to add 1,656 U-source ideographs
  11. ^ Draft Minutes of UTC Meeting 145
  12. ^ Proposed Update UAX #45, U-Source Ideographs
  13. ^ Additional repertoire for ISO/IEC 10646:2017 (5th ed.) Amendment 2.2
  14. ^ "CJK Unified Ideographs Extension G" (PDF). Unicode (英語). 2020年3月13日閲覧
  15. ^ GT-57123、第3面7D6B番[リンク切れ]
  16. ^ 同年の東京都23区電話帳には、タイト印刷以外に同音の項目は存在せず、当該文字の項目も、タイと読む、「雲」3つからなる漢字(タイ)のみの項目も存在しない。

関連項目

外部リンク