球充填

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オレンジの積み上げは球充填の具体的応用の1つでもある。

球充填(きゅうじゅうてん、英語: sphere packing)とは、互いに重なり合わない同一の球面を並べて空間を充填することである。

一般に3次元ユークリッド空間を扱う。しかし、2次元空間(その場合の)や高次元空間(その場合の球は超球)、さらには双曲空間のような非ユークリッド空間にも適用できる。

球充填問題[編集]

典型的な球充填問題とは、ある空間について最も稠密に球を詰め込む配置を見出す問題である。空間全体に対して球面で囲まれた空間の比率を(球)充填密度(density of arrangement)と呼ぶ。充填密度は測定する量によって変わるため、通常は平均を最大化するか、十分大きな量を測定したときの漸近的な密度を最大化することを問題とする。

球充填の分類[編集]

球面の中心が格子と呼ばれる極めて対称的なパターンとなる配置を、正規(regular)配置(または周期(periodic)配置、あるいは格子(lattice)配置)と呼ぶ。格子状に配置されていない場合は、非正規(irregular)配置または非周期(aperiodic)配置と呼ぶ。正規配置は非正規配置よりも扱いやすく、対称性の度合いによって容易に分類され、密度が測定される。

円充填[編集]

様々な大きさの円を敷き詰める最も効率的な方法は明らかではない。
互いに接している3つの円の中心は正三角形を形成する(六方充填)。

2次元ユークリッド空間(平面)については、カール・フリードリヒ・ガウスが最も密度の高い円の正規配置は六方充填配置であることを証明した。これは、円の中心が六方格子(ハニカム構造のようなもの)になっており、それぞれの円は6個の円で囲まれている。その充填密度は次の通りである。

\frac{\pi}{\sqrt{12}} \simeq 0.9069

1940年、マジャル人数学者 László Fejes Tóth は、六方格子が正規も非正規も含めたあらゆる円充填の中で最も高密度であることを証明した。

これを一般化した概念を「円充填(circle packing)」と呼び、様々な大きさの円を組み合わせて平面を充填することを指す。これは、等角写像リーマン面といった概念の離散化した類似物を生み出す。

球充填[編集]

正規充填[編集]

六方最密充填格子(左)と面心立方格子(右)は典型的な高密度配置である。ここで図示しているのは単位構造平面充填図形を3次元に拡張したもの)ではない。単に2つの格子の違いが判り易いように図示したものである。
ピラミッド状に積み上げた球は立体最密充填の一例
2種類の3段の積み上げ方

3次元ユークリッド空間では、まず平面上で球を稠密に配置する。3つの球が互いに接するよう配置すると、その真ん中にできた凹みに第4の球を置くことができる。これを一段目の上のあらゆる箇所で行えば、新たな稠密な配置が生成される。第3層は、上から見て第1層と同じ配置になる場合と、第1層の凹みのうち第2層が使っていない位置に球を配置する場合がある。後者の場合、層によって3種類の配置がある(これを A, B, C とする)。

ガウスは、これらの配置が正規配置の中で最も高密度であることを証明した。

この2つの配置は、ABCABC… の方を立体最密充填(または面心立方)、ABAB… の方を六方最密充填と呼ぶ。しかし、これら以外の任意の層の組合せが可能である(ABAC、ABCBA、ABCBAC、など)。いずれの配置も1つの球は12個の球に囲まれていて、2つの配置の平均密度は以下のようになる。

\frac{\pi}{\sqrt{18}} \simeq 0.74048

1611年、ヨハネス・ケプラーは、これが正規配置と非正規配置全てについて最高密度の配置であると予想した。この命題はケプラー予想と呼ばれる。1998年、Thomas Callister Hales は1953年に László Fejes Tóth が示唆した手法を使って、ケプラー予想を証明したと発表した。Hales の証明は、コンピュータを使ってあらゆる個々のケースを調べつくすという方法であった。審査員は Hales の証明の正しさを99%としており、ケプラー予想は「ほぼ」証明された状態と言える。途中、審査員らがその論文の煩雑さに証明を中断していたが2014年、4年間かけて残り1%の証明を完遂。400年の歳月を経て決着した[1]

