自殺島

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自殺島』(じさつとう、Suicide Island)は、森恒二による日本漫画作品。『ヤングアニマル』(白泉社)にて、2008年22号より連載中。2014年5月時点で、単行本は11巻まで刊行中。

作品概要[編集]

日本近海の孤島を舞台に、政府によりこの島に送りこまれた自殺未遂常習者達が、命の意味と向き合いながら生きていく物語である。作中では、食糧を確保するため登場人物達が狩猟採集をする姿が描かれており、前作『ホーリーランド』と同様に作者の経験を交えながら図解付きでサバイバルに関する説明がなされている。森恒二は実際に何度も南の島に足を運んで海で突き漁をしたり、京都で猟師と一緒に山に入ったりしており、その時の経験があるから狩りのシーンも自信をもって描けたと語っている[1]

あらすじ[編集]

主人公セイは自殺未遂を繰り返した末に、「生きる義務」を放棄した意思を示す書類にサインをする。病院のベッドの上で意識を失ったセイは、目が覚めた時、自分がまだ生きており、そして自分と同じ未遂者達が周囲に何人もいることに気付く。そして、ここが自殺を繰り返す“常習指定者”が送り込まれる島「自殺島」であることを知る。その直後、未遂者達は飛び降り自殺をする瞬間と死に損ねた者のおぞましい姿を目の当たりにし、一時自殺することを踏みとどまる。“死ねなければ生きるしかない”彼らのサバイバルが始まる。

世界観[編集]

この作品中の日本は、国民はIDによって政府に管理されており、そのIDが剥奪されるということは日本国民としての権利と義務を失うことを意味している[2][3]。舞台は基本的に島の内部とその周辺の海域に限定されており、日本本土での様子は登場人物の過去の回想、または「凶悪犯罪が増加している」[4]、「自殺者が急増しているが彼らを支援し立ち直らせるための予算が不足してきている」[5]など、伝聞や噂の形でのみ語られている。

自殺島[編集]

何人もの自殺未遂の常習者達が送り込まれた孤島。家屋や廃校舎、生活物資など、かつて人が住んでいた形跡があるが、従来の住民は既に残っていない様子である。家屋の中には何体もの白骨死体が残されており、山中にも自殺したと思われる死体が発見された。自然に囲まれており、多くの草木や動物が生息し、食用に適した果実なども自生している。天敵がいないためか、鹿の数も多く、による農作物の食害も発生している。島の住人が飼っていたらしいなどの家畜も生息し、畑地だった場所から残された農作物が発見されることもある。セイ達が住む島の北西に小さな離島があり、そこには野生化したヤギの群れが生息しており、捕食者のいない環境で増えすぎたヤギによって、離島の植生は食べ尽くされそうになっていた。

政府の人間によって立てられたと思しき看板に、この島に送り込まれた者達はIDを剥奪されて、国民としての権利と義務を失ったことと、この島と周囲の近海1キロメートル以内より外に出ることを禁じる旨が書かれている。日本近海にあるようだが、正確な位置や島名は不明。狩猟のために山に入ったセイが出会った男の話によると、この島はかつては凶悪犯達が送り込まれ、お互いに殺し合いをした「無法島」であったという。

なお、自殺島の存在は政府によって隠蔽されているが、本土ではネット上の噂として知られている。

登場キャラクター[編集]

本作では名前がわからない人物、明かされていない人物が存在する[6]。本項では名前が明らかになっている人物のみ紹介する。

島の住民[編集]

