ST合剤

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ST合剤
トリメトプリム(上)とスルファメトキサゾール(下)
成分一覧
トリメトプリム ジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害薬
スルファメトキサゾール サルファ剤系抗生物質
臨床データ
販売名 Bactrim, Bactrimel, Biseptol, Co-trimoxazole, Cotrim, Resprim, Septrin, Septra, Sulfatrim, Trisul, Polytrim
胎児危険度分類
  • AU: C
  • US: C
法的規制
投与経路 Oral, Intravenous[1]
識別
CAS番号
8064-90-2
ATCコード J01EE01 (WHO)
PubChem CID: 358641
DrugBank DB00440
ChemSpider 318412
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ST合剤(STごうざい)とはサルファ剤であるサルファメソキサゾール(SMX or SMZ)とトリメトプリム(TMP)という抗菌薬を5対1の比率で配合した合剤である。作用機序としては葉酸の合成を阻害することであり、2種類の葉酸合成拮抗薬を用いることで相乗効果を得ている。腸内細菌の葉酸合成も阻害するので副作用に葉酸欠乏がある。

相乗効果

スルファメトキサゾールとトリメトプリムの併用療法がST合剤の組み合わせである。スルファメトキサゾール(スルホンアミド系薬物)はジヒドロプテロイン酸シンターゼ阻害薬(葉酸合成阻害)であり、トリメトプリムはジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害薬(DHFR阻害薬、葉酸活性化阻害)である。ジヒドロプテロイン酸シンターゼは細菌にはあるがヒトには存在しない。DHFR阻害薬は、葉酸を活性化させたテトラヒドロ葉酸の細胞内供給を決定的に不足させ、結果的にプリンチミジンの新たな合成停止させることによってDNA合成とRNA合成を阻害する。スルホンアミド系薬物はジヒドロ葉酸の細胞内濃度を減少させることでDHFR阻害薬の効果を増強させる。また併用することで耐性菌の出現を抑えることができる。

特徴

ニューモシスチス肺炎(旧:カリニ肺炎)の治療薬として有名であるが、ST合剤には様々な特徴がある。

細菌以外の微生物にも効果がある。
真菌の仲間であるカリニに効果がある以外にも原虫であるトキソプラズマなどにも効果がある。
多くのグラム陽性菌、グラム陰性菌に効果がある。
緑膿菌や嫌気性菌には効果がないが、肺膿瘍を起こすノカルジアや髄膜炎をおこすリステリア(ただし第一選択はアンピシリン)といった特殊な細菌から肺炎球菌インフルエンザ桿菌モラキセラといった肺炎の起因菌にも効果がある。よってニューモシスチス肺炎か診断が十分につかない段階からも積極的に治療を行うことができる(呼吸苦の改善にはステロイドの方が効果的である)。非定型肺炎はカバーできないのでマクロライドミノサイクリンニューキノロン系を併用することもある。
消化管からの吸収が非常によくバイオアベイラビリティが高い。
あらゆる器官の移行性に優れている。
特に尿路への移行性が高く、尿路感染症では第一選択となる。βラクタム薬が移行しない前立腺にも分布するため前立腺炎の治療にも用いることができる。

以上の特徴から岩田健太郎教授は

排尿時痛、頻尿あるいは肉眼的血尿のいずれかが認められれば50%の確率で膀胱炎とされている。膀胱炎ではバクタ®4錠分2などで3日ほどの投与が目安とされている。セフェム系で治療する場合は約7日の投与が必要である。
バクタ®4~8錠分2の投与がされることがある。これは改善するまで投与が必要である。抗菌活性自体はST合剤はセフェム系より弱いため、感染症内科と相談後の治療が望ましい。
バクタ®1錠分1の投与が慣習で行われている。PSL20mg以上を1カ月以上投与している場合、高容量の免疫抑制剤を使用している場合、移植後6~12カ月、免疫不全やHIVでCD4陽性細胞が減少している場合などに予防投与は行われる。

での処方を推奨している。[2]

市販製剤

経口薬のバクタ®錠・顆粒(塩野義製薬)やバクトラミン®錠・顆粒、注射としてはバクトラミン®注(中外製薬)が有名である。トリメトプリムとしてどれくらい必要であるという書き方をされている場合が必要なので処方には注意が必要である。カリニ肺炎の治療では目安として60kgの成人ならばバクトラミンは一回3Aの一日4回投与が必要である。HIV感染者の肺炎ではカリニ肺炎を疑わなければならないが典型的には1週間くらいかけて進行する亜急性の高熱と労作時に増悪する呼吸苦が特徴である。しかし乾性咳嗽を伴う気道感染の頻度としては、非定型肺炎(マイコプラズマクラミドフィラ)の方が多いので初期治療としてはST合剤とマクロライド併用が多い。

  • 処方例:バクタ®4錠 分2 5日分

適応菌種

適応症

副作用

発疹
3~4%の割合で発生する。まれにスティーブンス・ジョンソン症候群に至ることもある。ペンタミジンなどへの処方の変更ができない場合は、専門家のもとで脱感作を行うべきである。
高カリウム血症
特に腎不全時は慎重投与が必要である。また高血圧治療薬であるアンジオテンシンI変換酵素阻害薬(ACE-I)やアンジオテンシン受容体阻害薬(ARB)との併用は高カリウム血症のリスクを持つため、避けるべきである。[3] ACE-I/ARBとST合剤併用による突然死リスクの上昇も報告されている[4]
またカリウム保持性利尿薬であるスピロノラクトンも同様の機序から高齢者での高カリウム血症が出現しやすく、注意を要する[5]。ST合剤とスピロノラクトンの併用は突然死とも関連したとの報告もある[6]
薬物相互作用
抗痙攣薬のフェニトイン(アレビアチン)や糖尿病治療薬のスルフォニルウレア剤の血中濃度を上昇させ、経口避妊薬の血中濃度を低下させる。
クレアチニンの上昇
腎機能に関係なく、クレアチニンの分泌を障害するため腎機能障害が発生したかのように見えることがある。

脚注

  1. ^ Trimethoprim/Sulfamethoxazole”. 2013年6月21日閲覧。
  2. ^ メディカル朝日 2009年11月号,pp63-65
  3. ^ Trimethoprim-Sulfamethoxazole–Induced Hyperkalemia in Patients Receiving Inhibitors of the Renin-Angiotensin System, Tony Antoniou and others, Arch Intern Med. 2010;170(12):1045-1049.
  4. ^ Fralick M, et al. Co-trimoxazole and sudden death in patients receiving inhibitors of renin-angiotensin system: population based study. BMJ (Clinical research ed.). 2014;349;g6196. doi: 10.1136/bmj.g6196.
  5. ^ BMJ 2011; 343:d5228 doi: 10.1136/bmj.d5228 (Published 12 September 2011)
  6. ^ Antoniou T et al. Trimethoprim–sulfamethoxazole and risk of sudden death among patients taking spironolactone. CMAJ 2015: 187; E138. (http://dx.doi.org/10.1503/cmaj.140816)

参考文献

関連項目