非正規充填[編集]

球を稠密に配置しようとすると、3個の球を互いに接するように配置して、4つ目をその凹みに配置することになる。5個目の球も同様に配置すると、上述した正規配置のいずれかになる。しかし、6個目の球を同様に配置したとき、正規配置でない配置になる(Chaikin, 2007)。これを球の無作為最密充填と呼び、圧縮しても安定している。

球を1つずつ無作為に追加していって圧縮したとき、一般にそれ以上圧縮できない「非正規」充填となる。非正規充填の密度は球自身の密度の約64%となる。これは1次元や2次元では発生しない。1次元や2次元での圧縮は正規充填を生じる。

超球充填[編集]

3次元より高次元では、8次元までの超球の最密正規充填が知られている[2]。超球の非正規充填についてはあまり知られていない。次元によっては非正規の方が最密である可能性もある。この予想を補強する事実として、ある次元(例えば10次元)では既知の最密な非正規充填の方が既知の最密な正規充填よりも高密度である。

24次元にはリーチ格子が知られているため特別である。これは最良接吻数であり、長い間最密な格子充填であると考えられていた。2004年、Cohn と Kumar(参考文献参照)はこの予想の証明を発表し、リーチ格子よりも高密度な非正規充填があったとしても、それによる密度の向上はせいぜい 2×10−30 であることを示した。

高次元についての別の研究として、最密充填の密度を漸近的に求めようとする研究がある。最近の結果では、n次元の格子の密度は cn2^{-n} 以上(cは定数)とされている。

双曲空間[編集]

円や球の概念は双曲空間にも拡張可能だが、最密充填を探すのはユークリッド空間よりも難しい。双曲空間では、1つの球を取り囲む球の個数に制限がない。平均密度の概念も正確に定義することすら難しい。

テキサス大学オースティン校の Charles Radin と Lewis Bowen は2002年5月、双曲空間での最密充填はほぼ常に非正規であることを示した。

その他の空間[編集]

超球についての球充填問題は、誤り検出訂正符号の設計に対応している(この場合の球はハミング距離で定義される)。ある球の半径が d であるとき、その中心にある符号語は d 誤り訂正符号となる。格子充填は線型符号に対応する。他にもユークリッド空間の球充填は誤り訂正符号と様々な面で関連している。例えば、2元ゴレイ符号は24次元のリーチ格子と密接に関連している。

ポップカルチャーでの言及[編集]

カート・ヴォネガットの小説『猫のゆりかご』には、アイス・ナインという物質が登場する。その特性の説明として球の様々な充填方法があることが説明される。アイス・ナインは架空の分子であり、それに触れた他の水分子をアイス・ナインの状態に変化させる性質がある。

関連項目[編集]

脚注[編集]

参考文献[編集]

  • Conway, J.H. & Sloane, N.J.H. (1998) "Sphere Packings, Lattices and Groups" (Third Edition). ISBN 0-387-98585-9
  • Lewis Bowen & Charles Radin (2003) "Densest Packings of Equal Spheres in Hyperbolic Space"Discrete & Computational Geometry誌に掲載された論文の前刷り)
  • N. J. A. Sloane, The Sphere Packing Problem, arXiv:math.CO/0207256
  • C. A. Rogers, Existence Theorems in the Geometry of Numbers, The Annals of Mathematics, 2nd Ser., 48:4 (1947), 994-1002 (上述の n2^{-n} の結果について言及されている)
  • Henry Cohn and Abhinav Kumar, The densest lattice in twenty-four dimensions, arXiv:math.MG/0403263(24次元の場合の解)
  • T. Aste and D. Weaire "The Pursuit of Perfect Packing" (Institute Of Physics Publishing London 2000) ISBN 0-7503-0648-3
  • Chaikin, Paul "Reference Frame", Physics Today, June 2007 p8.

外部リンク[編集]