セイ
本作の主人公。自殺未遂の常習者。背の低い青年で物語開始当初は19歳[7]オーバードラッグリストカットによる自殺未遂を繰り返し、「生きる義務」を放棄した「常習指定者」となる。その後、意識を取り戻した時、他の常習指定者達と共に自分が見知らぬ孤島に放置されていることに気付く。
学生時代に出会った先輩の青山から弓矢のことを教わり、その知識を基に試行錯誤を重ねながら自作の弓矢を完成させる。その弓を使って狩猟をするようになり、それを通じて命の意味を再認識していくようになる。
リヴ
常習指定者の1人。セイが島で目覚めた際に近くにいた、長い髪をした美しい女性。本名は「マリア」だが、本土での過去を思い出すため、この名で呼ばれることを嫌がっている。「リヴ」というのはセイが考えた名前で「セイ(生)」や「イキル(生きる)」と同じ「Live(生きる)」という意味を込めてつけたもの。
島で過ごした最初の夜が明けた後、セイを誘って廃校舎の屋上から投身自殺を図るがその場は思い留まる。以後、島で精一杯生きようとするセイを見続け、次第に惹かれていく。
母親がロシア人のハーフ。10歳の時、母が自分を置いて故郷のロシアに帰った後、暮らしが荒んでいった父親の元から、父の親戚の家に預けられる。そこで養父から性的虐待を受け続け、その仕打ちに対して心と体を切り離し人形のようになることで耐えてきた。義務教育を終えた後、家を出て一人暮らしを始めるが、男性と付き合っても過去の記憶が甦り、養父への性的虐待を受けていた時と同様に人形のようになってしまい、それが原因でどんな男性が相手でも上手くいかず別れてきた。
イキル
セイが狩猟のパートナーとして飼うことにした子犬。元は山奥に1人で潜み暮らしていた男が飼っていた犬の中の1匹。
トモ
常習指定者の1人。長い髪を後ろで束ねている青年。セイと仲が良い。過去に沖縄で暮らしていたことがある。
小さな街の医者の家に生まれ、両親と妹がいるごく普通の家庭に育った。しかし、中学生になった頃から自分が性同一性障害であることに気付き、悩んでいた。隠し持っていた女物の服が見つかったことを機にそのことを告白してみたものの、父親からは理解されず「化け物」呼ばわりされる。父親は障害を無理矢理矯正しようと試み、このことが原因で家庭崩壊していった。
セイが自分の性同一性障害のことを知りながらも全て受け入れてくれたことを機に、グループの全員の前で告白。グループの女性達はそのことに既に気付いており、また他の面々も戸惑いながらも受け入れた様子である。
カイの作戦に基づいた襲撃の際に人質として捕らわれ、セイ達が助けに行くが、心は女であることを見抜いたサワダに抱かれ、そのことを認めたくない一方で自分を女性として扱ったサワダを否定しきれず、戻れずにいる。
リョウ
常習指定者の1人。未遂者とは思えぬ程、活力に満ちた青年。グループのリーダー格となり、皆を引っ張る。明るくて人懐こく、女性からの人気も高い。
かつて同棲していたエリという恋人を交通事故で亡くして以来、エリの元へ行くことばかり考え、彼女が事故死した交差点で何度も自殺を試みたが、それでも死ねなかったという過去を持つ。
自分の死に場所を自分で決めたいという思いから本土への帰還を望み自作の筏で有志と共に本土へ戻ろうと試みるが、哨戒していた巡視艇に筏を破壊された。なんとか島に帰り着くものの、それからは心を閉ざし1人で漁をしていたが、セイの説得で再びグループに戻ってくる。
仲間想いで、人を傷つけることを嫌がっており、港側のグループとの抗争が激化してきたことを機に、リーダーの座をリュウに譲る。
スギ
常習指定者の1人。眼鏡をかけた青年。本名は「杉村(すぎむら)」。自殺島のことを知っていた。グループの中でも頭が良く、塩を採る際に塩田を提案し、リョウが筏で本土へ戻ろうとしたときには自作の方位磁針を彼に渡すなど、知恵袋的な存在となる。
本土にいた際、首吊り自殺を試みて失敗した過去を持つ。子供のころから人と接することが苦手で、大学を出た後「1人で幸せを得る」ために文筆業になることを志す。しかし、そこでも人とのコミュニケーション能力が必要であるという現実にぶつかり、自殺へと追い込まれていった。
カイ
常習指定者の1人。セイが自殺未遂をした後に送致された施設で出会った青年。セイより1歳年上。冷静な視点で物事を見据えている。リョウと共にグループの指導者となり、農作物による食糧の確保を目指すが、他のメンバーとは一線を引いた態度が多い。
しかしその本性は「人間という種族に生きる価値など無い」という歪な価値観の持ち主であり、悩みを抱える者に近付き、優しく接しながらも、絶望を煽るようなことを吹き込み、グループの人間を次々と自殺に追いやっていたことが判明する。そのことに気づきながらもセイ達はカイを止められず、カイに心を寄せ彼を信奉する者達もグループ内に増えていったが、ミキを飛び降り自殺に追い込もうとしたところをセイ達に発見された際に、これまでの所業とさおりを殺害したことを追及され、集落を追放される。追放された際、セイ達が住んでいた廃校舎を燃やして、彼らを殺そうとする行為に及び、その後は食料も得られず困窮していたが、紆余曲折あってサワダの一派に加わる。
タナカ
常習指定者の1人。初めて漁をする前日に皆で協力することに期待を抱いていたが、その夜、電気コードで首を吊って自殺してしまった。
ボウシ
常習指定者の1人。髪を長く伸ばし、常に帽子をかぶっている男性。自分の名前を嫌っているため、「ボウシ」と名乗っている。当初は肥満気味の体型だったが、次第にやつれていく。人に誇れる物が何も無く、セイを「持たざる同志」と呼んでいた。他にできることが無いからという理由で農作業の手伝いをしていたが、やがて島での生活や狩猟採集に必要な道具を考案し作成することでグループに貢献していくようになる。
ケン
常習指定者の1人。仲間と共にセイを襲い、肉を奪おうとした男。この島で生きようとするセイの姿を見て改心し、セイの理解者となる。セイの協力で弓を作成し、狩りにも同行するようになる。元は港側のグループにいた。ナオに惚れている。
父親は親戚の保証人になったため多額の借金を抱えており、ケンが物心ついた時には利息を返すためだけに働いているような状態だった。そんな父親を見て育ったため、何もやる気が起きず、本土で暮らしていた時はただ死ぬまでの日々を漫然と過ごすだけであった。
吉村(よしむら)
常習指定者の1人。セイを襲い、肉を奪おうとしたが、夜の山中で恐怖にかられ、パニックに陥って大怪我をする。自分のしようとしたことを悔やみ、セイに謝罪しようとしていたが、その前に怪我が元で死亡する。
青木(あおき)
常習指定者の1人。セイを襲い、肉を奪おうとしたが失敗。グループに逃げ戻った後、セイを孤立させるべく、真相を捻じ曲げて皆を扇動しようとするが、嘘が発覚し逆に自分が孤立する。居場所が無くなったことに怯えていたが、「何者か」に自殺を促された後、翌朝に縊死体となって発見される。
ヨネダ
常習指定者の1人。顎髭を生やした、頬のこけた男。リョウがグループから離れていた時期、食料の採集には加わらず、他の無法者たちと一緒になってグループのみんなから食料を奪って過ごしていた。リョウが復帰した後はグループから孤立しかけていたが、リョウのとりなしで仲間の輪に入り、生活を共にするためにルールにも従うようになっていった。ナオを気に入っており、しょっちゅう彼女の元を訪れている。
ミノル
常習指定者の1人。実家は農家で、経験を活かして農作業に従事する。本土にいた頃は、農作業に意味が見出せずに家を出たが、その後も生き甲斐になるようなことを見つけられなかったという過去を持つ。島に来てからは、作物を食べてくれる人たちと身近に接することが多くなったことに充足感を得るようになる。
ユミ
常習指定者の1人。本土では看護師をしていた。怪我人が出た際に看病をすることが多い。本人曰く、患者の死に耐え切れずに看護師の仕事をやめてしまったという。
ミキ
常習指定者の1人。髪を肩まで伸ばした、そばかすが特徴的な女性。素潜りが得意。リョウに好意を抱いており、リョウが筏を作って島を出ようとした時も行動を共にした。
本土にいた頃は、男性依存が原因で恋人に去られ、以後も同じように別れを繰り返していく内に精神的に追い詰められて、服薬による自殺未遂を行うようになった。
リュウ
常習指定者の1人。本名は「リュウジ」。好戦的な性格で、過失ではあるが同じグループの人間をケンカの末に殺してしまったこともある。
港側のグループとの抗争が激しくなってきた際、争いを厭ったリョウからリーダーを任される。
24歳の時、結婚を機に独立して従業員3人の小さな運送会社を立ち上げた。少しずつ営業成績も上がり子供も産まれ、すべて順調にいっているように思えたが、不況のあおりで経営が苦しくなり給料が下がると従業員は全員辞めてしまった。その後は寝る間も惜しんで業務の全てを1人で行ってきたが、居眠り運転で事故を起こし5人の死傷者を出してしまう。莫大な債務が残り妻からも離婚届が送られてきたリュウは、気力を無くし刑務所内で自殺未遂を3度繰り返した後、自殺島へと送り込まれることになった。
レイコ
常習指定者の1人。眼鏡をかけた女性。
奔放な性格の妹とは正反対に、幼少の頃から周囲に迷惑をかけない「いい子」であることを心がけてずっと過ごしていた。しかし、妹が普通に結婚し幸せな家庭を築いた頃から実家での暮らしに居心地の悪さを感じるようになり、ついにはいつまでも結婚しないことを両親から窘められたことで今までの「いい子」だった自分の全てを否定されたように感じ、精神の均衡を崩して自殺未遂を繰り返すようになっていった。
さおり
常習指定者の1人。何かと相談に乗ってくれていたカイに恋愛感情を抱く。カイに自殺を促された際、もう少し頑張ってみようと自殺を思い留まろうとするが、絞殺される。死後、首吊り自殺に偽装されるが、スギが他殺と気付く。
ナオ
港側のグループからセイ達のグループに移動した女性。自称「癒し担当」で、この島で売春をして生活してきた。挑発的な服装で、島にいる他の女性達とは違う雰囲気を持つが多くの未遂者達と同様、手首にリストカットの痕がある。
サワダ
港側のグループのリーダー。島に来た初日に、セイ達と別れ何人かの者達と山の中に入っていき、その後の消息はしばらく不明となっていた。食料の確保を率先して行い他の面々を導くリーダーとなるが、やがて「暴君」となり、大勢の女性を囲って、さらには人間の死体をも食べるようになり、そのためにグループに所属している人間達からはカリスマ視される一方で怖れられている。ナオに執着し、自分のもとに連れ戻すよう、グループのメンバーに命じる。
鈴木 ノリオ(すずき ノリオ)
常習指定者の1人。眼鏡をかけ、太った体型をした男性。セイ達が島に送られてきてから約半年後に島に新たに送り込まれてきた者達の1人。
その容姿から、本土では周囲の人間に蔑まれ続けてきたという過去を持つ。女性と性行為をしたくてサワダのグループへの参加を希望するが、カイの提案でセイかリョウを殺害するよう命じられる。初めての殺人行為に躊躇っていたところを、織田に説得され殺害を取りやめ、以後はセイ達のグループで生活する。

その他[編集]

青山 英子(あおやま えいこ)
セイと同じ学校に通っていた女生徒。弓道部部長で図書委員。セイに弓矢のことを色々教える。しかし教師との許されない恋愛に苦悩し、ある日投身自殺する。
エリ
かつてリョウと同棲していた恋人。出会う以前は寂しい環境にあったらしく、リョウとは「似た者同士」だった。3年ほど生活を共にしたが、ある日バイクで2人乗りをして走行中、交差点で居眠り運転の車と衝突し、死亡した。
リョウは彼女を想い続けており、彼女の死はリョウの度重なる自殺未遂のきっかけとなった。
織田(おだ)
ルポライター。自殺島を取材するために、自殺未遂者たちに紛れて政府の船に乗せられて島に上陸を果たした。上陸後はセイ達のグループに加わって生活を共にする。

単行本[編集]

脚注[編集]

  1. ^ ニコ・ニコルソンのマンガ道場破り』(『ヤングアニマル』2011年No.16、318 - 319ページ)。
  2. ^ 港に立てられた看板に、「あなた方は生きる権利と義務を放棄して本島にいます。あなた方のIDは我が国で死亡と言う形で消滅しており我が国におけるすべての権利をあなた方は有しておりません。あなた方は我が国における義務や権利を遵守する必要はありません。」と日本国政府の署名とともに書かれている(1話「自殺島」単行本1巻19ページ)。
  3. ^ 筏に乗って本土に戻ろうとしたリョウ達が、領海侵犯者として巡視艇から銃撃されている(31話「漂流」単行本4巻16ページ)。
  4. ^ セイが山で出会った男が「凶悪犯罪が激増し、終身刑の無いこの国でさえ刑務所がいっぱいになっている」と語っている(21話「無法島」単行本3巻7ページ)。
  5. ^ スギが「年々爆発的に増えている自殺者の医療や社会復帰支援などの費用が国で支えきれなくなっている」とネット上の噂として語っている(1話「自殺島」単行本1巻20ページ)。
  6. ^ 自分の名前を嫌っているために本名を名乗らない人物も多い。
  7. ^ 山で一人暮らしをしていた男に会った時には「20歳」と言っている。

外部リンク[編集]